小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000826A
報告書区分
総括
研究課題名
小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大西 鐘壽(香川医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松田一郎(江津湖療育園、日本小児科学会薬事委員会委員長)
  • 藤村正哲(大阪府母子保健センター)
  • 辻本豪三(国立小児病院小児医療研究センター)
  • 森田修之(香川医科大学医学部附属病院薬剤部)
  • 伊藤進(香川医科大学医学部小児科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
【非市販医薬品の使用に関する倫理的諸問題】本邦の小児臨床の場で非市販医薬品、試薬、病院薬局製剤の使用時の倫理的対応について調査した。【小児薬物治験ガイドライン設定に関する国際動向の調査】ICHにおける小児臨床治験ガイダンス策定と連動して、各国におけるガイドラインの作成、実際の治験フレームワークの構築が現実的な問題となってきた。今後本邦において小児臨床治験開始に向けて体制構築の礎になる情報収集を目的として研究を行った。【小児医薬品に関する調査研究】新生児臨床で汎用されている未承認医薬品の内、優先的承認に結び付けるべき医薬品を選定し外国における承認状況を調査し解決のための問題点を明確にする目的で研究を行った。【医薬品の添付文書における子どもに関する記載内容についてのアンケート調査】小児等に投与されている医薬品の添付文書には、小児等に関し何らの情報も記載されていないもの、記載されていても表現が極めて曖昧なもの、あるいは厚生労働省の定めた記載要領に準拠していないものが多く、医療従事者は使用の判断に苦慮することが屡々である。そこで、添付文書の改善を目的として、医師、薬剤師および製薬企業に対し添付文書における記載内容についての意識調査を行った。【臨床薬理のデータの小児薬用量の検討】 薬物投与において、新生児期は在胎期間、出生体重や生後日齢の違いにより用法・用量を決定する必要があり最も困難であるので、文献的根拠について検索を行った。
研究方法
【倫理的諸問題】調査対象は小児病院、大学付属病院等138医療機関に調査用紙を送り、施設内レビュー機関(IRB)、インフォームド・コンセント取得に際して19項目の説明と確認事項に関して何処まで言及したかについて自己申告に基づき達成度(言及率)を評価した。【国際動向】ICH小児臨床治験ガイダンス策定、その翻訳、Q&A作成に協力、米国PPRUとの比較を行った。【小児医薬品】既に選定した優先順位の高い12種類の医薬品及び外国で発売され本邦で未発売で新生児医療に不可欠な医薬品について、外国文献等により調査した。【医薬品添付文書】全国の大学病院の小児科勤務医、香川・愛媛・岡山県の病院薬剤師および主要製薬企業の3グループに対し、平成12年11月~12月、医薬品について小児等への医薬品使用に対する理念、注目する添付文書記載項目、小児等への使用に関する記載のあり方、医薬品の適正使用を進めるための要望や意見等について記載内容の異なるアンケート調査を行った。【小児薬用量】平成11年度に選出した新生児に使用する医薬品の用法・用量を決定のためにpopulation pharmacokinetics により解析した論文を検討した。
結果と考察
【倫理的諸問題】非市販医薬品の臨床使用に際して、それを審議するIRB、もしくはそれに相当する機関を有するの88施設で、また、実際に審査機関の審査を受けて、使用に際している機関は68施設であり、30施設はそうした審査を経ないで、使用している実体が浮かび上がってきた。インフォームド・コンセント取得時における説明事項、確認事項などについても、自己評価ではあるが、かなりの改善がみられた。また、19項目中、50%以上の言及率は16項目で、これも前回の12項目より増加していた。今回、説明に際して、文書を使用している施設は、81.6%に上ることが明らかになった。【国際動向】ICH小児臨床治験ガイダンス(Clinical investigation of
medicinal product in pediatric population )は平成12年11月の米国サンジエゴICH 5会議で最終調印された。報告者はHPを開設し広く情報公開を行っている(http://pharmac.nch.go.jp/child.html)。【小児医薬品】外国で発売され本邦で未発売で新生児医療に不可欠な医薬品は4種類が挙げられた。これらについてその適応や用法・用量、添付文書の内容を表示した。我が国で未発売ないし未承認の原因は単に製薬企業が開発を手掛けないことによることが明らかになった。【医薬品添付文書】小児等への医薬品の使用に対する考えは、医師・薬剤師・製薬企業間で違いが見られた。また、添付文書を作成する製薬企業間においても解釈に相違が見られ、統一されていなかった。「小児等に対する安全性は確立していない」の記載は医師の使用判断に殆ど影響せず、また、製薬企業は「用法・用量」の承認の有無を最も重要視していると推察された。各職種における解釈の統一が必要であり、このためには、小児等への記載内容の統一と充実が重要であると考えられた。【小児薬用量】文献検索の結果、小児期においても比較的良く研究されている抗生物質に関する論文が23編(その後の検討で22編)見出された。その内訳は、硫酸ゲンタマイシン10、塩酸バンコマイシン4、硫酸アミカシン 3、硫酸ネチルマイシン1、トブラマイシン1、 塩酸セファゾプラム1、セフチゾキシムナトリウム1、アモキシシリン1 であった。それらの薬物について、第23版日本医薬品集(2000)における新生児を含む小児に関する用法・用量および薬物動態の記載事項を検討するとともに、文献上のpopulation parameter をまとめた。
結論
【倫理的諸問題】非市販医薬品の臨床使用に関しては、しかるべきガイドラインを決め、それを提示すれば、ほとんどの施設がそを採用する可能性が示された。それには、IRB(もしくはそれに準ずる機関)を整備すること、その構成メンバーのあり方を定めること、小児科医の関与を論議すること、インフォームド・コンセント取得時の説明・確認内容を論議し、それを実行すること、年少児、年長児への対応を論議し、一定のコンセンサスを得ておくこと、などが今後の課題である。
【国際動向】平成12年年11月ICH 5において小児臨床治験ガイダンスがサインアップされ、今後各国独自のガイドライ策定がなされ、小児でも実際に臨床治験が行われつつある。現実的な我が国の小児臨床治験システムの構築、小児臨床薬理の啓蒙普及が切に求められる。【小児医薬品】製薬企業への強力な啓蒙運動が不可欠であることが判明した。【医薬品添付文書】添付文書における小児等への記載を早急に医療従事者に分かりやすい表現とすることが求められる。小児等への使用に関する多くのエビデンスを収集解析し、その結果を基に添付文書の内容を充実させていくことが、小児薬物療法における医薬品の適正使用の推進のために極めて重要である。そのためには、製薬企業、医療従事者および厚生労働省が一致協力して行う体制の構築が必要であると考えられた。【 小児薬用量】添付文書の記載を日常臨床に合致するように努力するとともに、生体内代謝に人種差のないものは用法・用量の項に諸外国の文献から得られた推奨投与量の記載、薬物動態の項に有効血中濃度、クリアランスや分布容積文献データを記載することが望まれる。【主任研究者の分担研究】(1)医薬品の治験等に関する実態調査、(2)医薬審第107号、研第4号医薬審研第104号、厚生省令第51号の3施策に対する意見と取り組み、(3)平成10、11年度の研究報告書、研究成果普及啓発事業、小児用医薬品全般に関する意見を、以上3項目について製薬企業から資料集収した。(4)製薬企業の社会的使命について資料を基に論じ、責任を果たすべきと結論した。(5)小児医薬品調査研究班の3年の活動及び製薬企業と行政に対す要望を収集して纏めて記載した。

公開日・更新日

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