ヒト組織構築モデル動物の作製と応用に関する研究

文献情報

文献番号
200000929A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト組織構築モデル動物の作製と応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
藤本 純一郎(国立小児病院小児医療研究センター病理病態研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 秦 順一(慶應義塾大学医学部病理学教室)
  • 穂積信道(東京理科大学生命科学研究所生命工学技術研究部門)
  • 橘 公一(エスエス製薬株式会社・中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,815,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト難治性疾患の病態解明および新規治療法開発を目指して、ヒト疾患ならびにヒト正常組織のモデル動物を作成することを目的とする。白血病などの悪性腫瘍を主な候補疾患とし、その増殖に関わる機能分子の解析を行うとともに免疫不全動物であるSCIDマウスおよびNOD-SCIDマウスへの移植を試みる。また、ヒト骨やヒトサイトカイン遺伝子導入間質細胞の移植などによるヒト造血微小環境の再構築とその応用に関する研究も行う。さらに、将来的な家畜の医用応用を展望し、ブタ免疫系の解析に必要な抗体作成も本研究の課題とした。
研究方法
1)ヒト材料:使用したヒト組織は、正常組織、疾患材料に関わらずすべてインフォームドコンセントが得られたものを用いた。
2)免疫不全マウスへのヒト組織移植と応用:NOD/SCIDマウス皮下へヒト海綿骨を移植しHu-Bone SCIDマウスを作成した。この系へヒト・ストローマ細胞の移植と遺伝子導入を試みるために、SR alpha-EGFPとneoを挿入したレトロウイルスベクタ-(MBAE-EGFP)およびneoを欠くMSGFPを構築した。ストローマ細胞は内皮細胞、脂肪細胞への分化を指標に培養条件を決定した後にウイルスを感染させ、Hu-Bone SCIDマウスへ静注した。EGFPは共焦点レ-ザ-顕微鏡、フロ-サイトメトリ-あるいは抗EGFP抗体染色により検出した。Hu-Bone SCIDマウスへヒト神経芽腫、乳癌細胞を移植し、ヒト血管をともなう腫瘍を作成した。このモデルで血管新生抑制分子の効果を検討した。すなわち、血管内皮細胞増殖因子VEGF受容体Flt-1細胞外領域と免疫グロブリンFcのキメラ分子(Flt-1-Fc)およびangiopoietin-1受容体Tie-2の細胞外領域と免疫グロブリンFcのキメラ分子を用いた。
3)ヒト型モノクローナル抗体作成
ヒト末梢血リンパ球(Human Peripheral Blood Lymphocytes: Hu-PBL)を移植したSCID (Hu-PBL-SCID) マウスに TNF-αを免疫した後にM13ファージディスプレイライブラリーを作製し、Strong Binderを得た。
4)糖脂質豊富膜分画を会する刺激伝達回路の解析
ヒトリンパ濾胞胚中心細胞に相当するバーキットリンパ腫細胞株Ramosを用い、糖脂質豊富膜分画(glycolipid enriched membrane, GEM)に着目して刺激伝達回路の解析を行った。GEMへの刺激は、Gb3糖脂質リガンドであるベロ毒素(Stx1)刺激あるいは抗Gb3抗体刺激によって行った。刺激後の各種刺激伝達分子の局在変化、活性変化を免疫沈降法、Western Blot法、キナーゼ活性測定法ならびに共焦点レーザー走査型顕微鏡観察などによって行った。細胞を界面活性剤で可溶化後、ショ糖密度勾配超遠心法で分離し非可溶化分画をGEM分画とし、可溶化分画をDS(detergent soluble)分画として使用した。また、糖脂質Gb3への刺激を行った場合のcaspase分子群の挙動も解析した。
