循環シミュレータを用いた医療用具の安全性・有効性評価の科学的方法論の確立

文献情報

文献番号
200000832A
報告書区分
総括
研究課題名
循環シミュレータを用いた医療用具の安全性・有効性評価の科学的方法論の確立
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
梅津 光生
研究分担者(所属機関)
  • 松田 武久
  • 川副 浩平
  • 藤本 哲男
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は高性能の血液循環シミュレータを開発し、それを駆使することで、諸種の医療用具の定量的・客観的特性データの取得を行う。
研究方法
1) 形態を摸擬した冠動脈モデルでのステントの力学的特性評価
(1) 狭窄モデルを用いたステント特性評価
異なる狭窄率(33%、50%、67%)の病変部冠動脈模擬チューブを用いて静特性試験を行い、狭窄部位におけるステント拡張直後のステント径の変化率(recoil)および外的負荷によるステント径の変化率(radial strength)を計測した。さらに、拍動流試験装置を用いることで、狭窄部位に対しステント留置前後における冠動脈圧流量の差異を比較した。
(2) 屈曲モデルを用いたステント特性評価
ステントが留置される冠動脈には心筋内に埋没する部位と心壁の表面上に露出する部位がある。これらを考慮した2種類の屈曲モデルを製作し、ステントの血管追随性についてステント拡張直後および拍動流下において比較、検討を行なった。
2) In vitro血液適合性試験回路による医療用具の医用材料工学的評価
(1)試験回路の製作
4つの同一形状の旋回渦流型血液ポンプで構成した、空気非接触の完全密閉型血液適合性試験回路を開発した。また、チューブやコネクタなど試験回路の構成パーツでの血小板の活性能を同一にするために、血液ポンプと同一材料で回路内面全体をコーティングした。
(2)試験方法
上海第二医科大学開発の高分子製Butterfly弁を血液適合性評価試験対象とした。滅菌後の回路内をヘパリン化した新鮮牛血液で満たし、その後プロタミンで中和してACTを300sec~400secに調節した後に試験を開始した。なお、試験は4時間で終了した。
3)シミュレータと動物実験、臨床データとの整合性の検討に関する研究
(1) 雑種成犬(16kg)に対して上行弓部大動脈から腹部大動脈にePTFE製人工血管(φ8)によりバイパスして交互に血流を切り替え、基礎データを取得した。
(2) 血液循環シミュレータ
機械式血液循環シミュレータは生体心臓血管系の形態、機能を高度に模擬した流体管路モデルである。生体血管と同等の弾性特性を有するテーパ型シリコン管下行大動脈モデル部を人工血管(φ26)に置換し、一定の左室拍出条件下でポンプ仕事を算出した。
(3) 数式モデル
動脈血管内圧力流量(流速)波形を、管路弾性・抵抗要素からなる力学系モデルに対応させ、逆解析によりそれぞれの力学的要素を定量評価した。
4)シミュレータを用いた人工臓器評価に関する研究
Jyros弁をSVポンプの流出側に設置し、循環シミュレータの流出側流量および弁前後の圧力を連続的に測定すると同時に、高速ビデオカメラ(500flames/sec)で弁の挙動を録画した。また同弁の回転の影響を検討するために弁葉が回転しないようにハウジングを固定した弁(Jyros fixed)を用いて同条件下で実験を行った。
結果と考察
血液循環シミュレータを用いた医療用具の特性の科学的評価方法について、次の成果を得た。
1) 病変部位及び解剖学的形状を摸擬した冠動脈チューブでのステントの力学的特性評価
(1) 狭窄モデルを用いたステント特性評価
RecoilおよびRadial strengthはともに狭窄率の増加に対し増大する傾向が確認された。また、拍動流下における冠動脈流量は、ステント留置後には狭窄率によらず、初期設定値と同等の平均流量を得られた。
(2) 屈曲モデルを用いたステント特性評価
