保健サービスによる寝たきり予防活動に関する調査研究

文献情報

文献番号
200000861A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスによる寝たきり予防活動に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
池上 直己(慶応義塾大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会における保健婦活動として、寝たきり予防活動が重要な役割を占めることになる。ところが、このような寝たきり予防活動の対象となる者が地域にどのくらい存在するのかは必ずしも明らかではなく、また、どのようなサービスを提供することが適切であるかについても明確ではない。そこで、本調査研究では、(1)地域において寝たきり予防活動の対象となる住民がどの程度存在するか、(2)そのような対象者に対してどのような訪問指導を行い、またはサービスを調整することが適切なのか、をそれぞれ把握し、(3)実際の保健予防サービスを寝たきり予防活動の対象者に対して試行的に提供し、どの程度効果が発揮できるかを調査分析することを目的とする。
研究方法
(1)寝たきり予防活動の対象者把握の方法として、地域の高齢者を母集団とする無作為抽出のアンケート調査を行った。
(2)訪問指導の効果を分析するために、寝たきり予防対象者を介入群と対照群に分け、3ヵ月ごとに介入群への訪問を行った。
(3)訪問指導の内容を検討し、サービス調整の方法として、MDS-HC (Minimum Data Set - Home Care 在宅ケアアセスメント表)を用いて予防的ニーズを把握するとともに、MDS-HCから導かれるCAPs(Client Assessment Protocols 在宅ケアプラン指針)を用いて訪問指導計画を作成するとともに必要なサービスを検討した。なお、対象者の状態やアドバイスの内容、対象者の行動の変化を記録する「訪問記録表」を考案した。
(4)最後に介入群と対照群に対するアンケート調査を再度実施し、介入群と対照群の状態やサービス利用状況の変化から訪問の効果を測定するとともに、参加保健婦に対するアンケート調査を行い、主観的な訪問効果について把握した。
(倫理面への配慮)
調査対象者の倫理面に配慮し、保健婦による訪問に対する承諾を得るとともに、調査票等はID番号で管理し、決して外部に氏名等が漏れないようにした。
結果と考察
1)訪問実態について
介入群に対しては3ヵ月の間隔を基本として保健婦* 対象外とした。
(2)訪問記録用紙
訪問するたびに、把握できた対象者の状況、保健婦によるアドバイス、本人と合意した内容、次回訪問時の留意すべき点を記入する用紙を開発し、使用した結果を基にした意見から改善を重ねた。対象者ニーズの把握の手順については、①訪問した際の全体の印象(前回との違い)、②話を聞きながらニーズの把握(これにより①の印象の根拠が把握できる)、③CAPを念頭にした分析とアドバイス、④個々のニーズを踏まえ全体状況をまとめる、という流れであることが確認された。その流れに沿って、記録用紙及び記入要綱を改善し、最終形を考案した。なお、訪問以外の電話等での対応については、対象者ごとに、対応した日時、連絡・相談の内容、保健婦の対応を記載するための「連絡・相談記録票」を別途用意して記録した。
(3)ケースカンファレンス
全体で25ケースについてカンファレンスを実施した。意見交換の内容としては、「困ったときの相談窓口を知らせる必要がある」「具体的な目標設定が必要」「訪問口腔衛生指導の導入により、歯科受診に結びつく可能性がある」などがあった。抽象的な指導ではなく、具体的な行動に結びつくような話し合いが行われた。
(4)訪問の効果
訪問終了時に、本調査に参加した保健婦及び管理者を対象として、寝たきり予防者抽出方法や訪問の効果に関するアンケート調査を実施した。その結果、寝たきり予防を把握するための方法として、今回のような無作為アンケート調査が適切だと思われると回答した者は5割強であった。また、訪問に効果があったと思われる対象者数は合計で104名(42.8%)、効果はよく分からなかった者が112名(46.1%)で、1~2年の訪問でも4割以上に効果が表れていることが分かった。
(5)介入群と対照群の変化
訪問終了時に、介入群と対照群に再び同じアンケート調査を行い、対象者の変化を追った。その結果、Euro QOLのEQ-5Dの健康関連QOL尺度を構成する5項目、「移動の程度」「身の回りのこと」「ふだんの活動」「痛みや不快感」「不安やふさぎこみ」について個別に比較した結果、介入群に改善がみられる項目があった。また、これら5項目の評価を、日本の価値表に基づいて効用値に換算した結果、介入群、対照群とも平成10年と平成12年の平均値では大きな差は見られなかった。
しかし、C地区では、介入群は対照群に比べて、それぞれ5%水準で統計的にはEuro QOLの効用値が優れており、また臥床日数が少なかった。今後、対象者全体に対して、①訪問回数、②保健婦の有効性の自己評価の高低、③訪問記録をいくつかのチェック項目で評価し一定以上のレベル、などでケースを抽出し、保健予防訪問の有効性を詳細に検証する予定である。
(6)対象者の主観的な評価
この1~2年で特に気をつけるようになったことでは、「規則正しい食事をする」「うす味の物を食べるようにする」「運動などをする」「睡眠を十分とる」「たばこを吸わない」「歯磨きや入れ歯磨きなど歯の健康に注意する」の項目で介入群が対照群を上回った。
さらに、介入群のアンケートには、訪問を受けたことに対する設問を追加した。その結果、訪問を受けてよかった点を具体的に記入した回答は8割近くあり、内容としては「訪問を受けて心強かった」「ためになる話を聞けた」「不安感がなくなった」などであった。また、このような保健婦による訪問活動を広めた方がよいかという問に対して、「とてもそう思う」が53.2%、「まあそう思う」が23.1%となっており、このような訪問を広めるべきだと考えている者が8割近くであった。
研究期間が2年と短かったこと、サンプル数が少ないため、十分に分析できなかった項目もあったものの、研究開始時に行ったアンケートと、終了時に行ったアンケートより、介入群、対照群の健康観、健康状態には差があることが分かった。また、介入群の8割近くがアンケートの「訪問を受けてよかった点」に記述しており、訪問の効果は大きかったと考えられる。
結論
寝たきり予防活動の対象者を把握することは必ずしも容易ではなく、本研究では、アンケートにより健康者と要介護者等を除外する方法を採用した。このように把握された予防対象者は、65歳以上の在宅高齢者のおよそ6人に1人を占めており、アンケートによる把握は費用の観点から問題を残すが、今後、行政として対象人口を同定するうえで参考になろう。
次に、把握された対象者を、介入群、対照群に無作為に分けて2年間追跡することにより予防活動の効果を分析した結果、介入群の方が良いアウトカムとなっている傾向もみられたが、今後より詳細な統計的検証を行う必要がある。また、保健婦による予防活動のためのマニュアル作成等を完成させる予定である。

公開日・更新日

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