文献情報
文献番号
200000863A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における生活習慣病の臨床疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
林 雅人(平鹿総合病院)
研究分担者(所属機関)
- 藤原秀臣(土浦協同病院)
- 西垣良夫(佐久総合病院)
- 山根洋右(島根医科大学)
- 高科成良(廣島総合病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年日本人のライフスタイルは農村部で都市化傾向が徐々に進んでいる。このような背景をふまえて、これからの農村における生活習慣病対策に役立つ生活習慣の予防方法について1998年より臨床疫学的研究を行ってきた。1)本年は1995年度と5年後の平成2000年度の検査値から経年変動を地域別に比較した。秋田では生活習慣が死亡とどのように関連しているかの検討を続ける。2)生活習慣が健康指標に及ぼす影響を生活習慣についてアンケート調査を実施し、健診データとの関連を検討する。3)生活習慣病における運動療法とQOLの関連について検討した報告は少なく、QOL自体の評価法も確立していないのが現状である。本年は外来通院中の高血圧患者に運動療法を施行し、治療効果およびQOLの改善について検討する。
研究方法
1)秋田、長野、島根、広島の4地域農村部において1995年度と5年後の集団健診の成績から経年変動を地域別に比較し、その地域特性を抽出した。対象は1995年度と2000年度の健診を受診した各々10,214人・10,394人とした。2)生活習慣が健康指標に及ぼす影響については同4地域の1999、2000年に受診した30歳以上の男性3,696人、女性5,984人、計9,680人を対象に生活習慣調査をし比較検討した。3)今年度の運動療法についての研究は茨城で高血圧の運動療法とQOLに関して検討したが、一日の歩行数、食事療法の遵守、服薬状況などを患者の記録によって行った。QOL評価はLPC式の調査票を用いて運動開始前と終了後に検討した。
結果と考察
健診成績の経年変化より地域差を抽出し、その要旨を結論の一部として示した。また各地域の生活習慣病の疫学的研究で得られた成績は1)秋田では年齢別健診結果と生活習慣からみた生存率の検討を行った。1989年度基本健診を受診した15,729 人を対象とし基本健診のデータとその後10年間の死亡者比率を男女別、年齢別(40~64歳の中年群、65~74歳の高齢群)に分けてKaplan-Meier法で生存率曲線により検討した。その結果、①収縮期血圧は男女、中年、高齢群すべてにおいて正常群の生存率が高く、血圧高値群程生存率が低くなっていた。また女性より男性、高齢群より中年群でより明確な有意差がみられた。②BMIについて男性ではやせ群の生存率が低く、高齢男性はがん死亡者を除外しても有意に低かった。③空腹時血糖は男女、中年、高齢すべてで正常群の生存率が高率であった。④男性の喫煙は中年、高齢群とも非喫煙群の生存率が有意に高く、中年群はがんを除いても有意であった。⑤HDLコレステロールはいずれの群も低値群の生存率が低い傾向にあった。高値群も生存率が低く、中年男性においては正常群との間に有意差がみられた。⑥血清総コレステロールは男性中年の生存率の差は小さいが低値群は高値群に比し有意に低かった。しかしがん死亡者を除外すると有意差がみられず、がん死亡による影響と考えた。一方高齢男性は中年より血清総コレステロール低値群の生存率が明確に低く、5年以内のがん死亡例を除外してもその傾向は変わらなかった。⑦血清アルブミンは高齢男性で低値群に比べ正常群の生存率が高かった。⑧血清アルブミンと血清総コレステロールは男女、中年・高齢すべてにおいて有意に正相関しており、がん死亡例を除外してもその傾向は変わらなかった。この相関は高齢者程より明確であった。これらのことから基本健診で得られた高齢者高コレステロール血症に対する食事指導は若中年者と同様に制限すべきではないと思われる。⑨死因別異常者頻度について有意差のあった項目は中年男性で収縮期高血圧と脳血管疾患、がん6年以上、不慮の事故。拡張期血圧と脳血
管疾患、がん6年以上。血清総コレステロール低値とがん5年以内。肝機能異常と自殺、がん6年以上。高齢男性では拡張期血圧と脳血管疾患。肝機能異常とがん5年以内、がん6年以上、肥満者は肺疾患が少なかった。長野では、生活習慣病の実態とその予防対策の研究として、長野県佐久市及び南佐久郡の3,161人について1990年度、1995年度、2000年度の全ての年度で集団健康スクリーニングを受診した同一人について医学的検査、生活問診について検討した。農村地域ではいまだ重要な高血圧については、治療中の人が直線的に増加し、10年間で1.7倍(男)~1.8倍(女)となる。治療中の人を除いた高血圧(140/90mmHg以上)の割合は男女ともに変わらない。血液生化学検査の中でアルブミンは30歳以上で加令とともに男は直線的に漸減傾向にあり、男女の平均値の差は加令とともに減少し逆転の現象が認められ、男女の平均寿命の差に関連するものの一現象として注目される。島根ではMultiple Risk Factor Syndromeの実態を検討した。その結果、活動改善によるLDL径改善効果が有意に認められた。