行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための方法論の確立と指導者教育養成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000870A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための方法論の確立と指導者教育養成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(財団法人大阪がん予防検診センター)
研究分担者(所属機関)
  • 生山 匡(山野美容芸術短期大学)
  • 須山靖男(明治生命厚生事業団・体力医学研究所)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 足達淑子(国立肥前療養所臨床研究部・あだち健康行動学研究所)
  • 島井哲志(神戸女学院大学人間科学部)
  • 内藤義彦(大阪府立成人病センター集団検診第一部循環器検診第二科)
  • 増居志津子(大阪がん予防検診センター調査部)
  • 本庄かおり(ハーバード大学公衆衛生大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の健康教育は、これまで知識重視型ならびにコンプライアンス重視型のアプローチが中心であった。しかし、これらの方法では健康行動変容の促進につながらないことから、個人の自発的な行動変容を支援する健康教育が求められている。しかし、健康教育の担い手である健康増進・保健医療従事者は、その養成課程において、健康教育についてのトレーニングをほとんど受けていない。そのため、わが国の健康増進・保健医療従事者の間に、行動科学に基づいた効果的な健康教育の手法や技術が普及していない状況にある。
そこで、本研究は、健康診断や外来等の既存の保健医療の場で国民の自発的な生活習慣改善を支援するための効果的な健康教育の方法論を行動科学の視点から確立するとともに、その普及を図る手段としての指導者トレーニングプログラムを開発し、その使い勝手や有効性を評価することを目的とする。
研究方法
本研究は平成10-12年度の3年計画とし、初年度-2年次は、行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための総合的な健康教育システムの開発と、指導者トレーニングプログラムの開発、2年次-3年次は、開発した総合的な健康教育システムとトレーニングプログラムの使い勝手や有効性の評価を順次行うこととしている。
研究の3年目にあたる平成12年度は、開発した総合的な健康教育システムの使い勝手を検討するため、医療機関に勤務する職員や地域・職域の保健指導担当者等を対象にインタビュー調査を実施した。また、減量支援に特化した通信制のコンピュータープログラムを開発し、その短期効果を評価した。そのほか、生活習慣行動、特に栄養摂取を質問紙法で簡易に評価する場合に用いるべき質問項目の選択やその妥当性、信頼性を検討する基礎的な研究も併行して実施した。
指導者トレーニングプログラムについては、昨年度開発した運動のプログラムと今年度新たに開発したストレスコーピングの指導者トレーニングプログラムについて、その使い勝手や効果を検討するための研究を実施した。また、昨年度開発した模擬喫煙者を用いた禁煙サポートのスキル評価法を用いて、禁煙サポートの指導者トレーニングプログラムの効果を指導技術面から評価した。なお、これらのトレーニングプログラムの効果については、トレーニングに対する受講生の感想等の評価や、トレーニング前後での受講生の知識、態度、技術等の変化を調べることにより行った。さらに、指導者養成の普及方策を検討するため、アメリカのマサチューセッツ州において実施されているTobacco Treatment Specialist Training and Certificate Program とその母体であるMassachusetts Tobacco Control Program のレビューを行った。
結果と考察
総合的な健康教育システムの使い勝手の予備的検討を行った結果、本研究で開発した出力票は、わかりやすく、かつ対象者の興味・関心をひくものであり、個人が健康管理を考えるための支援ツールとして活用しうることが示唆された。また本システムは、保健医療の場に適用可能であることが確認されるとともに、システムの使い勝手を良くするための改良を行う上で参考になる多くの意見を得ることができた。今後、両システムの結果を踏まえて改良を行うことにより、実用性の高いシステムとして完成させることができるものと考える。また、本システムが効果的に使われるために、本システムのねらいやその理論的背景、使い方などを示した指導者用マニュアルやビデオなどの指導者用教材を充実させていくことが必要であることがわかった。
次に、健康診断や外来等の場で多人数を対象に、食生活、特にエネルギー、塩分、脂肪の摂取状況を簡易に評価でき、かつ一定程度の精度がある自記式質問票を開発した。開発した食生活簡易質問票は、すべての質問が「はい・いいえ」で回答でき、質問項目数が15と少ないにもかかわらず、エネルギー、脂質、食塩摂取量が栄養所要量の20%以上の場合、「多め」であると簡単にスクリーニングできる可能性が高いことが示された。
そのほか、行動療法による通信制の体重コントロールプログラムを開発し、その1か月後の短期の効果を検討した。その結果、1か月後に体重1.22±1.48kg、BMI0.47±0.57の減量が認められるとともに、教材や個別アドバイスへの評価やプログラムへの満足度も高かった。
次に、開発したストレスコーピングのトレーニングプログラムについては、13名の保健医療従事者を対象としてトレーニングセミナーを開催し、その使い勝手と効果を検討した。事前学習、基礎講習、実践学習、フォローアップ講習というセミナーの一連のプログラムの中で、ストレス対策の原則と方法論の理解、また、それぞれの現場で取り扱うべきストレスコーピングの指導への自己効力感の向上がみられた。
運動支援のための指導者用トレーニングプログラムについては、30名の保健医療従事者を対象に2日間の日程でトレーニングセミナーの基礎講習のパートを開催した。基礎講習後の受講者に対するアンケートの結果、指導プログラムの内容に対する満足度は全体的に概ね良好で、とくに満足度の高かったのは、「運動実技」、「運動指導の実演と解説」、「運動指導に関する最新の話題」であった。一方、基礎講習が10時間という制約の中で盛りだくさんの内容で消化しきれないという意見が多く出され、継続研修や実地研修も含めて、運動指導に必要な知識や技術を修得する体制の整備が必要と考えられた。
昨年度開発した模擬喫煙者を用いた禁煙サポートのスキル評価法を用いて、禁煙サポートのトレーニングプログラムの指導技術面からの効果を調べた。その結果、全6項目から成る指導技術の総スコアは、トレーニング前の9.64から、トレーニング後の12.30と有意に増加した。6項目の各指導技術別にみると、全ての項目においてトレーニング後でスコアが増加し、禁煙サポートの指導技術の向上という点においてもトレーニングの効果が示された。
最後に、アメリカのマサチューセッツ州において実施されているTobacco Treatment Specialist Training and Certificate Program (TTSTCP)(禁煙治療の専門家の養成と資格認定のプログラム)とその母体であるMassachusetts Tobacco Control Program (MTCP) (マサチューセッツたばこコントロールプログラム)のレビューを行い、わが国における効率的な指導者養成のあり方とその普及方策を検討した。
結論
本研究で確立された健康教育の効果的な方法論を段階的な指導者トレーニングシステムを通して広く普及することにより、国民の生活習慣の改善が図られ、その結果、生活習慣病の一次予防に少なからず貢献することが期待できる。また、本研究の成果は、厚生省の「健康日本21」において、健康づくり関連の目標を達成するための重要施策として活用しうるものと考える。
今後、健康日本21の地域展開や個別健康教育事業の拡大に伴い増大するトレーニングニーズに対して、現行のワークショップ方式のトレーニングプログラムに加えて、インターネット等を用いた通信教育システムを開発し、トレーニングの効率化と指導者へのサポート体制の充実を図っていきたいと考える。

公開日・更新日

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