疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドライン案の評価および遺伝子解析を含めた疫学研究の社会的還元のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000925A
報告書区分
総括
研究課題名
疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドライン案の評価および遺伝子解析を含めた疫学研究の社会的還元のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
玉腰 暁子(名古屋大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 尾島 俊之(自治医科大学)
  • 掛江直子(早稲田大学人間総合研究センター)
  • 小橋 元(北海道大学大学院医学研究科)
  • 斎藤有紀子(北里大学医学部)
  • 佐藤 恵子(国立がんセンター中央病院)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 丸山 英二(神戸大学大学院法学研究科)
  • 山縣然太朗(山梨医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学研究は人間集団を対象とし、最終的には個人レベルだけでなく集団レベルでの健康水準の向上を目指すものである。人の情報を用いない疫学研究はありえないが、その情報を用いる際のインフォームド・コンセント、個人情報の収集・管理、得られた結果の還元に関しては今まで正面から取り上げられてこなかった。また、疫学研究の倫理的妥当性を検討する受け皿となるべき倫理審査委員会の現状は現在までのところ明らかではない。そこで、1.「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVersion1.0」の評価に向けた調査研究 2.倫理審査委員会の実態調査 3.疫学研究の社会的還元のあり方に関する研究を目的とした。
研究方法
1.「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVersion1.0」の評価に向けた調査研究  我々が策定した「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVersion1.0」について、積み残し課題も勘案し、以下の検討を行う。その際には、現在厚生省丸山班で進められている疫学的手法を用いた研究に対する指針を考慮する。(1)研究者に対するインタビュー調査 (2)現場をあずかる保健婦に対するインタビュー調査 (3)ヒト由来資料および医療情報に関する国内ガイドラインの状況 2.倫理審査委員会の実態調査 疫学研究の倫理的妥当性について、侵襲性の非常に低いものであっても倫理的審査を受けることが推奨されるが、その受け皿となる倫理審査委員会の実態について明らかでない部分が多い。その現状を調査する。具体的には、大学医学部・医科大学の倫理審査委員会の運用状況について、インタビュー調査を行う。また、倫理審査委員会の規定等を収集して分析を行う。また、倫理審査委員会の委員長あるいは事務担当者に対して広く数量的調査を行うための基礎として疫学研究の定義について検討する。さらに全国の市町村が実施している調査研究に際しての倫理審査状況を調査する。3.疫学研究の社会的還元のあり方に関する研究  疫学研究がスムーズに実施されるには、対象者が理解をした上での研究参加が必要である。また、研究成果が還元されていない、もしくは還元方法に問題があるために疫学研究に対する理解が進まないことも考えられる。そこで、疫学研究の参加と結果還元方法について検討を行う。(1)広報周知方法の開発 疫学研究の意義、成果を伝えるリーフレットの試作を行う。(2)シンポジウムの開催 疫学研究の意義と問題点を一般市民と共有し討議するためにシンポジウムを開催する。シンポジウムの開催にあたっては、演者からの一方通行ではなく参加型の形式をとり、広く意見交換を行うことを心がける。企画から反省までを今後の資料として活用する。
結果と考察
以下の研究調査を実施した。1.ガイドラインに関する調査 ①若手研究者対象 実際に疫学研究に携わっている若手研究者を対象に昨年度我々の策定した「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVersion1.0」の内容に関するインタビューを実施した。インタビューでは、「このようなものが早く実行可能なものとなってほしい、ミレニアムプロジェクトとの差違があるので統一してほしい」「インフォームド・コンセントを
とる上で、時間のコメントがない、説明して対象者が考える時間が必要ではないか」「これまでの政策を含めて、制度を確立してこなかった厚生省に責任がある」とのコメントが得られたが、概ねガイドラインの内容に関しては肯定的であった。②市町村保健婦対象 保健所・市町村が実施する調査・研究について、地域保健に携わる保健婦を対象にインフォームド・コンセントおよび倫理審査の実状と今後のあり方について、グループインタビューを行なった。インフォームド・コンセントおよび倫理委員会は、地域保健の現場ではこれまであまり強く意識されずに調査が行なわれてきた実態が明らかになった。しかし住民のプライバシー意識の高まり、自治体の個人情報保護の動きを受けて、調査実施前の倫理審査、調査実施時のインフォームド・コンセントの重要性が認識されており、ガイドラインを参考にしたいという意見が多く、またガイドラインVersion1.0で提示された倫理的協議の場の設定には概ね肯定的で高い関心が得られた。③ヒト由来資料および医療情報に関する国内ガイドラインの状況 2000年から2001年にかけて、本邦では行政を中心に遺伝子研究や生殖細胞を含めた医学研究に関する指針・ガイドラインが複数策定された。それらの経緯を追うとともに、本班ガイドラインVer.1との異同、残された課題等について考察した。2.倫理審査委員会調査 大学医学部・医科大学の倫理審査委員会の運用状況について、インタビュー調査を行った。また、倫理審査委員会の規定等を収集して分析を行った。広く数量的調査を行うための基礎として疫学研究の定義について検討した結果、倫理審査委員会の委員長あるいは事務担当者に対して簡単で明確な定義を行うことは困難であるとの結論になった。3.市町村の倫理審査状況 全国の市町村における、保健衛生分野の調査の実施状況、またその際の個人情報保護に関する検討の実施状況を調査した。検討の方法としては、担当者内での検討、文書の決裁、協議会、市町村の条例に基づく審議会、研究機関等の倫理審査委員会などのうちの、どのような方法かを調査した。併せて、情報公開、個人情報保護に関する条例の有無等も調査した。4.疫学研究PRリーフレットの作成 疫学研究の意義、方法などとともにこれまでの疫学研究の成果を知らせる広報のためのリーフレットを試作した。配布場所として疫学研究が実施される現場となる保健所や自治体の窓口などを考えている。今後改訂を加え、一般の方を対象に配布し、疫学研究の周知を図ると同時に疫学研究が実施しやすい環境作りに寄与することが期待できる。5.疫学研究の周知と問題共有のためのシンポジウム開催 2001年3月3日(土)午後、慶應大学三田キャンパス北新館大講堂にて、一般向け参加型シンポジウムを開催した。シンポジウムでは、研究者自らがロールプレイをし、疫学研究の周知と問題点の共有を図った。また、進行にあわせて問題を投げかけ、参加者の回答(選択肢)を逐次集計しながら進めた。このようなシンポジウムは、今まで疫学研究分野では例がないが、疫学研究の周知手段としても問題点共有・討議手段としても好評であった。今後、中高生も視野に入れながら、全国展開していく意義は大きいものと考える。全体を通じて、○疫学研究におけるインフォームド・コンセントならびに倫理審査委員会のあり方の検討○疫学研究の理解と周知を求める活動を行った。
結論
疫学研究の周知と理解を通じて倫理的な研究の実施を可能とするため、「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVersion1.0」の評価、倫理審査委員会の実態調査と疫学研究の社会的還元のあり方に関する研究を行った。特に疫学研究の周知と問題点の共有を目指して実施したシンポジウムで得られた成果は大きく、今後発展的に進めていくことが重要と考える。今年度の研究を通じて、疫学研究における個人情報保護方法の具体的な提案、倫理審査委員会の在り方に関する継続的な検討、倫理委員のための教育プログラムの開発、疫学研究周知のための方法の開発と実施が来年度以降の課題であることが明らかと
なった。

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