一方、食行動改善によるLDL径改善効果を認めなかった。このことから、今回のプログラムによるLDL径改善は、活動量(歩行量)の増加によると考えられる。酸化LDLが運動によって減少することが報告されているが、歩行増加によってLDL径が改善された報告は本研究が最初である。広島では健診受診者経年観察による生活習慣病発症状態および予防に関する検討をした。健診受診者の経年観察結果により粥状硬化症と関連の強い肥満、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症も比較的簡単な指導によりその約20~50%が改善することが判明した。健診受診時生化学検査成績が「著変なし」と判定されても正常域危険指標をBMI24.0 Kg/m2、収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧85mmHg、空腹時血糖100mg/dl、コレステロール200 mg/dlとした場合、正常域危険指標以上すなわちBMI24.0~25.9 Kg/m2 、収縮期血圧130~139mmHg、拡張期血圧85~89 mmHg、空腹時血糖100~109 mg/dl、コレステロール200~219 mg/dlからは正常域より肥満、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の発症率が高いことが判明した。生活習慣における運動療法と QOLの関連についての検討は茨城で外来通院中の高血圧患者で施行した。1)血圧については、運動療法の結果、収縮期血圧、拡張期血圧ともに低下がみられ、特に運動良好群では拡張期血圧が下がる傾向がみられた。2)運動良好群では、自覚症状の改善や体重減少も明らかであった。3)QOLからみて、運動療法は心身の安定性、食事への注意などの改善がみられ、特に運動良好群では塩分摂取、肉油脂の摂取の改善が明らかであった。一方生活習慣が健康指標に及ぼす影響について、4地域で健診受診時に食習慣と生活習慣についてアンケート調査を実施し健診データとの関連をまとめた。その要点は1)地域別、年代別摂取状況を比較してみると広島の若年者は肉類の摂取が多く、秋田、長野が少ない。魚介類については各年代共に広島の摂取回数が低率で、秋田、長野が多く特に高齢者でその傾向が強かった。また、秋田は大豆製品が最も多く、漬物、汁物は秋田、長野が多かった。これらの事は広島が都市型で、秋田、長野は農村型の食生活であることを示している。2)健診データと食品の摂取回数別異常者頻度を比較すると、卵類の摂取回数が少ない人は血清総コレステロール異常者頻度が高率であるなど健康指標の悪化に注意した食生活へ努力していると推測された。3)全体的に加齢と共に食生活を注意する傾向がみられるが、特に女性は健康指標が悪いと肉類や卵類などの食品の摂取回数が少なくなっており、意識的に制限していた。一方、若壮年の男性では肉類、魚介類、牛乳など全体として摂取回数が多い人ほど血清総コレステロールの異常者頻度が高く、食事全体のライフスタイルに問題があることを示していた。
管疾患、がん6年以上。血清総コレステロール低値とがん5年以内。肝機能異常と自殺、がん6年以上。高齢男性では拡張期血圧と脳血管疾患。肝機能異常とがん5年以内、がん6年以上、肥満者は肺疾患が少なかった。長野では、生活習慣病の実態とその予防対策の研究として、長野県佐久市及び南佐久郡の3,161人について1990年度、1995年度、2000年度の全ての年度で集団健康スクリーニングを受診した同一人について医学的検査、生活問診について検討した。農村地域ではいまだ重要な高血圧については、治療中の人が直線的に増加し、10年間で1.7倍(男)~1.8倍(女)となる。治療中の人を除いた高血圧(140/90mmHg以上)の割合は男女ともに変わらない。血液生化学検査の中でアルブミンは30歳以上で加令とともに男は直線的に漸減傾向にあり、男女の平均値の差は加令とともに減少し逆転の現象が認められ、男女の平均寿命の差に関連するものの一現象として注目される。島根ではMultiple Risk Factor Syndromeの実態を検討した。その結果、活動改善によるLDL径改善効果が有意に認められた。一方、食行動改善によるLDL径改善効果を認めなかった。このことから、今回のプログラムによるLDL径改善は、活動量(歩行量)の増加によると考えられる。酸化LDLが運動によって減少することが報告されているが、歩行増加によってLDL径が改善された報告は本研究が最初である。広島では健診受診者経年観察による生活習慣病発症状態および予防に関する検討をした。健診受診者の経年観察結果により粥状硬化症と関連の強い肥満、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症も比較的簡単な指導によりその約20~50%が改善することが判明した。健診受診時生化学検査成績が「著変なし」と判定されても正常域危険指標をBMI24.0 Kg/m2、収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧85mmHg、空腹時血糖100mg/dl、コレステロール200 mg/dlとした場合、正常域危険指標以上すなわちBMI24.0~25.9 Kg/m2 、収縮期血圧130~139mmHg、拡張期血圧85~89 mmHg、空腹時血糖100~109 mg/dl、コレステロール200~219 mg/dlからは正常域より肥満、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の発症率が高いことが判明した。