健康増進活動のための健康外来システムの開発とその評価

文献情報

文献番号
200000871A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進活動のための健康外来システムの開発とその評価
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
馬場園 明(九州大学健康科学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大柿 哲朗(九州大学健康科学センター)
  • 藤野 武彦(九州大学健康科学センター)
  • 畝  博(福岡大学医学部公衆衛生学)
  • 津田 敏秀(岡山大学医学部衛生学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、高脂血症は投薬でコントロールされていることが一般的であり、莫大な医療費が使われている。健康外来としてのヘルスセミナーは、従来の予防活動である早期発見、早期治療といった枠組みを超え、対象者の行動変容にアプローチする新しい試みである。このヘルスセミナーによって、高脂血症者のストレス度が低下し、行動変容が起こり、食生活が変化し、高脂血症の改善に有効であることが明らかにできれば、今後の保健事業に大きな影響を与える可能性がある。この研究は、食事を中心とした認知行動科学的観点からの介入であるヘルスセミナーの高脂血症への影響を評価することを目的とする。
研究方法
1998年度の健診での血清コレステロールが220mg/dl以上の者で、今までヘルスセミナーを受けていない者100名を抽出した。対象者を介入群50名とコントロール群50名に無作為に割り付けた。介入群にはヘルスセミナーに参加するよう呼びかけたが、参加した者は37名で研究に同意した者は36人であった。最初に割り付けた介入群を介入予定群、実際に介入した群を介入実施群とした。 これらの対象者で2000年度の健診を受診した者は、介入予定群、介入実施群、コントロール群で、それぞれ、48人、35人、47人であった。これらの者を受診対象者として、1998年度と2000年度の検診のデータを用いて、介入予定群および介入実施群とコントロール群それぞれについて、介入前後の健診データの比較をおこなった。検討した項目は、脂質代謝の指標として総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、肥満の指標として体重およびBMI、糖および尿酸代謝の指標として、空腹時血糖および尿酸、肝機能の指標としてGOT、GPT、γ-GTPを選択した。
結果と考察
対象者は、男性では介入実施群に50歳以上が多く、コントロール群に40歳未満が多い傾向が認められ、女性では介入実施群に40歳台が多く、50歳以上が少ない傾向があった。しかし、χ2検定で分布に差は認めなかった(p<0.05)。男性の平均年齢(標準偏差)は、介入予定群、介入実施群、コントロール群でそれぞれ44.5歳(7.5)、44.7歳(7.9)、46.1歳(4.8)、女性の平均年齢(標準偏差)は、介入予定群、介入実施群、コントロール群でそれぞれ47.3(6.5)、44.5(6.5)、49.0(5.6)歳であった。介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均の総コレステロール値は、それぞれ、275.4 mg/dl、277.1 mg/dl、276.3 mg/dl、介入後の平均の総コレステロール値は、それぞれ、259.6 mg/dl、260.1 mg/dl、265.1 mg/dlであった。介入予定群、介入実施群の平均の総コレステロール値は、介入の前後で、それぞれ15.8 mg/dl、17.0 mg/dl低下しており、統計的有意(p<0.01)であった。また、コントロール群の介入後の平均の総コレステロール値も11.2 mg/dl有意差(p<0.05)をもって低下していた。介入予定群、介入実施群の介入後の平均の総コレステロール値の低下は、コントロール群の介入後の平均の総コレステロール値よりも大きい傾向にあったが統計的に有意ではなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のHDLコレステロール値は、それぞれ、58.6 mg/dl、59.3 mg/dl、60.0 mg/dl、介入後の平均のHDLコレステロール値は、それぞれ、59.0 mg/dl、60.5 mg/dl、59.7 mg/dlであった。介入予定群、介入実施群の平均のHDLコレステロール値は、介入の前後でほとんど変化を認めなかった。介入後の平均のHDLコレステロール値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均の中性脂肪値は、それぞれ、182.9 mg/dl、184.1 mg/dl、197.2 mg/dl、介入後の平均の中性脂肪値は、それぞれ、178.9 mg/dl、167.5 mg/dl、215.6 mg/dlであった。
