国際的動向を視野に入れた医薬品安全性情報の電子的伝達システムに関する研究

文献情報

文献番号
200000841A
報告書区分
総括
研究課題名
国際的動向を視野に入れた医薬品安全性情報の電子的伝達システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允(財団法人医療情報システム開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 小出大介(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際的に流通する医薬品の安全性確保のため、国内外で発生した医薬品副作用報告(以後、安全性報告とよぶ)を早期に入手することが求められており、それには情報通信技術に基づいた電子的伝達の手段が有用である。安全性報告を電子化することにより、迅速かつ正確な伝達が可能となり、さらには信頼性の高い安全性情報データベースの構築が可能となる。
安全性報告の電子的伝達を実現するためには、標準化された仕様、しかも技術面・運用面を共に考慮に入れた緻密な仕様を確立することが必須である。そこで、国内における医薬品安全性情報の作成、伝達、蓄積、利用という一連の過程を電子的に行うための枠組み(安全性報告電子的伝達システム)を実現することを目的として、安全性報告のデータ項目と電子的伝達の技術仕様を確立する。
医薬品の安全性情報については国際的に交換し、共有化をはかることが必要であることから、本研究で策定する仕様は、国際的標準と整合性を保つことが必須である。安全性報告に関する国際標準としては日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)により、データ項目、電子的伝達仕様、および用語集が開発されている。そこで本研究においてはICH標準に基づいた国内安全性報告電子的伝達・標準仕様を策定する。
研究方法
関係組織から研究協力者を得て検討会を組織し、国内仕様の検討を行うと共に実験的に仕様の検証を行った。安全性報告データ項目については、安全性報告の模擬的データを作成して、検討会の複数のメンバーがICH E2Bガイドラインにしたがって独自に報告書の記載を行い、参加者間で意味内容的に同等の報告書を作成しうるか検討した。本実験はICH E2Bステップ4ガイドライン「個別症例安全性報告を伝送するためのデータ項目」(“Data Elements for Individual Case Safety Report" Version 4.4)に準拠して実施した。また用語としては国際医薬用語集MedDRAの日本語版MedDRA /Jを用いた。
安全性報告の電子的仕様については、ICH M2仕様書に基づいて国内安全性報告の仕様を検討した。本年度は製薬企業から規制当局への報告の場合を対象として、仕様の検証を行うため、検討会より参加者を得てインターネットによる小規模な伝送実験を行った。暗号化法としては暫定的にPGPを用いた。本研究はICH M2「個別症例安全性報告を電子的に伝送するためのメッセージ仕様」(Individual Case Safety Report Specification Document Version 2.3)およびICH ICSR DTD Version 2.1に準拠して実施した。
結果と考察
安全性報告のデータ項目と、電子的伝送の仕様について検討し、実験的に検証を行った。実験は小規模実験、中規模実験(前期と後期)、大規模実験の三段階で実施する計画とし、本年度は、このうち中規模実験・前期までを実施した。
① 安全性報告のデータ項目について
現行の安全性報告のデータ項目からICH標準準拠のデータ項目への対応付けが問題なくできるか検討する上で、検討会メンバーの協力を得て、現行の様式による実際の安全性報告に近い内容の報告例を10症例作成した。これをもとに症例ごとにICH E2Bガイドラインに従った形でSGMLインスタンス(電子交換書式によるデータ)を作成した。インスタンス作成上、問題となった点を以下に示す。
≪分類1≫現行のデータ項目にあって新データ項目にない場合。例として、B.1「患者特性」における入院/外来の区分や患者の職業、B.4「薬剤情報」で薬剤中止理由を記載しない点など。<対応>基本的に今後は入力不要であるが、実際の運用後に再度検討してみる必要はある。
≪分類2≫新データ項目が現行より詳細な情報を記入する場合。例としてB.4.k.16「薬剤に対して取られた処置」で開始、終了まで記入することやB.4.k.18.4「評価結果」で従来は「S・O」程度でしか記入していなかったことなど。<対応>基本的に記載がない場合はブランクにする。今後入力方法を規制当局側から指導して実際の報告者側に広く周知する必要があると思われる。
