公衆衛生専門家の養成・確保および資質向上に関する研究

文献情報

文献番号
200000899A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生専門家の養成・確保および資質向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 平三(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 二塚 信(熊本大学医学部)
  • 川口 毅(昭和大学医学部)
  • 上畑鉄之丞(国立公衆衛生院)
  • 三角順一(大分医科大学)
  • 鈴木庄亮(群馬大学医学部)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 岸 玲子(北海道大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公衆衛生従事者を数多く養成し、かつ質的に優れた人材を確保するための具体策を提示することを目的とする。衛生学・公衆衛生学の卒後教育に関する研究:公衆衛生大学院の在り方を検討する。公衆衛生志向臨床医の養成に関する研究:卒後臨床研修施設における公衆衛生研修カリキュラムの在り方を検討する。公衆衛生専門家に対する生涯教育に関する研究:国立公衆衛生院と衛生学公衆衛生学教育協議会との連携、保健婦・公衆栄養栄養士養成の在り方を検討する。衛生学公衆衛生学の卒前教育に関する研究:医学部の学部教育における社会医学コア・カリキュラムを提示する。疫学的研究と倫理に関する研究:個人情報保護に関連する法整備に関する要望書を作成する。社会医学サマーセミナーに関する研究:社会医学志向型臨床医、衛生学公衆衛生学専攻医師への動機づけをセミナーを通じて試みる。
研究方法
内外の文献、過去の経験をふまえ、ワークショップにより討論を重ねて、所期の目的を達成する。
結果と考察
研究結果=1.大学院改革に伴う公衆衛生分野の大学院の設置について
基本理念:わが国は健康で幸福な高齢社会の実現のため、先端医学をとり入れた高度でかつ広範囲な公衆衛生の普及が必要となっている。そのためレベルの高い専門的知識と技能を有する公衆衛生の専門家を養成するための、公衆衛生大学院を設置することが必要である。組織:医科大学(医学部)大学院医学(系)研究科の場合には、独立専攻系とし、博士課程(4年制)を設置し、さらに修士課程(2年制)を併置するのが望ましい。大学の独立研究科の場合には、前期課程(修士2年制)と後期課程(博士3年制)とを設置する。いずれにせよ、修士課程を最重視すべきである。特に高度専門職業人の養成を主目的とする。諸学部での教育で培われた学力の上に、さらに専門的素養のある人材として活躍できるように公衆衛生分野の基礎的知識と技術を身につける。対象者:医学(系)研究科独立専攻系の場合、修士課程修了者及び6年制学部卒業者が入学し、公衆衛生分野にとどまらず、広く医学に関連した分野に特化して高度な研究および実践活動を行うことによって、公衆衛生学研究者を養成する。前期課程(修士課程)においては、看護学、栄養学、工学、農学、理学、人文科学、社会科学、福祉学などの大学4年制課程卒業者が入学する。公衆衛生の専門家となるための基礎的知識、技術を修得するとともに、初歩的研究と実践活動を経験する。後期課程(博士課程)は、原則として前期課程修了者が入学する。公衆衛生分野に特化した高度な研究能力のある人材を養成する。カリキュラム:前期課程では、本協議会作成「衛生学・公衆衛生学コアカリ」、医師国家試験ガイドライン「医学総論」をコアとする。授業科目としては、医学一般、医療管理学、看護学、保健学、国際保健、疫学、栄養学、感染症・寄生虫病学、環境保健学、医療情報学、看護学、社会福祉学、その他とする。地域、職域、福祉施設等での実習を必須とする。後期博士課程では、学位論文のための研究を行う。課題:公衆衛生専門家(特に医師でない者)が卒後、保健・医療・福祉機関以外の民間企業においても認知、受容されなければならない。
2.卒後臨床研修における公衆衛生研修
保健医療福祉の研修を通して医師に必要な問題解決力の育成を図る。研修のねらい:将来、地域におけるプライマリ・フィジシャンとして必要な知識と技能の体験をさせ、習得させる(GIO)。具体的(SBOs)には、医師として最低限必要な倫理、法律について理解できる、地域におけるプライマリ・フィジシャンとして果たすべき役割と責任について説明できる、医師として医師以外の専門職種(例 保健婦、看護婦、薬剤師、栄養士等)と共同作業や連携ができる、医師として地域の保健医療、福祉等の社会資源を患者に対して適切に紹介できる(患者とのコミュニケーションスキル)、産業保健、学校保健、地域保健活動を理解し参加できる、地域医療における予防、福祉の重要性について理解し積極的に参加できる、である。研修方法:必須とし内容は選択方式とする。期間:1か月。指導のための費用:病院からの支援のみ、指導医へは謝礼。研修の場:医科大学の衛生学公衆衛生学教室をキーステーションとし研修にふさわしい保健所、医師会、事業所、福祉施設等を選択する。臨床研修病院をキーステーションとする場合には、病院内に設けられた臨床研修委員会に公衆衛生研修指導医を1名以上必ず置くものとし、研修に適していると思われる保健所、医師会、事業所、福祉施設、介護老人施設、地方衛生研究所等を選択する。公衆衛生研修指導医の確保と養成(認定)については衛生学公衆衛生学教育協議会が担当する。
研修カリキュラムのテーマ(具体例)
臨床疫学の立場から生活習慣病の疫学調査の企画・立案、実施、解析、対策の評価。健康危機管理(伝染病、食中毒の発生、災害について想定モデルのもとに対策の樹立)。健康教育の企画・立案、実施、解析、評価。僻地住民の健康管理。在宅寝たきり老人の保健、介護・医療プログラム、在宅難病患者の管理プログラム。職場、老人ホーム等での健康管理。
