白血球機能の新しい制御手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000934A
報告書区分
総括
研究課題名
白血球機能の新しい制御手法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 和博(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本一夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 武内恒成(名古屋大学大学院理学研究科)
  • 楠井薫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 安達玲子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズや遺伝性疾患の慢性肉芽腫症(CGD)等、重篤な感染症をもたらす難治性疾患は数多くあり、その原因は殺菌等の生体防御機能の低下にある。その生体防御では、白血球が中心的な役割を果たしている。白血球が産生する活性酸素は、本来の“殺菌"という機能に加えて、その鋭い毒性に由来する生体自身への傷害性が明らかになり、その厳密なコントロ-ルが必要であると理解されるようになってきた。一方、natural killer細胞(NK細胞)も時に生体自身に傷害的に働くことが明らかにされてきた。すなわち、cytotoxic T 細胞と並んで、細胞傷害機能を担う最も代表的な免疫担当細胞であるNK細胞は、自己組織・器官の破壊も起こすなど、多くの免疫不全症候群の原因となっている。
本研究は、我々が研究実績を蓄積してきた情報伝達機構・細胞骨格系制御系に関する新知見を生かして、白血球の機能調節を可能にする新手法を開発することを目的とする。
研究方法
1)ファージディスプレイ法によるコフィリン結合蛋白の探索
ヒト脳 cDNA ライブラリー由来のT7ファージディスプレイライブラリ(Novagen社)から候補となるクローンを得、ファージのインサート部分の塩基配列を決定し、BLAST検索より塩基配列由来のタンパク質を同定した。
2)コフィリンとリボゾームタンパク質の結合実験
コフィリンと2種類のリボゾームタンパク質との結合を別の面から確認するために、リコンビナントコフィリン(昨年度作製)と今年度作製したHis-tag付リコンビナントリボゾームタンパク質 S18及びL15との結合実験をNi-NTA-agaroseを利用して行った。
3)マウスNK細胞受容体Ly49Aに結合するファージクローンのバイオパニング
sLy49Aをストレプトアビジンアガロースビーズに固相化しパニングに用いた系でスクリーニングを行った。また、NK細胞受容体Ly49Aに結合したファージの回収は、0.2M Glycine/HCl, pH2.2, 1 mg/ml BSAを用いた。7merのランダムペプチドの両端にシステインを含むペプチドライブラリーを提示したPhage Peptide Library (Ph.D.-C7C, New England Biolab) からパニングを4回繰り返し、得られたファージクローンの塩基配列を決定した。
4)可溶型ヒトNK細胞受容体CD94/NKG2Aの作成とこれに結合するファージクローンのバイオパニング
ビオチン化タグ付きCD94並びにHisタグ付きNKG2Aの発現を大腸菌で行った。CD94/NKG2Aはヘテロダイマーであるため、イオン交換クロマトグラフィーによってCD94ホモダイマーと分離しsCD94/NKG2Aを得た。このsCD94/NKG2AはリガンドであるHLA-Eに結合することをFACSによって確認した後、上記と同様にファージのパニングを行い、アミノ酸配列を決定した。
5)コロニン制御蛋白の探索
ヒト・マウスでのコロニンホモログファミリーの抗体を作成し、細胞内と組織局在を解析した。その結合分子の同定を生化学的に進めるとともに、細胞内情報伝達機構における役割の解析を試みた。また、この分子のアンチセンス法による発現制御システムの確立を行い、分子機能解析を進めた。
結果と考察
1)コフィリン結合蛋白質関連
ヒト脳 cDNAライブラリー由来T7ファージを用いて探索したところ、ヒトリボゾームタンパク質L15 、S18及び human synaptosomal-associated protein , 25kD (SNAP25)の3種類のタンパク質がコフィリンと特異的に結合することが示唆された。一方、リコンビナントリボゾームタンパク質(2種)を作製してビーズに固定し、リコンビナントコフィリンとの結合実験を行ったところ、リボゾームタンパク質S18については、コフィリンと結合する事が確認できた。今後は、アクチンと結合させたコフィリンとリボゾームタンパク質S18との結合実験を行うことにより、コフィリンとの結合サイトがアクチンと同一か否かということも検討する必要がある。
