地域における喫煙習慣への総合的介入とその評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000856A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における喫煙習慣への総合的介入とその評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大島 明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村正和(大阪がん予防検診センター)
  • 川畑徹朗(神戸大学)
  • 野津有司(筑波大学)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 福島俊也(大阪府健康福祉部)
  • 梅本愛子(大阪府池田保健所)
  • 柳 尚夫(大阪府和泉保健所高石支所)
  • 喜多義邦(滋賀医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるたばこによる死亡数は1995年には9.5万人で、総死亡数の12%を占めていたと推定されている。喫煙は予防しうる最大の疾病・早死の原因との認識のもとに、欧米先進国では種々の喫煙対策が実施され成果を上げているにもかかわらず、わが国での取り組みは欧米先進国に比べては著しく立遅れており、このため成人男性の喫煙率は50%強と欧米先進国の約2倍の異常な高さにとどまっている。
1998年の肺がん死亡数が胃がん死亡数を追い越し肺がんががん死亡のトップの座を占めるようになって、ようやくわが国でも、たばこがわが国の健康づくり、がん・循環器疾患の予防、早死の予防にとって緊急かつ最大の問題のひとつであるとの認識が深まりつつあり、2000年度から実施された「健康日本21」計画においても、健康づくりの要素として初めてたばこが取り上げられ、現在地方計画が作成されつつある。しかし、たばこ問題には、たばこ産業やたばこ農家、たばこ販売業者などのたばこ業界の存在が問題の解決を困難としているうえ、地域において具体的なたばこ対策をどのように展開していけばよいかは、必ずしも明らかではない。
本プロジェクトのまず第1の目的は、わが国の疾病・早死の単一で最大、かつ予防可能な原因である喫煙習慣に対して、地域ぐるみの対策を展開して介入し、このような取り組みが実行可能であり、また、成果を上げうることを調査研究として示すことである。あわせて、このプロジェクトを進めるなかで、喫煙習慣を社会の問題としてとらえて社会全体で解決し、たばこを吸わないのが当たり前という社会的規範を作りあげていくことを、中・長期的な目標とする。
研究方法
喫煙習慣への介入の内容としては、一般住民への啓発・普及(広報、セルフヘルプ教材の作成・配布、禁煙コンテストの実施など)に加えて、禁煙サポート(検診の場における禁煙指導、医療機関の場における禁煙指導、禁煙教室など)、防煙(学校教育における喫煙防止教育、地域・家庭で取り組む喫煙防止キャンペーンなど)、分煙(職場や公共の場所における分煙の推進など)、の3つが当面実施可能なものとしてあげることができる。
まず、モデル府県とした大阪府では、1999年5月「大阪府たばこ対策行動計画」を取りまとめ、保健所を地域におけるたばこ対策の拠点と位置付けるとともに、医療機関におけるたばこ対策の実態調査を実施したが、これに引き続き、2000年5月には、「大阪府におけるたばこ対策ガイドライン(医療機関編)」を取りまとめて公表し、医療機関における分煙と禁煙サポートの目標を設定して、この目標達成のための取り組みを開始した。
次に、今年度も初年度に引き続き、府県レベルの先進事例を収集してこれを情報提供するとともに、研究者の開発した各種プログラムの紹介をおこなうための講演会とワークショップを開催した。
結果と考察