3.国立公衆衛生院専門課程分割後期
1998年の「公衆衛生における卒後教育研修体系に関する研究班」の提案を受けて、1999年度に専門課程分割履修コースが開設された。これは、保健所長資格認定のための研修として位置づけられ、さらに、MPH(Master of Public Health)が授与されることとなった。前期(3か月)の「基礎」コースは、公衆衛生総論、公衆衛生行政、保健統計学・疫学、組織経営・管理、公衆衛生活動論(対人保健、環境保健)等の講義、演習、実習等300時間(12単位)である。後期は「応用」コースとして、国立公衆衛生院だけでなく、医科大学の公衆衛生関連講座や他の試験研究機関などにおいても単位取得できる。18単位と特別研究論文とを履修する。修業の認定は、「認定委員会」により行い、本協議会の会員も構成員となる。しかし、医科大学大学院博士課程すなわち衛生学公衆衛生学教室では学位論文の作成を目的とした研究が中心であるので、授業科目、授業形態等は今後の課題となっている。
保健婦の養成の在り方
看護婦の養成が専門学校から4年制大学で行われるようになってきた。従来、保健婦の養成は、看護婦課程修了後に保健婦課程を積み上げるようになされてきたが、4年制看護系大学においては、看護婦の教育と保健婦の教育とが4年間に統合されて行われることが多くなってきた。4年制看護系大学では看護教育が高度医療に対応する看護を重視し、臨床看護に偏重するようになってきた。カリキュラム改正に伴い、保健婦教育の中核であった「公衆衛生看護学」という科名は、「地域看護学」となり、その内容は「公衆衛生看護」と「継続看護」とからなると規定され、「地域看護」から「継続看護」を除いたものが「公衆衛生看護」のようであり、曖昧なものになってきた。このような動向から保健婦養成には4年制看護系大学卒業後、公衆衛生大学院前期課程(修士課程)への進学をひとつの選択肢とし、これからの公衆衛生専門職業人としての保健婦養成への提言を行いたい。
公衆衛生関連栄養士・管理栄養士養成の在り方
多くの栄養士は、病院を基盤とした給食管理、食事療法に従事している。生活習慣病の1次予防を主目的とする公衆栄養のニードは高い。保健機能食品アドバイサリースタッフの養成も重要である。専門職業人としての栄養士養成、例えば栄養大学院構想を検討中である。
4.社会医学コア・カリキュラム
これは、衛生学・公衆衛生学・医療管理学・法医学・医療情報処理・医の倫理と法律・地域ヘルスケアなどの学や分野に含まれるあるいは関連する19個の学習対象「モジュール」としてまとめた学部レベルの医学教育における社会医学コア・カリキュラムである。
1.健康問題の変遷と医療の歴史 2.医の倫理と法 3.健康増進と疾病予防
4.地域保健医療総論:地域を基盤とする「保健・医療・福祉・介護」(ヘルスケア)
5.環境保健と環境保全 6.感染症対策 7.精神保健福祉のニーズと対応 8.母子保健
9.学校保健 10.成人のヘルスケア 11.高齢者の生活と「保健・医療・福祉・介護」   (ヘルスケア) 12.産業保健 13.人口・保健統計 14.疫学とその応用 15.医療関係の  構成と医療評価 16.「保健・医療・福祉・介護」(ヘルスケア)関係の制度と法規 17.「保健・医療・福祉・介護」(ヘルスケア)の制度と保健医療経済 18.国際保健  19.コミュニケーションの理論と実践 20.環境測定・環境保健実習 21.事業所見学、   産業保健施設あるいは健康管理実習 22.健康科学情報処理講義・演習 23.地域保健  実習 24.地域ヘルスケア実習
5.個人情報保護に関連する法整備に関する声明
衛生学公衆衛生学教育協議会は今後とも医学生の教育、研究を通じて国民の疾病予防、健康増進に寄与していく所存である。現在検討されている個人情報保護に係わる法整備において、このような事情に対する配慮がない場合には、医学生の教育や研究に重大な支障を来すことも危惧される。とくに現在協議会のメンバーが所属する医育機関の多くで、実習や研究が行われており、この問題に対する処遇は今後の衛生・公衆衛生学の教育ならびに研究に対する影響も大きい。世界医師会のヘルシンキ宣言も2000年10月に改訂され、その中では識別可能なデータを扱う研究も対象とされるようになった。今後ともこのような動向をにらみながら、国際的に通用するようなルールづくりが必要であろう。
個人情報の保護が過度に行われることによって、衛生学・公衆衛生学の教育および研究に支障を来すおそれがある。特に主として個人のデータを取り扱う疫学において、もっとも多大な影響が懸念されている。研究の実施に際して研究対象者の個人情報やプライバシー権の保護には充分配慮する必要があり、対象者の同意を得て研究を行うことの必要性は今更強調するまでもない。しかし、研究の中には、過去のデータを用いるために同意を得られないものや、対象者全員の情報を収集しなければ有効な結果を得ることができない場合もある。このような場合の、社会的にも容認されるルールづくりが肝要で、必要な研究の中止や停止のような事態を避けなければならない。以上のような自主規制のもとに、衛生学公衆衛生学教育協議会は、大学医学部・医科大学における教育ならびに研究に対する個人情報保護に関する法律の適用について、特段の配慮を求めている。
6.社会医学サマーセミナー
講義内容は、久道 茂(東北大):これからの疫学と医学生のキャリアチョイス、森本兼曩(大阪大):社会医学のめざすもの、山本正治(新潟大):胆のうがんによる死亡者を1000人減らす方法、鈴木庄亮(群馬大):ヒューマンエコロジーの立場と意義、古野純典(九州大):大腸がんの疫学、吉村健清(産業医大):油症事件における疫学の役割、である。参加医学生のグループ別討論とその発表、全体発表会、講師講評も行った。
結論

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)