健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200000865A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立療養所中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田邦夫(大阪ガス健康管理センター)
  • 前田 清(愛知県西尾保健所)
  • 衛藤 隆(東京大学大学院教育学研究科)
  • 石川和子(国立健康・栄養研究所)
  • 内藤義彦(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、身体活動の効果を疾病の発症予防、疾病の改善と進行の抑制、若年者の身体活動能力の向上、高齢者の健康度の向上などから検討すること、及び身体活動量の把握において適切な指標づくりのための評価を行うことである。
研究方法
各研究者の有するコホートデータおよび断面研究データを整備し、異なった対象、身体活動について、身体活動と臨床検査値、疾病の発症、身体能力の関連を検討した。対象者は、観察研究約1万名、介入研究185名、断面研究約700名である。
結果と考察
太田は、同一企業の男性労働者3,106名に、4年間の観察研究を行い、新規高血圧発症と身体活動との関連を検討した。その結果、定期的運動の頻度が週3回をこえた者、一日の歩数が8000歩以上の者、勤務中立ち仕事が多い者で、それぞれ新規高血圧発症の相対危険度が、0.39(95%CI: 0.16-0.94、vs. 定期的運動なし)、0.67(95%CI: 0.48-0.92、vs.4000歩未満)、0.76(95%CI: 0.58-0.98、vs. 座位)と低く、日常の歩行や勤務中の作業状況のような、軽度な身体活動でも高血圧発症予防に有効であることが認められた。
太田は、185名の中高年者を対象者に、運動開始前の血圧とその後の血圧変化の関連について検討する目的で8週間の運動プログラムによる介入研究を行った。開始前の収縮期血圧から7群、拡張期血圧から5群に分類し、血圧、体重、栄養素摂取量の経時的変化を観察したところ、収縮期血圧の上位4群と、拡張期血圧の上位2群でプログラム終了時に有意な血圧低下が認められた。開始前の値が高いものほど低下量が大きく、収縮期血圧が140-149mmHgの場合で7.0mmHg、150-159mmHg、160mmHg以上の場合でそれぞれ11.4mmHg、15.7mmHgの低下が認められた。また、拡張期血圧が90-99 mmHg、100 mmHg以上の場合では、それぞれ6.6 mmHg、10.1 mmHgの低下が認められた。血圧低下は特に運動開始から4週間以内で大きく、収縮期血圧が150-159mmHgの場合で、第4週時点で終了時の71%、拡張期血圧が100mmHg以上では86%まで改善していた。
太田は、30歳代~60歳代の成人709名を対象に、日常生活の歩数及び運動習慣と、健康関連体力指標であるpeakVO2、換気性閾値(VT)及び脚伸展パワーの関係を検討した。その結果、1)運動習慣、歩数は体力指標と正の相関を示し、2)性・年齢別では、すべての性・年代グループで、peak VO2とVTは「定期的運動」群が「運動しない」群より有意に高く、3)運動習慣がない群では歩数とVTが深い関係を示した。
石川は、20~39歳の女性197名と40-67歳の女性252名を対象に1年間の骨量の変化に与える運動習慣の影響を検討した。骨量の評価は、20~39歳の女性には超音波法による踵骨の骨量、40歳以上の女性にはCXD法による第二中手骨の骨量を用いた。20-39歳の女性では、1年後に運動習慣のある者では、運動習慣のない者に比べ有意に骨量が増加した。また、運動習慣が「あり」から「なし」に変わった者の骨量は減少した。40歳以上の女性では、閉経前では1年後に運動習慣のあった者、運動習慣の継続した者、観察期間に運動を開始した者では骨量が増加した。閉経後0-6年でも、1年後に運動習慣のあった者で骨量の減少が小さく、初回1年後とも運動習慣のない者で減少が大きかった。閉経後7-15年では、初回または1年後に運動を実施している者で骨量の減少は小さかった。閉経後女性でも運動習慣のある者で骨量の減少が抑えられる傾向がみられた。
健康づくりにおける身体活動の重要性は広く認められているが、その根拠となるべき知見は少ない。
本研究の結果、身体活動の増加により1)高血圧、2型糖尿病の発症の抑制、2)高血圧の改善、3)高齢者の精神的健康の向上、4)成人・中高校生の有酸素能力の向上、5)閉経後女性における骨量減少の抑制が認められた。これらの結果は、日本人において身体活動が各種生活習慣病、高齢者のメンタルヘルス、体力に効果があることを示す。
一方、これらの効果と関連する身体活動には、定期的運動の実施、休日の活動量、歩数、勤務中の活動量、体育系運動部への参加の有無などがあり、把握する効果や対象によって影響する身体活動の種類、強度、頻度などが異なっていた。また、女性の身体活動度の把握には、家事労働を把握することが重要で、特に掃除、洗濯などが大きく関連していた。これらの結果は幅広い身体活動の把握の必要性を示した。また国内においては身体活動量の適切な質問紙が未だ開発されておらず、どのような指標を用いるかの選択を検討していく必要がある。
身体活動の増加による様々な効果が認められたが、それらに関連する身体活動の種類、強度、頻度などは対象や把握したい効果により異なっていた。
結論

公開日・更新日

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