中毒者のアフターケアに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000824A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒者のアフターケアに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
内村 英幸(国立肥前療養所)
研究分担者(所属機関)
  • 村上優(国立肥前療養所)
  • 下野正健(福岡県精神保険福祉センター)
  • 近藤恒夫(日本ダルク本部)
  • 西村直之(医療法人卯の会あらかきクリニック)
  • 内田博文(九州大学大学院法学研究院)
  • 鈴木健二(国立療養所久里浜病院)
  • 原井宏明(国立療養所菊池病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物依存・中毒者のアフターケアに関する医療、地域保健(地域ネットワークウと薬物依存家族教室)、回復者施設、法律、家族支援、若年者の薬物乱用への1次予防について地域を限定して具体的に検討し、薬物依存・中毒者の援助システムをモデルとして提案できるように調査と治療・援助システムの開発を行った。
研究方法
1)病院調査では、アルコール病棟に併設して薬物依存リハビリテーションプログラムDRPを作成し、 DRPを受けた薬物依存症について治療後の転帰調査をおこなった。
2)地域プログラムを検討するために福岡県内の各分野における薬物関連問題についての調査し、それを踏まえて関係機関のネットワーク会議と薬物依存家族教室について検討した。
3)ダルク利用経験者の回復に関する調査は、1年以上断薬期間を持つ薬物依存症者を対象にし、調査票を用いて個別に調査員が回復過程について聞き取り調査をおこなった。その後ダルクスタッフにより検討会を行った。
4)家族の回復支援を行なうための家族教室プログラムの開発と、医療・福祉などの関連機関が容易に家族教室を開催することが可能な家族教室のテキストとマニュアルを作成し、薬物関連問題を持つ家族の回復支援について検討行なった。
5)ドイツおよびフランスを対象とした比較法研究を行うとともに日本も批准している国際条約や国連会議の動向を追うという方法によった。薬物自己使用者に対する新しい処遇プログラムの可能性の検討は、現在実際に薬物自己使用少年問題の実務に携わっている機関に対する聞き取り調査などの法社会学的手法によった。
6)高校生における薬物乱用の予備的実態調査を行ない、第1次予防としての薬物乱用予防教育のモデルつくりと生徒の反応を調査し、第2次予防としての早期介入のモデルを考案した。
結果と考察
1)DRP(入院)では1治療期間を1ヶ月とし、開放病棟で任意入院を原則として治療契約をおこない、心理教育、集団精神療法、運動療法、ボランティア活動をプログラム化し自助グループへの早期の参加、ダルクとの連携をおこなうこととした。今回のDRPは来院する症例の平均年齢が26歳で、10代後半から20歳代前半を中心とする思春期青年期の患者を対象としたプログラムである。これは実際的な薬物依存の発症年齢を反映しており、比較的に早期治療のシステムといえる。そのために治療への接近性の良さを考慮したものである。また依存治療の原則とされている治療の任意性を前提としていた。
2)DRPで治療を受けた薬物依存症78人のうち転帰について情報が得られた77人について検討を行った。退院後の転帰は断薬をしている経過良好群38%、薬物再使用(スリップ)は経験しているが調査時に断薬している要観察群34%、不変18%、死亡1%、矯正施設に入所9%であった。この治療転帰はアルコール依存のそれと類似している。現在アルコール依存に対する治療機関は全国的に整っている。この施設に薬物依存プログラムを併設することにより薬物依存への治療体制が広がることが期待される。その際に薬物依存治療が医療経済として成立するための費用項目を検討する必要がある。
3)薬物問題に関する関係機関のネットワークについて、福岡県では平成11年度にセンターでモデル的に実務担当者会議を開催した結果、事例検討を中心とした方法が効果的であることがわかった。 薬物関連問題に関する地域プログラムとしては、まず、関係機関のネットワークの構築が重要である。その構築には、実務担当者会議と研修会の二つを組み合わせる方法が適している。知識供与に加えて、集団療法的なアプローチで家族自身を支援する薬物依存教室も有効な地域プログラムである。
4)精神保健福祉センターで開催した薬物依存家族教室は、その目的を・薬物依存についての正しい知識や接し方を学ぶ場、・同じ問題を持つ者同士が語り合い、分かち合う場、・自助グループへのつなぎの場、・家族が依存症者や家から離れる場とした。教室の進行は、ミーティング方式に、チェックリストを用いながら自然な形で自分自身を振り返る方法、本人との関わり方についてのロールプレイ、および知識提供のミニレクチャーなどを組み入れた集団療法的アプローチで行った。
