医療機関等における安全対策に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000818A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関等における安全対策に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山口 惠三(東邦大学医学部微生物学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 仲川義人(山形大学医学部附属病院薬剤部)
  • 太田美智男(名古屋大学大学院医学研究科分子病原細菌学講座)
  • 武澤純(名古屋大学救急医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内感染対策を効果的に行うためには、医師、看護婦以外に検査技師、薬剤師の協力が必要である。本研究班では検査技師、薬剤師に対する院内感染教育の検討を行い理想的なカリキュラムを決定し、平成11年度に厚生省(現厚生労働省)の委託のもとに日本感染症学会主催で実際に臨床検査技師、薬剤師向けの院内感染対策講習会を開催した。平成12年度はその成果をもとに集約的かつ効果的な院内感染対策講習会を立案・計画し、実行するとともに講習会について評価することを目的とした。
看護婦の院内感染教育には日本看護協会や厚生省(現厚生労働省)の主催による講習会があり、多くの看護婦が院内感染対策の重要性を認識している。そこで、平成10年~11年度にかけて、日本看護協会の感染症管理認定看護師教育カリキュラムと欧米のICN養成のための講習会との内容を比較するとともに院内感染対策講習会に出席した看護婦にアンケート調査を行い問題点を抽出した。平成12年度は病院運営に関するマネジメントの中での患者の安全性確保の点からICNの院内感染対策の在り方に関する戦略的システム作りの検討を行った。
院内感染対策を効果的に行うには現状把握と対策の評価を継続して行うことが必要であり、それには、1)感染症患者の動向と患者背景、2)臨床分離菌と耐性菌の頻度、3)抗菌薬を中心とした薬剤の消費量、などの監視が重要となる。しかも、部門によって監視内容が異なるのでネットワークを構築してデータを共有するならば迅速かつ正確に院内感染の動向が把握され、より適切な対策を実施することも可能となる。このような点から、三部門をネットワークで結んだ場合の「院内感染監視システム教育用ソフト」の開発も試みた。平成12年度はソフトの基本的な開発を終了し、使用した場合の問題点についても考察した。
研究方法
1.検査技師を対象とした院内感染対策講習会について
平成12年度は平成11年度の成果をもとに講習会全体の時間数を短くし、実習内容を「薬剤感受性測定法と耐性菌検出」、「Legionella pneumophilaの臨床材料からのPCR検出およびパルスフィールド電気泳動を用いた型別」、「環境材料からのレジオネラ属菌の検出法」の3項目のみとする、など講習会の内容を改訂した。講習会の内容および参加者の到達度についてはアンケートとプレ・ポストテストで評価した。
2.薬剤師を対象とした院内感染対策講習会について
平成12年度は、第1回の講習会の成果をもとに内容を「感染症と薬物療法」、「感染症治療とTDM」、「院内感染防止と消毒・滅菌法」、「院内感染対策における薬剤師の役割」、「病院感染関連法令」、「病院感染関連微生物」、「院内感染対策の実際」の7項目からなる講義とパネルディスカッションに編成し直した。講習会では「改訂4版院内感染対策テキスト」と講義用資料を用い、更に終了後には講習会記録集を作成し、パネルディスカッションの内容も記載した。
3.感染対策専門看護婦の教育の検討平成12年度は米国CDCにおける院内感染対策のうち、戦略的なシステム構築に関する考え方と品質管理学会などで発表されている製品の「質」管理に関する記載を統合して、病院マネジメントの中での患者の安全性確保の観点から今後のICUの院内活動に関しての組織戦略の基本的な考え方を探った。
4.院内感染教育用資材としての「院内感染監視システム教育用ソフト」の開発
平成12年度も前年度に引き続きデータベースへの情報の入力と集計解析機能を備え、1)病棟からの患者情報や感染情報のみによる解析、2)検査部からの臨床分離菌や耐性菌情報のみを用いた解析、3)病棟と検査部の情報を用いた解析、のいずれもが可能である「院内感染監視システム教育用ソフト」の開発を行い、完成後にデータの入力を行って問題点を抽出した。
結果と考察
1.検査技師を対象とした院内感染対策講習会について