生活習慣における運動療法と QOLの関連についての検討は茨城で外来通院中の高血圧患者で施行した。1)血圧については、運動療法の結果、収縮期血圧、拡張期血圧ともに低下がみられ、特に運動良好群では拡張期血圧が下がる傾向がみられた。2)運動良好群では、自覚症状の改善や体重減少も明らかであった。3)QOLからみて、運動療法は心身の安定性、食事への注意などの改善がみられ、特に運動良好群では塩分摂取、肉油脂の摂取の改善が明らかであった。一方生活習慣が健康指標に及ぼす影響について、4地域で健診受診時に食習慣と生活習慣についてアンケート調査を実施し健診データとの関連をまとめた。その要点は1)地域別、年代別摂取状況を比較してみると広島の若年者は肉類の摂取が多く、秋田、長野が少ない。魚介類については各年代共に広島の摂取回数が低率で、秋田、長野が多く特に高齢者でその傾向が強かった。また、秋田は大豆製品が最も多く、漬物、汁物は秋田、長野が多かった。これらの事は広島が都市型で、秋田、長野は農村型の食生活であることを示している。2)健診データと食品の摂取回数別異常者頻度を比較すると、卵類の摂取回数が少ない人は血清総コレステロール異常者頻度が高率であるなど健康指標の悪化に注意した食生活へ努力していると推測された。3)全体的に加齢と共に食生活を注意する傾向がみられるが、特に女性は健康指標が悪いと肉類や卵類などの食品の摂取回数が少なくなっており、意識的に制限していた。一方、若壮年の男性では肉類、魚介類、牛乳など全体として摂取回数が多い人ほど血清総コレステロールの異常者頻度が高く、食事全体のライフスタイルに問題があることを示していた。
結論
農村部における地域差をみる目的で、4地域を対象として、集団健診成績から5年間の経年変動を地域別に比較した。その主なものは1)BMI:都市近郊農村の広島では男女各年代とも下降していた。一方平地、山
間農村の島根で40代、50代の男性で上昇、秋田は50代、60代で上昇、長野は60代で上昇傾向、その他は下降傾向にあった。女性では島根の40代、秋田の70代が上昇傾向にあるが全体として下降傾向にあった。同じ農村といっても地域特性をみながらの指導が必要と思われる。2)収縮期血圧:40代、50代の男性で2000年度の収縮期血圧は全体として下降傾向にあり、60代、70代は全地域で下降している。女性は50代の島根と70代の秋田が2000年度にやや上昇しているが他の各年代・地域では下降していた。全体として血圧は明確な下降傾向を示していた。3)血清総コレステロール:地域により方向性が一定せず地域特性を考えながらの指導が必要と思われた。例えば男性でみると40代、60代の秋田、島根で上昇、70代では島根、広島が上昇しており、秋田、長野では下降している。女性も同様で島根の40代の上昇には注意が必要だが秋田、長野、広島は下降していた。近年、農村部の血清総コレステロールは急上昇している地域が多い。しかし、今回の調査では同じ農村といっても地域のバラツキがみられ農村内でもその地域特性を考えた指導の必要性が示された。4)HDLコレステロール:全地域で2000年度に上昇しており、男女各年代で同傾向であった。高血圧患者の運動療法の有効性とQOLに対する効果の検討では血圧の下降効果が認められたのみならず、QOLを向上させることが示唆された。QOLからみて心身の安定性、食事への注意などの改善がみられ、特に運動良好群では塩分摂取、肉油脂の摂取の改善が明らかであった。
間農村の島根で40代、50代の男性で上昇、秋田は50代、60代で上昇、長野は60代で上昇傾向、その他は下降傾向にあった。女性では島根の40代、秋田の70代が上昇傾向にあるが全体として下降傾向にあった。同じ農村といっても地域特性をみながらの指導が必要と思われる。2)収縮期血圧:40代、50代の男性で2000年度の収縮期血圧は全体として下降傾向にあり、60代、70代は全地域で下降している。女性は50代の島根と70代の秋田が2000年度にやや上昇しているが他の各年代・地域では下降していた。全体として血圧は明確な下降傾向を示していた。3)血清総コレステロール:地域により方向性が一定せず地域特性を考えながらの指導が必要と思われた。例えば男性でみると40代、60代の秋田、島根で上昇、70代では島根、広島が上昇しており、秋田、長野では下降している。女性も同様で島根の40代の上昇には注意が必要だが秋田、長野、広島は下降していた。近年、農村部の血清総コレステロールは急上昇している地域が多い。しかし、今回の調査では同じ農村といっても地域のバラツキがみられ農村内でもその地域特性を考えた指導の必要性が示された。4)HDLコレステロール:全地域で2000年度に上昇しており、男女各年代で同傾向であった。高血圧患者の運動療法の有効性とQOLに対する効果の検討では血圧の下降効果が認められたのみならず、QOLを向上させることが示唆された。QOLからみて心身の安定性、食事への注意などの改善がみられ、特に運動良好群では塩分摂取、肉油脂の摂取の改善が明らかであった。
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