介入予定群、介入実施群の平均の中性脂肪値は介入の前後で、それぞれ4.0 mg/dl、16.6 mg/dl低下しており、コントロール群では18.4 mg/dl上昇していたが統計的には有意ではなかった。介入予定群、介入実施群の介入後の平均の中性脂肪値は、コントロール群の介入後の平均の中性脂肪値よりも低い傾向にあったが統計的に有意ではなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均体重は、それぞれ、61.8kg、62.1kg、62.6kg、介入後の平均体重は、それぞれ、60.8kg、60.6kg、63.2kgであった。介入予定群の平均体重は介入の前後で1.0 kg低下しており、統計的有意(p<0.05)であった。介入実施群の平均体重は介入の前後で1.5kg低下しており、統計的有意(p<0.01)であった。一方、コントロール群の平均体重は介入の前後で0.6 kg上昇しており、統計的有意(p<0.05)であった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のBMIは、それぞれ、23.4、23.3、23.6、介入後の平均のBMIは、それぞれ、23.1、22.8、23.9 であった。介入予定群のBMIは介入の前後で0.3減少しており、統計的有意(p<0.05)であった。また、介入実施群のBMIは介入の前後で0.5減少しており、統計的有意(p<0.01)であった。一方、コントロール群のBMIは介入の前後で0.3増加しており、統計的有意(p<0.05)であった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均の空腹時血糖値は、それぞれ、105.3mg/dl、106.0mg/dl、101.2mg/dl、介入後の平均の空腹時血糖値は、それぞれ、105.6mg/dl、105.2mg/dl、97.0mg/dlであった。
介入予定群、介入実施群の平均の空腹時血糖値は、介入の前後でほとんど変化を認めなかった。コントロール群の平均の空腹時血糖値は介入後低下する傾向にあったが有意ではなかった。介入後の平均の空腹時血糖値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均の尿酸値は、それぞれ5.3mg/dl、5.7mg/dl、5.8mg/dl、介入後の平均の尿酸値は、それぞれ5.5 mg/dl、5.5mg/dl、5.8mg/dlであった。介入予定群、介入実施群、コントロール群の平均の尿酸値は、介入の前後でほとんど変化を認めなかった。
介入後の平均の尿酸値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のGOT値は、それぞれ24.5 IU/l、24.8 IU/l、31.6 IU/l、介入後の平均のGOT値は、それぞれ22.0 IU/l、21.9 IU/l、30.0 IU/lであった。介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のGOT値は、それぞれ、2.5 IU/l、2.9 IU/l、1.6 IU/l低下が認められたが、統計的に有意ではなかった。介入後の平均のGOT値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のGPT値は、それぞれ29.5 IU/l、29.5 IU/l、36.2 IU/l、介入後の平均のGPT値は、それぞれ24.8 IU/l、23.5 IU/l、31.0 IU/lであった。介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のGPT値は、それぞれ、4.7 IU/l、6.0 IU/l、5.2 IU/l低下が認められたが、統計的に有意ではなかった。いずれの群でも低下が認められたが、統計的に有意ではなかった。介入後の平均のGPT値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のγ-GTP値は、それぞれ45.7 IU/l、35.7 IU/l、53.7 IU/l、介入後の平均のγ-GTP値は、それぞれ37.2 IU/l、27.9 IU/l、50.9 IU/lであった。介入予定群、介入実施群およびコントロール群の介入前の平均のγ-GTP値は、それぞれ、8.5 IU/l、7.8 IU/l、2.8 IU/l低下が認められたが、統計的に有意ではなかった。介入後の平均のγ-GTP値は、介入予定群とコントロール群および介入実施群とコントロール群との間に統計学的な有意差を認めなかった。
結論
介入予定群、介入実施群の平均の総コレステロール値は、介入の前後で、それぞれ15.8 mg/dl、17.0 mg/dl低下しており、統計的有意(p<0.01)であったが、コントロール群の介入前の平均の総コレステロール値も11.2 mg/dl有意差(p<0.05)をもって低下していた。介入予定群、介入実施群の介入後の平均の総コレステロール値の低下は、コントロール群の介入後の平均の総コレステロール値よりも大きい傾向にあったが統計的に有意ではなかった。また、介入予定群、介入実施群の平均の中性脂肪値は介入の前後で、それぞれ15.4 mg/dl、16.6 mg/dl低下しており、コントロール群では18.4 mg/dl上昇していたが統計的には有意ではなかった。
これらの結果により、介入によって総コレステロール値、および中性脂肪値は低下する傾向にあったが、平均のHDLコレステロール値には変化が認められなかった。統計的に有意でなかった理由としては、平均への回帰の問題もあると思われるが、中性脂肪値はコントロール群では上昇しており、サンプルサイズの問題も大きかったと考えられる。
また、体重やBMIは介入予定群、介入実施群においては統計的に有意に減少しており、一方、コントロ-ル群は統計的に有意に増加していることから、介入によって総エネルギーが低下したことによって、総コレステロール値および中性脂肪値の低下傾向があったものと思われる。これらのことは、介入予定群、介入実施群および介入前後の平均のGPT値およびγ-GTPが、コントロール群に比べて低下する傾向があったこととも矛盾しないと考えられる。今後は、対象者を増やして長期的にフォローすることが必要となろう。

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