医薬品等の副作用又は医療用具の不具合情報の収集及び活用に関する研究

文献情報

文献番号
200000833A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の副作用又は医療用具の不具合情報の収集及び活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
神沼 二眞(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 直樹(東京医科歯科大学医学部微生物学教室)
  • 別府宏圀(東京都立北療育医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の副作用情報に関しては、有用な情報を速やかに収集し、医療従事者に迅速に提供することが最重要な課題である。報告者らは1994年以来、国立医薬品食品衛生研究所のインターネット接続環境を整備しながら、薬のガイド(一般向けの薬の説明書)、PharmWeb(ワールドワイドの薬のネットワーク)のミラーサイト、コクランセンターのシステマチックレビューの日本語版の掲載、その他の医薬品関連情報の提供を試みてきたが、先駆的な試みとして好評を博してきた。こうした経験をベースとして、インターネット上の有用な情報を探索、収集して、一般に(あるいは関係者だけに限定した形で)提供するシステムを開発することを、本研究の第一の目的とする。
上記の研究と並行して、医薬品の副作用や相互作用に関する分子構造に基づく解析(いわゆる構造活性相関、QSAR)や予測の研究を進める。その第一歩として、わが国で承認されたすべての医薬品に関する一般名と3次元構造を含むデータベースを開発する。また、チトクロームP450(CYP)などの薬物代謝酵素と薬物との相互作用に関するデータベースを開発する。さらに、これらの薬物に関するデータベースを、別に開発している薬物受容体のデータベースや細胞信号伝達系に関するデータベースに連結し、薬物が受容体に結合して起きる細胞応答の様子を分子レベルで追跡するためのコンピュータシステムの基盤を検討する。
研究方法
検索エンジンの開発に関しては、まずWeb上にある各国、各機関の医薬品安全性情報、主要ジャーナルやニュースグループ、メーリングリストを対象とし、収集サイトの見直しを行った。
つぎに、検索エンジンについてはUNIX上で動く商品ソフトウェアであるOpen Textをベースに、フリーウェアである収集ロボットWgetを組み合わせたシステムを試作したが、PDFファイルを対象にできないこと、収集サイトの数に上限があることなどの問題があることがわかったので、本年はアドイン研究所の商品ソフトであるFlex Searchを用いたシステムを採用してシステムを開発する。また高次の検索機能としては、パスワードを必要とするサイトに自動的にパスワードを送ってコンテンツを収集する方法や、医学用語集であるMedDRA/Jを組み込んで、類縁語を辿った柔軟な検索方法ができないかを検討する。
医薬品の一般名と構造データベースの開発については、JAN (Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals)を電子メディアとすることを目標として、一般名、CAS登録番号、IUPAC名、構造式、3次元座標、申請日時などの関連情報をデータ項目とするデータベースを作成する。
医薬品のADME(吸収、分布、代謝、排泄)に関る知見に関しては、まずP450の多様なサブファミリーについての知見を整理し、薬物間相互作用を検討する。標的となる生体分子については、膜にある受容体、酵素、核内受容体など、代表例ついてデータを整理する。標的と薬の結合に関しては、エストロゲン受容体をモデルとして、QSARモデルを作成する。エストロゲン受容体はリガンド結合型の転写因子であるので、これをモデルとして転写の機構、mRNAとタンパク質の生成の流れをモデル化する。
シグナルの流れのモデル化には、申請者らが開発した細胞シグナル伝達ネットワークのデータベースであるCSNDBを用い、実際の実験データとしては、免疫系のB細胞にEBVE(Epstein-Barr Virus)を感染させ、非感染系との差異をmRNAをマーカーとしてSAGEで確認する実験を検討材料とする。
結果と考察
副作用を含む医薬品の有用サイトを対象とした検索エンジンの開発については以下の改良を行った。
(1)検索エンジンの収集対象になるインターネット上のサイトの見直しを行った。
(2)パスワードの自動入力やMedDRA/Jなど専門用語の辞書を用いて検索できるように、検索機能を改善した。
(3) 国立衛研の専用マシン上に、インターネット上で収集利用できる各種の情報コンテンツを有機的に検索利用できる検索エンジンを中核とした環境を構築した。
