生活習慣病の一次予防のための地域特性に対応した効果的教育システムの開発 - マルチメディアを活用した栄養・運動・休養の実践支援に関する研究-

文献情報

文献番号
200000851A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病の一次予防のための地域特性に対応した効果的教育システムの開発 - マルチメディアを活用した栄養・運動・休養の実践支援に関する研究-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 志真子(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下光輝一(東京医科大学)
  • 仲眞美子((財)東京都健康推進財団 東京都健康づくり推進センター)
  • 松島康(医療法人浦川会 勝田病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
栄養・運動・休養(ストレス)を総合した生活習慣病問診表によるアセスメントを行い、アドバイス票を出力をする総合問診システムを開発し、これに連動した地域密着型の視聴覚メディアを活用した効果的な生活習慣病予防のための健康教育媒体を開発して、生活習慣病の一次予防に寄与することが本研究目的である。具体的な研究目的は、1)中山村地域である宮川村の住民健診受診者を対象に血液検査(HbA1c他)を追加して、3年連続して栄養問診表による調査を行い、同一人の結果を追跡し、栄養問診実施の効果につき検討する。栄養問診表の再現性、妥当性を再度検討する。2)運動問診票の論理設計をさらに検討した上で、コンピュータを用いた運動アセスメントシステムを開発し、実態を解析する。3)地域住民のストレス状態を把握するため、昨年信頼性と妥当性を確認したストレス調査票を用いて、生活習慣、主観的健康感・ストレス感、ストレス状況を調査する。対象住民へのフィードバックプログラムを作成して、結果を住民に返却する。4)運動について新たに地域特性を生かした実践方法を考案し、マルチメディア情報を生かして発信する。5)すでに蓄積した食のマルチメディア情報にさらに編集を加え、ホームページを完成させて発信する。6)以上の実践活動が、住民の知識や態度に及ぼす効果につき確認する。
研究方法
中山村地域(三重県多気郡宮川村)を対象地域とした。人口は約4200人、65歳以上の人口は約1500人、高齢化率36%と高齢化が進んでいる地域である。対象者は、宮川村において各年5~6月に実施される地域住民健診受診者である。2000年度は620名である。1)問診調査 半定量頻度法形式の栄養問診表および運動問診表を各人宛に郵送し、自記式で記入された問診表を検診受診時に回収した。ストレス調査票は、プライバシーの観点から、健診時に封書に入れて配布し,郵送により回収した。2)体力測定=4項目の体力測定を行った。1.「長座体前屈」(柔軟性)2.「握力」(筋力)3.「肺活量」(全身持久力)4.「棒反応」(敏捷性)長座体前屈」・「握力」の判定には、文部省体育局「体力・運動能力調査報告書」、「肺活量」・「棒反応」は東京都立大学体育研究室編「日本人の体力標準値」の全国平均値を用いた. 3)栄養問診票の妥当性と再現性=東京都内,K社社員31名を対象に,1週間の間隔をおいて2回調査をした。また,1週間の食事記録をつけてもらった。4)効果判定調査 過去3年間の問診対象者を以下のA,B,C3群に分け,性別,年齢階級をマッチングさせランダムに対象者を抽出した。A群:問診に1回のみ回答 27名 B群:問診に3回連続回答 26名 C群:問診に3回回答の上,講演会にも参加 24名 5)マルチメディア情報の収集 自覚症状に対応した体操やストレッチング運動、筋力トレーニングの方法につきデジタルカメラで撮影し、マルチメディア情報を蓄積した。電子レンジを活用した料理を調整しデジタルカメラで撮影した。これに,平成10年度より蓄積を重ねてきた郷土料理、特産品、自宅での食事(3日間)の撮影、地域の景観や施設および行事のマルチメディア情報を加えてホ=ムページを完成させ発信した。考案した杉棒体操を音声のある動画としてデジタルビデオで撮影しホームページとして発信した。
結果と考察
研究結果=1) 栄養問診票は570例(男性:206例、女性364例)回収し、うち食事バランスの評価が可能であったのは424例(男性:180例、女性:344例)である。平均年齢は68歳であった。5段階評価ではランクA:6例(