5)免疫不全家畜へのヒト造血再構築を目指した抗家畜血球モノクローナル抗体の作成
ブタ末血白血球をマウスに免疫し、常法に従ってマウスモノクローナル抗体(MoAb)を作成した。
結果と考察
1)ヒト間質細胞への遺伝子導入とHu-Bone-SCIDでの機能維持:ヒト間質細胞の初代培養に、新たに構築したレトロウイルスベクターによりGFPを導入した。MBAE-EGFP、MSGFPともに高い感染効率と発現効率を示した。これらの遺伝子導入ストローマ細胞をHu-Bone SCIDマウスへ静注あるいは移植骨内へ直接移植したところ、4-8週後に移植骨内外にGFP陽性ヒト間質細胞が観察された。腫瘍増殖や造血維持を制御できる方法の開発に応用可能と考えられる。
2)Hu-Bone SCIDマウスへのヒト腫瘍移植と治療モデル
ヒト神経芽腫、乳癌を移植した場合、その腫瘍血管はヒト血管であった。VEGF受容体Flt-1およびAngiopoietin受容体Tek受容体細胞外領域と免疫グロブリンFcのキメラ分子の発現ベクターをヒト神経芽腫、乳癌へ遺伝子導入し、Hu-Bone SCIDマウスへ移植したところ、腫瘍重量は対照群の1/4から1/20に減少した。殆どの乳癌細胞はαvβ3インテグリンを発現しており、乳癌細胞の骨髄転移、腫瘍血管新生に重要な機能を有することが知られている。そこでヒトインテグリン特異的モノクローナル抗体 (7E3) を投与するとコントロール抗体に比べて、乳癌細胞の増殖は8~13倍程減少した。血管新生制御による腫瘍治療モデルであり薬剤開発などへの応用が考えられる。
3)SCIDマウスへのヒト免疫系再構築とヒト型モノクローナル抗体の作成
ヒトTNF-αに対する14個のStrong Binder を得た。うち3クローンが異なったクローンに属すること、それらは十分に高い力価を有することが明らかとなった。ヒト抗体作成系はすでに完成しており、臨床応用を図れる段階に到達している。
4)ヒトB細胞における糖脂質豊富膜分画を介する刺激伝達の解析
Ramosに対しGb3を刺激するとアポトーシスが生じる。その過程でSykやLynなどsIg刺激に関与するSrc型キナーゼが活性化することが明らかとなった。Gb3非刺激時は、sIgとこれらキナーゼの共役は見られないが、Gb3刺激後はこれらの3蛋白が共役すること、Gb3とsIgが細胞表面上の同一部位への集族することが確認された。また、Gb3刺激でのアポトーシスではcaspase 3, 8および9が関与することが示された。細胞表面糖脂質が腫瘍増殖制御の新たな標的となりうる可能性を明らかにした。
6)ブタ白血球に対するモノクローナル抗体の作成と解析
7G3がブタγδTCR抗体を、1F10がCD8を認識することを二重染色解析および生化学的解析で明らかにした。医用応用を目的とした免疫不全ブタ解析に有用と考えられた。
結論
1)SCIDやNOD-SCIDを用いて各種ヒト疾患のモデル動物を作製した。
2)Hu-Bone-SCIDへのヒト乳癌移植モデルにおいて、血管新生に関与するαvβインテグリンに対するキメラ抗体を投与すると乳癌の増殖抑制が起こることを明らかにした。また、VEGF受容体ならびにAngiopoietin受容体を可溶化の形で導入したヒト腫瘍はHu-Bone-SCIDでの増殖が著明に抑制していた。これらは、新たな治療モデルと考えられる。
3)マウス生体内でのヒト組織維持に必要な環境を提供できるヒト間質細胞移植系において外来遺伝子を効率よく発現させる方法を確立した。
4)Hu-PBL-SCIDからヒトTNF-αに対するヒト型モノクローナル抗体を作成した。
5)バーキットリンパ腫細胞の細胞膜糖脂質への刺激によりアポトーシスを誘導できることを示した。この刺激は免疫グロブリンを介する刺激伝達回路への関与により行われており、最終的にはcaspase系が作用することが判明した。
6)医用応用を目的とした免疫不全ブタ解析に有用な抗ブタγδTCR抗体および抗ブタCD8抗体を作成した。

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