2)NK細胞受容体結合ペプチド関連
今回、ヒトならびにマウスNK細胞受容体の可溶型を大腸菌に発現させることに成功した。これらを利用することによりビーズに固相化させパニングを行うことが可能になり、プレートなどに非特異的に吸着するファージを除外することできたことから、スクリーニングに成功した。マウスNK細胞受容体Ly49Aに結合するクローンは7クローンが得られたが、アミノ酸配列並びに4種の抗Ly49A抗体による阻害効果の違いから、これらのクローンがコードする環状ペプチドはCXFXLPWLC, CXFXXLPWCという2種類に大別された。一方、抗体の阻害スペクトルは両者で異なっており、配列が似ていてもLy49A上の近傍に結合しているとは限らないことが示された。また、前者の配列を持つペプチドは同じリガンド(H-2Dd)を共有するレセプターLy49G2には結合せず、後者はLy49G2にも結合するものとしないもののさらに2種類が存在したことも興味ある結果であった。これらはin vivoにおけるNK細胞活性化の制御を考えた場合に特に重要であり、異なる生理活性を示す可能性が十分に期待されるものである。
ヒトNK細胞受容体CD94/NKG2Aに特異的に結合するファージクローンも、同様の方法によって単離することができた。これに関しても3種類のクローンが得られ相同の配列を持っていたこと、またCD94ではなくNKG2Aに結合していることは特筆すべきことである。
今回用いたファージライブラリーは7merのランダムペプチドの両端にシステインを含むもののほかに、直鎖状の7mer, 12merのものも同様にスクリーニングに用いた。これらのライブラリーからはマウス及びヒトの系で12merのペプチドクローンがそれぞれ一つ得られた。マウスの系で得られたペプチドはレセプターへの結合が弱いせいか、細胞への結合をFACSによって見ることができなかった。一方、ヒトの系で得られたペプチドは、環状ペプチドに保存されていたアミノ酸配列をその中に持っており、異なるライブラリーから類似のペプチドが得られた点で注目に値する。短いペプチドはさまざまな構造を取りやすく、それゆえ強い親和性を持つものを得にくいと考えられているが、シスチンで環を巻いた堅い構造のペプチドライブラリーの方が効率よくスクリーニングが可能であった点はこれを裏付けるものであった。
3)クリッピン(コロニン)関連
クリッピンファミリーは細胞骨格系制御、細胞接着等に細胞膜直下での多くの制御タンパク質と密接な関わりを持ちながら広範な重要な働きを持つ分子であることが想定される。また、それは今まで明らかではなかった別の新たなシステムを細胞内で果たしている分子である。これら分子群の解析を通して、白血球・神経系機能にとどまらない貪食機能や走化性、細胞接着の細胞機能解析につながるものと考えられる。さらに、第一次免疫応答反応・貪食機能に関わるp40phoxなどのNADPHオキシダーゼ活性化分子群はアダプター分子群として、細胞内情報伝達系の低分子量Gタンパク質Racやphosphoinositide等とも結合して、血球細胞に留まらない、細胞のさらに普遍的な機能や極性形成にも関与することが示唆される。クリッピン分子は、そのアンチセンス法による解析からも、単なる骨格制御だけでなく突起伸長部の極性決定に寄与していることが示唆された。クリッピンは低分子量G蛋白質Racの制御を受けつつ、細胞内骨格系と細胞極性決定機構の仲立ちをする分子としても機能し、それはまたphox分子群の新しい細胞内機能に迫るものと考えている。アンチセンス法はまた、これらの知見に大きな糸口を見つけだす有用な方法であることも明らかとなった。
結論
コフィリン結合タンパク質の探索において、ヒト脳 cDNA由来のT7ファージディスプレイライブラリーを用いてパニングを行った結果、リボゾームタンパク質L15 、S18及びsynaptosomal-associated protein , 25kD (SNAP25)の3種類のタンパク質がコフィリンと特異的に結合することが判明した。さらに、リコンビナントリボゾームタンパク質(2種)を作製してビーズに固定し、コフィリンとの結合実験を行ったところ、S18については、コフィリンと結合する事が確認できた。M13ファージライブラリーから、パニングによりマウスNKレセプターLy49A並びにヒトNKレセプターCD94/NKG2Aに特異的に結合するファージクローンを取得した。得られた種々のペプチドのアミノ酸配列にそれぞれ相同性が見られたことは、これらレセプターにも外側からアプローチしやすい部位とそうでない部位が存在することを示唆している。さらに、活性酸素産生や貪食・走化性・接着等に関わる新規機能タンパク質クリッピン分子群(コロニン)を同定し、phox蛋白群をアダプター分子と位置づける新しい活性酸素産生メカニズムを提唱した。

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