ゲノム情報に基づく骨疾患治療医薬品の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000930A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報に基づく骨疾患治療医薬品の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
藤沢 淳子(京都大学再生医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 栗崎 知浩(京都大学再生医科学研究所)
  • 内田 光子(東京都臨床医学総合研究所)
  • 森下 英昭(持田製薬総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、骨形成を中心に、間葉細胞の分化・組織形成機構を、細胞間相互作用の視点から明らかにし、それにもとづいて骨疾患治療薬の開発を目的としてきた。特に、我々が世界に先駆けてクローニングした、ADAMファミリーに属する膜型メタロプロテアーゼ、メルトリン遺伝子群を中心として活性分子のゲノム情報にもとづいて、骨形成不全などの疾患治療薬の開発をめざしてきた。ADAMファミリーは、メタロプロテアーゼドメイン・ディスインテグリンドメインを有するユニークなタンパク質群で、可溶性分子ヘビ毒ディスインテグリンは血液凝固阻害活性を、膜タンパク質ファーティリンはディスインテグリンドメインを介して受精に関与することが知られる。一方、同じファミリーに属するTACEのメタロプロテアーゼはTNFαを、クズバニアンはNotchあるいはDeltaをそれぞれ切断活性化し、これらは、細胞間シグナリングをプロセシングという形で制御する新しいタイプの分化因子と見なすことができる。 私達は、マウス胎仔期において、骨形成のおこなわれる領域などの凝集間葉細胞でのメルトリンαの強い発現や、メルトリンβの骨髄における発現などに興味をもち、まず、これらの遺伝子の役割や機能を知るために、次のような具体的な研究目標を立てた。(1)メルトリン遺伝子群の形態形成や個体レベルにおける役割を、遺伝子ノックアウトマウスを作成することにより、遺伝学的に明らかにすること。(2)細胞生物学的なアプローチにより、それらメルトリンのディスインテグリンの生理活性と相互作用する分子を特定すると同時に、メタロプロテアーゼの基質を検索する。(3)これら膜蛋白質の可溶性フォーム・活性ペプチド・阻害抗体などを作成し、その効果を細胞レベル、個体レベルで検討する。(4)これらの解析から、メルトリンα、β、γの細胞間相互作用における位置づけをあきらかにするとともに、医薬としての応用、再生医療などへの応用を検討する。
研究方法
メルトリンαおよびβ遺伝子の個体、とりわけ形態形成における役割を探るため、ES細胞におけるDNA組み換えを利用して、遺伝子ノックアウトマウスを作成し、それらの解析をおこなった。また、筋再生における役割の検討は、マウスの下肢をCardiotoxin処理する方法で、再生を誘導する方法を用いた。メタロプロテアーゼドメインの解析には、メルトリンβと基質を、繊維芽細胞で一過的に共発現させることによっておこなった。
結果と考察
(1)メルトリンα遺伝子のマウス個体における役割/メルトリンα遺伝子欠損マウスを作成し、解析を行った。現在,BALB/c, C3H/He, C57BL6の3系統に戻し交雑を行って解析を行い、いずれの系統(n = 8)でもホモ個体の約40%が早期に死亡することが明らかになった.そして表現型の一つとして、ホモ個体では、特に僧帽筋などの筋肉を中心として、筋形成不全が見られることが明らかになった。その筋形成不全に伴って、骨のつき方にも異常がみられた。ホモ個体の約40%が出生後まもなく死亡する原因も、この筋形成不全によるのではないかと考えている。一方、成体の筋肉ではメルトリンは発現していないが,筋破壊後の再生過程では,再生部位に一過的にメルトリンαの発現が誘導されることを見いだした。しかしノックアウトマウスでは筋肉の再生に大きな異常は認められず、この過程にメルトリンαは必須ではないことがわかった。(2) メルトリンαのディスインテグリンドメインの機能/メルトリンαのディスインテグリンドメインの機能を知るため、このドメインを含む可溶性組み替えタンパク質
を作りScripps Research Instituteの高田義一博士との共同研究によって、メルトリンαが、筋特異的なインテグリンである、Integrin _9_1発現細胞と相互作用する、という結果を得た。(3)メルトリンβ遺伝子の発現とマウス個体における役割/ メルトリンβも細胞外領域にメタロプロテアーゼドメインやディスインテグリンドメインなどマルチドメインを持つ膜貫通型のADAMである。後根神経節など末梢神経の生ずる領域、及びマウス胎仔・新生仔期の筋細胞、骨髄で強い発現が見られ、メルトリンαとは異なる役割を果たしていると考えられる。メルトリンβに関して、それらに対するポリクローナル抗体を2種、およびモノクローナル抗体を6クローンとることができた。マウス形態形成におけるメルトリンβの発現を蛋白レベルで詳細に調べた結果、脊髄では胎生中期から出生後まで発現量に変化が認められなかったが、後根神経節では出生後に発現量が減少することが明らかになった.また免疫組織染色では、後根神経節においてNF160陽性神経細胞で発現していることが分かった。また、メルトリンβは、筋再生過程でも活性化されることがわかった。マウスメルトリンβ遺伝子を単離し、ES細胞を用いた遺伝子ノックアウトマウスを作成し、ホモ個体を得た。このノックアウトマウスは出生後一週間以内にその85%が死ぬことがわかり、死因と思われる形態形成不全が見い出された。(4)メルトリンβのメタロプロテアーゼの基質の同定/メルトリンβのメタロプロテアーゼドメインは、活性部位が保存されプロテアーゼとして機能しうることが予想された。メルトリンβの発生段階における発現部位から、これと似た発現パターンを示し、心臓形成や神経分化、神経筋接合部の形成などに関与することが知られる細胞膜貫通型増殖因子ニューレギュリンが、メルトリンβの基質となりうる可能性が考えられたので検討した。まず、各種マウスニューレギュリンのcDNAをクローニングし、それらを用いて、ニューレギュリンのプロセシングが野生型メルトリンβを共発現する事により増強し、プロテアーゼ活性を持たない変異型メルトリンβを共発現すると増強が見られない、あるいは抑制されることを見い出した。また、メルトリンβの発現によって、細胞表面のニューレギュリンが見られなくなり、いわゆるectodomain sheddingに関与していることを示した。更に、ニューレギュリンとメルトリンβが互いに共沈する事も明らかにした。これらの結果はメルトリンβがニューレギュリンのプロセシング、すなわち蛋白分解による膜型から可溶化型への変換に直接関わっている事を示唆した。
結論
以上、メルトリンα・β遺伝子欠損マウスはいずれも半致死であることがわかり、そのうちメルトリンαがマウス個体においても筋形成にかかわっていることを明らかにした。また、メルトリンαがそのディスインテグリンドメインを介して細胞間相互の認識に関与していること、メルトリンβそれらのメタロプロテアーゼドメインを介して細胞膜貫通型増殖因子ニューレギュリンの蛋白分解によるプロセシングに関与することを見い出した。

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