保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000852A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(東京大学大学院工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 関田康慶(東北大学大学院経済学研究科)
  • 信川益明(杏林大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会を迎え、地域の保健サービスは医療・福祉との連携のもとに提供することが不可欠となっている。この連携を推進し、効率的・効果的な保健サービスを提供するには、情報システムの導入による支援が必要である。我々は地域の保健・医療・福祉連携支援モデル情報システムとして、宮城県遠田郡田尻町においてスキップ情報システムの研究を進め、これまでに第一次システムを構築・運用しているが、本システムは実用上、少なからぬ問題点のあることが指摘されている。そこで、これを発展させ、より効率的・効果的な保健サービスの提供と、医療・福祉の連携にいっそう役立つ第二次システムの設計・構築をめざしている。本年度は、これまでに行った第一次システムの評価に基づき得られた問題点の検討結果などから、次のような事項を中心に研究を実施した。①第二次システムの設計にあたり、第一次システムには含まれていない福祉のうちの介護保険サービスの支援を付加するため、これに必要な情報機能の検討を行う。②スキップ情報システムの有用性の向上と田尻町に多い脳卒中・痴呆対策に不可欠な脳卒中と痴呆に関する有病率調査、および予防的介入サービスの効果を測定するためのデータベースの構築を行う。③医療との連携機能の推進、とくに情報の共有・交換の円滑化に基づく脳卒中を主とした疾病再発(三次)予防に有用なシステムを検討するため、東京都の北多摩南部二次医療圏内の6市の医療機関における医療連携の広域化に関する医療情報について調査を行う。
研究方法
前述した3課題についての研究方法を次に示す(かっこ内は分担研究者名)。
1.スキップ情報システムに付加する介護保険情報機能を検討するにあたり、介護保険情報システムを一つの独立したシステムと考え、サブシステムともいうべき介護保険の実施に要する種々の情報システムと、それらに求められる機能や内容について検討した(稲田)。
2.脳卒中と痴呆の有病率を求めるにあたり、65歳以上80歳未満の高齢者に対し、男女別5歳階級ごとに層化無作為抽出を行い、80歳以上は全数調査を実施した。計 1,200のうち、約500名については内科的診察と諸検査、心理検査および頭部MRI検査を実施し、その他の約700名については心理検査のみとした。そして、この有病率調査の結果に基づいて、予防的介入サービスに効果を測定するためのデータベースを構築した(関田)。
3.医療との連携機能の推進、とくに情報の共有・交換の円滑化に基づく脳卒中を主とした疾病再発(三次)予防に有用なシステムを検討するため、東京都北多摩南部二次医療圏内の6市(武蔵野市、三鷹市、調布市、府中市、小金井市、狛江市)の629 の医療機関における医療連携の広域化に関する医療情報を調査した。調査項目は、かかりつけ医の役割や市民から期待される内容、医療連携の必要性やメリットなどである(信川)。
結果と考察
1.介護保険の実施に関連して必要と考えられる主要な情報システムとして、次のようなものがあげられた。すなわち、①介護保険事業計画支援情報システム、②介護保険事務関連業務情報システム、③要介護認定支援情報システム、④ケアプラン作成支援情報システム、⑤サービス提供支援情報システム、⑥要介護状態把握・記録情報システム、⑦介護サービス事業者経営情報システム、⑧施設経営支援情報システム、⑨介護・福祉機器・設備情報システムなどである。田尻町では、町自体が介護保険の事業者になっているため、上記のうちの①、②のほかにも⑦、⑧などの機能も必要と考えられた。なお、上述したもの以外に、介護保険サービスのモニタリング情報システムも必要であり、その対象として、介護給付対象者の管理から介護資源の効果的・効率的運用に至るまで、きわめて広範囲に及んでいると考えられた。これらシステムの機能が発揮されるための情報システム的観点からの要件として、ネットワークとくにインターネットをうまく利用した情報の共有化、携帯電話機などを含めた種々の携帯端末装置(PDA)の効果的利用、用語・コードなど情報の標準化、セキュリティ・プライバシー保護機能の強化などがあげられた。
2.田尻町における内科疾患の有病率は、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患、糖尿病、高尿酸血症、心房細動の順に高かった。男女別では高脂血症が女性に多く、高尿酸血症が男性に多いことが認められ、いずれも有意差が見られた。脳卒中に関しては一過性虚血性発作(TIA)が2割近くあり、女性に有意に多かった。また、MRI所見では、ラクナ梗塞が約3割を占め、これに側脳室周囲白質病変および脳梗塞を加えると、全体の55%を脳血管障害が占めていることがわかった。認知機能障害の結果では、痴呆疑いと痴呆が合わせて35%以上を示したが、高齢になるほど痴呆と痴呆疑いの有病率は高くなる傾向を認め、認知機能障害においても重度の症例が多く見られた。これらの有病率調査に基づいて、データベースを構築したが、今後、複合施設であるスキップセンターを拠点として、住民にその結果を示しながら有病率データベースを活用し、「脳卒中・痴呆・寝たきり」について、効果的な予防活動を展開していく必要があると思われた。
3.回答が得られたのは、298 医療機関で、その回収率は47.3%であった。得られた回答を解析した結果、かかりつけ医の役割としては、「病気の診断や治療だけでなく、日頃から健康に関して気軽に相談を受け、必要時に病状に応じた適切な医療機関を紹介する。」が、医療連携の必要性に関しては、「専門医あるいは専門医のいる病院と連携していることは患者に対して安心感を与える。」などが多かった。また、医療連携の患者側からのメリットや診療所にとってのメリットなども、この調査から浮き彫りにされるとともに、「紹介・逆紹介」、「医療機関情報の共有化」など、具体的な医療連携の内容も明らかにされた。今回の調査の結果では、二次医療圏内の医療機関での医療連携の広域化に関する捉え方および情報の整備状況には、かなりの違いが認められたが、健康情報、健診時の検査結果などの基本情報との連携も含めた医療機関の情報整備を推進することが、疾病再発(三次)予防システムの構築に必要であり、医療機関における医療連携の広域化ならびに医療情報の整備に対する理解を高めることが重要であると考えられた。
結論
地域の保健サービスの向上を、保健・医療・福祉の連携をはかりながら進めるためには、支援ツールとしての情報システムが有用なことから、宮城県田尻町において、すでに構築した保健・医療・福祉連携支援情報システムであるスキップ情報システムの機能向上をはかるべく、第一次システムの発展をめざした第二次システムの設計・構築を行おうとして、本年度は次のような研究を実施した。①第二次システムの構築にあたり、第一次システムには含まれていなかった福祉業務のうちの介護保険サービスの支援のための介護保険情報システムの機能の検討、②スキップ情報システムの有用性の向上と田尻町に多い脳卒中・痴呆対策に不可欠な脳卒中と痴呆の有病率の調査および予防的介入サービスの効果を測定するためのデータベースの構築、③保健サービス向上のための情報システムの機能に関する検討の一環としての医療における連携機能、とくに情報の共有・交換の円滑化に基づく脳卒中を主とした疾病再発(三次)予防に有用なシステムの検討のための医療機能連携に関連した医療情報の調査。以上の研究において、それぞれに有用な結果が得られ、これらの研究成果は、次年度以降に予定されているスキップ情報システムの第二次システムの構築のための資料として役立つものと期待された。

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