脳検診で発見される未破裂脳動脈瘤例の経過観察(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000924A
報告書区分
総括
研究課題名
脳検診で発見される未破裂脳動脈瘤例の経過観察(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
桐野 高明(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 端 和夫(札幌医科大学)
  • 吉本高志(東北大学)
  • 斎藤 勇(杏林大学)
  • 大本堯史(岡山大学)
  • 橋本信夫(京都大学)
  • 河瀬 斌(慶応大学)
  • 櫻井恒太郎(北海道大学)
  • 福井次矢(京都大学)
  • 福原俊一(京都大学)
  • 八巻稔明(札幌医科大学)
  • 大橋靖雄(東京大学)
  • 木内貴弘(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この調査の基本的目的は、未破裂脳動脈瘤の自然経過を知ること、および保存的、外科的治療の効果および危険性を把握することにより、各々の症例における最善の治療を確立することにある。あわせてこの疾患の疫学的データを収集することを目的とする。
研究方法
本年度は昨年度に検討を加え本調査の方法として妥当であると判断された治療例・非治療例(経過観察例)をすべて含めた悉皆調査を全国的に展開すべく研究を進めた。1: まず、全国施設の担当医師に本調査の主旨と内容を理解してもらうべく広告活動を行った。学会に登録している脳神経外科医のみがアクセスできるオンラインホームページ(http://endai.umin.ac.jp/islet/ucasj)を立ち上げ、学会員に電子メールおよび文書にて通達した。さらにプロトコール、本調査CD Romを作成し調査に必要な文書を電子情報で全国1135のA,C項脳神経外科訓練施設に配布した。2: 次いで、A項訓練施設を中心に本調査の各施設倫理委員会申請をお願いした。本調査はオンラインで患者情報を伝達・収集するという方法をとるため、患者よりのインフォームドコンセント取得を本調査の必須事項とし、さらにオンライン情報は高度な暗号通信を用いることで、倫理面での配慮を徹底した。3: 上記の間、多施設・多数症例の登録を現実的なものとするために調査内容の簡素化かつ必要十分な情報が得られるよう検討を行った。過去の症例の紙上予備登録を行いデータ取得の整合性、簡便性、および追加必要事項の検討を行った。4: 2000年10月より大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)の協力のもと、実際のオンラインプログラムの作成を開始している。まずデータの機密性を向上するためデータの授受には128ビットの暗号通信を用いることとし、これに対応するインターネットブラウザのみで入力が可能となるようにした。オンラインの登録には各施設に一つ割り当てられるセキュリティコードを用いて各施設画面に入れるようにした。現在病院登録・初期登録および緊急時入力用の画面は完成し実際の運営が2001年1月1日より開始されている。入力が確実になされたことの確認、次期患者登録時の予告通達、および次期を過ぎても入力のない場合の再確認のための通達が電子メールまたはFAXにて通達できるシステムを構築した。5: 2001年1月1日より2001年度より新規に発見された症例を対象にオンライン、FAXまたは郵送による患者登録を開始した。
結果と考察
1: 予備調査(過去症例):札幌医科大学関連5施設より未破裂脳動脈瘤の2000年度以前に発見された患者のデータをフォームに入力していただき、その実用上の問題点を収集すると同時に、患者データを集積した。総計121症例、総計150個の瘤が入力された。121個(81%)において開頭手術が基本的方針と決定され、19%の例で経過観察が選択されている。治療の内容・経過については89例において報告され、手術時期は3ヶ月以内67例79個、3~12ヶ月8例8個、36ヶ月まで4例4個であり、総計79例、91個の瘤が治療されている。治療は全例開頭手術を受けており、死亡は0、Rankin scaleが1ポイント以上低下する合併症は5例(6%)に見られている。その原因は穿通枝障害が4例であった。症例は脳底動脈瘤が3例、15ミリの大型動脈瘤が1例、その他6ミリの前交通動脈瘤であった。10ミリ未満の内頸動脈、中大脳動脈系の瘤の合併症は0%であった。記載があった治療選択理由は患者・家族の希望が67例(85%)と最