医薬品のデータベースは、一般名、CAS番号、IUPAC名、構造式、3次元座標などを持つJANの電子版であるデータベースを開発した。
このデータベースとは独立に薬物代謝酵素P450による薬物相互作用の知識ベースを開発した。
さらに、受容体など薬物の標的となる生態分子のデータを追加することを検討している。
さらに、これらのデータベースを基礎として副作用、相互作用の予測やCoMFAや分子軌道(MO)法を用いた構造活性解析を試みている。
本研究の第一の目標は、インターネット上に分散して存在している各国の政府が提供している副作用情報、医薬品に関する主要学術雑誌、医薬関係のニュースグループやメーリングリストなどを情報源として、ユーザが検索エンジンによってこれらのサイトに含まれる情報を探索できるシステムを開発することであった。さらにそれらの情報をクローズドなインハウスのデータベースとして検索利用できるシステムを開発し、それらの利用実験結果を踏まえてさらに実用的な情報交換の方式について提言することを目標としてきた。 
ある視点からインターネット上の有用なサイトを選択して、そこで提供されている情報を検索できるようにするシステムは一般にポータル(サイト)と呼ばれる。現在YahooやGooなどの商業サイトが、特定の分野に的を絞った情報を提供する分野ごとおにポータルづくりに乗り出しているが、われわれの開発したシステムはそれらでは代替され得ない。その理由は、対象となるサイトを選別するのに、専門知識と経験が必要なことであり、また検索機能も用語や辞書を用いることで高次なものにしているからである。しかし、ポータルが成功するためには、使い続けられていく必要があり、それはこのシステムの将来の課題である。
ただ、現在のわれわれのシステムにも、PDFファイルの扱いや、収集サイト数の制限、検索の柔軟性において大いに改良の余地がある。しかし、ポータルはインターネット関連技術としても最近非常に注目され、新しい技術が開発されているため、これらの技術的な問題はいずれ解消されていくであろう。
パスワードが必要とされるサイトにパスワードを自動的に送付して情報を収集する方法は、この方法を適用できるサイトが増えれば有用性を発揮するであろう。
薬の名称と構造データベースは、すでに型としては完成されているので、今後は更新だけが問題となる。CYP関連の知識ベースは、現在は各分子種による相互作用の阻害剤、誘導剤、管理、代替案などの情報内容を検索できるシステムである。今後はP450によるパスウェイを含め、代謝全体の系が把握できるような記述モデルが必要である。本年の研究ではSSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor(例 マレイン酸フルボキサミン))などの薬についてより詳しい記述モデルを作成することを試みたが、実用に向けては対象とする薬はさらに増す必要がある。
薬の標的分子についても、まだ代表的なものしか検討していない。これを増すことが今後の課題である。
QSARについては、CoMFAと分子軌道法による精密なエネルギー計算を求める方法を適用して一部成功したが、今後はより多くの場合に適用することが課題である。
結論
インターネット上にある医薬品の副作用を含む有用情報を調査し、これに独自の情報コンテンツを加えた情報提供システムを構築した(URL http://www.nihs.go.jp/dig/ searchengine. html)。これまでは研究の総括者らと分担者らがそれぞれ独自にシステムを開発してきたが、本年はこれらの情報資源を総括者らが開発している国立医薬品食品衛生研究所のインターネット環境で統合的に利用できる環境を開発した。このシステムにはFlex Searchを基礎とした独自の検索エンジンが組み込まれている。また、この検索エンジンはMedDRA/Jなど医学専門用語の辞書を用いて検索できるような、高次の検索機能が組み込まれている。
医薬品のデータベースは、一般名、CAS番号、IUPAC名、構造式、3次元座標などを持つJANの電子版であるデータベースを開発した。これとは別に、薬物代謝酵素チトクロームP-450の知識ベースを開発し、双方の統合を進めている。さらに、受容体など薬物の標的となる生態分子のデータを追加することを検討している。さらに、これらのデータベースを基礎として副作用、相互作用の予測やCoMFAや分子軌道(MO)法を用いた構造活性解析を試みている。次年度以後の研究はこうした副作用や相互作用の予測や構造活性相関に焦点を合わせる予定である。

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研究報告書(紙媒体)

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