国立病院・療養所におけるコンピュータネットワークを用いた心筋梗塞の一次・二次予防とコストベネフィットに関する多施設前向き研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000918A
報告書区分
総括
研究課題名
国立病院・療養所におけるコンピュータネットワークを用いた心筋梗塞の一次・二次予防とコストベネフィットに関する多施設前向き研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
井上 通敏(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹中孝(国立札幌病院)
  • 安在貞祐(国立函館病院)
  • 井上寛一(国立仙台病院)
  • 田口修一(国立水戸病院)
  • 林克己(国立霞ヶ浦病院)
  • 鈴木雅裕(国立埼玉病院)
  • 大原信(国立大蔵病院)
  • 茅野眞男(国立病院東京医療センター)
  • 西山敬二(国立病院東京災害医療センター)
  • 田中直秀(国立横浜病院)
  • 渡辺俊也(国立名古屋病院)
  • 中野為夫(国立京都病院)
  • 楠岡英雄(国立大阪病院)
  • 是恒之宏(国立大阪病院)
  • 今井克次(国立大阪南病院)
  • 河田正仁(国立神戸病院)
  • 三河内弘(国立岡山病院)
  • 川本俊治(国立呉病院)
  • 白木照夫(国立岩国病院)
  • 篠原尚典(国立善通寺病院)
  • 小柳左門(国立病院九州医療センター)
  • 於久幸治(国立長崎中央病院)
  • 中島均(国立病院九州循環器病センター)
  • 中村一彦(国立病院九州循環器病センター)
  • 悦喜豊(国立療養所晴嵐荘病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、急性心筋梗塞患者を対象として、1)全国国立病院からの患者情報を中央管理センターにおいて迅速かつ連続的に患者登録ができるシステムを構築し、心筋梗塞症における本邦独自の疫学調査を行うこと、2)登録患者を追跡し、危険因子、予防因子と二次予防効果の関連を検討すること、3)重症度、急性期インターベンション、内科的治療のcost/benefit を検討することである。EBMにもとづく治療が叫ばれる昨今であるが、急性心筋梗塞に限らず多くの治療は欧米での大規模試験のデータにもとづいてなされているのが現状である。遺伝的素因、社会的背景の異なる諸外国でのデータを日本人にあてはめることは理論的根拠がないにもかかわらず、敢えて甘んじてきたのは本邦独自の国際的にも通用するような大規模試験が極めて少ないからである。本研究では、急性心筋梗塞患者を対象に多施設の患者情報を登録する。国立病院はセキュリティーレベルの高いHOSPnetで接続されているので、これを活用し患者要約フォームを統一化してデータ収集にあたる。このシステム構築により、従来断片的にしか検討されていない本邦における冠事故の発症危険因子などを多数例で系統的に検討でき、より普遍的な結果を得ることが可能となる。また、DRG/PPSの導入検討に際しても、質の高い治療を維持しつつ医療効率を高める意味において、全国国立病院におけるかかる大規模調査は極めて重要と考えられる。
研究方法
平成11年度と同様に、国立大阪病院に設置した中央管理センターと参加施設をHOSPnetを活用することによりデータの交信を行った。現在まで1000例を超える症例が登録されており、登録状況は順調である。登録に際しては、専用のフォームを用いて症例サマリーを作成し、患者背景・発症から入院までの時間、前駆症状の有無、心電図所見、血清酵素、身体所見、急性期冠動脈造影、インターベンションの有無、冠動脈病変数、重症度、治療と病状経過、転帰などの詳細な患者情報をExcel形式にて入力し各施設に配備されたHOSPnetを用いて国立大阪病院に送信した。これらのデータは中央管理センターに電送され、蓄積管理および解析を行った。また、退院後各施設の医事課に御協力頂き、会計カードの送付をお願いし、中央にて入院費用のデータ入力を行った。さらに退院後6,12ヶ月に生死、再入院の有無とその理由につき調査し、同様にHOSPnetを用いてデータ交信を施行した。
結果と考察
平成13年3月までに、19施設より1164名の急性心筋梗塞患者データを集積することが可能であった。平均年令は66+12歳、男女比は74.5:25.5であった。このうち来院時死亡を含め122名が入院中死亡であった。軽快退院症例のうち6ヶ月フォローまでデータ入力が可能であった620例につき解析を行った。うち死亡例は10例で、6ヶ月予後は98.4%
