医療機関における使用済放射線源及び診療用放射性同位元素の管理の合理化等のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000842A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関における使用済放射線源及び診療用放射性同位元素の管理の合理化等のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 啓吾(群馬大学)
研究分担者(所属機関)
  • 濱田達二(日本アイソトープ協会)
  • 小西淳二(京都大学)
  • 棚田修二(放射線医学総合研究所)
  • 佐々木武仁(東京医科歯科大学)
  • 青木幸昌(東京大学)
  • 菊地透(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療用放射線源及び診療用放射性同位元素には現在のところクリアランス(規制免除)の道が開かれておらず、保管量は年々増加している。近い将来、処分が法制化されることを考慮し、廃棄物の処理・処分の合理的な方策を検討し、新しい方法を提案する事により、法制化に備える必要がある。廃棄可能となるよう法令が整備されれば、放射性廃棄物が減少し、社会状況、環境問題の面だけでなく、核医学診断・治療の医療経済効果の向上にも繋がると期待される。
新しい医療用放射線機器の開発は目覚ましい。C-arm式ライナックや、移動式術中照射装置など、従来にないタイプの新しい放射線治療装置が開発され、臨床応用が開始されつつあるが、これに対応した独自の遮蔽法、運用、放射線管理の在り方を確立するための、放射線量の測定を行う。また歯科領域の放射線源の日常的な保守管理の現状と在り方について調査研究することにより、歯科医療における合理的な管理方法を確立する。
我が国には高価な放射線機器が数多く設置されているにもかかわらず、安全かつ有効な利用のためのガイドラインはない。そこで放射線診療の標準化を目的としてワーキンググループを作り、Evidence Based Medicine (EBM)に基づいた放射線診療ガイドラインの作成を試みた。
研究方法
専門家によるふたつのワーキンググループを編成し、ひとつは放射線管理の現実的な対応策の検討、ひとつは放射線診療ガイドラインの作成を行った。医療機関における使用済みの密封小線源、小型サイクロトロンの処理、処分の現状を調査した。さらに超短半減期核種、歯科診療における放射線管理の現状を調査した。
結果と考察
1.放射線診療ガイドラインに関する研究(遠藤啓吾)
我が国では放射線診療についてガイドラインは作成されておらず、放射線診療の標準化も理想にほど遠い現状である。そこで脳神経と頭頸部、肺・縦隔、心・大血管、肝・胆・膵、泌尿器・生殖器、骨・軟部、乳腺、小児の9つの領域について、我が国の放射線診療の第一人者にワーキンググループを作ってもらい、ガイドラインの作成を行った。
2.使用済放射線源及び診療用放射性同位元素の合理的な廃棄方法の研究(濱田達二)
医療機関における放射性物質管理の合理化の一環として、放射性廃棄物(使用済線源を含む)の処理・処分に係わる合理的規制方法の策定に資するため、12名の研究協力者からなるワーキンググループを設け、国内及び国際的な動向も考慮しつつ、研究を実施した。
3.超短半減期放射性廃棄物の合理的管理に関する研究(小西淳二)
[18F]FDGを合成するためのターゲット水([18O]H2O)は、高価で入手が困難なため、再利用が望まれる。新たに開発された([18O]H2O)精製装置を試用し、回収率も99.3±0.5%と非常に良好であった。本装置で精製した([18O]H2O)を試用し、[18F]FDGを合成したところ、臨床試用に十分な収量が得られることが確認された。
4.短半減期放射性薬剤製造用サイクロトロンの廃棄に関する研究(棚田修二)
ポジトロン断層撮影(PET)に不可欠な短半減期用電子放出核種を製造する設備として、短半減期放射性医薬品製造用サイクロトロンが設置されてきたが、設置状況とその廃棄・更新状況について検討を行った。
5.歯科領域における放射線源の保守管理の現状と在り方(佐々木武仁)
一般歯科医療機関で実施可能な郵送法による質的保証プログラムを試験的に作成し、その有用性を検討した結果、口内方X線写真のX線曝射と写真処理過程が適切に行われているかについて、簡便で、しかも的確な判断材料を提供することが明らかにされた。我が国の一般歯科診療所における口内法X線写真撮影の質的保証には、X線装置の保守管理と写真処理過程の質的管理が密接に関係し、不適切な写真処理や過剰なX線曝射が、かなりの頻度で行われていることを示唆するデータが得られた。
6.新しい放射線治療装置の開発と放射線管理(青木幸昌)
ガントリーヘッドをCアームにマウンドすることで円錐状にビームを入射させる機構と、マルチリーフコリメータの運動を連動させることで、歳差集光原体照射法を開発した。歳差集光原体照射法では、従来のライナックとは異なり、機械室と反対側の壁、天井は広く照射されることになる。歳差集光原体照射法の概要を報告し、その漏洩線量を測定した。
7.医療用放射性物質の線源保管状況調査と安全管理基準の研究(菊地 透)
医療機関では、約500施設において密封された放射性同位元素の線源が保管されている。医療用密封線源の保管状況を調査し、密封線源の利用施設における線源核種と数量及び安全管理について解析した。この解析結果を参考に医療機関の線源保管状況に関するアンケ-ト調査を検討し、密封線源の保管管理と使用済線源の合理的な安全管理基準を研究した。
我が国は患者などへの医療被ばくが世界で最も多いなどの問題をかかえており、国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告や国際原子力機関(IAEA)の基本安全基準(BSS)に示される「適正利用」について、我が国の医療現場への導入が求められている。
米国ではACRが中心となり「放射線診療の標準化」のガイドラインが示されており、昨年その日本語訳を出版した。しかし我が国と米国では病期の種類、医療制度、保険制度が異なる。保険制度の実情に適した「放射線診療ガイドライン」の作成を開始した。以前から指摘されたことであるが、放射線の医学利用は医療法、放射線障害防止法の二重規制されており、そのために医療現場での混乱も多い。速やかに放射線の一元的管理が望まれる。
結論
医療機関における使用済み放射線源および診療用放射性同位元素の廃棄物の処理、処分について調査し、新しい合理的な方策について検討した。さらに医科および歯科領域において放射線を安全に、かつ有効に医学利用するための放射線管理について研究した。放射線診療の標準化に向けて放射線診療ガイドラインを作成中である。

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