医薬品等の品質規格に係る国際的動向を踏まえた評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000840A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の品質規格に係る国際的動向を踏まえた評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 吉岡澄江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 新見伸吾(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 内田恵理子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新医薬品等の製造については、バイオテクノロジー等の先端技術をより高度に応用した細胞・組織加工医薬品の開発や従来製品の製造方法の技術革新など、新たな展開がわが国においても急速に進んでいる。また、これらの新医薬品等の開発や技術革新の動向をうけて、品質、安全性を確保した製品を恒常的に提供する上で不可欠な品質・安全性確保基準及び製造管理技術・品質確保技術が検討されてきている。今後我が国において、当該医薬品の品質及び安全性確保対策を推進する上で、これらの基準や技術を学問・技術の進歩に対応したより一層適切なものとしていくためには、これら製品の開発の進展が著しい外国での状況等を踏まえ、国際的な水準を勘案しながら、絶えず評価・検証を行う必要がある。本研究は細胞・組織を利用した先端技術応用医薬品を含む新医薬品等の品質及び安全性確保基準、製造技術及び品質確保技術について、外国での進捗状況を調査するとともに、外国の技術水準に留意した科学的に妥当性のある品質・安全性確保規準や製造管理技術・品質確保技術の確立、検証及び評価に関する研究を行うことを目的とする。
研究方法
1)細胞・組織加工医薬品の品質・安全性確保の国際的動向をFDAの資料などを基に検討した。2)遺伝子治療用医薬品の品質・安全性確保の国際的動向を欧米の指針などを基に検討した。3) バイオテクノロジー医薬品の同等性/同質性(Comparability)をどのような観点で評価すべきかについて、FDAの指針等を基に検討した。4)分析法バリデーション、特に室内再現精度の評価のあり方について、新薬承認申請資料などを基に問題点を検討した。5) 信頼性の高い安定性試験の確立を目指す一環として、タンパク質凍結乾燥製剤が示す凝集について、その経時的変化を表すことのできる速度式を誘導し、有用性を検討した。
結果と考察
1)細胞・組織加工医薬品の品質・安全性確保の国際的動向を踏まえた評価に関する研究:細胞・組織加工医薬品の品質や安全性確保のための基準や評価技術の国際的動向を研究した。今年度は特にドナーの適格性に関し、FDAのガイドラインを中心にそのあり方を検討した。FDAではドナーの適格性に係わる最も重要な事項としてウイルス等の感染症の伝播の防止を挙げているが、規制を画一的に行うのではなく対象とするドナーの細胞・組織ごとに適格性を考慮し、このような斬新な医療技術開発を阻害しないようにしている。我が国でも同様の方策をとることが推奨される。一方、ウイルスのスクリーニング試験法のあり方等については、我が国における規格・基準と異なる点があることが明らかになった。より高い安全性を目指して、試料調製法や新たな核酸増幅法の技術開発を含め、さらに広範な研究が必要と思われた。2)遺伝子治療用医薬品の品質・安全性確保の国際的動向を踏まえた評価に関する研究:遺伝子治療用医薬品の品質、安全性確保の国際的動向を、ウイルスベクターの安全性確保を中心に研究した。欧米では遺伝子治療分野の急速な進展、ベクターの種類の増加、治療範囲の拡大に対応するため、この1、2年でガイドラインの更新が行われている。米国ではウイルスベクターの安全性確保の上で最も問題となる増殖性レトロウイルス(RCR)について、RCR試験と患者の追跡調査に関する追補文書を公表し、安全性確保を図っている。また、アデノウイルスによる臨床研究での死亡事例を受けて、臨床研究の情報
公開と監視が重要であるとし、規制案を公表している。わが国でもこのような国際的動向を踏まえ、遺伝子治療分野の進展と経験の蓄積、学問・技術の進歩に応じて、品質、安全性確保の基準を適切に見直していくことが必要と思われる。3)バイオテクノロジー医薬品の製造法変更時の品質確保、同等性/同質性評価に関する研究:バイオテクノロジー医薬品の製造方法を変更した場合に、新製法における製品と変更前の旧製品との同等性/同質性をどのような観点で評価すべきかについて検討を行った。米国FDAでは過去数年間でバイオテクノロジー医薬品の製造方法変更の評価に関するガイドラインを公表し、評価システムを整備しつつある。そのポイントは製造変更後の製品においても安全性、純度、力価/効力を有することを試験データから証明できるなら、追加の臨床試験を設定しなくても製造変更可能ということである。また製造工程の変更が当該医薬品の安全性および有効性に影響を及ぼす可能性の程度によって、検証すべき同等性/同質性の内容を段階づけ、そのための評価法として「同等性/同質性プロトコール」という評価手順書の作成を提案している。我が国としては製品の種類と構造、特性などに応じて、充たされるべき前提条件が異なることを踏まえた上で、まず新しく得られた製品の分子特性・品質特性に基づいて同等性/同質性を評価し、さらに必要な試験を行っていく必要があると考える。4)医薬品の品質管理の基礎としての分析法バリデーション、特に室内再現精度の評価のあり方と新薬の承認申請資料における記載の現状:「分析法バリデーション」とは、医薬品の品質試験に用いる分析法が目的に相応しいものであるかどうかを科学的な根拠に基づいて判断することであり、バリデートされた分析法を用いることによって、適正な品質をもつものであるかどうかの判断が可能となる。ICHの分析法バリデーションテキストが我が国で施行後3年が経過するが、新薬承認申請資料におけるバリデーションの記載内容はまだ不十分である。中でも、分析法バリデーションの要ともいうべき精度の評価が、未だに併行精度の評価にウエイトを置いたものから脱却できず、室内再現精度をベースとしたものに切り替わっていないことは問題であり、この点に関しても、今後の改善が望まれる。最初から実験計画を立てて、評価が必要とされる分析能パラメータ、例えば、真度と精度(室内再現精度および併行精度)を同時に評価することが望ましいと思われる。5)安定性試験における品質確保基準に関する研究:バイオテクノロジー応用医薬品に適用することができる、より信頼性の高い安定性試験法の確立を目指して、国際調和ガイドラインの基盤となる基礎的検討を行った。タンパク質凍結乾燥製剤におけるタンパク質の凝集のタイムコースは、個々のタンパク質分子が、凍結乾燥過程で受けた分子構造のひずみの程度に応じた速度で凝集すると仮定することにより、平均の凝集速度τとその分布の大きさを表すβを用いたKWW 関数によって表せることが分かった。KWW 関数のパラメータであるτ及びβから算出されるτΓは、添加剤間の凝集時間の差を感度良く検出できることがわかり、τおよびβの値が異なる製剤間の凝集時間を比較するのに有用なパラメータであることが明らかになった。
結論
1)細胞・組織加工医薬品の品質・安全性確保に関して、ドナーの適格性を中心に基準や試験法の今後とるべき方策を明らかにした。2)遺伝子治療用医薬品の品質・安全性確保に関して、国際的動向、経験の蓄積、学問・技術の進歩を踏まえた見直しが必要になってくるものと考えられた。3)バイオテクノロジー医薬品の製造方法を変更した場合に、新製法における製品と変更前の旧製品との同等性/同質性をどのような観点で評価すべきかについて、まず製品の分子特性,品質特性などの同等性/同質性を評価するという観点からのアプローチが重要であることを明らかにした。4)医薬品の品質管理の基礎としての分析法バリデーションにおける室内再現精度の重要性をわが国では再認識する必要があることを提言した。5)タンパク質凍結乾燥製剤の品
質変化を速度論的に解析可能な速度式を誘導し、その有用性を明らかにした。

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