厚生省多目的コホート班との共同による糖尿病実態及び発症要因の研究

文献情報

文献番号
200000910A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生省多目的コホート班との共同による糖尿病実態及び発症要因の研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 野田光彦(東京大学医学部糖尿病・代謝内科)
  • 佐々木敏(国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部)
  • 大橋靖雄(東京大学医学系研究科健康科学・看護学専攻)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は虚血性心疾患や脳卒中(大血管合併症)の危険性を増大し、腎症・網膜症・神経障害(細小血管症)によるQOLの低下は患者の生活に影響を与えるのみならず、国民全体としての健康レベル、医療経済への影響も大きく、生活習慣病の首座に位置する疾患である。本研究では第一に、糖尿病の実態、とくに発症率、有病率を、コホート調査に基づいて生活習慣等との関係から分析し、第二に、我が国において大血管合併症についての大規模前向き調査が乏しい現状に鑑み、既存の大規模コホート(厚生省多目的コホート)での調査に糖尿病実態調査を加えることにより、効率的に虚血性心疾患、脳卒中や癌に対する発症因子としての糖尿病の関与を知ることも目的とする。以上より、エンドポイントと曝露要因としての両面から、我が国における糖尿病の現状について明らかにする。
研究方法
従来厚生省がん研究助成金「多目的コホートによるがん・循環器疾患の疫学研究」班(班長 津金昌一郎、以下「厚生省多目的コホート研究」班と略す)が多年に亙り調査を行っている地域に、糖尿病の患者実態調査を加えることにより解析を行う。
対象:同コホートの対象者のうちの健診受診者。
調査方法:◆糖尿病の把握:老人保健法検診に含まれている血糖値(随時(空腹時を含む))に加え、質問紙法(糖尿病質問票)及びHbA1c測定により、糖尿病を有する者を把握する。◆生活習慣等の把握:従来「厚生省多目的コホート研究」班が用いている質問紙に加え、糖尿病の病歴や家族歴、肥満歴や運動状況に関する質問を加える。
解析方法:以上から把握したHbA1cおよびこれにより定義された糖尿病をエンドポイントおよび曝露要因として、「厚生省多目的コホート研究」班のデータも用いて解析する。研究は同班と本研究班との共同研究として行う。
本研究は2つのスキームに分けられる。
◆スキーム1(5コホート):1998、1999年度に、質問紙(糖尿病質問票)及びHbA1cの測定により糖尿病有病率を把握する。5年後(平成2003、2004年度)にも再度同様の調査を行い、これにより糖尿病発症率を把握する。これらを用い、コホート研究、断面研究により生活習慣等との関係も分析する。
◆スキーム2:スキーム1対象地域を含む全コホート(疾患登録と健診のシステムが変則的である吹田を除く)において糖尿病実態調査を行う。スキーム1の対象以外の地域(対象約18,600人(葛飾1,500人を含め))では、2000年度に(葛飾では2000-04年度の50歳健診時に)スキーム1対象地域と同様の調査(質問紙、HbA1cの測定)を行う。これにより約39,700人となる総対象数に対し、HbA1cおよびこれで定義された糖尿病を曝露要因として、虚血性心疾患、脳卒中、癌等の危険因子か否について、「厚生省多目的コホート研究」班の疾患登録システムから得られた罹患データを用いて、前向きコホート研究にて検討する。
■HbA1cの標準化:糖尿病の判定にとって重要であるHbA1cの標準化(較正)は、日本糖尿病学会の標準検体JDS-001を各地域の検査機関にて被験者検体と各測定回ごとに同時測定することを依頼し、行う。
