医薬品等の使用に関連した過誤防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000838A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の使用に関連した過誤防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
全田 浩(日本病院薬剤師会)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋文人(日本病院薬剤師会)
  • 古川裕之(金沢大学医学部附属病院)
  • 門林宗男(兵庫医科大学病院)
  • 櫛田賢次(国立小児病院)
  • 村山純一郎(昭和大学病院)
  • 堀治(武蔵野日赤病院)
  • 山田勝士(鹿児島大学医学部病院)
  • 中村均(東京大学医学部附属病院)
  • 内野克喜(東京逓信病院)
  • 佐藤秀昭(石巻市立病院)
  • 林昌洋(虎の門病院)
  • 堀内龍也(群馬大学医学部附属病院)
  • 大江和彦(東京大学医学部附属病院)
  • 木内貴弘(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療機関では薬剤師による調剤エラーをはじめとして、看護婦等による与薬・処置段階における医薬品・医療用具の取扱に関するさまざまなエラーが発生するが、現実にはそれらのエラーの多くは、施設内における過誤防止策によって患者に影響が及ぶことが防止されている。これらのエラーの発生原因はもちろnエラーを起こした者の個人的要素を無視することはできないが、実際には医薬品等の名称や外観の視覚的類似、聴覚的類似性等によることが少なくない。我が国ではこれらの要因の解明について、正面から取り組んだものは極めて少ないのが現状である。
本研究においてはそれらの医薬品等の取扱に関連した安全性を確保することにより、薬物療法の適正さを担保する一助とするものである。これらの情報については、我が国において医療機関の外へ報告するということが従来なかったため、医療機関側に報告についてさまざまな戸惑いが見受けられる。そこでさまざまな施設において院内報告制度を採用している施設において、その運用面での問題点についても検討をおこなう。また収集する情報の対象について、あるいはシステム上の問題点等についても検討を行う。
本研究においては海外における医薬品の取扱等に関する過誤防止策や体制についても調査を行うことにより、医薬品等の取扱に関する安全性を確保する手段がいかにあるべきかについても検討を行う。
研究方法
臨床において発生しているヒヤリハット事例あるいはインシデント事例を収集するために、別添資料1に示すような報告様式を利用して、国立病院、国立大学病院、日本病院薬剤師会役員所属施設、合計302施設を対象に、平成12年9月中旬から3月末日までを期限として報告を収集し、それらの事例を分析する。また米国における実情を調査し、我が国において医薬品・医療用具関連医療事故を防止することを目的としてのインシデントレポートシステムを実のあるものとするための課題を検討する。
結果と考察
1-1 総論
調査対象期間にFAX又は郵送で合計287件の報告が寄せられた。報告医療機関数は31施設(国立病院10、国立大学病院14、その他7)であった。報告内容は医薬品関連が205件、医療用具関連が8件、その他74件であった。事例に関与した職種としては、医師36、歯科医師1、薬剤師148、看護婦38、診療放射線技師1、事務員2であった。
時間帯別(回答数165件)では8時以前 5件、8時~10時 24件、10時~12時 33件、12時~14時 24件、14時~16時 23件、16時~18時 25件、18時~20時 17件、20時~22時 7件、22時以降 7件、であった。
内容別では医薬品関連では患者違い 2件、薬剤間違い 113件、投与量違い 54件、投与方法等違い 8件、投与速度違い 2件、その他 29件(一部重複)であった。
医療用具においては、輸液ポンプ 1件、人工呼吸器 1件、注射筒 3件、その他 3件であった。
資料1に医薬品関連の報告事例(項目は抜粋)、資料2に医療用具関連の報告事例(項目は抜粋)を掲載する。
1-2 医薬品(各論)
