文献情報
文献番号
200000857A
報告書区分
総括
研究課題名
保険者の展開する健康・体力増進事業効果の特徴と改善点に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
勝木 道夫(財団法人 北陸体力科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 勝木達夫(リハビリテーション加賀八幡温泉病院)
- 篁俊成(金沢大学医学部第1内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
3ケ月間の運動を中心とした生活習慣改善指導事業が、その後どの程度維持されているかを確認するために、1年後のフォロ-アップ調査を実施し、運動の継続の確認と健康と体力の状態をみた。つぎに、肥満は生活習慣病をひきおこす重要な危険因子となることから、肥満者の運動療法において、遺伝子関連の検査を行い有効なプログラムの作成が可能かを検討した。さらに実施方法として、集団指導による健康教育に加えて、個別に指導と援助を中心にアプローチする個別健康教育を実施し、目標の達成度により評価と分析をおこなった。
研究方法
昨年3ヶ月間の生活習慣改善事業に参加した対象者に、1年後にフォローアップとして、昨年と同様に実施する調査および測定への参加のよびかけに応じた231名を対象とした。分析は疾患別に高血圧症、高脂血症及び肥満について実施した。次に肥満者の運動療法において、肥満遺伝子分泌蛋白であるレプチンを測定しその有用性を検討するとともに、肥満関連遺伝子であるβ3アドレナリン受容体(β3AR)と脱共役蛋白質-1(UCP-1)遺伝子の変異が運動療法の効果に及ぼす影響を検討した。さらに、個別健康教育において、カウンセリング担当者は、個別指導記録表をつけ、適宜指導評価を行った。健康教育の指導内容は対象者ごとに異なるが、参加者はまず自分の大目標と小目標を立てる。小目標は大目標達成のためにステップアップしていくもので、比較的身近な内容としている。それらの目標を達成するために、月に1度の個別指導(カウンセリング)を行い、対象者とフェイス・トゥ・フェイスの関係を保ちながら、目標の実行を阻むバリアを一つひとつ顕在化させ、それに対するアドバイス、家族も含めた支援体制づくり、行動変容の有無、目標の達成度に関する自己評価などを記録していくこととした。
結果と考察
1年後の測定結果においては、疾患別にみると高血圧症者において、男女ともに収縮期血圧および拡張期血圧の有意な低下が認められた。今回、実施した運動の調査では、有酸素運動は事業後有意に増加していたが、1年後は初回値と比較し若干の増加傾向はあったが有意差は認められなかった。このことは有酸素運動としては、継続効果がみられなかったが、自分にあった運動としてその他の運動を継続した結果、血圧の低下をもたらしたものと考えられる。肥満については、体重、体脂肪率、BMIについて検討したが、有意な変化はみられなかった。これまでに、有酸素運動における運動強度が50%HRReserve程度でも、高血圧症の予防、改善に効果的である事が報告されているが、今回の健康づくり終了後も、強度の低い運動を定期的に継続していたことが考えられ、3ヶ月間の運動指導を中心とした健康づくり事業は、その後の継続性においても有効であることが高血圧症者において確認された。
肥満関連遺伝子が肥満者の運動療法の効果に及ぼす影響をみるために、肥満男性30名の末梢血白血球より遺伝子を抽出し、β3AR遺伝子とUCP-1遺伝子の解析を行った。β3AR遺伝子変異の頻度は、野生群20人(67%)、ヘテロ変異群6人(20%)、ホモ変異群4人(13%)であり、アレル頻度{(ホモ変異数x2+ヘテロ変異数)/( 全体数x2)} は0.23であった。また、UCP-1遺伝子変異の頻度は、野生群10人(33%)、ヘテロ変異群13人(43%)、ホモ変異群7人(23%)であり、アレル頻度は0.45であった。