5)ダルク利用者の回復に関する調査では、薬物の開始年齢が平均16.0±3.6歳で、習慣的な使用(依存)は平均18.3±3.9歳、薬物依存と自覚したときが平均25.9±5.1歳で、ダルクにつながったのは平均26.8±5.5歳、回復につながるターニングポイントは平均28.1±5.2歳であった。この経過は薬物依存の進行とその回復の経過を示しており示唆に富んでいた。 回復調査からは薬物依存の疾病としての進行と、回復をめぐる時間経過を示した。薬物依存の進行は自由、創造性、個人の成長、善意を失わせる。回復はその4つのを取り戻してゆく作業である。
6)家族支援プログラムでは家族教室専用に作成されたチェックシート、ワークシート、レクチャー資料等を収録したテキストを出版し、他の機関でも家族教室が企画・開催できるように、テキストにあわせた進行方法のマニュアルを作成し出版した。家族支援プログラムの開発あたっては、・家族を「回復支援が必要な」当事者として支援すること・セルフチェック、フィードバック、グループディスカッションによるわかちあいなどによる集団療法を基礎したプログラムであること・知識供与よりも家族のエンパワーメントを重視し、家族の行動変化を促進する内容であること・家族教室が、薬物を使用している本人と家族が物理的・心理的距離をとり、休息と出会いを提供し、参加者にホッとしてもらえる場となること・ナラノンなどのセルフヘルプ・グループと連携し、家族教室がセルフヘルプ・グループへのパイプ役となり、家族のソーシャル・リソースを増加させるものであること・途中参加・繰り返し参加を可能とし、参加しつづけることでより家族が力づけられていくプログラムであること・参加者の匿名性を重視し、家族が正直に自分の姿を振り返り、気づきと行動変化を促せるプログラムであること・専門的知識がないスタッフでも行なえるプログラムであることなどの点に留意し開発を行なった。
7)ドイツ・フランスを対象とした比較法研究の結果、両国とも薬物犯罪を供給事犯と自己使用事犯で区分し、自己使用事犯については非犯罪化あるいは非刑罰化を図っていた。
8)フランスの薬物対策基本法である1970年法は、ヨーロッパ諸国の薬物対策法の主流である薬物の取引罪と自己使用罪を明確に区別した二分化政策を採用している。
9)我が国で薬物自己使用少年に専門的治療を確保するための処遇プログラムとして、社会内処遇である保護観察(少年法24条)および試験観察(少年法25条)が注目される。医療機関および付添人となる弁護士の協力を得て、薬物非行事件の審判廷で治療プログラム提示し試験観察下での治療プログラム参加の方向へ導くことができれば、少年側にとって家裁の処分決定を控えて治療への動機付けが強くなるので、少年を治療へと結びつけるルートが確保できる。またこの試験観察および保護観察の活用による新たな処遇プログラムにより、少年自身の治療への動機付けを強めつつ、治療が必要な薬物自己使用少年に対し社会内において必要な治療およびサポートを保障することが可能となる。国際的には特に青少年保護を念頭においた薬物需要削減の取り組みや薬物自己使用の非刑罰化の流れが存在しており、このように薬物自己使用少年に対し治療の保障を優先する方式は、薬物依存問題への取り組みの世界的趨勢にも合致するものである。
10)高校生に、専門家のドラッグの害についての話とDARCメンバーの体験談を組み合わせた教育講演を行った。講演前後で薬物についての考え方が大きく変わったという結果は得られず、教育効果ははっきりしなかった。1年後に薬物問題の再調査を行ない、講演はよかったという回答が講演直後より増加しており、薬物は危険であるというメッセージは伝わっていた。
11) 薬物乱用予防教育のために100枚の教材用スライドを作製し、その教材を使用して680人の生徒に専門家の話とDARCメンバーの体験談を組み合わせて教育講演を行い、スライド教材を使わずに行なった900人と比較したところ、講演はよかったという回答が多く、薬物の害の知識も高い頻度で回答があり、スライド教材の効果が確かめられた。
12)習慣的喫煙と問題飲酒を持っていた生徒にBrief Interventionを行なった。高校生の中に、薬物問題で悩んで相談を持ってくる生徒がおり、スクールカウンセリングの形で、Brief Interventionの方法で行なうことが可能であることを示唆した。
結論
本研究においては薬物依存・中毒者に対する包括的な援助システムについて、地域を限定しながら、また他の国を参考にしながら検討を行ってきた。これまでに小沼等により薬物依存症の治療モデル、治療プロセス、治療成績、家族への治療教育、社会内処遇の地域ネットワークは提案されている。しかし具体的なプログラムとして提示がないために、薬物依存の援助システムが高度な専門医療領域にとどまって、一般的な精神医療領域には広がらなかった。我が国でも、薬物依存症に対して研修等を通じて具体的な援助プログラムを普及してゆく必要が求められている。

公開日・更新日

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