生活習慣病予防のための栄養素、非栄養性成分等の最適摂取量に関する多施設共同研究

文献情報

文献番号
200000904A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防のための栄養素、非栄養性成分等の最適摂取量に関する多施設共同研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 平三(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐脩(お茶の水女子大学生活環境研究センター)
  • 磯博康(筑波大学)
  • 久代登志男(日本大学)
  • 古野純典(九州大学)
  • 武林亨(慶應義塾大学)
  • 松村康弘(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病を予防するための、栄養素や非栄養素、あるいは食品の適正な摂取量を探るため、これまでになされた研究の中から人に関するevidenceを探しだして整理をすることが重要であることから、その点に関する系統的レビューを行った。
研究方法
生活習慣病の内、高血圧、虚血性心疾患、高脂血症、脳血管疾患(脳卒中)、肥満、糖尿病、がん(胃、大腸、肺、乳房)を取り上げ、それぞれの疾患の発症要因に関する研究の系統的レビューをそれぞれの疫学研究の専門的立場から行った。本年度は①脳血管疾患、②糖尿病、③大腸がんに関するレビューを中心に行った。すなわち、1990年以降のレビュー論文、メタ・アナリシス論文、そして専門書を検索、リストアップし、それらのリストからできるだけ最新のもの、引用文献数の多いもの、学術的(質的)価値の高いと思われるもの数編を選択し、これを骨子とした。骨子とした論文が刊行された後に、公表されている原著論文(骨子とするレビュー論文等に引用されなかった論文)を検索し、これらを"文献分類法"に基づいて"コード化"した。また、④米国の食事摂取基準(DRI)の内、抗酸化ビタミンならびに関連物質の評価に関する情報の整理も行った。
結果と考察
①食事からの脂肪、脂肪酸、コレステロール、タンパク質、カルシウム、マグネシウム、硬化性物質(ビタミンC、E、カロテイン、フラボノイド)の栄養素や魚、野菜、果物の食品の摂取と凝固線溶系因子並びに脳卒中発症との関連について、国内外の文献を系統的にレビューした。脳卒中の発症を抑制する栄養素として、飽和脂肪(脳出血、脳梗塞)、動物性タンパク質(脳出血)、n3系多価不飽和脂肪酸及び魚(脳梗塞)、カルシウム、カリウム(脳梗塞)、ビタミン C(脳卒中)、野菜、果物(脳出血、脳梗塞)、雑穀(脳梗塞)が挙げられた。脳出血の予防のための飽和脂肪酸の適正摂取量(Adequate Intake: AI)は15g/day前後であり、許容上限摂取量(tolerable upper limit: UL)は35g/day前後であることが示唆された。また、脳梗塞の発症・死亡に対しては、n3系不飽和脂肪酸、魚の摂取のAI(週に1~2回)が存在し、カルシウム摂取量は600mg/day以上が望ましいことが示唆された。脳卒中発症抑制のメカニズムとして脂質脂肪酸、魚、野菜類の摂取が凝固線溶系因子(フィブリノーゲン、第7因子等)、線溶系活性、血小板凝集能に影響を与えることが示された。②実験的には、血糖コントロールに水溶性の食物繊維が有効であるという結果が多く報告されている一方、長期間の追跡疫学研究では、水溶性繊維のみならず、不溶性の食物繊維摂取でも糖尿病発症のリスクが減少することも示されている。疫学研究の結果は、総炭水化物摂取と糖尿病発症との間には関連がない一方で、glycemic indexと糖尿病発症との間には関連が示されており、食物繊維摂取の重要性と同時に、摂取する炭水化物の質についても注意する必要性が示唆されているが、今後もさらなる検討が必要である。マグネシウム摂取が増えると糖尿病発症のリスクが減少していたが、この関連は、穀類摂取を調整しても有意なリスクの減少を示していることから、マグネシウム摂取が独立にインスリン耐性と関連している可能性も示唆されている。③脂肪摂取が大腸がんのリスクを高めているか否かを検討するため、これまでに報告されている患者対照研究の論文30編とコホート研究の論文10編を詳細に検討した。欧米の患者対照研究及びコホート研究では、脂肪あるいは飽和脂肪酸が大
腸がんリスクの高まりと関連している証拠はほとんど得られていない。一般的に脂肪の過剰摂取が大腸がんの危険因子といわれているが、疫学的証拠はほとんどないといってよい。しかし、これらの結果を直接わが国に適用するには慎重でなければならない。一部の研究で魚類あるいは魚油が大腸がんに予防的であるとする結果が得られているが、証拠は不十分である。④日本における第6次改定では設定されなかったビタミンCの許容上限摂取量が設定され、この設定の根拠としてのエンドポイントに水様性下痢症が選ばれていた点では今度の参考になる情報であると考えられる。また、ビタミンEに関しても、エンドポイントに出血を選んでいた点より、今後ビタミンKと大きく関わることが示唆された。
結論
生活習慣病の各疾患の発症あるいは発症予防とエネルギー、各種栄養素、非栄養素、食品の摂取量との関連を中心に整理した。特に脳出血、脳梗塞に関しては、量・反応関係が確立されている栄養素があり、これらの予防のための飽和脂肪酸、n3系不飽和脂肪酸、カルシウムのAIの存在が示唆された。また、大腸がんに関する検討では、一般的に脂肪の過剰摂取が大腸がんの危険因子といわれていたが、これらに関する疫学的証拠はほとんどないことが明らかとなった。今後、これらの検討結果をふまえて、生活習慣病を予防するための、栄養素、非栄養素、食品の適正な摂取量に関する大規模コホート研究の企画・実施が望まれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)