カリキュラム作成委員会にて第1回院内感染対策講習会の成果をもとに講習会の内容の打ち合わせを行い、平成12年10月26日~28日に大田区民プラザ(講義)、東邦大学医学部(実習)において第2回院内感染対策講習会を開催した。講習会は講義14題と実習3コースからなり、受講生は235名であった。受講後のアンケートの結果から参加者のほとんどが講習会に何らかの価値を認め、内容、教育方法の効果などについて適切であると評価していた。テストによる受講生の到達度の評価では全ての質問においてポストテストの正答率がプレテストの正答率を上回っていた。講義では講義数が多すぎるので内容を重要な点だけに絞るなどの工夫が必要であり、実習については時間をもっと長くして参加者全員が実際に参加できる形態にしなければいけないことが指摘されたが、講習会の日程や実習会場によってはかなりの制約を受けるので時間の延長は困難を伴うものと思われた。また、実習準備などに多大の労力を要するので、1回当たりの受講者数が250人程度に制限されるため、同じ内容の講習会を年2回開催するなどして、受講希望者が全員受講できるような措置を講じる必要があると思われた。
2.薬剤師を対象とした院内感染対策講習会について
第2回院内感染対策講習会は「院内感染対策テキスト」に薬剤師の役割を明記するとともに抗菌薬のTDMと投与設計、輸液管理などの記載を加え、平成12年9月21日、22日の2日間に名古屋の東海テレビ放送「テレピアホール」にて開催した。受講者数は288名で、参加者の意見・感想アンケートでは感染症に関する認識が高まったことや、ICTなどの重要性、抗生剤・消毒剤の適正使用、TDMの有用性などに関して理解が深まったという感想が多かった。講習会では院内感染制御にかかわる薬剤師の役割や抗菌薬の副作用、TDM、耐性菌の問題などが取り上げられており、薬剤師がどのように院内感染対策に関わっていけばよいかを明確にするとともに、薬剤師が院内感染対策に対して現在どのような問題に直面しているかなどの意見を広く集めることができた点で評価に価するものとなっていた。
3.感染対策専門看護婦の教育の検討
ICUの院内活動に関する組織戦略の基本的な考え方として、1)院内感染は患者転帰に影響を与えるので医療の品質管理の上で重要な評価基準となる、2)院内感染対策がどの程度有効に行われているかを評価するには、感染症による患者転帰が最終指標となる、3)感染症のリスク因子は内部リスク(原疾患、併発疾患、重症度など)と外部リスク(Interventionなど)に分けられる、4)院内感染対策の対象は病院全般の消毒・清掃・清潔操作・抗菌薬使用法などである。従って、各診療科や病棟別の独自の感染対策ではなく、全病院で統一された対策を行うことにある、5)サーベイランスは実態調査であり、現状の把握と感染対策の効果判定を行う上で重要である、6)厚生省のサーベイランスやNNISのシステムとの整合性をはかりつつ、独自のシステムを構築していく、7)各大学病院の感染対策委員会と我が国ではじめて国立大学病院に配置されたICNとが中心となって、院内感染対策の強化をはかるために国立大学病院感染対策協議会を設置する、ことが挙げられた。ICNの院内活動を効果のあるものにするには、現場からいつも正確な情報が収集できる体制を整備し、優秀な施設の評価平均値(Benchmarking)を提示して、常に、それを意識しながら内部改善活動を行うことが必要であること、院内感染対策は単に院内感染に限定されることなく、病院全体の運営・経営マネジメントの枠組みでとらえる必要があることから病院マネジメントを行える看護婦を養成できるか否かが今後の病院機能を向上させる分岐点になること、などが示唆された。
4.院内感染教育用資材としての「院内感染監視システム教育用ソフト」の開発
平成11年度までに検査部の情報と患者情報や感染情報に関わる項目が入力できる「院内感染監視システム教育用ソフト」の基本的開発を行った。平成12年度は、看護部と検査部をネットワークで結んだ場合の解析機能(感染症患者の定義に従って感染症患者を検索し、その患者についての分離菌検出状況を調査することで感染症原因菌の動向を明らかにする)を加えた。本ソフトは院内感染の監視をどのように実施していくかについて、具体的な教育を受ける機会が少ない看護婦、検査技師にとって自らが「シュミレートできる」教材として重要な位置を占めるものと考える。今後は実際にこのソフトを活用し、感染症の定義などの見直しや入力項目の取捨選択、および解析方法についての検討などを行うことが必要であると思われた。
結論
検査技師、薬剤師の積極的な院内感染対策への参加を促すために理想的な講習会のカリキュラムを作成し、これまで医師、看護婦を対象として厚生省(厚生労働省)の委託のもと日本感染症学会が行ってきた院内感染対策講習会を検査技師、薬剤師まで拡げた。また、ICNの教育システムについても検討した。さらに教育用資材として、看護部(病棟)と検査部の情報を共有できる「院内感染監視システム教育用ソフト」を開発した。

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