モデル府県とした大阪府においては、1999年に「大阪府たばこ対策行動計画」を策定し、このなかで喫煙率半減目標を設定した。すなわち、1997年の喫煙率(男性53%、女性18%)を2002年に男性45%、女性10%、2007年に男性30%、女性5%に減少させる、とする目標を設定した。続いて、1999年度に病院における喫煙対策の実態調査と大阪府医師会会員診療所における喫煙対策実態調査を実施し、これらの調査結果を踏まえて2000年5月に「大阪府におけるたばこ対策ガイドライン(医療機関編)」を作成した。ガイドラインでは2005年までに府内の全医療機関における禁煙・完全分煙を実現する、すべての医療機関において何らかの禁煙サポートを実施する、の目標を掲げ、府医師会、府病院協会等の関係機関とともに、目標実現に向けて働きかけを開始した。さらに、保健所が行う病院に対する医療監視の機会を利用して、分煙や禁煙サポートの実態把握を行った。この結果は、2000年度末までにデータを収集し、2001年度上半期にデータ分析を行い、今後対策を推進する上でのベースラインデータとして用いる。大阪府たばこ対策行動計画において、保健所は地域におけるたばこ対策の拠点と位置づけられており、大阪府和泉保健所、池田保健所、豊能町においては保健所がコーディネーターとなってモデル的なたばこ対策に取り組んだ。また、大阪府医師会環境保健委員会は、府医師会長の諮問を受けて、2000年3月にたばこ対策に積極的に取り組むよう答申をまとめ、医療機関の分煙と禁煙サポートに取り組みつつある。2000年11月には地区医師会を対象として調査票を配布、1月には57地区医師会のすべてから回答を得た。全体を通してみると、地区医師会のたばこ対策に対する意識はようやく高まりつつあるが、具体的な行動に移すところまではまだ進んでいないということができる。今後、日本医師会のたばこ対策の取り組みのモデルとなるべく、Tobacco Control Centreから2000年に発行された"Doctors and Tobacco"を参考にしながら、「大阪府たばこ対策ガイドライン(医療機関編)」での目標の実現に向けて、取り組みを進めることとしている。
医療機関に次いで、禁煙原則に立脚した対策が求められるところは、学校など教育機関である。2000年度には、大阪府教育委員会安全衛生協議会や府立学校事務職員協議会での講演を通じて学校内完全分煙の実現に向けて働きかけた。
次に、これまでの国内外での地域ぐるみの喫煙対策の取り組みの実態やモデル事例を把握するとともに、今後の調査研究の進め方を検討するため、1999年度と2000年度に引き続いて、全国の府県の関係者や大阪府の保健所、市町村の関係者を対象に、2001年3月12日に、「地域における喫煙対策推進のための講演会」を開催した。第1部の喫煙対策に関する先進事例の紹介と研究者からの提言では大阪府の医療機関でのたばこ対策の取り組み、東京都の喫煙防止教育の取り組みに続いて、大和班員から職場や公共場所における分煙対策のあり方に関して具体的な提言が行われた。第2部の保健所・市町村における先進的な取り組みでは、大阪府和泉保健所高石支所、山形県村山保健所での喫煙対策の取り組みと、青森県深浦町での屋外自動販売機撤去条例成立までの経過が報告された。第3部では健康日本21地方計画作成におけるたばこの分野の問題をテーマにとりあげ、参加者から地方計画の進捗状況が報告された。年度末が迫っているにもかかわらず、33府県から182名の府県、保健所、市町村関係者が参加し、熱心な議論が行われた。この議論の中で、単に喫煙率半減目標を設定するかどうかにとどまらず、医療機関、学校、役所など禁煙原則に立脚した対策が望まれているところでの取り組みや、既存事業への禁煙サポートの積極的導入などの必要性が指摘されたことは特筆するべきである。
結論
本研究では、これまで研究者が開発した禁煙サポート、防煙、分煙の個々のプログラムを地域に導入して、これを評価したが、本研究によりたばこ対策に関する環境がまだ整っていない現在のわが国においても手順を踏めば実行可能なことが示された。
1999年実施の厚生省調査では、職場や公共の場所の分煙、喫煙防止・禁煙サポートの取り組みには70%以上のものが賛成したが、たばこ広告の禁止に賛成するものは約50%、たばこ税の値上げに賛成するものは約30%にとどまっていた。しかし、本研究の取り組みにより、たばこに関する法的規制や環境整備などへの理解を深めることができれば、これを2005年の「健康日本21」計画の見直しに反映させ、包括的なたばこ対策を全国的に展開することが可能となる。その結果、欧米先進国と同じように、わが国においても国民のたばこ離れを促進することが可能となり、肺がんをはじめとする喫煙関連疾患の減少が期待できる。

公開日・更新日

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