≪分類3≫判断に窮する場合。例としてB.4「薬剤情報」で併用薬の定義、DLSTの結果などはB.4.k.13.3「評価方法」ではなく、B.3「検査結果」の項へ記載することなど。<対応>E2Bガイドライン日本語版以外にも、補足資料として国内向け実施マニュアルを作成する。またQ&A集などを発行してホームページに掲示するなどの措置も必要である。
また作成されたインスタンスの妥当性を検討するため、参加者2名で独立にインスタンスを作成して同じ内容のものが作成されるか比較を行った。単純なファイル比較の結果、約50%に記載の相違が見られ、その内容は「内容的には同じであるが、表現が異なる場合」と、「記載内容自体の判断、理解の違い」に分類された。後者が全体の相違の約97%を占めたため、この点についても実施マニュアルに解説を加えることにした。ただし、今回は単純なファイル比較をもとにしているため、さらに詳細な検討によって相違は小さくなる可能性はある。また実施マニュアル、Q&Aの作成や、実際の入力者も経験を積めば、相違は縮小していけるものと思われる。
今後、今回のデータをもとにした標準サンプルインスタンスを作成し、インスタンス作成上の問題点の分類とその対策案も含めて、実施マニュアルを作成する予定である。次年度に予定している中規模後期試験ではインスタンス作成者の数を10名程度以上に増やして結果が一致するかを検討し、実施マニュアルやQ&Aに反映させる必要があると考えている。
②安全性報告電子的伝送について
M2仕様書ではE2Bデータ項目について、各種属性を定義しているが、長さについては英数字・記号のみを対象として定義されているため、日本語を対象とした国内向けの項目属性の案を策定した。属性定義は安全性報告の電子交換に必須ではないが、組織内におけるデータベース設計や応用ソフトウェア開発の際の参考として有益であると考える。
安全性報告の電子交換書式は開発当時XMLの利用環境が整っていなかったため、SGMLとして定義されているが、XMLは既に広く普及しており、今後安全性報告の電子化の普及をはかる上ではXMLとして扱う方が実際的である。XMLによる処理例としてブラウザに表示するスタイルシートを作成しているが、今後、電子交換書式の解説などと共に、利用者の便宜をはかるツールをホームページで提供することが望ましいと考えられる。
電子的仕様の妥当性について検討するため、小規模な伝送実験を行った。27件の模擬データを用意し、2個所の送信側からインターネットを介して暗号化を施した上でメール添付により送信した。暗号化には暫定的にPGP(Ver6.5.1i、Ver6.5.3)を用いた。受信側では目視にて確認した後、事前に郵送されたフロッピーディスクの元データとプログラムにより比較照合した。27件のうち2件は本実験の範囲外であったため除外して、25件のサンプルについて検討した結果、すべて問題なく受信し得たことを確認した。
ICHでは情報技術標準に関する一連のM2勧告があり、セキュリティに関しては勧告4.1. 「インターネット上での安全なEDI伝送のためのセキュリティ要件」がある。欧州、米国では、それぞれ電子交換パイロットが実施されているが、同勧告を満たす方法は一通りではないため、両地域で異なる方法が採用されている。国内においては現在、各種電子申請のための政府認証基盤(GPKI)が検討されている。今回は暫定的にPGPを用いたが、GPKIが実装された時点では、これに基づいた方式を取り入れる必要がある。さらに将来的には互換性を保証するため、国際的電子交換パイロットを実施する必要があると考えられる。
今年度の実験では、受信した安全性報告の構文エラーの確認までを範囲としたが、M2仕様書では、受信状況を送信者側に通知する確認応答メッセージが定義されており、規模を拡大した伝送実験では、確認応答まで含めた一連の過程を範囲とする必要がある。
結論
国内における安全性報告の作成、伝達、蓄積、利用という一連の過程を電子的に支援するため、安全性報告のデータ項目について実験的検証を行い、また電子的伝達のための技術仕様を策定した。本研究において策定した仕様は、国際的な安全性報告の標準と整合性を保つため、ICH標準に準拠している。今年度の研究では、安全性報告のデータ項目と電子的書式について検討を行い、小規模な実験を実施することにより仕様の検証を行った。今年度の成果を踏まえて、次年度は規模を拡大した実験を実施する予定であり、実験的検証を通じて、有効で、信頼性の高い仕様を確立する。本研究の成果は、国内行政における医薬品の安全対策に貢献するものであり、また国際的な医薬品安全性情報の交換、共有化を促進するものと考える。

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