文献情報
文献番号
200000926A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物及び生体分子の高感度高性能分析・解析技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
今井 一洋(東京大学大学院薬学系研究科 生体分析化学教室)
研究分担者(所属機関)
- 本間浩(東京大学大学院薬学系研究科 生体分析化学教室)
- 三田智文(東京大学大学院薬学系研究科 生体分析化学教室)
- 福島健(東京大学大学院薬学系研究科 生体分析化学教室)
- 前田昌子(昭和大学薬学部 薬品分析化学教室)
- 林譲(国立医薬品食品衛生研究所 療品部)
- 松田りえ子(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
- 久米英浩(浜松ホトニクス(株) 電子管第一事業部)
- 西岡亮太(住化分析センター(株)科学機器事業部)
- 中島憲一郎(長崎大学薬学部 衛生化学教室)
- 伯水英夫(第一製薬(株)創剤代謝研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
微量で活性を有する薬物の体内動態や光学活性薬物の体内光学異性変換、並びにそれらによる生体分子への影響を精査するための技術として、蛍光、化学発光検出を利用するクロマトグラフィーを取り上げ、それらのより高感度化及び高性能化を計るべく検討し、それらの技術を実際に応用する。さらに、これら薬物の生体内機能分子との相互作用を明らかにするための技術として、蛍光偏光分析法を取り上げ、薬物と受容体などの生体機能分子との相互作用を解析する技術の高感度化を計るべく検討する。本年度は次の研究を行った。1.新規利尿分子LLU-αの高感度定量法の開発、2.血中カテコールアミン(CA)及びメチル代謝物の高感度分析法の開発と応用、3.蛍光偏光分析による環境ホルモンのエストロゲン(E)受容体との結合解析、4.Acetate kinase(AK)及びPyruvate phosphate dikinase(PPDK)を標識酵素とする2分子同時検出可能な生物発光イムノアッセイ法の開発、5.FUMI理論による分析法の評価、6.新規光学活性カラムの作製、7.覚醒剤MP、APの光学分割定量、8.筋硬縮解除薬バクロフェンの光学分割。
研究方法
1. LLU-αを蛍光試薬によって蛍光誘導体に導き、HPLCを用いる高感度分離定量法ならびに光学分割法の開発を行い、この方法をラット生体内LLU-αの動態研究に応用した。2.セミミクロカラムを用いた過シュウ酸エステル化学発光検出法による高感度かつ高選択的なCAとその3-O-メチル代謝物の分離分析法を開発した。また、高血圧自然発症ラット(SHR)に、COMTの補酵素S-Adenosyl-L-methionine(SAMe)を静脈内投与して、降圧効果が得られるか否かを検討した。3.蛍光分子フルオレセイン標識エストラジオールを調製し、E受容体における環境ホルモン類との競合を蛍光偏光測定により解析した。4. C-ペプチドおよびインスリンをAK及びPPDKを標識酵素とする2分子同時検出が可能な生物発光イムノアッセイにより定量した。5. FUMI理論を実践するプログラムTOCOによって、マイクロタイター型装置を用いたルシフェラーゼ生物発光の測定精度を予測した。6. 光学活性分子としてポリ-L-フェニルアラニンあるいはN-[(R)-1-(α- naphthyl)-ethylamino-carbonyl]-L-tert-leucineを化学結合した固定相(CSP-1)、更にCSP-1のアルキル鎖を伸長した固定相(CSP-3)を作製し評価した。7. MPおよびAPを蛍光試薬DIB-Clでラベル化後、セミミクロカラムを用いて分離・検出する高感度定量法を開発し、尿および 毛髪からの検出に応用した。8.ヒト血漿中バクロフェン濃度をLS/MS/MSにより調べた。
