血液製剤の使用実態調査に基づく適正使用の研究

文献情報

文献番号
200000810A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の使用実態調査に基づく適正使用の研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 頌一(九州大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋孝喜(虎の門病院)
  • 佐川公矯(久留米大学医学部附属病院)
  • 坂本久浩(産業医科大学病院)
  • 高松純樹(名古屋大学医学部附属病院)
  • 丹生恵子(福岡大学病院)
  • 大戸斉(福島県立医科大学附属病院)
  • 比留間潔(都立駒込病院)
  • 鷹野壽代(聖マリア病院)
  • 前田義章(福岡県赤十字血液センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀前半における輸血療法適正化の実現による輸血使用量削減
21世紀の高齢化による輸血需要の増加および少子化による献血者の減少から我が国の血液需給は危機的状況にあり、早急に適切な使用量削減の手だてを講ずる必要に迫られている。輸血療法を臨床現場の経験則から医学的な適応や適正な使用基準に改めることによってどの程度の血液使用量の削減が可能であるのかについて明らかにすることが本研究の目的である。この目的の達成のために、福岡県では平成7年から血液供給側として福岡県赤十字血液センター、及び使用者側として4大学病院の輸血部門担当者が集まり情報の収集と分析につとめてきた。その結果、一つの県レベルではわずか20~30の病院がその県の血液使用量の70%以上を使用している状況を明らかにすることができた。この予備調査を踏まえて福島・北東京・愛知の3都県の協力を求めた。福岡と同様の実態調査法をこれら3都県でも実施し、マニュアル化できれば全国の血液使用実態が常に把握できるようになり、大きく使用量削減の達成が可能になると期待される。
研究方法
1.福岡、愛知、福島および北東京という四つの地域で統一アンケートによる使用実態調査を行った。
1) 病院の概要
a) 血液製剤の管理、運営、責任者、夜間の管理、輸血療法委員会
2) 血液製剤使用状況
a) 血液製剤の使用本数
b) 血液製剤の廃棄本数
c) 診療科・疾患別の輸血患者実人数(内科系)
d) 診療科・疾患別の輸血単位数(内科系)
e) 診療科・疾患別の輸血患者実人数(外科系)
f) 診療科・疾患別の輸血単位数(外科系)
g) 貯血式自己血輸血実施数
h) 貯血式自己血輸血単位数
i) 院内採血実施症例数
j) 輸血患者の性別・年齢
の各項目について回答を求めた。
使用状況の調査期間は平成12年1月から6月までの6ヶ月間とした。
結果と考察
福岡県71病院、愛知県18病院、北東京13病院、福島県98病院から統一アンケートの回答が得られた。これらの病院はいずれも200床以上の大病院であった。福岡県の35%を除けばいずれの地域も地域病院総病床数の20%以下であったが、輸血使用量は70%を越えていた。特に北東京は16病院で日赤供給量の84%であり、大病院への輸血療法の集中化が際だっていた。使用量削減の第一目標である廃棄血の削減については病院に輸血責任医師が存在するだけで劇的に減少することが明らかになった。すでに福島で日赤供給赤血球量の8%、福岡で5%になっており、これ以上の削減は難しいと思われた。また、第二の目標である自己血輸血は福岡県の日赤供給赤血球量の5%に達していたが、大きく赤血球需要を削減できるほどではなかった。本来の目的であった病院別使用量調査で、福岡県では病院間血液使用量較差が3倍を超えていることを発見した。このデータを公表することによって、突出した血液使用を行っていた病院での見直しのきっかけを作ることができた。しかしながら、輸血療法が大病院で集中的に行われるために輸血部を持った大学病院でさえも、個別患者の血液使用実態の把握は現場担当者の手作業に頼らざるを得ず、大変な困難を伴った。結局、現在の医療情報管理コンピューターシステムは保険請求作業のために作成されており、輸血は病院としての総使用量の把握にしか対応していないのである。したがって、一年間に自分の病院で何人の患者に輸血がなされているのか、疾患別にどのような血液が使用されているのかというc)~f)の調査に回答できる病院は今回回答できた病院のうち福岡県の45病院と北東京の5病院に過ぎなかった。このことは、使用実態把握に必要な最低限の項目を、各病院で使用されているプログラムからテキスト形式で抽出できるよう病院医事会計ソフトに統計処理機能を持たせる必要があることを意味していた。今回福岡県では調査を3年間繰り返すことによって、各病院が経年的な血液使用実態の変遷を知ることができ、かつ患者実数の把握率が向上した。病院首脳部の理解と協力があればこそであった。このように現時点では福岡県だけが突出して実態把握を行う体制ができているが、他の都道府県のデータがないために使用実態の患者別・疾患別比較が不十分であった。今後さらに協力可能な地方自治体を募って行く必要があった。
結論
輸血療法適正化を目的として使用実態調査を行うことによっていくつかの点を明らかにすることができた。その第一は輸血療法の大病院集中化であった。このことは、比較的少数の病院を標的に輸血療法を厳格に管理できれば使用適正化は円滑に行えることを窺わせた。一方、このような一極集中は各病院の血液の動きを把握するための事務作業量が増えすぎて、患者単位の情報把握を困難にしており、輸血療法の実態把握を難しいものとしていた。したがって、輸血管理専用にコンピュータのデータを利用すべきであった。その際、患者実数、疾患分類、疾患別使用量などが基本情報として取り出せるものであることが必要と考えられた。それによって、使用実態を明らかにし、病院間の相互比較データを公開し、必要最小限の輸血使用量に標準化することが、ユーザーである医療機関の責務であった。各病院が輸血療法を行った患者の実人数を集計することによって、各地域の住民である献血者に自分たちの献血が一つの地域でどれだけの患者を助けるために使用されたかを報告することが可能になる。もし、この情報が常に公開されておれば、地域住民の献血意欲をかき立てる大きな効果が期待される。このためには市や県という地方行政の持つ広報機能を利用することが効率的と考えられた。いずれにせよ輸血療法は献血という地域住民参加を不可欠とする特異な治療であり、地方行政・ユーザー(病院)・メーカー(血液センター)一体となって取り組んむことが使用適正化に最も肝要であると考えられる。

公開日・更新日

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