(1)前向きコホート研究◆発症率(スキーム1):1998、1999年度と最終調査時(それらの5年後)における糖尿病の有無から、糖尿病発症率を知る。◆糖尿病の有無、曝露要因としてのHbA1c値の、その後の合併症、とくに、虚血性心疾患や脳卒中、さらには癌等の発症への関与(スキーム2)。◆1998、1999年度調査の生活習慣、家族歴、肥満度、健診データ、HbA1c値等と、最終調査年の新たな糖尿病発症との関係(スキーム1)。
(2)断面研究◆調査時の糖尿病の(地域別)有病率(スキーム1、2)。◆調査時の生活習慣、家族歴、肥満歴等と糖尿病との関係(スキーム1)。◆有病者の通院実態(スキーム1)。
(3)後向きコホート研究(スキーム1、2)◆「厚生省多目的コホート研究」班によるベースライン調査時の生活習慣、家族歴、肥満歴、健診データ等と、今回調査時の有糖尿病との関係。
(4)以上の地域差についても分析する。
結果と考察
結果=■本年度は、研究計画のスキーム2の調査として計画した2000年度調査予定地域(沖縄県石川、東京都葛飾、長野県佐久、秋田県横手、岩手県二戸の各保健所管内の対象地域)において、糖尿病実態調査を予定通り終了、糖尿病質問票を回収してデータ入力し、データの受け渡された地域についての血糖値、HbA1cの解析に着手、2001年3月まで健診を行っていた佐久地域を除き、有病率等の結果を得た。
■1998-99(平成10-11)年度に調査を行った地域について、以下のようにより詳細な検討を行った。糖尿病の判定については、医師または検査により糖尿病と診断された、あるいは日本糖尿病学会の新診断基準に準拠し、HbA1c6.1%以上、空腹時血糖126mg/dl以上、随時血糖200mg/dl以上、のいずれかを満たすものを糖尿病と判定した。
(A)平成10-12年度に調査を行ったコホート地域のデータから、
◎健診受診者における糖尿病の有病率は55歳以上の男性で約14%、女性で約8%で、男性は女性の2倍弱であった。
◎男性では有病率のピーク年齢が女性より低いことが推定された。
(B)平成10-11年度に調査を行ったコホート地域のデータから、
◎男性の33%、女性の32%が今回の調査により新たに見い出された糖尿病であった。この未診断率は1997年度の国民栄養調査と併せてはじめて行われた糖尿病実態調査の結果よりやや低かったが、ほぼ同程度の範囲内と考える。
◎糖尿病の診断を受けている者の37%が無治療か治療を中断していた。現在治療中の者の健診受診率が低下するであろうというバイアスを考慮する必要はあるが、治療継続者の割合は6割程度と低かった。
◎現在治療中の者の治療法では経口薬単独が最も多かった。
◎歩行時間、労働の強さは糖尿病の有病と負に相関した。
(C)同様に、平成10年度に調査を行った沖縄県宮古地域のデータから、
◎HbA1cの測定により、血糖値単独による判定に比し有病率が大きく上昇することが判明し、特に随時採血の場合にその傾向が顕著であった。住民検診におけるスクリーニングとして、HbA1cの測定が有意義であることが示唆された。
◎多重ロジスティック回帰モデルを宮古地域に適用した解析で、血糖+HbA1cの組み合わせにより定義された糖尿病は、肥満や高血圧・加齢という従来知られている糖尿病の危険因子と有意に相関を示した。
考察=(1)糖尿病の有病率は著明な地域差は見られず、中高年で10%を超えていると予想される。男性ではいずれの年齢層でも女性より有病率は高かった。
(2)新規に発見される未診断の糖尿病が多く、糖尿病と診断されている者のうちの治療継続者の割合は6割程度と低かった。
(3)住民検診におけるスクリーニングとして、HbA1cの測定が有意義であることが示唆された。
結論
本年度までで、研究計画のスキーム1、2の1-3年度の計画を予定どおり終了した。データは前向きコホート研究による発症率調査、また合併症調査に関し、糖尿病の曝露要因としての役割の検討の際、基礎データとして活用される。今後、生活習慣や有病率について、断面研究・後ろ向きコホート研究によっても、さらに詳細な検討を行う。
これらの集積データや研究結果は、雑誌論文等の出版物として一般に閲覧可能な形で提供し、生活習慣の改善による糖尿病の一次、二次予防に広く活用したい。

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