医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000872A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
浜島 信之(愛知県がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 福光隆幸(碧南市民病院)
  • 臼井利夫(名古屋市中村保健所)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙者を減らすことが、多くの疾患予防に有効であることは言うまでもない。しかし、多数の喫煙者を簡易な方法で禁煙へと導く効果的な方法はほとんどなく、わが国の喫煙率は未だに高率のままである。本研究費による一連の研究は医療施設での禁煙支援方法の確立を目的としたものであり、主要な研究調査は、医療施設受診喫煙者の3つの追跡調査である。これらの調査は異なる医療施設、禁煙支援の中でどの程度喫煙者が受診を契機に禁煙するかを調べるものである。本研究は3ヵ年を通して行われ、単年度のみでの研究成果はなく、そのため本概要説明は総合研究報告と重複する。
研究方法
追跡調査(A)は6施設による大規模追跡調査で、愛知県がんセンター病院と碧南市民病院内科の初診患者、碧南市保健センター、安城市保健センター、名古屋市中村保健所、岐阜市保健所が実施する検診の受診者を対象とした。愛知県がんセンターでは初診患者に対して実施している生活歴調査票より、4つの検診実施施設の検診受診者では受診票にある問診項目より喫煙者を特定し参加の依頼を行った。碧南市民病院では内科の調査担当医師が診察時に喫煙者かどうか尋ねて喫煙者に参加を依頼した。参加者には参加申込書に名前と調査用紙郵送先住所を記入していもらい、お礼のボールペンを渡した。2ケ月後と1年後に、愛知県がんセンターよりすべての参加者に疾病の有無、喫煙状況、禁煙への関を尋ねる調査用紙と切手を貼った返信用封筒を郵送した。参加者募集は愛知県がんセンター病院では1997年9月15日から1998年9月11日までの1年間、岐阜市保健所では1998年7月から1999年3月まで、他の4施設では1998年4月から1999年3月までの1年間である。未回答者への催促は愛知県がんセンター病院での1年後調査のみ行い、2ヶ月後調査および1年後調査での他施設では行わなかった。
追跡調査(B)は、愛知県がんセンター病院の1999年1月から2月までの初診喫煙患者を対象としたもので、募集の方法は追跡調査(A)と同じである。ただし、参加者には「たばこはがんの原因です」と書かれたボールペンを渡すのに加えて、「禁煙セルフヘルプガイド」(中村正和、大島明著)、とたばこで汚れた肺の絵のついたパンフレットを渡した。追跡調査は6ヶ月後の郵送調査である。未回答者への催促は行わない。
追跡調査(C)は、大阪府立成人病センターにがんまたは循環器疾患で入院し、入院当日も喫煙していた者および禁煙31日以内の者が対象で、1998年6月に募集を開始した。2つの循環器病棟と1つの耳鼻咽喉科病棟の入院患者全員に、自記式問診票にて喫煙状況、エゴグラム、ニコチン依存度、禁煙を成功させる自信度、禁煙経験の有無、家族や医療従事者からの支援、期待度を尋ねた。喫煙者のステージ(無関心期、前関心期、関心期、準備期、実行期)に応じて、保健婦が調査対象者のベッドサイドに赴き、資料を用いて禁煙支援を行った。追跡調査は退院6ヵ月後と1年後の郵送自記式調査用紙により行った。未回答者への催促はそれぞれ1回まで行った。
結果と考察
追跡調査(A)では愛知県がんセンター病院1,131人、碧南市民病院214人、碧南市保健センター392人、安城市保健センター642人、名古屋市中村保健所440人、岐阜市保健所733人、計3,552人が参加した。2ケ月後調査までに2人が死亡し、16人が異なる住所を書き調査用紙が返送された。1人は参加時に既に喫煙者でなく、その結果、3,533人が2カ月後の時点での適格参加者となった。各施設それぞれ、1,124人、214人、391人、639人、435人、730人である。適格参加者の施設別性年齢分布を見ると、愛知県がんセンターは40歳未満が男性で16.2%、女性で40.7%、碧南市民病院は40歳未満が男性で41.4%、女性で66.7%で、愛知県がんセンター病院での参加者のほうが年齢は高いほうに偏っていた。