も多く、ついでくも膜下出血に合併が4例、症候性が3例、年齢2例、瘤の拡大1例であった。経過観察されている症例で破裂したものは1例もなく、経過2年後に画像経過にて瘤の拡大が認められ手術された症例が1例みられた。2: UCAS Japan悉皆調査中間報告: 2001年1月1日より本調査オンライン登録を開始し、3月27日の段階で181施設が施設登録している。181施設の内、ブラウザの関係でオンライン登録の出来ない施設が51施設(29%)あり昨年のアンケート調査と同様の割合を示した。これらの施設では郵便、またはFAXによる登録を行っている。病院の症例規模として、破裂例を含めた動脈瘤の手術件数は0から170件(中間24件)、全体の脳神経外科手術件数は2から718件(中間172件)、動脈瘤に対する血管内治療は0件から50件(中間2件)であった。動脈瘤の治療数は30件以下が111施設、30件より多数が69施設であった。瘤治療のサイズに関する基本方針は、治療せず観察する群として3ミリ未満とした施設が86施設(45%)、5ミリ未満が41施設、10ミリ未満が42施設、すべて観察するとした施設が9施設であった。治療を行う時期として、発見から1ヶ月以内とした施設が43施設、1から3ヶ月とした施設が88施設と最も多く、3ヶ月以上が9施設、該当するもの無しが41施設であった。症例は3月末の段階で303症例が登録されている。診断の基準となった検査は脳血管撮影49%、MRA 39%、CTA23%であった。患者は男性102,女性201例と男女比約1:2であった。年齢は20-87(中間63)才であった。既往歴はくも膜下出血12例、高血圧118例、喫煙66例。家族歴は48例(16%)に認められた。瘤の発見されたきっかけは本調査でも頭痛やめまいなど不特定症候に対する精査で発見されたものが130例(43%)と最も多く、次いで全身検索やくも膜下出血以外の中枢神経系の精査で発見が28%、脳ドックは14%であった。登録時神経脱落症状は63例に認められ、運動麻痺は24例で最も多かった。瘤は総計350個登録され多発性が48例(16%)に見られた。瘤の大きさは5ミリ未満が48%、5-9ミリが39%、10ミリ以上が13%であった。瘤の部位は内頸動脈系が34%、中大脳動脈が35%、前交通動脈が12%、椎骨脳底動脈系が9%であった。瘤は嚢状が95%、石灰化は2%、血栓形成は2.5%に認められた。Daughter sacは1ミリ以下のもの13%、1ミリ以上のものが6%にみられた。現在登録されている治療計画は全体では経過観察が20%、慎重な経過観察が27%、開頭手術が33%、血管内治療が3%、未決が17%であり、保存的治療の割合が予想外に多かった。動脈瘤のサイズ別では、5ミリ未満では治療が22%、5ミリ以上10ミリ未満では47%、10ミリ以上では49%、部位別では治療を計画されているのは中大脳動脈(51%)、前交通動脈、A2(50%)、内頸動脈(37%)の順で多く、椎骨脳底動脈系は治療が適応されたのは26%のみであった。このような治療方針は当初各施設病院登録において登録された基本方針とは13%の瘤で異なっているとしている。経過観察中の破裂例は報告されていない。これらのデータはまだ中間情報であり、治療の正確な件数や結果は今後の登録を待たねばならないが、現在の未破裂脳動脈瘤の動向をつかむうえで、極めて有用である。瘤の治療適応が少しずつ狭められている動向にあり、特に小型(5ミリ未満)の瘤では半数以上が治療の適応となっておらずまた深部の瘤は経過観察されることが多いことが解った。予備調査によれば未破裂脳動脈瘤の治療予後はおおむね良好であると考えることが出来る。とくに1センチ未満の内頸動脈、中大脳動脈系の瘤の手術成績は良好であった。合併症は脳底動脈系や大型の動脈瘤にみられ、穿通枝障害が中心となる。いずれも重篤な障害を残すことは稀で、死亡例は0であった。但し今回予備調査に参加した施設は主に動脈瘤年間治療数が30以上の施設であり、全国平均23例より多く、標準的施設での結果を反映しているかは今後の調査を待たなければならない。
結論
未破裂脳動脈瘤はもし破裂すると極めて重篤な障害または死亡を来しうる疾患である。この疾患は本邦では少なくとも一年間に5000例以上が発見されている。昨年のアンケート調査および今回の予備調査
では80%以上が治療の適応となっていたが、今回の中間結果では約35%にとどまっている。また小型の瘤(5ミリ未満)および内頸動脈、中大脳動脈系の瘤が多く発見されていることがわかった。本調査によれば患者の特徴や家族歴、発見の経緯、動脈瘤の部位、大きさ、瘤の形状、治療適応に関する情報が極めて正確に把握できることが解った。瘤の破裂はまだ報告されていないが、瘤の破裂率の把握、また予備調査の結果から治療の危険性に関与する因子についても的確に把握できることが解った。今後さらに多くの施設に参加を呼びかけ本調査を拡充してゆき、未破裂脳動脈瘤の破裂率・予後を把握し、的確な治療指針を樹立するように推進する。

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