トランスジェニック動物/クローン動物を利用して製造した医薬品の安全性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000804A
報告書区分
総括
研究課題名
トランスジェニック動物/クローン動物を利用して製造した医薬品の安全性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 真弓忠範(大阪大学大学院薬学研究科)
  • 黒澤 努(大阪大学医学部)
  • 今井 裕(京都大学大学院農学研究科)
  • 豊島 聡(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西 徹(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のバイオテクノロジーの飛躍的な進歩により、微生物や動物細胞の組換え体由来あるいは細胞培養技術を用いて製造した多くのバイオテクノロジー医薬品が医療現場に供されている。しかし、最近欧米を中心にトランスジェニック動物を利用して製造した製品が開発され、さらにはクローン動物を用いた医薬品製造も検討されており、動物を医薬品工場として利用する技術が実用化段階に入りつつある。これら新技術を利用した医薬品の製造は、従来のバイオ技術による医薬品の製造よりはるかに効率的であるとされており、近い将来、我が国でも当該技術を利用した医薬品が臨床に供されることが予想される。そこで、トランスジェニック動物/クローン動物を利用した医薬品製造の状況を把握し、製造に利用される動物を作製・維持・管理する上での留意事項及び製品の品質や安全性確保に必要な評価技術を検討することを目的とする。
研究方法
トランスジェニック動物/クローン動物に関連する公表論文および医薬品製造の観点からの情報、米国FDAのPoint to consider (PTC)、EU CPMPのガイドライン、また遺伝子組換え医薬品、細胞培養医薬品、遺伝子治療用医薬品、細胞治療用医薬品の品質・有効性・安全性確保を図る過程あるいは関連する評価技術の開発研究を行う過程で蓄積された経験や知見、さらにICH文書の関連部分等を参考に、上記の動物応用医薬品の品質・安全性確保に必要な諸要素を調査・研究し、評価方法および評価基準について検討した。
結果と考察
トランスジェニック動物/クローン動物を応用して製造した製品の医薬品としての品質、安全性等を確保するためには、特徴ある製造方法の詳細を明確にし、その妥当性と恒常性の検証を行う必要がある。併せて製品における適切な試験を実施する必要がある。その際留意すべき事項および評価のポイントについて過去2年検討してきたが、今年度は残されていた以下の課題および事項について整理を行い、トランスジェニック動物/クローン動物を利用して製造した医薬品の試験や評価にあたって考慮すべき要件をまとめた。
(1)クローン動物:クローン動物の作出は、体細胞の核移植による体細胞クローン動物によって実現した。体細胞クローン動物の医薬品生産への応用には、2つの可能性が考えられる。一つは目的遺伝子を導入した体細胞を核を取り除いた卵子に移植することによりトランスジェニック動物を作出し作出効率の改善をはかる、もう一つは初代トランスジェニック動物から均一な生産用動物を作出する、という可能性である。前者については現実に医薬品生産への応用が試みられているが、作出効率の改善という点では未だ成功に至っていない。即ち、流産死あるいは出生直後に死亡する動物が極めて多い。後者の均一な生産用動物を作出する手段としての応用に関しては、家畜に関するデータはいまだ得られていない。むしろ胎児期あるいは出生後の外的環境の影響が大きいことを示唆するデータもあり、医薬品生産用トランスジェニック動物の生産をクローン動物で行なうまでには至っていない。クローン動物による医薬品生産の現状は上記のとおりであるが、現在クローン動物の医薬品生産への応用の可能性については活発に検討が行なわれており、近い将来応用例が現れると思われる。このような体細胞クローン動物を用いて生産される医薬品の品質・安全性評価法について検討した結果、体細胞クローン動物が動物工場として採用されたとしても、下記にまとめたトランスジェニック応用医薬品の品質・安全性評価法をあてはめることが可能という結論に至った。即ち、核移植されるドナー細胞に目的遺伝子を導入しクローン化するまでの過程は,「遺伝子導入構成体の構築と特性解析」および組換え医薬品製造のための細胞基材に関するガイドラインを適用することができる.体細胞クローン動物の作出法についても、基本的には「初代トランスジェニック動物の作出と特性解析」と同様の評価法が適用できる.後者の初代トランスジェニック動物からの生産用クローン動物の作出においては,初代トランスジェニック動物からの細胞の分離,さらには核移植から生産用クローン動物の作出に至る過程については,「初代トランスジェニック動物の作出と特性解析」と「生産用トランスジェニック動物の作製」 および 「トランスジェニック動物の維持・管理」 が適用できる.
