新型インフルエンザワクチンの開発・製造・品質管理に関する研究

文献情報

文献番号
200000815A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザワクチンの開発・製造・品質管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 河岡 義裕(東京大学医科学研究所)
  • 堺 春美(東海大学医療技術短期大学)
  • 五條堀 孝(国立遺伝学研究所)
  • 豊田 哲也(久留米大学医学部)
  • 小田切孝人(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近く予想される新型インフルエンザの出現の際には、未曾有の健康被害と社会的混乱が危惧される。健康危機管理対策の対象として、新型インフルエンザを含むインフルエンザ対策の中心は、ワクチン接種体制の確立である。その為には、流行ウイルスの的確な予測と、これに対応した有効且つ安全なワクチンの開発、及び緊急時におけるワクチン生産、供給、品質管理を如何に効率良く短時間で行なうかという準備体制を確立しておく必要がある。本研究では、これらの問題解決のために以下の研究を行なった。
研究方法
(1)過去の分離ウイルスの遺伝子解析成績を基にデータベースを作製した。これに新たな分離株の遺伝子配列を与えると、直ちにマルチプルアライアメントの作成から分子系統樹の作成までを自動的に行なうシステムを設計した。
(2)新型インフルエンザに対するワクチンを速やかに製造するために、任意の改変遺伝子を持つウイルスを作製できる遺伝子操作技術を開発した。これを応用して増殖性を欠如した半生ワクチンの開発を行なった。
(3)ワクチンの品質管理として、現行の卵内中和法に変えて、国際的な一次元放射免疫拡散法(SRID)による迅速なワクチン力価測定法を検当した。
(4)インフルエンザにおける脳炎・脳症等の合併症例について、宿主側要因を検当した。
(5)現行HAワクチンを軽鼻接種することにより局所粘膜免疫を賦与する新しいワクチン投与方法を開発した。
(6)1997年に香港で流行したトリ強毒株から、遺伝子操作技術により弱毒化したH5N1型インフルエンザウイルス株を用いて作製したHAワクチンについて、前臨床試験と臨床第1相試験を計画して実施した。
結果と考察
(1)新たな分離ウイルス株の遺伝子配列を与えると、直ちにマルチプルアライアメント作成から分子系統樹の作成までを自動的に行なうシステムの構築を行なった。更にこれを改良して公開する予定である。その結果、専門家でなくても直ちに分離ウイルスの進化上の位置づけが分かり、流行ウイルスの予測に貢献することが期待される。
(2)任意の改変遺伝子を持つウイルスを作製できる遺伝子操作技術の開発に成功した。これによって、今後、どのような新型インフルエンザが出現しても、速やかに安全で有効性の高いワクチン製造株を開発できる可能性が示された。これを応用した半生ワクチンを開発し、その安全性と有効性を動物実験で確かめた。これは、次世代のワクチンとして期待できる。
(3)現行の卵内中和法に変えて、国際的な一次元放射免疫拡散法(SRID)による迅速なワクチン力価測定法を確立し、既に生物学的製剤基準の変更など、国家検定を含むワクチンの品質管理にも使用を開始した。これによって、従来一ヶ月以上を要した力価試験が数日で終了出来ることになり、緊急時のワクチン迅速供給に貢献することとなる。
(4)インフルエンザ脳症とHLA60との関連性が示唆された。今後リスク群の予知と予防・治療方法の確立に向けた前進である。
(5)現行HAワクチンを経鼻接種することにより、局所粘膜免疫を付与する新しいワクチン投与方法を開発した。今後のワクチン政策に具体的に反映されることが期待される
(6)弱毒化H5N1型インフルエンザウイルス株を用いて作製したHAワクチンは、動物を用いた前臨床試験において安全性と有効性が確認された。さらに第一相臨床試験でもヒトにおける安全性に問題がないことが示された。しかし、ヒトにおいては抗体の有意な上昇が認められなかったことから、現行のHAワクチン製剤には免疫記憶を賦与する能力が劣っており、新型インフルエンザに対するワクチンとしては、不適当である可能性が示された。新型インフルエンザに備えたワクチン開発のためには、今後緊急に、全粒子ワクチン製剤およびアジュバントワクチンの開発を検討し、これらについて、安全性と有効性を検証する必要がある。
結論
新型インフルエンザに対する健康危機管理の面からの対応としては、ワクチン接種体制の確立が中心となる。その為にはサーベイランスの成績に基づいた流行ウイルスの的確な予測と、これに対応したワクチン開発、及び緊急時のワクチン生産、供給、品質管理を如何に効率良く短時間で行なうかという準備体制を確立しておく必要がある。本研究の成果は、これら問題解決の為の基礎研究を行ない、より有効で安全なワクチンを効率良く生産するための方法を開発して、新しいインフルエンザワクチンの政策の構築に資するものである。また、新型インフルエンザに備えたワクチン開発のためには、今後緊急に、全粒子ワクチン製剤およびアジュバントワクチンの開発を検討し、これらについて、安全性と有効性を検証する必要がある。 

公開日・更新日

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