結果と考察
1. LLU-αを蛍光試薬DBD-PZ、CH3COClを用いて誘導体に導き、2種類のカラム(フェニルおよびODS)を用いるカラムスイッチングHPLCにより、ラット血漿、尿、胆汁から、LLU-αの定量に成功した。次に、LLU-αの蛍光誘導体は修飾セルロース型キラル固定相により良好に光学分割され、ラット生体内LLU-αはS体であった。2. Glassy Carbonを充填したステンレスチューブを用いた新規ミクロ電解フローセルの開発、化学発光検出器のセル内チューブ径などの最適化により、CAとその3-O-メチル代謝
物の検出限界は0.3-2 fmol、0.7-5 fmolとなり、従来法に比べ約3倍高感度になった。SAMeの静脈内投与により、血漿NE濃度が有意に低下し、血漿NMN濃度が上昇した。このことは、CAのメチル化がSAMeにより促進され、血圧が降下したと考えられる。3.約20種の化学物質について競合実験を行った結果、エストラジオールを基準とした50%阻害濃度の相対値は放射性同位元素を用いる従来法と一致した。また、ヒル係数(ヒルプロットの傾き)は、50%阻害濃度と同様に化合物固有の値として得られた。4. AKによりアセチルリン酸とADPから生じたATPをルシフェリン-ルシフェラーゼ反応により発光させた(検出感度1.02×10-20 mol/assay)後に、PPDKによりピロリン酸、ホスホエノールピルビン酸及びAMPから生じるATPを同様に発光させた。この段階で、ADP-HKによりAK用発光基質溶液中ADPのAMPへの変換を行わせることでPPDKのみの測定が可能になった(検出感度2.05×10-20 mol/assay)。インスリンとC-ペプチドをとりあげ、これらの同時測定を行った結果、C-ペプチドの検出限界が3.0 x 10-16 mol/assay、インスリンは9.9 x 10-17 mol/assayであり、日常分析法に比べ、ともに約10倍高感度であった。5.ルシフェラーゼ生物発光は揺らいでおり、この揺らぎから発光強度のSDを求めたところ、サンプル濃度が高くなるにつれて、発光のSDも大きくなった。TOCO(FUMI理論)によって、発光の揺らぎをフーリエ変換し求めたSDは実測したSDに良く一致したことから、ルシフェラーゼ生物発光では、発光のSDは理論的に予測可能であることが分かった。この検出限界濃度は1.0x10-20 mol/assayであり、くり返し測定から求めた検出限界(1.36 x10-20mol/assay)とほぼ一致した。6.ABS-(L-Phe)8-Bzがワルファリンの光学分割に最適であった。50℃以上でABS-(L-Phe)8-Bzの不斉認識能はほぼ消失し、その後温度を下げても分離能は回復しなかったことから固定相の高次構造が不斉認識に影響を与えている可能性が示唆された。CSP-1、-2及び-3を用いた場合、1,1'-bi-2-naphthol及びN-(3,5-dinitorobenzoyl)-phenylethylamineの保持時間は、アルキル鎖炭素数の増大に比例して増加したが、分離係数は比例しなかったので、アルキル鎖の延長によって、光学分割能が向上するとは限らないことが示唆された。7.覚せい剤摂取被疑者尿からはS-MPsが検出されたが、パーキンソン病治療薬R-デプレニールを投与した患者尿にはR-MPとAPが検出され、本法は乱用されるS-MPとの区別に有用であると考えられる。また、覚せい剤摂取被疑者の毛髪から抽出したMPはすべてS体であった。8.Crownpak CR(+)とC18を用いたカラムスイッチングHPLCにより、ヒト血漿中バクロフェンの光学分離法を確立した。分離検出法としてLC/MS/MSを用いて検量線を作成したところ、良好な選択性、直線性及び真度が得られた。
