地域保健分野における保健婦の新たな活動方法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000889A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健分野における保健婦の新たな活動方法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山田 和子(国立公衆衛生院公衆衛生看護学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」の地方計画、老人保健事業第4次計画においては健康危険度評価、個別健康教育の実施、また、高齢者健康施策においても「元気高齢者づくり対策」としての生き甲斐づくり、介護予防、社会参加の促進など予防に重点をおいた対策が開始され、地域保健分野も大きく変化してきている。保健婦活動は、母子保健から老人までと範囲が広く、かつ個別的な対応から地域づくり、施策化と多様な活動であるため、活動方法論が明確になりにくい状況にあった。さらに、地域保健法では、保健所は広域的、専門的、技術的サービスを、市町村では身近で頻度の高い保健サービスを提供することになり、保健婦が所属する場所により活動内容が変化してきている。このような変化の中、これまでの保健婦活動を整理し、保健婦の活動の展開方法、展開に用いたスキル等を明らかにすることを目的に研究を行った。
研究方法
保健婦の活動の特徴が現れている「個別支援から地域全体へ取り組みが発展した事例」あるいは「地域のニーズを明らかにし予防活動に発展した事例」について分析を行った。研究の初年度は、地域活動の展開方法、展開に用いたスキル、保健婦の活動の特徴について検討を行ない、本年度は、初年度に引き続き地域活動のスキルを検討するとともに、新たに公衆衛生看護活動のねらい、都市部と郡部、保健所と市町村との展開方法の違い、個別事例への活動と地域活動との 関連について検討を行った。
①ワークショップ
「公衆衛生看護活動の展開」をテーマに、研究の初年度に得られた成果を基にワークショップを開催した。参加者は40名で、その内訳は、主に保健所、市町村に働く保健婦と看護系大学で地域看護学を教授している教員であった。
②事例検討
本年度も事例検討をするに際して4班を構成し、7事例について検討を行った。事例提供者は現在、地域保健分野で実践している保健婦である。事例検討のメンバーは、3班は保健婦と学識経験者で、1班は保健婦だけでなく医師、精神保健福祉士、心理職、学識経験者等から構成した。各班のメンバーは10人~20人だった。初年度の事例提供者は保健所の保健婦、勤続年数が20年以上の保健婦が多かったので、本年度はできるだけ市町村の保健婦、経験年数が20年以下の保健婦とし、活動内容は市町村の老人、母子保健対策とした。事例検討に用いた分析枠組みは、平成10年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「これからの地域保健福祉のあり方と保健婦の活動方法に関する研究(主任研究者 湯澤布矢子)」で開発した展開方法を使用した。
③学識経験者等による事例検討後の再検討
①、②の結果を、学識経験者、研究班員により、保健婦の公衆衛生活動のねらい、プロセス、活動の展開に用いたスキル等を整理し、さらに都市部と郡部、保健所と市町村での展開方法の違い、個別事例への活動と地域活動との関連についても検討を行った。
④スキルの妥当性の検討
③で明らかになった地域活動の展開に用いたスキルについて、全国の管理的立場にある保健婦を対象に自記式質問紙により妥当性について検討を行った。
結果と考察
ワークショップにおいて、現場の保健婦、看護系大学の教員から、初年度に開発した地域活動のスキルは妥当であるとの判断された。
1)地域活動のスキル
研究の初年度から引き続き検討している地域活動のスキルは、初年度には「関係づくり」「地域診断」「共有・合意」「企画」「協力・共同活動」「システム・事業の運営」「情報管理」の8項目19細項目に分類されたが、本年度に新たに実施した事例の検討から、次のことが明らかになった。①多くのスキルは初年度に検討した地域活動のスキルと同一だった、②新たに「既存の事業を効果的に活用する技術」「関係者とエンパワメントする技術」「活動を評価し、次の課題を明らかにする技術」「活動・計画の可能性を判断する技術」「ニーズを計画に反映させる技術」等の細項目とエンパワメントの項目が抽出された。以上のことより、活動の内容、保健婦の所属は異なっても、地域活動のスキルは共通していると考えられた。また、前述の地域活動におけるスキルについて、スキル相互の関連を学識経験者、研究班員で検討した結果、スキルは「基礎的スキル」「応用・発展スキル」「企画・政策スキル」の3段階に構造化され、各段階のスキルの内容は、「基礎的スキル」段階では「地域診断」「エンパワメント」の20のスキル、「応用・発展スキル」段階では「関係づくり」「施設内外との共有・合意」「協力・協働活動」「システム・事業の運営」の31のスキル、「企画・政策スキル」段階では「企画・政策」8のスキルだった。さらに、構造化された地域活動のスキルの妥当性について、全国の管理的立場の保健婦に調査したところ、概ね妥当であるとの支持が得られた。なお一部表現が曖昧であると指摘された項目については、調査結果を参考に表現の修正を行った。
2)公衆衛生看護活動のねらい
公衆衛生看護のねらいは、「安心して暮らせるようにする」「地域の力量をアップする(ケア力、サポート力)」「潜在している問題を解決する」「協働を引き出す(個人だけでなく関係機関を含む)」であった。保健婦の活動は誰もが地域で生活できるように、課題を整理し、あるべき姿をイメージしながら地域の活動を側面的に支援し、住民と住民あるいは住民と関係機関とのつながりを強化する一連の活動であると言える。
3)都市部と郡部、保健所と市町村での展開方法の違い
湯澤班が開発した「問題・課題の気づき」「実態把握」「共有・調整の場の設定」「事業化・施策化」の4段階の枠組みで検討したが、都市部での保健所の活動は精神保健福祉領域が多く、関係する機関が多いなど活動内容及び関係機関の範囲は郡部とは異なるが、保健婦の活動する場が異なっても、保健婦活動の展開方法及び求められるスキルに違いはないと考えられた。
4)個別事例への活動と地域活動との関連
湯澤班の展開方法の4段階で個別事例への活動と地域活動との関連について検討したところ、各段階毎に個別事例への活動と地域活動は連動して行っている場合もあるが、両活動の多くは平行して行われていた。これは、個別事例の活動から地域活動へ、地域活動から個別事例へと両者をうまく連動させながら活動を行っていることを示している。
結論
本研究では地域活動に用いたスキルを明らかにし、さらにその妥当性について検討を行い、また、保健婦の展開方法、保健婦の活動の仕方の特徴等を明らかにすることができた。今後、本研究で明らかになった保健婦の地域活動に用いたスキルを、①基礎教育、あるいは現任教育において、段階別に修得すべきスキルを明らかにする、②スキルの妥当性についてさらに検討していく、③スキルの細項目毎に、より詳細な内容を明らかにし、保健婦の活動方法論としてまとめていくことが必要である。

公開日・更新日

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