地域在宅高齢者の望ましいADL・QOL維持に関する縦断的介入研究

文献情報

文献番号
200000862A
報告書区分
総括
研究課題名
地域在宅高齢者の望ましいADL・QOL維持に関する縦断的介入研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 新開省二(東京都老人総合研究所)
  • 星 旦二(東京都立大学大学院)
  • 西川武志(北海道教育大学)
  • 田中政春(医療法人楽山会三島病院)
  • 高橋 誠(新潟大学)
  • 藤原佳典(東京都老人総合研究所)
  • 高林幸司(東京都老人総合研究所)
  • 南 学(京都大学大学院)
  • 芦田 昇(京都大学大学院)
  • 山崎雅秀(京都大学大学院)
  • 長谷川明弘(東京都立大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、地域高齢者を対象に老化のプロセスを医学・心理学・社会学といった学際的視点から経年的に観察し、その規定要因を明らかにし、その中で制御可能な要因については当該自治体と連携し、対高齢者行政サービスとして提供可能な介入プログラムを開発し提言することである。また、老化を客観的データとして捉える視点も重視し、日常診療や地域での健診の際にも導入可能な簡便な生化学的マーカーの開発も試みた。
研究方法
平成10年度(初年度)から、次の6つの項目について実施した。①健常高齢者を対象とした研究:平成11年度追跡調査を実施した介入群(新潟県J市在住の60歳以上コホート385名)に対して、対照群(熊本県K市在住の60歳以上コホート634名)を設定し、医学検査及び生活調査による追跡を行った。介入地域では観察期間に、多数の自主グループの育成を行い、その育成の過程から自主グループそのものものの存在意義、つまり「健康づくりにおける仲間づくりや地域環境の重要性」について、常に確認しあいながら多彩なプログラムによる相互学習を繰り返した。②虚弱高齢者を対象とした研究:地域医療機関(新潟県Y町隣接)の通院患者を対象に、高次生活機能(老研式活動能力指標)とQOL(健康度自己評価)の変化に及ぼす慢性疾患の影響を3ヶ月間追跡し、その関連性を検討した。
③農村部(新潟県Y町在住の65歳以上全1673名)、及び都市部(埼玉県Hニュータウン在住の65歳以上全1213名)の地域高齢者に対し、介護予防に関する健康調査を実施した。特に軽度認知機能(MMSE)と高次生活機能(老研式活動能力指標)の分布及び、それらの関連要因について身体医学的、心理学的、社会学的分野から学際的に分析した。④都市部郊外(神奈川県F町)の地域高齢者を対象として、「転倒予防教室」(1クール2.5ヶ月間)を行った。そのプログラムに心理学的リハビリテーションの一つとして近年注目を寄せている「臨床動作法」を導入した。⑤老化の生化学的マーカーに関する研究:アミロイドβタンパク(Aβ42)とインターロイキン(IL-1β、IL-6)について、健常高齢者における血漿中濃度を測定した。次にアルツハイマー型痴呆患者(AD)群と健常者についても比較検討した。⑥健康教材の開発に関する研究:初年度から自主グループにおいて活用するために相互学習を目的とした教材を開発した。
結果と考察
本研究班では3ヵ年の計画で大きく分けて三つの研究を進めた。①健常高齢者に対して、主体性を高めるような健康づくりを目指す研究:その介入方法は従来のようにテーマごとの各論的健康教室を媒体とするものではなく、地域高齢者同士が相互学習方式をとる自主グループの育成につとめるものであった。介入地域を新潟県J市に在住する健常地域高齢者385名とし、健康づくりにおける主体性や自主グループの重要性を啓発しながら、その育成を3~4年間支援し続けた。介入事業の実践手段として、「自主グループ参加者や所轄保健婦等とともにグループとしての活動目標を設定し、住民自身が多様な保健プログラムから選択し,時には自らが事前に学習した話題(市内のウォ-キングマップ作成や伝承料理をヘルシーにアレンジするなど)を提供したり、講師となっての双方向性の学習を展開した。こうした介入により対照群(熊本県K市在住634名)に比べてQOL(健康度自己評価)の維持・改善がみられ、その後も保健行動に対する住民の主体性の向上や住民相互のネットワークづくりに対して効果をあげてきた。②慢性疾患通院中の高齢者や軽度認知機能低下者など、いわゆる虚弱高齢者へのアプローチ:新潟県三島郡Y町において実施。短期間の追跡調査あるいは断面調査ではあったが、高次生活機能、QOLや認知機能が低下する要因は身体・医学的、心理・社会的に多様であり、学際的アプローチの重要性が示唆された。③日常診療や地域での健診の際に導入可能な簡便な生化学的マーカーの開発:従来の健康診断は中年層にむけた、生活習慣病対策に傾倒しているといっても過言ではなく、今後は、介護予防をにらんだ老化そのものへの健診のあり方も考える必要がある。そこで、老化に関与する生化学的マーカー(アミロイドβタンパク、IL-1β、IL-6)について地域住民を対象に測定したところ、加齢変化はみられたものの、脳機能の低下とは関連を認めなかった。
結論
①地域健常高齢者を対象とした、自主グループの育成による短中期的介入研究では、QOL(健康度自己評価)の維持・改善がみられた。②慢性疾患で通院中の高齢者や軽度認知機能低下者については、高次生活機能やQOL、認知機能の低下要因は、心理的、身体・医学的、社会的に多様であった。しかし、これらの要因は概ね、老年症候群を有する「虚弱高齢者」全般に共通する特徴であった。介護予防における学際的アプローチの重要性が再認識された。③血漿Aβ及びIL-6は老化に関与する簡便な生化学的マーカーとして注目していたが、加齢変化を示したものの、脳機能の低下とは直接には、関連しなかった。本研究の成果は、地域高齢者のADL・QOL維持を目的とした介入プログラムの開発のため、有用な資料になるものと考えられた。

公開日・更新日

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