医療機関等における安全対策に関する研究

文献情報

文献番号
200000816A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関等における安全対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
一山 智(京都大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所)
  • 岩田 進(日本臨床衛生検査技師会)
  • 飯沼 由嗣(名古屋大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は細菌検査室での薬剤感受性試験の標準化と精度管理を目的としている。さらに、厚生科学研究「新興・再興感染症研究事業;薬剤耐性菌による感染症のサーベイランスシステムの構築に関する研究」および「新興・再興感染症研究事業;薬剤耐性菌による感染症症例情報ネットワークの構築に関する研究」の目的に合致させるものである。
研究方法
使用菌株は、肺炎球菌(PRSP)2株、Van-A型およびVan-B型腸球菌2株、緑膿菌1株(昨年度選定分)、及びESBL産生菌4株(SHV-12型、Toho-1型のE. coli及びK. pneumoniae)の4菌種、9株である。これらの菌株についてNCCLSで定められた抗菌薬感受性試験方法(ディスク法及び微量液体希釈法)を実施した。
また、継代による安定性試験もそれぞれの菌株について、週1回ずつ計5回の継代で感受性試験を実施し、さらに、京都大学、名古屋大学、滋賀医大、安城更正病院、防衛医大の5施設で保存(マイクロバンク内、-80℃保存)された菌株を用いて、月1回検査し保存による影響も検討した。
結果と考察
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP):検討した2株(S. pneumoniae KK-133とS. pneumoniae 197)はいずれもデイスク法でMPIPCの阻止円直径が19mm以下であった。そのうち耐性度が比較的高く、すなわちI(中間)と判定される率が少ない株(S. pneumoniae 197)を基準株とした。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE):VanA型VRE(E. faecium NCB-43)とVanB型VRE(E. faecalis HKY-RV1)の2株を検討した。いずれもデイスク拡散法でVCM耐性と判定され、MICはいずれも32以上でRであった。TEICに対しては、VanA型VREはデイスク拡散法およびMIC法いずれでも、IまたはRと判定結果が一定しなかった。一方、VanB型VREはデイスク拡散法では98%、MIC法では100%でSと判定された。また、ABPCに対して100%でSと判定された。したがって、これらの感受性結果が安定しているため、VanB型VRE(E. faecalis HKY-RV1)を基準株とした。
カルバペネム耐性緑膿菌:前年度までにIPMおよびCAZに対して耐性を示し、精度管理用株として設定された株(P. aeruginosa MSA-137)を用いた。今回はさらにAMKおよびLVFXの感受性結果も検討した。AMKに対してはデイスク法では99%、MIC法では97%でSを示し、LVFXに対してはデイスク法では100%、MIC法では97%でSを示した。したがって、感受性結果の基準範囲をデイスク法では両薬剤ともS、MIC法ではAMKにおいては16以下、LVFXにおいては2以下と設定した。AMKおよびLVFXに対しては、継代による感受性の変化はみられなかったが、IPMおよびCAZに対しては、一施設で継代によるプラスミドの脱落と思われる感受性の変化が観察された。
広域スペクトラムβラクタマーゼ(ESBL)産生菌:SHV-12型ESBL産生大腸菌(E. coli HKY-741)、SHV-12型ESBL産生クレブシエラ(K. pneumoniae HKY-525)、Toho-1型ESBL産生大腸菌(E. coli HKY-R163)、Toho-1型ESBL産生クレブシエラ(K. pneumoniae HKY-R150)の4株を検討した。
SHV-12型ESBL産生菌の2株はいずれもCTXに対してデイスク法で90%でIと判定され、MIC法ではS~Rまで大きく判定結果にばらつきがみられた。一方、CAZに対してはデイスク法およびMIC法いずれでも100%でRと判定された。ただし、一施設で継代によるプラスミドの脱落と思われる感受性結果は除外した。また、CVA添加による阻止円の5mm以上の拡大はほぼ100%で観察された。
Toho-1型ESBL産生菌の2株のうちE. coli HKY-R163は、CTXに対してデイスク法では100%でRと判定され、MIC法では91%でR、9%でIと判定された。ただし、一施設で継代によるプラスミドの脱落と思われる感受性結果は除外した。また、CVA添加による阻止円の5mm以上の拡大は100%で観察された。また、K. pneumoniae HKY-R150は、CTXに対してデイスク法では97%でR、3%でIと判定され、MIC法では84%でR、8%でI、8%でSと判定された。また、CVA添加による阻止円の5mm以上の拡大は100%で観察された。一方、2株いずれもCAZに対しては100%でSと判定された。
マイクロバンク内、-80℃保存での感受性試験の安定性:5施設で月1回の割で2年間検討した結果、感受性結果に変動はみられなかった。
各医療機関検査室において統一された基準株を用いることで、精度高い検査が行われることが期待される。しかしながら、本研究で明らかになった問題点は、1)耐性遺伝子がプラスミド上に存在する場合、継代によって高率にそれが脱落し感受性が復活すること、2)自動機器でのMIC測定による判定が、機器によってばらつきがみられることである。1)に対しては今後信頼のおける機関での菌株を保管し、各医療機関に適切に分与できるシステムを確立する必要があること、2)に関しては今後さらに機種間での精度管理のあり方を検討する必要があると思われた。
結論
医療施設の細菌検査室での抗菌薬耐性菌検査の標準化と精度管理を目的として、VRE1株、PRSP1株、ESBL産生大腸菌2株、ESBL産生K. pneumoniae 2株、および前年度検討済みのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)1株と多剤耐性緑膿菌1株、合計8株を抗菌薬耐性菌精度管理用菌株と検査結果の基準範囲が設定された。

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