内容分類の内主なものは、a 患者間違い(2件):患者間違いの内、1件は濃厚血小板(同型患者同士の袋の取り違えであった。b 薬剤間違い(113件):複数の施設で生じている取り違えの組合せはプルセニド→プレドニン、タキソール←→タキソテール、フルマリン→セファメジンであった。c 投与量違い(54件):投与量違いの場合の多くは複数規格存在する場合いの規格違いであった。
原因としての主なものは、a 薬剤名の類似としてあげられたもので同一商標以外の組み合わせの主なものとしては、アミパレン アミノレバン、イオメロン イオパシロン、ガスコン ガスロンN、カルデナリン カルナクリン、コレミナール コレキサミン、セフメタゾン セファメジン、*タキソール タキソテール、*プルセニド プレドニン、ブロニカ ブロプレス、ペルジピン ペルサンチン、ムコスタ ムコソルバン、ムコソルバン ムコダイン、メタライト ケタルカプターゼ、等であった。尚、*については複数から指摘があったものである。b 外観の類似性とされていたものの注射の組合せノ主なものとしては、ドブトレックス イノバン、メイロン84 ウログラフィン76%、パンスポリン(キット) CEZ(キット)、ネオフィリン コンクライトNa、セフメタゾン静注 セファメジン静注、ペントシリン セフメタゾン、アデラビン9号 ソルコセリル注、アスパラK注 ネオフィリン、デカドロン ノイトロジン、*セファメジン フルマリン、フィシザルツ ワッサー、であった。尚、*については複数から指摘があったものである。
以上の結果から今回のパイロットスタディにおいては報告数はあまり多くなかったが、複数失せ津で同じような組み合わせでのエラーが発生しているものについては。以前から名称類似等で指摘があったものが含まれている。今回は複数といっても数カ所での発生ということであったが、今後大規模に情報収集が行われた場合に、かなりの数の施設で事例が発生している場合には、名称変更等何らかの対応が必要と思われる。また、多施設共通のエラーのみならず、このようなエラーの例の情報が医療機関にフィードバックされることにより、注意喚起が可能となり、事故防止策として有効である。
ただ、今回はある程度大規模な施設のみをたいしょうとしているが、今後このような情報を収集するためには、規模には関係なく、また医療機関のみならず薬局をも対象として行うことが必要である。
また、報告をした医療機関からは、調査項目が多すぎるのではないかとの指摘があった。医薬品に関するエラー防止という点のみに焦点をあてるならば、投与されそうになった医薬品と本来投与されるべき医薬品のみを記載してもらう等、もう少し項目を絞った上で、もっと多くの施設を対象に調査を行うことの方が効果は高いと考えられる。
集計上の問題としては、医薬品名の記載が施設によってさまざまであることから、入力に多大な時間を要した。入力用の薬品名辞書等、なんらかの形での標準化が必要と思われる。
今回のパイロットスタディにおいては報告数はあまり多くなかったが、この原因を以下で考察する。
報告が少なかったのは、このような報告を施設外に出すことに関する戸惑いがあったことは事実であろう。このことは複数の施設から、協力しなくていけないのかという問い合わせが入ったことからも裏付けられる。現状において、この種の報告制度を根付かせるためには、やはり何らかの強制力が必要なのかもしれない。ただ、こと医薬品に関して言うならば、収集機関は(社)日本病院薬剤師会や(社)日本薬剤師会のような職能団体が行う方がよいのかもしれない。職能団体がこれらの情報をある程度まとめ、その対策を厚生労働省における検討会等で立てるというのも現実的ではないかと思われる。
また、報告件数が少なかったのは、今回のパイロットスタディでは医療事故防止のための事例報告ということにしてあったが、実際にはインシデントレポート的に受け取られている面が存在する。もしそうであるとするならば、調剤鑑査段階で発見されたエラーあるいは、疑義照会が行われた事例などはこの報告制度ではなかなかあがってこないことになるであろう。このことについては分担研究者の研究結果を参考にしていただきたいが、医薬品関連事故防止という観点からすれば、疑義照会や調剤鑑査段階で発見されたエラーについては、殆どの施設が記録をしており、また量的にもかなりのものになることが明確である。これは分担研究報告にあるように、日本病院薬剤師会が、いくつかの施設に協力を要請したところ、疑義照会については6施設で500以上、調剤鑑査段階で発見されたエラーについては、11施設で1100件以上の報告がなされた。したがって、このような的を絞った調査を一定期間、的的に収集することにより、かなりの情報が得られることは確実であり、また効果のめんでも、効率の面でも有用であると思われる。ただ、注射薬については、現実問題として看護婦の関与が高いことから、この面での情報収集を行うことは必要であると思われる。その場合には日本病院薬剤師会等が中心となって、看護協会等と協力して調査を行うことにより、かなりの成果をあげられるのではないかと思われる。