運動前の臨床指標とβ3AR遺伝子変異群、UCP-1遺伝子変異群との間で有意な相関は認められなかった。β3AR遺伝子変異群で運動療法による体脂肪率の改善に有意差が見られた(8.20%低下;p<0.05)。運動療法前後のBMIの変化量とβ3AR遺伝子変異群との間で有意な相関を認めなかったが、体脂肪率については、β3AR遺伝子変異群で有意な改善を認めた。従って、肥満関連遺伝子であるβ3AR遺伝子変異のある方が、運動療法を積極的に行えば体脂肪率の改善が得られやすいものと考えられる。また、肥満女性15名の3ヶ月間の健康づくり事業前後に血清レプチン濃度を測定した。レプチン値と体重との相関が、運動療法後に高くなったことから、レプチンや体重の変化率に影響を及ぼす要因を検討するために、運動療法実施前の体重とレプチンとそれぞれの変化率および体重あたりのレプチン濃度をL/Wとした指数との相関をとってみた。体重の変化率とレプチンの変化率は有意(p<0.01)な相関であった。さらに、体重変化率と相関の高かったにL/Wについて、これを2群にわけて各項目の事業前後での変化率を比較した。肥満者でも同様の数値を用いて群分けしたところ、L/Wの高い群は、低い群と比較するとレプチンや体重は有意な低下がみられたが、体脂肪量は両群とも事業後で低下していたが、2群間での有意差はみられなかった。また、最大酸素摂取量は事業後で増加したが、2群間での有意差はみられなかった。事業の中での運動療法の効果を最大酸素摂取量の増加でみるものとすれば3ヶ月間で2群とも同様に運動が実施されたものと推定される。つまり、事業後にL/Wの高い群ではレプチンが低下し、L/Wの低い群ではレプチンが上昇したという結果であった。このことは、レプチンと体重の相関が事業後に強くなった理由でもあると考えられる。
個別健康教育を実施した群では、参加者のうち、境界域から基準値内に改善した者は、耐糖能異常で12.5%、高血圧症で62.5%、高脂血症で48.4%であった。今回、集団指導では効果がみられなかったが、個別健康教育では顕著に効果があがった事例がみられた。個別健康教育を効率よく実施し、その成果が十分に得られるようにするためには、カウンセリングによって個人のプロフィールをより詳細に把握し、行動変容とその結果得られる精神的・身体的改善効果を阻むバリアが何であるかを探り、それを解消するための具体的なアドバイスや、周囲の人々による支援が必要不可欠であり、そのためのマニュアルづくりが急務と思われる。
肥満関連遺伝子が肥満者の運動療法の効果に及ぼす影響をみるために、肥満男性30名の末梢血白血球より遺伝子を抽出し、β3AR遺伝子とUCP-1遺伝子の解析を行った。β3AR遺伝子変異の頻度は、野生群20人(67%)、ヘテロ変異群6人(20%)、ホモ変異群4人(13%)であり、アレル頻度{(ホモ変異数x2+ヘテロ変異数)/( 全体数x2)} は0.23であった。また、UCP-1遺伝子変異の頻度は、野生群10人(33%)、ヘテロ変異群13人(43%)、ホモ変異群7人(23%)であり、アレル頻度は0.45であった。運動前の臨床指標とβ3AR遺伝子変異群、UCP-1遺伝子変異群との間で有意な相関は認められなかった。β3AR遺伝子変異群で運動療法による体脂肪率の改善に有意差が見られた(8.20%低下;p<0.05)。運動療法前後のBMIの変化量とβ3AR遺伝子変異群との間で有意な相関を認めなかったが、体脂肪率については、β3AR遺伝子変異群で有意な改善を認めた。従って、肥満関連遺伝子であるβ3AR遺伝子変異のある方が、運動療法を積極的に行えば体脂肪率の改善が得られやすいものと考えられる。また、肥満女性15名の3ヶ月間の健康づくり事業前後に血清レプチン濃度を測定した。レプチン値と体重との相関が、運動療法後に高くなったことから、レプチンや体重の変化率に影響を及ぼす要因を検討するために、運動療法実施前の体重とレプチンとそれぞれの変化率および体重あたりのレプチン濃度をL/Wとした指数との相関をとってみた。体重の変化率とレプチンの変化率は有意(p<0.01)な相関であった。