薬物乱用・依存等の疫学的研究及び中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000823A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存等の疫学的研究及び中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 尾崎 茂(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 庄司正実(目白大学人間社会学部)
  • 宮内雅人(日本医科大学高度救命救急センター)
  • 平林直次(東京医科大学精神神経科)小沼杏坪(国立下総療養所)
  • 平井愼二(国立下総療養所)
  • 山野尚美(皇學館大学)
  • 中谷陽二(筑波大学社会医学系)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の薬物乱用・依存状況を把握し、薬物乱用・依存対策の基礎資料を提供することを第1の目的とし、中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方について提言することを第2の目的にした。
研究方法
<研究1:薬物乱用・依存等の疫学的研究>1-①薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査を層別一段集落抽出法により選ばれた全国190校97,280人の中学生に対して自記式調査を実施した。個人を特定できる質問項目はない。1-②全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査を全国の精神科病床を有する医療施設1,652施設を対象に郵送法で実施した。1-③全国の児童自立支援施設における薬物乱用・依存の意識・実態に関する調査を全国57の児童自立支援施設の入院児を対象に自記式調査で実施した。個人を特定できる質問項目はない。1-④都内某救命救急センターに搬入された患者の尿をunlinked anonymous法にて抽出し、Triageを用いて、乱用薬物スクリーニングを実施した。必要に応じて、GC/MSにて確認試験を行った。1-⑤都内某救命救急センターに搬送された患者の血液をunlinked anonymous法にて抽出し、REMEDi-HSRにて薬物検出を実施した。<研究2:薬物依存・中毒者に対する国公立精神病院の機能・役割に関する研究>2-①国立・都道府県立精神病院の薬物依存症専門病棟に勤務経験を有する看護職員を対象とした『薬物依存症患者の看護ケアモデル開発のための調査』を郵送法にて実施した。『国立・都道府県立精神病院に勤務するPSWのアルコ-ル関連及び薬物関連のケ-スに関する業務についての調査』を郵送法にて行った。2-②全国の精神保健福祉センターを対象に、薬物規制法違反に対する態度姿勢、及び、取締機関に対する期待、精神保健福祉センターによる薬物乱用者に対するサービス、薬物乱用者の回復を促進するネットワークへの関与の方針についてアンケート調査を実施した。2-③アクションリサーチ法に基づき、薬物使用者の家族を対象とした初期介入型グループワークを立案、実施し、18ヶ月間(36回)における参加者の属性および発言記録をデータとして抽出し、その結果をもとに、家族のニーズ、必要とされる支援のあり方について検討した。2-④医療、矯正、司法の分野を越えたシンポジウムを設定し、討論内容をもとに、各分野の活動、連携の現状と阻害要因、その改善策について検討した。
結果と考察
<研究1:薬物乱用・依存等の疫学的研究>1-① 1) 有機溶剤の生涯経験率は、1.3%(男子1.6%、女子0.9%)であった。2) 大麻の生涯経験率は、0.4%(男子0.6%、女子0.3%)であり、覚せい剤の生涯経験率は、0.4%(男子0.5%、女子0.2%)であった。3)有機溶剤乱用経験者群では、非経験者群に比べて、日常生活の規則性、学校生活、家庭生活、友人関係において、好ましくない傾向が有意に強いことが再確認された。その背景には、「親との相談頻度」「家族との夕食頻度」「大人不在での時間」が関係しており、親子の共有時間が少ないことが再確認された。4) 有機溶剤乱用による医学的害は、経験者群の方が知っている傾向が強かった。5) 有機溶剤乱用の経験と、大麻・覚せい剤乱用の経験とには、強い結びつきが認められ、同時に、喫煙経験と有機溶剤乱用経験との間にも強い結びつきが認められた。