また、医療用具については、今回の報告収集が日本病院薬剤師会で行われたことから、臨床工学士等ぁらの報告が少なかったと思われる。今後臨床工学士や看護婦から積極的に情報収集を行うためには、やはりそれぞれの職能団体との協力が必要であると思われる。
2.米国における調査結果
米国における調査結果については分担研究者の報告を参考にしていただきたいが、全体的にみて、それ程米国が進んでいるということはないように思われる。もちろん、米国も調査時点においてはまだ、各種のシステムが稼働し始めたばかりであり、今後急激に進展があるのかもしれないが、名称や外観の類似性についても基本的には情報提供による注意喚起を行っているのが実情である。米国においては、第三者機関的な組織によって各種の調査が行われている。しかしながら、発売されてしまった医薬品の名称変更等は困難な点が多いようである。ハーバードリスクマネジメント財団での意見交換で、消費者運動と同じで、類似した名称のものは、医療機関が不買運動をやることが、製薬会社にとって一番の強制力になるという意見があったことも、名称変更の困難さを示しているといえよう。最近では世界共通商標の医薬品も多数出回っている。医薬品の名称の殆どが商標登録されていることから、もし名称について何らかの規制をするのであれば、知的財産権とのからみで対策をとらないと大きな問題を生じることになると思われる。名称の類似にせよ、外観の類似にせよ、結局、人間の主観的な判断であることから、規制を行うためには、合理的な客観的指標が必要になるであろう。そのためには、これらの問題解決のためには、情報学、あるいは人間工学や心理学といった、認知科学の面からの検討を行うことが必要かつ重要である。そのような基礎的な研究に基づいた対策を立てないと、どうしても場当たり的になってしまい、そのことが次のエラーの誘因となることも考えられるからである。ここ数年、遅くとも5年以内に、これらの分野の協力のもとに、集中的に基礎研究を行う必要があると思われる。その間の過渡的な対策は注意喚起えお中心とした情報提供にならざるを得ない面があるのではないだろうか。
結論
報告制度については、報告数は少なかったものの、いくつかの知見を得ることができた。今後この報告制度を育てていくことにより、事故防止の対策立案に対して大きなを果たすと思われる。また、医薬品に限定していうのであれば、疑義照会や調剤鑑査での発見例、あるいはプレアボイドといったような、重要な情報を医療機関や薬局が記録として既に持っていることから、これらを有効かつ効率的に収集する方法を検討すべきである。情報の収集については集計上の負担を考慮すれば、紙ベースではなく、電子的媒体で行うことが望ましい。もちろん紙媒体も補助的手段として利用可能にしておく必要があるが、電子媒体中心とすべきである。その場合には、医薬品名の標準化等も必要不可欠である。情報が電子的に登録され、自動集計がなされるようなシステム開発がなされれば、報告する方も情報のフィードバックが早期になされることになることから、報告するというインセンティブが働くことにもなる。早急に検討すべき課題と考える。
名称あるいは外観の類似性の対策については、認知科学としての検討を早急にすべきである。薬学領域ではなく、人間工学や心理学等の専門家を交えた検討が必要不可欠である。現在この種の情報は殆どないことから、そのような研究者が自由に題材を求めることができるような基盤整備が必要かつ重要である。この面の研究は米国においても必ずしも進んでいないことから、強力な研究体制を組み、集中的に研究を行うことにより、日本発の対策が世界に通用することも考えられる。ここ数年、遅くとも5年以内の完成を目指した体制作りが必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)