高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000882A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(福島県立医科大学)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の転倒予防のための保健活動事業実施状況とその内容、さらには有効性について検討することを目的に、新潟県中魚沼郡中里村、静岡県浜松市村櫛町の2地域における転倒予防活動の実態と効果を検討した。また、昨年度予備調査をおこない開発した調査票を用い、転倒予防活動事業に関する全国調査を開始し、一部地域の結果について分析した。
研究方法
新潟県中魚沼郡中里村(平成12年1月末現在総人口6567人、男性3286人、女性3281人、老年人口割合25.5%)において継続的に実施されている転倒予防活動事業、高齢者健康調査について、今年度新たに収集した資料を加えてその経過を記述し、さらに効果に関して先行研究を参考に考察した。また、静岡県浜松市村櫛町(平成10年4月1日時点総人口3123人、老年人口割合23.0%)で1996年から1998年まで転倒予防対策事業の一環として実施された「高齢者の健康と転倒に関する検診」が転倒減少につながったかを検討した。具体的には、96、97、98年の3回の検診すべてに参加した人(97年参加群)と、96、98年は参加したが97年は不参加の人(97年不参加群)の2群をつくり、98年に調べた転倒者の割合(過去一年間の転倒経験ありと答えた人の割合)をχ2検定により比較した。また、多重ロジスティック分析を用いて、96年時の身体的、精神的健康状態(ADL、抑うつ状態、満足度、主観的健康度、転倒既往、治療中疾患、身体計測値など)を考慮した場合に、97年の検診参加が98年に調べた過去一年間の転倒既往に関連するかを検討した。
高齢者転倒予防活動事業に関する全国調査については、昨年度予備調査をおこない開発した「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業に関する実態調査」のための調査票により調査を開始した。調査票は、市町村の特性(65歳以上人口、スタッフ数、など)、転倒予防に対する担当者の認識(転倒予防への興味・関心の程度、など)、転倒予防事業の実施状況(実施の有無、携わる者の資格と人数、事業の内容、実施期間、実施頻度、実施効果の評価の有無、など)、高齢者を対象とする健診・調査活動に含まれる項目、「閉じこもり予防」および「生活機能低下予防」に関する保健事業実施の有無、などについて尋ねるものであった。この調査票を平成12年12月に全国より抽出した1574市町村の健康づくり担当者に郵送し、調査を開始した。今年度は、回答が得られた市町村のうち、現時点でデータのエディティングが完了した410自治体について、市部と町村部の2区分で分析を行った。
結果と考察
中里村における転倒・骨折予防のための保健(介入)活動は、1992年(平成4年)より開始された。1996年までの5年間に高齢者健康基礎調査をはじめとする各種の調査活動が計10回行われた。そして、これらの調査結果に基づく寝たきり、転倒予防関連の健康教育が計9種類実施された。1997年以降の転倒・骨折および一般的健康に関連する調査は計5回行われた。寝たきり・転倒予防関連の健康教育は、1997年~2000年に計3回行われた。さらに、1993年(平成5年)からは、骨粗鬆症関連の検診及び調査が実施され、この検診結果にもとづく健康教育が実施された。転倒発生率は、男性では1992年以降は低下傾向を示していたが、2000年で上昇に転じていた。一方、女性では、1992年から1996年にかけては有意な転倒発生率の低下が見られたが、その後はほぼ横ばいであった。年齢調整はしていないが、発生率は一部の例外を除き減少あるいは横這い傾向であり、「転倒発生率の上昇を予防できた」可能性はあると思われた。
静岡県浜松市村櫛町では、98年の検診における転倒者割合は、97年参加群(326名)では11.0%、97年不参加群(45名)では22.2%であり、不参加群の方が転倒した人の割合が有意に高く(χ2=4.55, p<0.05)、一見したところでは2年目の検診に参加することで転倒する人が減っていた。ただし、検診に続けて参加できた人は元々転びにくい(要因を持った)人、参加できなかった人は転びやすい(要因を持った)人であり、3年目の転倒者割合に差があったのは検診参加の効果ではないことも考えられる。そこで、多重ロジスティック分析により、初年度に調査した転倒に関連すると思われる要因のコントロールを試みた。その結果、97年検診不参加群は、96年時の身体的、精神的健康状態を考慮しても有意に転倒する人が多く、参加群に比べ約2.4倍転倒の危険性が高い結果であった。つまり、2年目の検診参加は3年目の転倒に対し独立した関連を有し、他の要因の影響を考慮しても2年目不参加群はその後の転倒の危険性が高いこと、つまり検診参加により転倒者が減った可能性のあることが示された。もちろんこの解析で転倒関連要因の全てが考慮されているわけではない。しかし、転倒検診参加が転倒者減少につながる可能性は高いと考えられた。
全国410市区町村における「転倒予防を目的とした保健事業」の実態調査結果では、他の保健事業と比較した場合の「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業」の重要性については、市部、町村部を問わず9割以上が「非常に重要である」あるいは「重要である」と答えた。また、9割強の市町村が高齢者の転倒予防に関心をもっていた。しかし、この1年間に「転倒予防を目的とした保健事業」を実施していると回答した市町村は全体の51.5%であった。町村部の実施率(52.9%)は市部の実施率(49.7%)に比べてわずかに高率であった。要介護予防の一環として取り組まれている「閉じこもり予防」や「生活機能低下予防」に関する保健事業の実施率はそれぞれ73%、65%であり、転倒予防事業の地域への普及は決して十分ではないと言えるだろう。転倒予防事業の内容は、「講話(74.9%)」と「体操(66.4%)」が目立って多かった。各種転倒予防事業の評価を行っていると回答した市町村の割合は7.9%~41.4%、「評価している」と回答した70市町村のうち、「効果がみられた」と回答した市町村は68.6%であった。転倒予防活動の実施状況、内容に関しては、さらに改善の余地があると考えられた。転倒予防事業の立ち後れは、市町村が行っている高齢者を対象とした健診・健康調査活動に取り入れられている内容からも推測できる。すなわち、「転倒経験」そのものを調査している市町村が極めて少なかったこと、さらには転倒の危険要因として知られている項目を健診や調査活動に取り入れている市町村も生活習慣病関連の項目の普及率と比べれば低率であったことなどである。これら危険要因の実態を把握し、その結果を転倒予防事業に結び付けていくことも今後の課題であろう。
結論
高齢者の転倒予防活動事業の実施状況とその内容、有効性に関する研究を継続した。今年度は、新潟県と静岡県の2地域における転倒予防活動の効果について検討し、転倒を減少させる効果、少なくとも増加させない効果がある可能性を示した。また、「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業に関する実態調査」のための調査票を全国から抽出した1574自治体に郵送し、転倒予防活動事業に関する全国調査を開始した。今年度は、データの揃った410自治体についての分析であったが、「担当者の転倒予防に対する重要性の認識や関心は極めて高いものの、実際に転倒予防を目的とした保健事業を実施している市町村は全体の約半数にすぎない」など、転倒予防活動の実態に関して興味ある結果が得られた。

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