屈曲モデル内で拡張させた2種類のステントを比較した結果、GFX2は屈曲に沿ったステント拡張が得られ、Palmatz-schatzと比較して血管に対する追随性に優れていることが確認された。
2)高分子製Butterfly弁のin vitro血液適合性試験
(1) 回路内の圧力・流量環境
4つの血液ポンプのうち1つのみを駆動し、他の1つはコンプライアンス、残りの2つはリザーバの役割を持たせることで、生理的な試験環境に調節可能となった。
(2) 血液適合性試験
試験後の弁表面には目視では血栓形成は確認されなかった。弁葉表面をSEMによって観察した結果、①弁流出側の弁葉表面では血球成分の付着及びフィブリン網などが観察されず血液適合性は良好であったが、流入側の弁葉表面では弁閉鎖時に弁座スポークと接触する部分の吸着タンパク質層に磨耗跡が観察された。また、②弁座と弁葉の接着部分に血小板の付着が観察された。
3)下行大動脈人工血管置換実験によるシミュレータと動物実験、臨床データ整合性の検討
血液循環シミュレータにおいて、下行大動脈置換時には、左室ポンプ仕事は150%に増大し、算出した動脈系抵抗要素は30%減少したが、弾性要素は弾性管路のみの時に対して1/3に減少した。生体では、人工血管置換後の動脈系コンプライアンスの減少によって動脈圧は120%に上昇し、左室ポンプ仕事は同じく150%に増大するという結果を得た。
4)シミュレータによるJyros弁の弁葉回転の評価
①本弁は弁閉鎖過程に回転を開始する、②Jyros fixedでは圧力較差が回転可能な弁に比較して3mmHg高くなり、それは弁葉が回転開始する時点から生じるということが生体外の実験で判明した。
考察
1) 冠動脈ステントの力学的特性試験
本研究で取り上げた狭窄モデルおよび屈曲モデルは、それぞれに冠動脈ステントを留置した際のステント挙動特性の差異および有効性を明確に把握できた。狭窄モデルにおいてはステントの「保持力」を評価し、屈曲モデルにおいては「形状適応性」を評価する方法として非常に有効であると考えられた。
2) In vitro血液適合性試験回路の評価
4つの旋回渦流型拍動流血液ポンプで回路を構成することで、空気非接触の完全閉鎖型でありながら、平均大動脈圧、ポンプ流入圧、ポンプ拍出量をある程度実際の使用環境に合わせることができた。また、washout性能の極めて良好な旋回渦流型血液ポンプを回路の構成要素とすることで、流れの停滞領域のない試験回路を開発できた。
3) 人工血管の心機能に与える影響の検討
人工血管置換前後の心機能に対する影響を数式モデル解析により比較評価する方法を試み、集中定数化した動脈系弾性の減少により後負荷が増大する影響が定量的に示された。
4) シミュレータによるJyros弁の回転が血行動態に 与える影響の検討
圧力損失の相違は弁葉の回転が原因と考えられた。旋回流下では弁葉の回転が圧力損失に影響するため同条件下での人工弁の特性を検討する必要性が示唆された。
結論
1) 病変部位及び解剖学的形状を摸擬した冠動脈チューブでのステントの力学的特性評価
病変部位や解剖学的形状を摸擬した冠動脈血管モデルをシリコーンで製作し、それらを用いてステントの特性を調べた。これらのモデルはステントの特性評価を行う上で極めて重要であるという新たな知見が得られた。
2) 高分子製Butterfly弁のin vitro血液適合性試験
新開発のin vitro血液適合性評価試験回路は製品開発の早期に問題点を明確にするのに有効であることが示唆された。
3) 人工血管の力学的性能評価
人工血管の実験によって主に生体の血液循環系の機械的再現性とその応用を研究してきた。しかし生体機能を機械モデル上で再現していくには生体の個体差をいかにしてモデルに反映していくかという大きな問題点がある。
4) シミュレータによるJyros弁の回転が血行動態に与える影響の検討
Jyros弁の特性試験を通じて、左心機能や動脈系の流体力学的特性を機械モデル上で再現する技術が確立されつつある。

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