脳卒中・心筋梗塞罹患率の推移とADL低下状況に関する研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200000919A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中・心筋梗塞罹患率の推移とADL低下状況に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柊山 幸志郎(琉球大学医学部内科学第3講座)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤重幸(札幌医科大学内科学第2講座)
  • 鈴木一夫(秋田県立脳血管研究センター疫学研究部)
  • 高松道生(厚生連佐久総合病院内科)
  • 小川 彰(岩手医科大学脳神経外科学講座)
  • 上田一雄(九州大学医療短期大学部)
  • 児玉和紀(広島大学医学部保健学科)
  • 笠置文善(財団法人放射線影響研究所統計部)
  • 喜多義邦(滋賀医科大学福祉保健医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の脳卒中の死亡率は1965年以降減少してはいるが、単独の疾患としては依然として死亡率の最も高い疾患であることには変わりがない。また、急性心筋梗塞については、わが国の食生活が欧米化していることを反映し、その死亡率が増加する恐れのあることが指摘されている。したがって、これら循環器疾患の死亡の動向を地域ベースで観察することは、予防対策をたてる上で重要である。また、上記の循環器疾患は致命的な疾患であるだけでなく、死亡を免れても身体的な障害を残す疾患であることから、その発症の実態を明らかにすることは、地域の循環器疾患後遺症者への支援対策を講ずる上でも価値ある資料といえる。昨年度の結果より、1990年代前半(1990年から1994年)の脳卒中の罹患率は男性、女性ともに秋田県が最も高く、西方で低下する傾向が認められ、急性心筋梗塞の罹患率は男女ともに東日本が低く、西へ行くほど高くなる傾向が認められた。また、長期コホート研究から、循環器疾患の最大の危険因子である血圧の平均値は低下しているが血清総コレステロールや肥満度、糖尿病有病率上昇傾向にあることが明らかにされた。本年度は、1990年代後半すなわち1995年~1999年までの脳卒中および急性心筋梗塞の罹患率を明らかにした。また、長期コホート研究から、循環器疾患の危険因子の有病率に着目して、その有病率の推移を検討した。
研究方法
1.地域発症登録1) 調査対象地域:循環器疾患の地域発症登録研究の調査対象地域は、北海道帯広市(人口167384人)、秋田県全県(人口1227478人)、岩手県二戸地区5市町村(人口71678人)、長野県佐久地域9市町村(旧佐久保健所管内、人口110909人)、滋賀県高島郡6町村(人口54664人)、沖縄県南部保健所管内11市町村(人口216081人)の計6地域である。なお、本年度の脳卒中罹患率については沖縄を除く5調査地域について、また急性心筋梗塞については岩手県、秋田県および沖縄県を除く3地域について示す。2) 登録対象者と登録方法:登録対象者は、対象地域に住民票を持つ住民のうち、調査期間内に脳卒中、急性心筋梗塞を発症した者および突然死した者である。登録方法は、発症者が入院もしくは外来通院している医療施設の診療記録に基づいて行う。脳卒中および急性心筋梗塞の診断基準は、WHOのMONICA研究の診断基準に準拠して厚生省の昭和63年度循環器病委託研究費による「63指―1 循環器疾患の登録・追跡・管理システムの研究」(主任研究者:北川 定謙)によって作成された診断基準によった。脳卒中病型別および急性心筋梗塞の診断基準および調査項目の詳細は、本研究班1999年度報告書に記載した。3) 倫理面への配慮:これまで、地域における循環器疾患発症登録は、原則として登録実務を行っている医療機関との共同研究事業として退院後の診療記録の閲覧という形で実施してきた。本研究に参加している地域の発症登録研究は1980年後半から実施継続して行われている研究であり、開始時点からこの研究の理念に変化はない。特に、沖縄では、33医療施設および7保健所と共同研究を組織し、COSMO Group(Co-operative Study Group of Morbidity and Mortality of Cardiovascular Disease in Okinawa)と命名し、研究を実施している。現在、入院している患者を対象とした機能予後に関する追跡調査
を含む登録実務については、患者もしくは家族に対して、本研究の目的と方法および資料の管理運営等について説明した上で登録を実施することとしている。収集された登録票については、個人を同定しうる情報を切り離し施錠管理している。本研究班では、登録実施医療機関との共同研究事業としての位置付けを明確にするため、本班研究者が所属施設の倫理委員会へ登録研究継続を申請し承認を得ているところである。