(2)トランスジェニック動物の維持・管理:医薬品生産の動物工場としては、主として家畜が用いられているが、これら家畜のトランスジェニック動物は個体の識別が容易であり、逃亡の可能性も小さく、さらに家畜そのものは食肉、ミルク生産に長い経験・実績がある。したがってこれらトランスジェニック家畜の維持・管理においては、個体の識別法等の要件で、小動物を中心とした実験動物のものほど厳格な管理は必要ないという結論になった。一方トランスジェニックマウス等は医薬品としてのヒト型モノクローナル抗体の作製等に用いられていることから、小動物用のより厳格な動物飼育施設・管理に関しても留意事項をまとめた。
(3)トランスジェニック動物の処分:医薬品生産用のトランスジェニック動物の作出を成功させる過程においては、遺伝子導入の有無や医薬品生産能力の異なる様々な個体ができる。これら動物については、通常安全性等は十分検討されない。したがって、食肉等に流用されないように、これら動物については最終的には焼却処分にすることとした。
(4)ヒト型モノクローナル抗体作製のためのトランスジェニックマウス:トランスジェニックマウスはヒト型モノクローナル抗体作製のための動物工場として用いられている。そこで、これらの動物の作出にあたっての評価法について検討を進め、ヒト型抗体が発現し、かつマウス型の発現が消失していることの確認の必要性等、留意事項をまとめた。
(5)ウィルス汚染の評価法:主として家畜に感染する病原体に関して調査し考察した。目的物質の安定的生産のためには家畜に感染する病原体全般の検査が必要であるが、目的物質をヒトに適用した場合の安全性という点では人獣共通感染ウィルスが重要になるという結論となった。さらに原料のウィルス汚染の検査法の中で、今後中心的な方法の一つとして用いられることが予想されるNAT法について調査、考察を加えた。
(6)翻訳後修飾の種差:トランスジェニック動物によってヒト型の目的タンパク質を製造する場合、翻訳後修飾の種差によって天然型との間に分子構造の違いが生じる可能性がある。特に糖タンパク質の糖鎖の違いについては、製品化にあたって十分な検討が必要である点について考察した。
(7)実情調査:米国における規制当局FDAの担当者と意見交換を行い、米国においては1995年にFDAが発表したPTC後の変化は特にはなく、トランスジェニック動物応用医薬品/クローン動物応用医薬品関係の新たなガイドラインの作成あるいは修正の予定はないことを確認した。さらにトランスジェニック動物/クローン動物を利用した医薬品生産を行っている主要な企業を訪問し、製造の実情調査を行ない、特にトランスジェニック動物/クローン動物飼育管理施設、およびウィルス汚染の評価の実態について調査を行い、本研究で検討している評価法が実際に生産の評価にも適切なものであることを確認した。
(8)総括:以上の検討結果を加味してトランスジェニック動物応用医薬品の試験や評価にあたって考慮すべき事項について、主な要件毎に集約、整理した。なお(1)に記したようにクローン動物応用医薬品の試験や評価にあたっても同様の原則を適用できる。主な要件とは:1)遺伝子導入構成体の構築と特性解析;2)初代トランスジェニック動物の作出と特性解析;3)トランスジェニック動物系の保存、継続的維持・供給体制の確立;4)生産用トランスジェニック動物の作出と選別;5)トランスジェニック動物の維持管理;6)トランスジェニック動物から目的産物の採取、精製、製品化;7)製品の特性・品質解析;8)プロセス評価、工程内管理試験;9)医薬品規格及び試験方法の設定;10)製剤設計;11)製品の安定性試験;12)非臨床安全性等試験;13)臨床試験 である。1)、7)、8)、9)、10)、11)、12)、13)については、遺伝子組換え医薬品、細胞培養医薬品、遺伝子治療用医薬品、細胞治療用医薬品等に対する試験や評価と同様の方法を用いることができると考えられ、特に ICH のバイオテクノロジー応用医薬品に関するガイドラインに盛り込まれた考え方が参考になる。一方 2)、3)、4)、5)、6)については獣医学領域の配慮、とりわけ動物管理や人畜共通感染物質による汚染についてのチェックが重要と思われる。またトランスジェニック動物/クローン動物の作出技術の開発・改良は日進月歩の状態である。今後これらの新技術にも配慮した柔軟な対応も必要とされる。
結論

公開日・更新日

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