身体的及び財政的負担の少ない在宅血液透析技術の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000914A
報告書区分
総括
研究課題名
身体的及び財政的負担の少ない在宅血液透析技術の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 明(東海大学医学部腎不全病態科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 新里 徹(名古屋大学大幸医療センター)
  • 秋沢忠男(和歌山県立医科大学血液浄化センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
22,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の在宅血液透析は、平成10年4月に保険適用されたが、現在十分に普及したとは言いがたい。現在、病院で全ての治療を医療従事者から受けている透析患者とその家族が、負担の多い在宅血液透析を選択するには、幾つかの点での改良がなされることが前提となる。すなわち、1)先ず、安全な治療法であること、2)患者と家族の負担の少ない簡便性があること、3)通院透析に比し、優るとも劣らない効率性や良好な体調を維持できることなどの点を在宅血液透析システムが満たしていることである。平成12年度の本研究班の取り組みは、平成10年度、11年度の取り組みを基礎として、より現実的な、臨床に即した成果にできることを目指した。したがって、平成10年度、11年度に開発された技術の中で、その年度内での臨床的評価が不十分であり、長期臨床実践例を増やすことにより安全性、有効性、簡便性などの確認をした部分と、新たに技術開発を前進させた領域とに分けて行った。
研究方法
平成10、11年度に開発された技術の長期的臨床実践による安全性、有効性、簡便性の確認を行うために、1)連日短時間血液透析の長期臨床評価、2)患者に負担が少なく分かりやすい在宅血液透析トレーニング法、3)ブラッドアクセスのbuttonhole穿刺のための固定ルート短時間作成法などの対象患者数を増やし、臨床評価をより客観性の高いものにした。
新たに技術的に前進させた領域として、1)循環血液量連動自動除水速度制御装置において、高ナトリウム透析液を用いることによる高度な循環血液量調節システム装備に改良する、2)双方向通信が可能な遠隔監視システムによる管理センターと遠隔地にある治療現場における循環血液量自動制御可能な透析の透析諸データと患者の状態把握を実践し、臨床的に可能にする、3)ニプロ製個人用透析装置(NCU-11)をビスカスポンプ透析装置に改良することにより、ワンタッチ補液・ワンタッチ血液透析終了システムを開発するなどを行った。
結果と考察
連日短時間血液透析では、前年度の3ヶ月の短期臨床評価から、4症例に対しやや早期の集計段階で最低6ヶ月の長期評価を行った。その結果、降圧剤の減量にもかかわらず血圧は低下し、心胸比も減少を示した。基礎体重は上昇し、栄養状態の改善がうかがわれた。酸塩基平衡、電解質は週3回透析時に比してより生理的範囲に維持され、連日短時間血液透析に起因する有害事象は認められず、長期的にも安全で効果的な透析法と考えられた。
患者に負担が少なく分かりやすい在宅血液透析トレーニング法については、12年度に新たに訓練した人を加え透析患者と介助者合計10名にトレーニングを実施し、訓練内容の簡易化、訓練順序の変更などを行い、より負担を減らし分かり易く改善した。ブラッドアクセス用シャント血管にポリカーボネート製スティックを48時間留置することによるbuttonhole穿刺については、平成11年度には11例で比較的短期の評価を行ったが、平成12年度には13例を加え、計24例で年余の長期評価も行い、長期化すれば穿刺もより確実で安心して行えることを明らかにした。
新たな開発の前進に関して、1)平成10,11年度に開発した循環血液量連動自動除水速度制御装置で透析中の血圧低下と透析時間延長が随分改善されたが、今回、さらに高ナトリウム透析液を用いることにより、plasma refilling rateの上昇により、循環血液量を増加させることが出来た。透析開始から早い時間に目的除水を達成し、安全で予定時間内の透析が以前に増して達成された。このシステムを具備した装置は、より完全な`自動血圧低下防止システム'付き血液透析装置となった。
2)ISDNによる経分的な透析諸条件データ通信と双方向の画像・音声を受信する遠隔監視システムを用いて、東海大学腎センターにおいて遠隔地の循環血液量連動自動除水速度制御装置を具備した血液透析機で血液透析を行っている患者とその透析状況を把握することに成功した。この成果から、在宅透析管理センターから複数の在宅血液透析患者の確実な状態把握が可能となったと言える。
3)超高純度透析液を補液または回収液として用い、個人用血液透析コンソールに内臓させたビスカスポンプによる血液回路内血液を双方向移動させることによるワンタッチ補液、ワンタッチ血液透析終了システムを開発し、3名の患者で延べ39回の透析に使用し、ワンタッチ透析終了は全回全ての行程が問題なく円滑に行なわれることが確認された。また、8回の緊急時補液もワンタッチで円滑に遂行できた。本システムにより安全・簡便な在宅血液透析が実現できる。
連日短時間血液透析では短期的有効性のみならず、長期的有効性も立証され、本治療法に起因すると思われる副作用もなく、今後の在宅血液透析治療における応用が期待される。患者の負担の少なく、分かり易い在宅血液透析トレーニング法についても、トレーニングを受けた全症例で週休を利用する負担の少ない在宅透析教育・訓練を可能にさせた。今後、地域毎にそのトレーニング法を実践できる施設を作ることにより在宅血液透析普及の一役を担うであろう。また、自己穿刺を容易・確実にするbuttonhole穿刺法は長期例を増やすことにより、長期になればなるほど穿刺が容易で確実になることが判明した。
さらに、平成10、11年度に血液量持続モニタリングと透析除水量設定を連動させた自動除水速度制御装置を開発し、臨床評価し、透析中血圧低下件数の有意な低下と透析時間延長件数の低下傾向が認められたが、今回さらに高ナトリウム透析液を用いることにより、透析中血圧低下件数の一層の低下と透析時間延長件数の有意の低下を示した。以前のシステムに今回導入したシステムを統一させることにより、より完成度の高い自動除水制御装置が作成できた。
ISDNを利用した双方向通信により、在宅透析管理センターと在宅血液透析現場の詳細な患者情報、透析状況の把握や患者との直接会話などが可能となっている。このような技術を在宅血液透析に何処まで応用すべきかについては検討を要するが、在宅患者の正確な状況と医療の実際の把握には有力な手段である。
今回開発されたワンタッチ補液、ワンタッチ血液透析終了は、高純度透析液の使用が本システムの前提となる。在宅治療で高純度透析液の確保が可能な装備をすれば、その安全性や簡便性に極めて有効である。さらに全自動血液透析装置の開発がその簡便性・安全性にとり必要になるであろう。
以上、12年度の研究成果により、在宅血液透析が技術的により実践的であり、より高い到達点に至ったと言える。
結論
連日短時間血液透析が、短期的のみならず長期的にも有効で安全であることが確認され、自己穿刺におけるbuttonhole穿刺法は長期になればなるほど穿刺が容易で確実になった。週休を利用した在宅血液透析患者トレーニング法により全ての患者に負担少なく、分かり易い教育・訓練が可能であった。自動除水速度制御装置は、高ナトリウム透析液を使用することにより、一層完成度の高い装置になり、ISDNを利用した在宅管理センターと在宅血液透析患者宅との双方向情報・通信により詳細な患者情報、透析状況の把握が可能となった。また、ワンタッチ補液、ワンタッチ血液透析終了の実現により、在宅血液透析がより安全でより簡便になったと言える。

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