物の検出限界は0.3-2 fmol、0.7-5 fmolとなり、従来法に比べ約3倍高感度になった。SAMeの静脈内投与により、血漿NE濃度が有意に低下し、血漿NMN濃度が上昇した。このことは、CAのメチル化がSAMeにより促進され、血圧が降下したと考えられる。3.約20種の化学物質について競合実験を行った結果、エストラジオールを基準とした50%阻害濃度の相対値は放射性同位元素を用いる従来法と一致した。また、ヒル係数(ヒルプロットの傾き)は、50%阻害濃度と同様に化合物固有の値として得られた。4. AKによりアセチルリン酸とADPから生じたATPをルシフェリン-ルシフェラーゼ反応により発光させた(検出感度1.02×10-20 mol/assay)後に、PPDKによりピロリン酸、ホスホエノールピルビン酸及びAMPから生じるATPを同様に発光させた。この段階で、ADP-HKによりAK用発光基質溶液中ADPのAMPへの変換を行わせることでPPDKのみの測定が可能になった(検出感度2.05×10-20 mol/assay)。インスリンとC-ペプチドをとりあげ、これらの同時測定を行った結果、C-ペプチドの検出限界が3.0 x 10-16 mol/assay、インスリンは9.9 x 10-17 mol/assayであり、日常分析法に比べ、ともに約10倍高感度であった。5.ルシフェラーゼ生物発光は揺らいでおり、この揺らぎから発光強度のSDを求めたところ、サンプル濃度が高くなるにつれて、発光のSDも大きくなった。TOCO(FUMI理論)によって、発光の揺らぎをフーリエ変換し求めたSDは実測したSDに良く一致したことから、ルシフェラーゼ生物発光では、発光のSDは理論的に予測可能であることが分かった。この検出限界濃度は1.0x10-20 mol/assayであり、くり返し測定から求めた検出限界(1.36 x10-20mol/assay)とほぼ一致した。6.ABS-(L-Phe)8-Bzがワルファリンの光学分割に最適であった。50℃以上でABS-(L-Phe)8-Bzの不斉認識能はほぼ消失し、その後温度を下げても分離能は回復しなかったことから固定相の高次構造が不斉認識に影響を与えている可能性が示唆された。CSP-1、-2及び-3を用いた場合、1,1'-bi-2-naphthol及びN-(3,5-dinitorobenzoyl)-phenylethylamineの保持時間は、アルキル鎖炭素数の増大に比例して増加したが、分離係数は比例しなかったので、アルキル鎖の延長によって、光学分割能が向上するとは限らないことが示唆された。7.覚せい剤摂取被疑者尿からはS-MPsが検出されたが、パーキンソン病治療薬R-デプレニールを投与した患者尿にはR-MPとAPが検出され、本法は乱用されるS-MPとの区別に有用であると考えられる。また、覚せい剤摂取被疑者の毛髪から抽出したMPはすべてS体であった。8.Crownpak CR(+)とC18を用いたカラムスイッチングHPLCにより、ヒト血漿中バクロフェンの光学分離法を確立した。分離検出法としてLC/MS/MSを用いて検量線を作成したところ、良好な選択性、直線性及び真度が得られた。
結論
新規利尿分子LLU-αの高感度光学分割定量法を開発した。ラット血漿、尿、胆汁からS-LLU-αを定量し、S-LLU-αはR-LLU-αよりも血漿中からの消失が速いことを明らかにした。CAとその3-O-メチル代謝物の高感度分析法を確立し、SAMeの降圧作用がメチル化代謝能促進によることを明らかにした。蛍光偏光分析法は、薬物と受容体の相互作用解析に有用であると思われた。C-ペプチドとインスリンの2分子同時生物発光イムノアッセイ法は高感度であり、ヒト血清試料においても測定が可能であった。ルシフェラーゼ生物発光測定の精度をFUMI理論により予測できることを示した。新規光学活性カラムを調製し、ワルファリンの光学分割に成功した。また、覚醒剤MP、AP、ヒト血漿中バクロフェンの光学分割法を確立した。
公開日・更新日
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