結果と考察
1990年代後半(1995年から1999年)の脳卒中の罹患率は、男性および女性ともに岩手県(男性人口十万人当り204.7、女性146.1)、秋田県(169.0、106.1)および北海道(161.2、88.8)の罹患率が高く、わが国における脳卒中死亡率の動向、すなわち、東北地方で高く、西へ行くに従って低下する傾向とほぼ一致しており、本調査成績の地理的分布は一応合理的であろうと考えられた。また、本報告では全国3箇所の地域における成績しか提示できなかったが、急性心筋梗塞の罹患率は、男性では脳卒中の傾向とほぼ同じ地理的な分布すなわち北海道(人口十万人当り42.0)で高く長野県(31.5)、滋賀県(35.1)で低いという傾向を示したものの、女性では逆に西方で高い値を示す傾向を示した(滋賀県16.8、長野県13.5、北海道12.8)。また、脳心比は男女ともに3倍程度であった。この比は登録地域間に差は認められず、1990年代後半における循環器疾患の疾病構造の概要をあらわす指標と考えられる。本年度の報告において、当初予定していた1990年代後半すなわち1995年から1999年までの脳卒中および急性心筋梗塞の罹患率を完全に求めることができなかった。本研究の開始当初より発症登録に関わる倫理的問題を解決するための作業を行ってきた。その作業の中で登録実施医療機関との申し合わせにより実質的に登録実務を中断せざるを得ない状況が生じた地域があり、悉皆的な登録作業が困難となり結果的に予定した罹患率を提示することができなかった。現在、これらの問題はほぼ解決され、発症登録を再開できる状態にあり、次年度の報告では1990年代の循環器疾患罹患率の推移を当初予定した調査期間を満足する資料を用いて明らかにすることが可能である。循環器疾患発症者の生命予後について死亡小票に基づいて追跡調査を行ったところ、脳卒中および心筋梗塞ともに男性の予後が女性に比べて良好であることが明らかとなった。しかしながら、男性と女性の発症時年齢を比較すると、脳卒中および心筋梗塞ともに男性の発症時年齢は女性よりも若く、このことが男性の生命予後の良好さに影響したものと考えられる。しかしながら、このことは男性の発症者は女性に比べて介護期間が長いことを示唆するものと考えられた。また、長期コホート研究の結果から、これまで循環器疾患の最大の危険因子であった高血圧者の有病率は高血圧治療の普及を含む平均血圧の低下によって年々減少していることが認められ、また、高血圧者から発症する脳梗塞の罹患率もまた徐々に低下していることが明らかとなった。このことは、近年の循環器疾患の死亡率の低下を裏付ける証拠と考えられる。しかし、他の危険因子、血清総コレステロール、肥満度、糖尿病有病率は増加しており。これらの危険因子の変動が総体として循環器疾患の発症に影響を与えているかどうかについては、今後の研究を待たなければならない。また、現在注目されているMulti risk factors保有者の動向に関する研究では、40歳以上の男性において高血圧と高コレステロール血症をともに持つものの割合が増加しており、特に40歳代の男性においては高血圧、高コレステロール血症に加えて糖尿病を合併しているものの割合が近年急激に増えていることが明らかにされた。これらの結果から、高血圧を主たる原因とする従来型の循環器疾患の発症は徐々に減少し、代わって高コレステロール、糖尿病を原因とする欧米型の循環器疾患の発症構造に急激に移行していくものと考えられる。
結論
脳卒中および急性心筋梗塞の発症を地域ベースで登録し、1990年代後半(1995年~1999年)の罹患率を求めた。その結果、脳卒中の罹患率は、男性および女性ともに秋田県の罹患率
がそれぞれ170.0および106.0と最も高く、西へ行くに従って罹患率は低下する傾向を示した。また、急性心筋梗塞の罹患率については男性では脳卒中とほぼ同じ地理的な傾向を示したが、女性では東方で低く西方で高いという分布が見られた。また、コホート研究から、循環器疾患の最大の危険因子である血圧は急激に低下しており、しかも脳梗塞の場合、危険因子としての寄与の強さが近年減弱する傾向にあるとの指摘があった。しかしながら、一方では血清総コレステロール血症有病率や肥満者率、糖尿病有病率は上昇傾向にあり、欧米型の発症機序による循環器疾患の発症が増加することが懸念された。次年度では、1990年代における循環器疾患の罹患率の変動と、生命予後の推移について検討する。また、循環器疾患発症登録研究の評価に必要な悉皆性の評価指標の妥当性を検討した後、本研究における各登録実施地域それぞれの悉皆性を評価しわが国の循環器疾患の罹患率の代表値を求める予定である。

公開日・更新日

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