中学生では、喫煙→有機溶剤乱用→大麻・覚せい剤乱用という流れがあることが強く示唆された。1-② 1) 主たる使用薬物別としては,覚せい剤症例が57.6%と最も多く,有機溶剤症例19.6%と合わせると全体の77.2%を占めていた。2) 覚せい剤症例が全症例に占める割合は前回調査時の48.2%より増加傾向にあり,使用期間が5年以上に及ぶ長期使用症例の割合は49.7%と前回の62.9%に比べてむしろ減少していたが,1年未満の症例の割合(6.5%)および,最近1,2年以内に使用を開始した症例の割合(各々5.7%,9.4%)がやや増加傾向していた。3) 大麻症例は1%以下と少なかったが,大麻使用歴のある例は全体の10%前後にみられた。4) このほか睡眠薬症例5.8%,抗不安薬症例1.6%,鎮痛薬症例2.7%,鎮咳薬症例1.5%,大麻症例0.7%,コカイン症例0.4%,その他症例1.6%などが報告され,多剤使用症例は,多剤症例(医薬品)3.7%、多剤症例(規制薬物)4.8%と8.5%を占めていた。5) その他,コカイン,ヘロイン,LSDなどの薬物のほか,MDMA(“エクスタシー"),“マジックマッシュルーム",“亜硝酸ブチル"等の報告もみられた。1-③ 1) 有機溶剤乱用者数は男性26.4%、女性52.0%、大麻乱用者数は男性5.0%、女性14.7%、覚せい剤乱用者数は男性5.1%、女性15.1%、ガス乱用者は男性17.8%、女性33.3%であった。2) 乱用者の方が非乱用者よりも薬害知識を有していた。4) 薬物乱用者では,あらかじめ薬害を知っていてもやはり使用していただろうと考える者が,50%から80%を占めていた。1-④ Triageでは検出できないトルエン、マジックマッシュルームや「噂」としては流布しているが乱用実態がほとんどつかめていないγヒドロキシ酪酸(GHB)がTriage未施行例から認められた。1-g⑤ 1) 対象279名中25.8%から薬物が検出され、身体疾患治療薬が19.7%の者から20種類、向精神薬が7.2%の者から19種類検出された。3) Methamphetamineは対象279名中3名(乱用者率1.1%)から検出された。<研究2:中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究>2-① 1) 薬物依存症患者の看護上の困難事としては、薬物依存症患者が有しがちな非社会性人格障害(ICD-10)(一般的には反社会性)への対応困難性が指摘され、薬物依存症の看護ケアモデルの開発の必要性が指摘された。2) 紹介先施設としては、ダルクが精神科医療施設に次いで多かった。3) PWSの75%以上が困難として指摘したことは、退院時の引受人(施設)の欠落であった。2-② 1) 対象となるケースの薬物規制法違反という要素が、対応方針に影響するかしないかは、センターによって大きく分かれた。2) 取締機関に対するとらえ方も一様ではなかった。3) しかし、以上の差異は、ネットワークの整備、並びに、講義形式の集団療法あるいは精神保健福祉分野の専門職に対する教育研修において、他分野の専門職を講師にする意思の有無等とは相関しなかった。2-③ 1) 薬物使用者の家族支援においては、初期介入の段階で、薬物依存についての基礎的知識の提供を通じて過剰な自責感を軽減し、適切な対処方法の具体的検討と実践を支援することにより、家族自身の心理・社会的に脆弱化した状態の改善を目指すプログラムが必要とされることが指摘された。2-④ 1) 医療・取締・矯正機関では、それぞれ独自のプログラムによる対策が取り組まれているが、自己完結的傾向が強く、乱用の動向や依存者に対するケアの方法についての知識と情報が分野を越えて共有されていないことが指摘された。2) 急性中毒状態にある依存者が警察から医療機関に移される場合、刑事手続が中断されることが医療側から問題にされた。
結論
<研究1:薬物乱用・依存等の疫学的研究>わが国の薬物乱用状況は覚せい剤を中心に、依然として不安定な状況にあり、これまで表面化していなかった乱用薬物の浸透も疑われ、混沌としていると考えられる。<研究2:中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究>薬物依存症患者が多少とも有している非社会性人格障害(ICD-10)に対応するための看護ケアモデルの開発の必要性が明らかになった。資金的に困難な状況にあるダルクへの公的な資金援助を早急に検討する必要があることが
指摘された。薬物関連ケ-スの社会復帰の受け皿として、治療共同体の理念に基づく社会復帰施設の早期設置の必要性が指摘された。医療・取締・矯正領域は、それぞれ独自のプログラムによる対策が取り組まれてはいるが、自己完結的傾向が強く、乱用の動向や依存者に対するケアの方法についての有益な知識と情報が分野を越えて共有されていないことが指摘された。自己使用犯に対しては、治療の継続を条件として刑の執行を延期もしくは取消する方式等、依存症対策の法的枠組を変える検討の必要性が指摘された。

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