医薬品の適正使用の推進を目的とした医薬品情報交換方策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000828A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の適正使用の推進を目的とした医薬品情報交換方策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
武田 裕(大阪大学医学部附属病院医療情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒川信夫(大阪大学医学部附属病院薬剤部)
  • 翁健(大阪府健康福祉部薬務課)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,019,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
複数の医療機関等と行政が管理するサーバーをインターネットを介して双方向で結び、「医薬品によると疑われる副作用等の事例」をリアルタイムで共有するシステムを構築する。このシステムを中心に「医療機関」「製薬企業」「患者」「行政」間における「医薬品情報交換方策」を調査研究することによって、医薬品適正使用を推進し、健康被害の未然防止・拡大防止を図るとともに、患者自らの医療への積極的な関与を促す。
研究方法
研究班を「システム部会」「情報部会」「行政部会」の3部会で構成し、それぞれの研究成果をマトリックス化する。また、システムについては、研究成果を国との情報共有化でのインフラ整備につなげる。
結果と考察
1)「医薬品安全性情報交換モデル事業」:「リピトール錠(アトルバスタチン製剤・高コレステロール血症治療薬:山之内製薬㈱)」を対象品目とし、平成12年9月末現在リピトール錠を採用していた66施設に対して、採用後調査開始時期までに発現したイベント報告を依頼した。その結果、41施設から975名(投与患者数として1,307名)分の調査結果が寄せられ、74名(発現したイベントの件数として106件)分のイベントが報告された。未知・重篤な副作用と思われる症例の報告は認められなかったが、治験と市販後調査の相異点を勘案しても、「筋肉痛」の発現率が治験時よりも高い値を示し、他の検査値異常の発現状況に比べてCPK値の上昇が多く見られていたことから、同種同効薬と同じ副作用を有する可能性も考えられる結果が得られた。なお、本事業は、当初、システムを使用して実施することを検討したが、①インターネットを使用できるPCを薬剤部に設置している医療機関が極めて少なかったこと、②個人情報の収集とその保管管理について責任の所在を明確にする必要があったことなどから今回は紙媒体による調査としたことを申し添える。2)「モデル事業参加医療機関への院内体制等に関する調査」:院内での医師と薬剤師等との医薬品情報情報交換体制が整備できていない医療機関が多いこと、また、今後、国のシステムを含め、医療機関にとって有用で使いやすいシステムへの検討の必要性があることが分かった。2)「薬剤部での医薬品情報の一元的管理と医薬品情報収集提供」及び「基準薬局での医薬品情報収集提供」:○「一元的管理」の定義付けを明確にする必要があるが、多くの医療機関での本体制は未整備である。○病院の外来患者への医薬品情報と基準薬局から患者への情報提供は概ね同じであるが、重大な副作用等の提供内容について再度検討が必要である。○市販されている医薬品情報ソフトや医薬品情報誌等の内容のチェックを薬剤師の責任で行う必要がある。3)「患者等の医薬品情報に関する調査」:○高齢者への医薬品情報提供については、一定の満足を患者が持っている。○40代あるいは50代という自身の健康に最も感心が高い年齢層の患者や、疾病が遠いと感じている20代あるいはそれ未満の若年齢層など、それぞれの年齢層に適合した医薬品情報のあり方について検討する必要がある。3)「大阪府医薬品安全性情報交換システム」を基にした医薬品情報収集提供において生じ得る法的問題及び法的位置付け:医薬品安全性情報収集提供事業が、収集提供しようとする情報に関し、個人情報の侵害が問題となる場面は想定しにくいが、希少疾病の場合など100%問題にならないとも断言することはできない。それゆえ、常に個人情報保護との係わり合いを意識しておく必要があり、希少疾病等の例外的要件も考慮しながら、微妙な事例については継続して審議していくべ
きだと考えた。
結論
1)医師・薬剤師への医薬品安全性情報報告制度を含む医薬品情報収集提供事業に関する体系的な教育訓練が必要である。このために、大学医学部・薬学部等における体系的な訓練はもとより、医師薬剤師に対する医療現場での研修制度の実施を検討する必要がある。2)医療現場にフィードバックされる情報の質と量の向上と迅速化を検討する必要がある。また、積極的に報告制度に協力する医療機関や医師、薬剤師に対する社会的評価の指標を策定する検討が行われる必要があり、他方では、国民に医薬品の適正使用に関する教育訓練が必要である。3)医療現場で真に活用されるシステムとするには、①医療関係者の省力化、②情報の正確性の確保、③入力情報に対する必要以上の規制の撤廃と評価方法の確立を早急に検討する必要がある。このためにも、電子カルテ等の他の医療情報との一体化が望まれるところである。4)医師の専門細分化、病院の機能分担、患者の複数科受診、医薬分業の定着などを受けて、多数の医師や薬剤師等が一人の患者に発現したイベントを取り巻く現状下では、地域での情報伝達・情報交換の重要性が一段と高くなる。特に処方せんを応需した保険薬局で発見された情報をどのように扱い、関係する医療関係者にどのように伝えるかのルールを「患者を中心」に構築していく必要がある。健康保険証や診察券のICカード化、カルテの電子化など情報共有のための技術的なサポートは今後大幅に進歩すると思われるが、一人の患者を取り巻く専門家である医師と薬剤師、病院と保険薬局などがお互いのその専門性を活かしつつ、必要な情報を交換し、共有できる体制を整えることが必要である。私達は、「大阪府医薬品安全性情報交換システム」を提案・構築・改良し、種々の方面からの調査研究を行ってきた。このシステムは、大阪府が管理するサーバーをインターネットを介して複数医療機関間で「医薬品によると疑われる有害事象」を収集し、共有化することによって副作用等による健康被害から守ろうとするものであり、平成12年度には後述の新薬を対象にした調査を実施し、情報共有化に関する有用性が証明できたことは最も大きな収穫と言えるかもしれない。一方、この研究では、システムというハード面の整備を補うべき人的な連携体制等の未整備が想像以上に大きいことが明確になったと思われる。医薬品の適正使用を推進する必要性は多くの人が認めるものの、現実的にはそれぞれの人々の立場によって「各論反対」的な側面があるし、この状況が何十年も昔から殆ど変化していないことも確認できた。けれど、私達の周辺で科学技術は飛躍的に進歩しつづけており、社会構造も意識改革もある意味では従来にない勢いで進みつつあると確信しており、次の具体策を検討するための良い結果が多数得られたと考えている。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)