農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究

文献情報

文献番号
200000864A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松島 松翠(長野県厚生連佐久総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村巌(旭川厚生病院)
  • 松島松翠(佐久総合病院)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 宮原伸二(川崎医療福祉大学)
  • 小山和作(日赤熊本健康管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後当然予想される高齢・少子社会を健康で活力あるものとし、質の高い生活を確保していくためには、単に疾病の早期発見・早期治療のみならず、疾病の発生予防を主眼とすべきであり、そのために健康増進を含む総合的な対策が必要になってきている。本研究は、検診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教育活動を実施することによって、それが疾病予防及び医療費の軽減にどの程度役立つかを研究することを目的とする。
研究方法
北海道では、国保加入者について、過去5年間継続して検診を受けている群(受診群)と、5年間全く検診を受けていない群(非受診群)とについて、または過去5年間、健康づくり活動に参加している群(参加群)と全く参加していない群(非参加群)について、国保レセプトの分析によって、一人当たりの年間国保医療費を算出し、比較検討した。
長野県では、町村の検診として実施している県厚生連の「集団健康スクリーニング」から、比較的受診率の高い31カ町村を選び、5年間の連続検診受診者と殆ど受診していない者について、各疾患の有病率(高血圧、心疾患、胃・十二指腸疾患、肝機能障害、糖尿病・高血糖、高脂血、貧血、運動器疾患、肥満)及び日常生活習慣(食生活、嗜好、運動実施状況)について、経年的に比較検討した。
島根県では、出雲市の町村を対象に、介護保険導入にともなう各資料の分析により、介護サービスの需要および供給予測、第1号被保険者の保険料の設定、町・県・国から支出される介護保険予算の試算、介護保険導入による町民への利益と負担等について検討し、その費用・効果について分析した。
高知県では、医療費に格差がみられる二つの町村を比較し、老人医療費内容、健診受診率、地元医療機関受診率、在宅死亡率、健康知識・意識、健康づくり運動、心の健康状態等との関連について分析した。
熊本県では、個人別にみた健康増進活動の費用・効果分析を行う目的で、熊本県K町の健診受診歴と国保医療費について検討した。また平成9年5月分のレセプトについては、診療明細の診療区分を調査し、健診受診群と健診未受診群の医療費構造を比較検討した。
結果と考察
国保加入者についての調査では、連続受診群あるいは健康づくり運動参加群は、一人当たり一般医療費及び老人医療費が低く、またそ費用の差は、検診、健康教育活動に要した一人当たりの費用の差を上回っており、その効果が大きいと考えられた。また健診を積極的に受診している群では、未受診群に比べて医療機関を受診している者の数は多くなるものの、一人当たりの平均医療費は明らかに低額で、このため受診群では医療費の総額が著しく低い結果となった。
検診の5年間継続的受診者の有病率および日常生活の推移では、そうでない者と比較して、有病率ではあまり変化がなかったが、日常生活では、食生活(卵、肉類、魚類、大豆類、海草類、油料理等)と、運動・体操実施状況について大きな改善がみられた。しかし、タバコについては男女とも差はみられず、その教育の困難なことを示した。
介護保険導入による町民の負担増については、保険料の設定と介護サービス利用の一部負担金が増額となったが、一方、介護サービス面では、特別養護老人ホーム開設、短期入所10床の設置、E型デイサービス開設、訪問看護サービス開始など、その利用が飛躍的に充実した。
健康行動、健康習慣、健康知識など、保健、医療、福祉に関わる知識や意識についての調査では、検診受診率が高い住民のほうが、受診率が低い住民に比して健康意識が高く、健康行動の実践や保健・医療・福祉に関する知識や情報も的確につかんでいる人が多くみられた。さらに、NK活性調査を実施した結果、親しい友人がいて、満足な関係にあり、さらにストレスがないと意識している人がNK活性が最も高値であった。
国保レセプトよる検診継続受診者における医療費の分析では、検診を積極的に受診しているものは、そうでない者と比較して一人当たりの年間国保医療費が低いという結果が得られた。また健診受診回数が多いほど、医療費抑制効果も高くなる傾向を認めた。健診受診群では、医療費の入院外は変わらないのに対して、入院の占める割合が受診回数に比例し、少なくなる傾向を認めた。また健診受診群の医療機関受診者一人に対する年間医療費は健診未受診群にくらべ約半額であった。今回の研究の結果、疾病の発症予防を目的として行われる健診は、とくに入院医療費抑制の効果があり、国民の健康増進のために今後も広く整備が必要であると考えられた。
今回の調査で医療機関の受診動向をみると、検診受診者の方が医療機関受診率が高いことが特徴である。その理由として、一つは健診で疾病を早期に発見し、早期に医療機関を受診していることがあげられる。この場合は外来治療がまず主になり、入院治療を受けるものは比較的少なくなる。基本健診受診回数が多いほど、入院医療費の占める率が少なく、健診未受診者ほど高額医療費を要するものが多いという結果が出ているが、入院医療が多いかどうかということが、医療費の動向を左右する重要な要因である。健診受診は重病を予防し、とくに高額な入院医療費の低減に効果があることを示している。
結論
まず検診活動及び健康増進活動が充実している町村とそれが低くとどまっている町村との比較では、検診活動および健康教育活動が、とくに老人医療費を低下させており、費用効果の点から見ても効果が大きいことが分かった。また医療費に格差がみられる二つの町村の比較では、老人入院医療費が低く、健診受診率、地元医療機関受診率、在宅死亡率が高く、また健康知識・意識が高く、健康づくり運動に熱心で、心の健康状態もよいことが医療費低減に役立っていることが分かった。
国保レセプトによる分析では、検診を継続的に受診している者、あるいは健康づくり活動に積極的に参加している者は、そうでないものと比較して、一人当たりの年間国保医療費が低いという結果が得られた。両者の差額は、費用としての検診受診料をはるかに上回るものであり、費用効果は十分あると考えられた。
一方、検診継続受診者における各疾患の有病率および生活習慣について、その改善効果を比較検討したが、食生活、運動・体操実施状況については検診連続受診者にその改善がみられた。
介護保険導入による費用効果の分析では、被保険者の保険料と介護サービス利用の一部負担金が費用増加となるが、一方では、在宅介護サービスの強化、特別養護老人ホームの開設、短期入所の設置、デイサービス開設など、要介護者にとってサービスの拡大が図られ、その内容は飛躍的に充実すると考えられた。

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