碧南市保健センターと安城保健センターの検診受診者は30歳代、40歳代が中心で、名古屋市中村保健所と岐阜市保健所の検診対象者は60歳以上が中心であった。2ケ月後調査での回収率は、男女あわせると愛知県がんセンターでは57.3%(644/1124)、碧南市民病院では59.3%(127/214)、碧南市保健センターでは74.7%(292/391)、安城市保健センターでは71.5%(457/639)、名古屋市中村保健所では80.2%(349/435)、岐阜市保健所では76.4%(558/730)であった。病院2施設をあわせると回収率は57.6%となり、4つの検診施設での75.4%より有意に(p<0.001)低かった。愛知県がんセンター病院ではがん患者と調査票に回答した参加者が232人(男性201人、女性31人)あり、このうち喫煙を止めたと回答した者が、男性で155人(77.1%、95%信頼区間71.3-82.9%)、女性で18人(58.1%、40.7-75.5%)あり、禁煙率は有意に男性のほうが高かった(p<0.05)。調査に回答しなかった480人の参加者をすべて非がん患者の喫煙継続者とすると、男性554人中51人(9.2%、6.8-11.6%)、女性338人中14人(4.1%、2.0-6.2%)が喫煙を止めたと回答した。禁煙者は男性のほうが有意に多かった(p<0.01)。碧南市民病院では214人の内25人(11.7%、7.4-16.0%)が喫煙をやめたと回答した。有意ではないものの男性のほうが女性より禁煙率は高かった。検診をしている4施設をあわせると、禁煙率は2,195人中2.7%(2.1-3.5%)であった。1年後調査ではがん病院受診者でがんと診断されたと回答した者(n=232)で62.9%(56.4-69.2%)、市民病院受診者(n=214)で9.8%(6.2-14.6%)、検診受診者(n=2190)で6.0%(5.1-7.1%)であった。検診受診で1年後禁煙率が高くなったことは極めて興味深い。
追跡調査(B)では、同上がん病院で再度禁煙率を確認するために1999年1月より2000年2月までに新来患者を募集し、934人の参加者について受診後6ヶ月の追跡調査を行った(適格対象者は915人)。がんと診断されたと回答した者(n=211)では66.4%(59.5-72.7%)が禁煙したと回答し、未回答者を非がん喫煙者とすると非がん受診者(n=704)では8.4%(6.4-10.7%)であった。追跡調査(A)での同禁煙率は2ヵ月後で7.3%、1年後で10.2%であり、ちょうどその中間であることから、追跡調査(A)の結果が再現された。
追跡調査(C)では、1996年6月から2000年3月までにがんまたは循環器疾患で2つの循環器病棟と耳鼻咽喉科病棟に入院した389人の喫煙者(禁煙後31日以内の者を含む)に対し、喫煙者のステージに沿った禁煙支援を行い、6ヵ月後と1年後の喫煙状況を郵送に追跡調査した。退院後6ヶ月での禁煙率は38%、1年後の禁煙率は34%であった。2000年4月には6つの病棟に入院した喫煙患者(禁煙後31日以内を含む)を病棟単位で無作為に対照群(リーフレット配布のみ)と介入群(5分から10分の保健婦による禁煙サポート)に分け、退院後6ヶ月と12ヶ月での喫煙率を調査する追跡調査を開始した。2000年12月までに307人が入院し、うち207人(67.4%)が参加した。現在、追跡調査中である。
結論
6施設の外来受診者に対する追跡調査(A)には3,552人の喫煙者が参加し、2ケ月後調査においても1年後調査においても、禁煙するものはがん患者で最も多く、次いで病院外来受診患者で、検診受診者は少ないことがわかった。がん病院1施設で行っている禁煙支援のためのパンフレットを手渡す追跡調査(B)では934人が参加し、6ヵ月後の調査により追跡調査(A)とほぼ同じ結果が得られ、再現性が確認された。成人病センター入院患者に対する禁煙支援を行った追跡調査(C)には389人が参加し、上記がん患者での禁煙率よりは低いものの外来患者よりも高いことが判明した。医療受診後の喫煙者の追跡調査はわが国では少なく、総計5,000人を超える喫煙者を追跡した本研究結果は、わが国における貴重な資料となった。今後は医療施設受診喫煙者に対する禁煙誘導手法の開発、導入が望まれる。

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