と良好であった。死亡例の原因は、3例が再梗塞、2例が心不全、1例が心不全に伴う心室細動と心臓死が2/3を占めた。病院別に解析するとその在院日数には16.1日から35日とバラツキが大きいことが明かとなった。そこで、在院日数が平均26日以上の病院群と26日未満の病院群に2分し、その差異を検討した。両病院群で心筋梗塞の平均peak CPKは26日未満群vs26日以上群で2447 vs 2546と差はなく、退院前の確認CAG施行率は57% vs 78%と26日以上群で高かった。病院群別に退院後の6ヶ月死亡率、再入院率、平均再入院回数、心不全、急性冠症候群の発症率に有意な差は認められなかった。さらに全症例のうちpeak CPKが1500以下の症例について在院日数を検討したところ、22.9日と短い傾向を認めたが、全症例での平均在院日数25.9日とわずか3日の差であった。以上の結果より、合併症のない軽症の初回心筋梗塞症例を早期に退院させるクリティカルパスを使用することにより、軽症症例をより早く退院させる介入試験を来年度計画している。国立大阪病院に設置した中央管理センターと参加施設を、HOSPnetを活用することにより急性心筋梗塞症例の登録および症例管理に関するデータの交信を目指した。平成11年11月の時点ではHOSPnet使用が8施設、e-mail添付が3施設、フロッピーの送付が3施設、郵送あるいはFAXが3施設であった。全国会議開催時、HOSPnetによるデータ送信がデータセキュリティー保持の面で如何に重要かを再確認し、その後さらにHOSPnetによる登録を各施設に要請した。登録に際しては、専用のフォームを用いて症例サマリーを作成し、患者背景・発症から入院までの時間、前駆症状の有無、心電図所見、血清酵素、身体所見、急性期冠動脈造影、インターベンションの有無、冠動脈病変数、重症度、治療と病状経過、転帰などの詳細な患者情報を各施設において可能な限り入力した。これらのデータは中央管理センターに電送され、蓄積管理および解析を行った。また、現在退院後6、12ヶ月の予後調査について随時施行中である。2000年2月中旬までに、19施設より658例の急性心筋梗塞患者データを集積する事が可能であった。平均年齢は67歳、男女比は76:24で急性期冠動脈造影は81%、24時間以内の症例に限定すると発症から造影までの平均時間は5.7時間であった。また75%の症例は急性期にPTCAが施行されていた。平均在院日数は28.7日、院内死亡例及び60日以上の入院患者を省いて解析すると26.3日であった。在院日数は、重症度とは相関がなく、むしろ退院前に冠動脈造影をするかしないかという施設の方針に依存した。一方、在院日数が施設の年間症例数と関係があるかないかを、50症例以上と未満の施設に分けて検討した。その結果、50症例以上の施設では25.6日、50症例未満の施設では27.2日と症例の多い施設で在院日数が短い傾向を認めた。また、梗塞の既往の有無により死亡率は10.3%vs21.2%と明らかに差を認めたが、生存例に限って検討するとその在院日数には差がなかった。また、梗塞部位、性別、peak CPKと在院日数にも有意な相関は認めなかった。今年度は319例において入院中のコスト解析が可能であったが、入院費用は在院日数と異なり重症度と有意な相関が認められた。また、急性期及び慢性期のカテーテルインターベンションによりコストは有意に高くなった。今後、これらの治療とコストが退院後の予後や再入院率などと如何に関連があるか検討が可能になると考えられる。
結論
1) HOSPnetの活用:この2年間を通じて、国立病院循環器内科医の間にその利点と活用方法が浸透してきたと考えられる。この研究以前には、ほとんどなじみのなかったこのイントラネットを今後他の共同研究を考える上でも重要なツールとして知らしめた功績は大きい。2) 今年度は症例登録が1000例を超え、急性心筋梗塞のデータベースとして貴重な資料を提供するものとなった。6ヶ月フォローのデータから、必ずしも長期の入院が予後や再入院率とは関係しないことも明らかにされた。3) 試行DRG/PPSとの格差が明かとなり、今後急性心筋梗塞のDRGを抜本的に見直す必要があるのではないかと考えられた。4) 来年
度は、軽症初回心筋梗塞症例につき在院日数の短縮をめざして共同研究を継続していく予定である。

公開日・更新日

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