全て女性、平均年齢59歳)、B:94例(男性26例/女性68例)、C:213例(男性69例/女性144例)D:135例(男性58例/女性80例)E:76例(男性30例/女性46例)であった。男女ともランクが悪くなるに従い摂取塩分量や総熱量が増加し、また酒類、菓子類など嗜好品類の摂取増加傾向が見られ血液検査データでも総コレステロール、中性脂肪、尿酸、HBA1cなどに上昇傾向が見られた。これらの傾向は女性に顕著にみられた。
2) 570例のうち3年間連続して食事アンケート調査に回答した継続例は249例(男性87例/女性162例、平均年齢65歳)である。一方3年間の調査で1回、2回回答の断続例は321例(男性119例/女性202例、平均年齢64歳)であった。継続群と断続例を比較するとA群全例6例のうち5例が継続群に属しており継続指導群に効果を伺わせた。食事摂取傾向でに関しては,塩分摂取および摂取熱量は何れも継続群で低くなる傾向がみられた。血液検査では,総コレステロール、中性脂肪、尿酸、尿素窒素も低下傾向を見せた。この傾向は男女とも認められた。継続群において,食事ランクが2段階以上著明に改善した14例に個別検討を加えた結果,穀類の摂取減少,砂糖,嗜好品の摂取減少,コレステロールの低下傾向が認められた。一方,悪化した24例は穀類の摂取増加,砂糖や油類の摂取の増加が認められ、GOT、GPTが上昇する傾向がみられた。
3) 栄養問診票の信頼性と再現性 信頼性:エネルギー誤差率-5%,塩分量誤差は+0.9gであった。食品群別には,魚肉,穀類および油脂が若干低めに出るほかは±10kcal~±40kcalの範囲であった。再現性:回答から得られた摂取頻度は、油を使った料理と油を使った主食についての質問2問を除き,いずれも有意な正の高い相関係数を示した。
4)ストレス問診 男性では怒り・疲労感の高得点群ではγ‐GTPが高値を示した。女性では身体愁訴、抑うつ・不安感、怒り・疲労感の高得点群ではBMIが低値を示した。(p<0.05)。食事摂取との関連では,菓子類の摂取が、女性では1日に1個以上の摂取群は1個未満群に比較しての身体愁訴および怒り・疲労感の得点は有意な低値を示した(p<0.05)。男性はストレスの原因が高くなると消費エネルギーが減少するのに対して、女性は摂取エネルギーが増加し、ストレス反応が高くなるほどBMIが低下するという異なったパターンがみられた。運動をしていない群の身体愁訴高群出現のオッズ比は1.9倍(p<0.05)、活気・幸福感低群出現のオッズ比は1.7倍(p<0.05)と高かった。
5)運動の実施状況 宮川村住民は男性の62%,女性の59%は運動をしていないが、運動の実施率は年齢と共に上昇し,75歳以上では3分の1の住民は軽い運動をしている。運動の好みは、毎日少しずつ続けたい,マイペースでやりたいという希望が多い。1日平均消費エネルギーは1603±299kcal、摂取エネルギーの平均は1952kcalで約300kcal消費を上回っている。40歳台ではほぼバランスがとれており、年齢が上がるにつれ摂取が消費を上回る。240kcal以上摂取が上回っている者は男性では69%,女性では46%である。1週間の運動による消費エネルギーは90%以上が700kcak未満である。運動と検査値の関係では、空腹時血糖は、男性では中以上の強度の運動をしている群が若干低い。HDLコレステロール、赤血球数は中以上の強度の運動をしている群が若干高い。女性の赤血球、Ht、Hbは運動群ほど平均値が上昇していた。
6)体力の実態 「長座体前屈」、「肺活量」、「棒反応」については、全国平均より低い傾向が見られた。「握力」(筋力)については、全国平均とほぼ同じ傾向であった。
結論
3年間にわたる調査研究で、住民に糖尿病の割合が高いこと、運動を行うことで腰・膝の関節痛の改善を期待していること、運動の嗜好についてはマイペースで毎日続けたい人が多いことが明らかとなった。そこでこれらのニーズに沿った運動を工夫することとし、村の主産業である林業の、杉の木を利用し、村歌に合わせた「杉棒体操」を考案した。杉棒は、体操で使いやすいバトンの形(長さ90cm直径3.5cmで両端は球状)に加工したものである。食を中心とした健康教育用ホームページは現在次のURLで公開中である。
http://climb-net.com 問診は知識獲得と自己認識には有効であった。インターネットを講習会でみせた群では、減塩を実践しているという回答も3年継続問診回答のみ群よりさらに多く、マルチメディア媒体の活用が今後期待される。

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