ハイリスク者を対象とした生活習慣介入によるインスリン非依存型糖尿病の予防に関する研究

文献情報

文献番号
200000911A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイリスク者を対象とした生活習慣介入によるインスリン非依存型糖尿病の予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 英嗣(国立京都病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤茂秋(神戸大学医学部衛生学)
  • 鎌江伊三夫(神戸大学都市安全研究センター)
  • 佐藤祐造(名古屋大学総合保健体育科学センター)
  • 佐藤寿一(名古屋大学医学部付属病院総合診療部)
  • 富永真琴(山形大学医学部臨床検査医学)
  • 鈴木研一(東北厚生年金病院)
  • 河津捷二(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 辻井悟(天理よろづ相談所病院)
  • 吉田俊秀(京都府立医科大学第1内科)
  • 吉永英世(虎の門病院健康医学センター)
  • 清野裕(京都大学医学部病態代謝栄養学)
  • 南條輝志男(和歌山県立医科大学第1内科)
  • 清原裕(九州大学医学部第2内科)
  • 細迫有昌((財)九州健康総合センター)
  • 津下一代(愛知県総合保健センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
NIDDMの発症予防のための有効な生活習慣は何か、それを達成するための有効な指導方法は何かを明かにし、さらには地域・職域で住民・職員の健康管理に携わっている保健従事者を中心に置いた糖尿病予防のための体制づくりを目的として本研究を企画した。本年度は介入開始より1年を経過した177名のIGT対象者データを管理センターで中間的に解析した結果を報告する。
研究方法
「協力施設」全国の保健所、市町村保健センター、事業所、人間ドックを有する医療機関から協力施設を募集する。「対象者」検診で見い出されたIGTで30歳以上60歳未満の者を対象とする。対象者は原則として個人ごとの無作為割り付けによって介入群,対照群の2群に分ける。「研修会」介入方法の標準化、介入担当の保健従事者のトレーニングのため、全国レベルで研修会やワークショップを開く。「介入プロトコール」・適正な体重(BMI 22)の達成(過体重・肥満者にあっては7%以上の減量)、・運動習慣の獲得、および・それらを継続させること、を目標とする。 介入群に対しては、協力施設の保健従事者が研究班で作成したマニュアルと教材を用いて集団指導を行い、その後個別にカウンセリングを定期的に行う。最初の6ヵ月間は強力介入期として、この間に集約的に目標を達成させ、後の期間は維持期と位置づける(強力介入群とする)。一方、対照群には糖尿病についての知識及び運動や食事について留意すべき事を集団指導する(普通介入群とする)。観察期間は6年とし、エンドポイントは糖尿病の発症(GTTで確認)とする。検査はデータ精度管理が水準以上である同一検査機関での集中測定とする。「研究組織」精度の高いデータを確保するために、対象者の登録、強力介入群・普通介入群への割り付け、検査・調査記録表の記載点検等のデータ管理および分析は管理センターで行う。
結果と考察
結果=1) 介入1年後の変化
まずデータの正規性を検討(Shapiro-Wilk検定,有意水準0.1)した上で,paired-t 検定もしくはWilcoxon 符号付き順位検定を行い,介入群別に介入開始時と介入1年後における差を検討した。2001年2月6日の時点でデータの得られた普通介入群80名、強力介入群68名について解析を行った。以下に示す結果は介入前後の平均値とp値である。
普通介入群(男性42名,女性38名)では,体重(-0.8kg、1.3%の減少; p=0.015),BMI(-0.3; p=0.016),ウエスト周囲径(-1.1cm; p=0.0431)とも軽度ながら有意の減少を認めた。一方、強力介入群(男性34名,女性34名)でも,体重(-1.7kg、2.6%の減少、p=0.000)、BMI(-0.7; p=<0.0001),ウエスト周囲径(-1.6cm、p=0.0044)とも減少した。減少の程度は強力介入群で大であった。
総摂取カロリーは普通介入群で-134 kcal/日(p=0.04)、強力介入群で-185kcal/日(p=0.006)でともに、介入開始時に比し有意の減少であった。総摂取カロリーに対する脂肪の割合(%fat)は、普通介入群では変化がなく、強力介入群では0.9%の減少を認めたが有意ではなかった。一方、強力介入群では活動指数(+0.08, p=0.005)、総消費カロリー (+99Kcal/日、p=0.022)とも増加した。普通介入群では変化がなかった。
検査値では、普通介入群で、ブドウ糖負荷後120分の血漿ブドウ糖濃度(PG120)(163mg/dl vs 150mg/dl; p=0.001),早朝空腹時インスリン濃度 (8.0μU/ml vs 7.1μU/ml; p=0.002),ブドウ糖負荷120分におけるインスリン濃度 (59.0μ U/ml vs 49.9μU/ml; p=0.007)とも低下した。インスリン抵抗指数HOMA-IR値(2.2 vs 1.9;p=0.006)も有意に減少した。
強力介入群では、ブドウ糖負荷30分ブドウ糖濃度(180mg/dl vs 169mg/dl; p=0.0236),120分ブドウ糖濃度(164mg/dl vs 145mg/dl; p=0.000),早朝空腹時インスリン濃度(7.9μU/ml vs 6.4μU/ml; p=0.000),30分インスリン濃度(44.4μU/ml vs 34.1μU/ml; p=0.002)、120分インスリン濃度(58.9μU/ml vs 50.8μU/ml; p=0.01)は有意に減少した。HOMA-IR値(2.1 vs 1.7;p=0.001)も減少した。
2) 主評価項目(1年経過時点における糖尿病発症率)についての検討
177名について、Intention To Treatにより解析をおこなった。 介入開始時の割付に従うと,1年経過時点で普通介入群では90名中13名(14.4%)が糖尿病型に移行し,強力介入群では87名中4名(4.6%)が糖尿病型に移行した。カテゴリカル分析ではFisher検定(右側):p=0.0230,(両側):p=0.0391であり,両群に有意差を認めた。相対危険度(RR)は0.32,及びその95%信頼区間(0.11-0.94)であり,2群の統計学的な差を認めた。
考察=今回は介入1年目における中間報告である。強力介入群では総摂取カロリーの減少と運動量の増加を認めた。体重の減少はいずれの群でも見られたが、その程度はわずかで、普通介入群では1.3%、強力介入群でも2.6%にとどまった。ブドウ糖負荷試験で糖尿病型への移行は、有為に強力介入群ですくなかった。このように、比較的わずかの体重減少であっても有効であることを示唆する成績であるが、まだ、1年目の中間報告であり、今後さらに長期に渡って追跡していく必要がある。また一次予防には、運動がよいのか、体重減少がより重要であるのかも、今後の追跡から明らかにしたい。今回の解析では一回のみのブドウ糖負荷試験に基づいて、糖尿病型への移行を比較した。従って真の糖尿病発症率の比較ではない。本研究では同意が得られれば、糖尿病型へ移行した対象者についても引き続き追跡していくので、この点についてはある程度問題はクリアーできると思われる。
結論
介入開始1年目の中間成績をまとめた。

公開日・更新日

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