医薬品の品質保証基準及び品質判定システムに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000806A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の品質保証基準及び品質判定システムに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
青柳 伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岩上正蔵(大阪府公衆衛生研究所)
  • 鈴木英世(富山県薬事研究所)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ICHで最終合意に達した規格及び試験方法のガイドラインには、1)定期的/スキップ試験,2)パラメトリックリリ-ス,3)工程内試験といった我が国の承認・許可制度にない試験、概念が導入されている。ガイドラインが最終合意に達した今、これら試験の実施体制を我が国において早急に確立する必要がある。本研究の目的は、それら試験の実施上の問題点を明らかにし、実施手順の確立を目指すものである。
本年度は、パラメトリックリリースについて、実施に向けての体制、適用条件等について検討を行った。また、スキップ試験の実施に向けて、適用、実施の具体的ルール等について検討を行うと共に、個別の試験項目として、含量均一性試験へのスキップ試験の適用条件について検討を行った。
研究方法
パラメトリックリリースについて、高圧蒸気滅菌について現状調査、EU専門家等との意見交換を行い指針案を作成すると共に、GMP及び実行性の観点からパラメトリックリリースの課題、問題点について検討した。定期的/スキップ試験については、実施の方式、規則等について検討を行うと共に、含量均一性試験へスキップ試験を適用するための条件について検討した。
結果と考察
規格及び試験方法のガイドラインには、規格試験を省略するための3種の合理的な概念の試験が記載されているが、本年度は、パラメトリックリリースについて、実施に向けての体制、適用条件等について検討を行った。また、スキップ試験の具体的実施法、含量均一性試験へのスキップ試験の適用条件について検討を行った。
1. パラメトリックリリース
1) 法的、行政的対応  日局通則4項、製剤通則6項の改正により、パラメトリックリリースの受け入れは既に法的には整備された。パラメトリックリリースの認可には地方庁の関与が必須で、製造承認書の整備としては、「製造方法」欄および「規格試験法」欄に滅菌方法並びに無菌試験等に関する記載を追加する必要があろう。認可に際しては、製品の滅菌工程が適正にバリデートされていることを示す必要があり、さらに適用後も滅菌工程が恒常的にバリデートされていることを示す必要がある。
2) パラメトリックリリースの実施  高圧蒸気滅菌医薬品について検討を行い、パラメトリックリリース許容滅菌条件、重要管理項目、ユーティリティ、微生物の管理プログラム等を定めた指針案を作成した。また、GMP、実行性の観点から検討を行い、パラメトリックリリースを適用するには、滅菌工程の適正なバリデーション、滅菌保証の再現性が不可欠で、定期的な再バリデーションの実施が重要であること、製造記録等による滅菌保証の評価方法の標準化並びに滅菌工程の安定性の評価が必要になること、バイオバーデンのモニタリング及び製造用水の微生物管理が重要であることを示した。また、製造所について調査を行い、滅菌条件設定にバイオバーデンまで含めて検討している例は少ないこと、製品及び環境中のバイオバーデンの測定頻度は製造所によって大分異なること、現在の滅菌バリデーション、製造設備でパラメトリックリリースに対応することは難しいこと等が明らかとなった。今後の課題は、1)パラメトリックリリース指針の早期発行、2)許可要件に関する地方庁向けのQ&A作成、3)121℃で 15分以上又はFo≧8処理医薬品に対するパラメトリックリリースの導入勧告、4)パラメトリックリリース導入企業に対するGMP査察の強化である。
2. 定期的試験・スキップ試験
1) 実施の一般原則  実施の方式には、a)単純にスキップする方式、b) 代わりの試験を立ててスキップする方式、c) サンプル数を減らした試験を適用してスキップする方式が考えられるが、単純にスキップする方式は、有効性又は安全性と密接に関係する試験項目への適用は避けるべきであり、特異性の高い定量法が用いられている医薬品の確認試験、残留溶媒への適用が可能と思われる。スキップ試験を適用するには、a)主要な変動要因の解析、特定、b) 変動要因の制御、c) 最終製品の品質の確認が必須である。スキップ試験が適用されるのは、原則として製造が多い製品で、スキップ試験開始後は、管理図で許容域を超えていないこと等を確認する必要がある。また、試験結果がスキップ試験の判定基準に適合しなかった場合、スキップ試験を中止し、規格値に適合していないロットが見出された場合、直ちに当該ロットを回収する必要がある。スキップ試験を再開するには、中止の原因の究明が必須である。
3) 含量均一性試験への適用  主薬濃度(主薬量/1個の製剤質量)RSDが2%以下であれば、質量偏差試験を代わりの試験として使用できることがOC曲線より明らかとなった。市販製剤の多くは、主薬濃度RSDが2%以下でスキップ試験を適用できる可能性は高い。また、主薬濃度のばらつきが大きくても、判定値を厳しくすることにより質量偏差試験の適用が可能で、判定係数を変えればサンプル数を減らした含量均一性試験を代わりの試験として使用できることが分かった。更に、硬カプセル剤においても、カプセル総質量を用いた質量偏差試験を代わりの試験として使用できることが判明した。
結論
パラメトリックリリースの実施は、日局通則4項、製剤通則6項の改正により法的には可能である。認可には滅菌工程がバリデートされていることを示す必要があり、地方庁の関与が必須で、製造承認書の整備が必要であると思われる。また、高圧蒸気滅菌医薬品のパラメトリックリリース指針案を作成し、更に、GMPの観点から、パラメトリックリリースの適用には、重要管理項目等の管理、再バリデーション等が大切であることを示した。一方、製造所では設備面がパラメトリックリリースに対応しておらず、導入に向けて技術の確立等が必要であると思われる。
定期的/スキップ試験の場合、実施の方式には代わりの試験を立てる等、いくつかの方式が考えられる。しかし、単純にスキップする方式は、医薬品の有効性、安全性に密接に関連する試験項目への適用を避けるのが望ましく、確認試験等に適用できるものと思われる。また、スキップ試験の実施、中止、再開の規則案を作成した。更に、含量均一性試験について、質量偏差試験またはサンプル数の少ない試験を代わりの試験として使用できる条件を明らかにし、主薬濃度のばらつきが大きい製剤、カプセルに対しスキップ試験を適用できる条件を示した。市販製剤の大部分はスキップ試験を適用し得ると思われる。

公開日・更新日

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