さらに、体重変化率と相関の高かったにL/Wについて、これを2群にわけて各項目の事業前後での変化率を比較した。肥満者でも同様の数値を用いて群分けしたところ、L/Wの高い群は、低い群と比較するとレプチンや体重は有意な低下がみられたが、体脂肪量は両群とも事業後で低下していたが、2群間での有意差はみられなかった。また、最大酸素摂取量は事業後で増加したが、2群間での有意差はみられなかった。事業の中での運動療法の効果を最大酸素摂取量の増加でみるものとすれば3ヶ月間で2群とも同様に運動が実施されたものと推定される。つまり、事業後にL/Wの高い群ではレプチンが低下し、L/Wの低い群ではレプチンが上昇したという結果であった。このことは、レプチンと体重の相関が事業後に強くなった理由でもあると考えられる。
個別健康教育を実施した群では、参加者のうち、境界域から基準値内に改善した者は、耐糖能異常で12.5%、高血圧症で62.5%、高脂血症で48.4%であった。今回、集団指導では効果がみられなかったが、個別健康教育では顕著に効果があがった事例がみられた。個別健康教育を効率よく実施し、その成果が十分に得られるようにするためには、カウンセリングによって個人のプロフィールをより詳細に把握し、行動変容とその結果得られる精神的・身体的改善効果を阻むバリアが何であるかを探り、それを解消するための具体的なアドバイスや、周囲の人々による支援が必要不可欠であり、そのためのマニュアルづくりが急務と思われる。
結論
厚生省より委託された健康と体力の維持、増進、及び生活習慣病の予防並びにライフスタイルの改善を促すための健康科学総合研究事業を実施した結果、理解されたことは以下のとおりである。
1. 健康づくり事業終了後よりも、1年後に拡張期血圧がさらに有意に低下していた。
2. 収縮期血圧は終了直後の血圧を維持しており、初回の測定結果よりも有意に低下していた。
3. 3ヶ月間の運動指導を中心とした健康づくり事業は、継続性においても有効であることが高血圧症者において確認された
4. β3AR遺伝子変異があると運動療法による体脂肪率の改善に感受性を認めた。
5. β3AR遺伝子変異があると運動療法によるフルクトサミンの改善への抵抗性を認めた。
6. 運動療法前にレプチンを測定し体重あたりの値をもとめ、これが0.2以上と高い場合は運動療法による効果が期待されるが、0.2未満の場合は、運動療法に加えて低エネルギー食事療法などを組み合わせなければ、減量の効果が出にくい場合があることが予想された。
7. 個別健康教育事業の評価において、目標達成による評価ではカウンセリング担当者の主観的な評価になりがちであるため、日常生活での身体活動を反映する生活活動強度や、食生活を反映する摂取エネルギー等、客観的に評価することも必要である。
1. 健康づくり事業終了後よりも、1年後に拡張期血圧がさらに有意に低下していた。
2. 収縮期血圧は終了直後の血圧を維持しており、初回の測定結果よりも有意に低下していた。
3. 3ヶ月間の運動指導を中心とした健康づくり事業は、継続性においても有効であることが高血圧症者において確認された
4. β3AR遺伝子変異があると運動療法による体脂肪率の改善に感受性を認めた。
5. β3AR遺伝子変異があると運動療法によるフルクトサミンの改善への抵抗性を認めた。
6. 運動療法前にレプチンを測定し体重あたりの値をもとめ、これが0.2以上と高い場合は運動療法による効果が期待されるが、0.2未満の場合は、運動療法に加えて低エネルギー食事療法などを組み合わせなければ、減量の効果が出にくい場合があることが予想された。
7. 個別健康教育事業の評価において、目標達成による評価ではカウンセリング担当者の主観的な評価になりがちであるため、日常生活での身体活動を反映する生活活動強度や、食生活を反映する摂取エネルギー等、客観的に評価することも必要である。
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