医療用具・医療材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000803A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具・医療材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 利江(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 黒澤努(大阪大学医学部付属動物実験施設)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第1の目的は、組織工学で使用される牛胎児血清中のウイルス検査を行うことを目的として牛胎児血清について、HCV、EBV、CMV、HSV、B19ウイルスについて検査することを目的とした。第2の目的は、材料、ウイルス、細胞との相互作用の結果引き起こされるHSV-1増殖影響について調べるために、組織加工医療用具の材料として代表的な4種のポリマーを用いて、HSV-1のウイルス増殖への影響について調べた。第3の目的は、数種類のヒト皮膚モデル製品について、AIDSウイルスに汚染した時のウイルス検出法を検討し、組織工学製品に対するウイルス安全性を評価する上での問題点等を明らかにすることを目的とした。第4の目的は、ISO/TC198で作成されたヘルスケア製品(医療用具、医薬品、体外診断薬の総称)の滅菌法および滅菌保証に関する国際規格を日本薬局方や厚生行政に反映させることである。第5の目的は、異種動物利用医療用具のソースとなる実験動物の微生物制御の実態と将来のあるべきすがたを明らかにする事を目的として、国際学会に参加し諸外国の現状について調査した。
研究方法
第1の方法は、HCVは、RT-PCRで判定した。EBV、CMV、HSVおよびB19は、DNAを抽出し、増幅後、常法により判定した。
第2の方法は、合成ポリマーのHSV-1の増殖影響を調べた。合成ポリマーとして、ポリグリコール酸 分子量3000(PGA3000)、ポリ乳酸 分子量 5000(PLLA5000)、ポリカプロラクトン-乳酸(50:50)共重合体 分子量 18000 (P(LA-CL)50 18000)、ポリカプロラクトン-乳酸(25:75)共重合体 分子量 10000 (P(LA-CL)25 10000)の4種類を用いた。
シャーレに、Phfb細胞(新生児包皮由来細胞株)を培養し、HSV-1と各合成ポリマー50μg/ml含有5%FCS-Eagle-MEM培地に交換して培養し、培養液を凍結融解して、2000rpmで5分間遠心後、上清を回収しウイルス液として、ウイルス感染力価測定を測定した。第3の方法は、HIVは、リンパ球由来細胞およびマクロファージで増殖するため、MT-4あるいはOM10.1を、コラーゲンスポンジとヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)で作製したヒト皮膚モデルに接種して培養した。翌日、新しい培養液へMT-4あるいはOM10.1の吸着したヒト皮膚モデルを移して培養し、増殖能及びHIV-1抗原の検出を検討した。HIV抗原の検出は、ルミパルスI HIV-1p24(富士レビオ)を用いて行った。第4の方法は、ISO/TC198活動の全体的把握、アンケート形式による滅菌に関する現状調査や新しい滅菌法の評価等を行った。第5の方法は、ISO/TC194逗子会議、米国実験動物学会2000年に参加し、実験動物の微生物制御や動物福祉に関する各国の情報収集、分析、提案等を行った。AAALAC International の認定実験動物施設動向調査、実験動物医学専門医、実験動物の安楽死に関する調査、分析も行った。
結果と考察
第1の結果と考察は、市販されている牛胎児血清を2社から購入し、9ロットについて検査した。HCV、EBV、CMV、HSVおよびヒトパルボB19(B19)の5種のウイルスについて、ウイルスゲノム同定法(核酸プローブを用いる診断法)により、判定した。EBV,CMV,HSVおよびB19については、検出限界以下であり、陰性であった。4つのロットの牛胎児血清について、HCVのgenotypeについて確認できるprimerを用いてRT-PCR法により検査した。その結果、1a型、1b型、2a型、2b型は検出されなかった。更に、HCV RNA定性検査をRT-PCR法を用いて実施した結果、陰性であった。
通常の実験室レベルで使用されている市販牛胎児血清9ロットについて、ウイルス5種について、汚染状況の有無を調べてみた。いずれも陰性と最終的に判定された。第2の結果と考察は、4種の生分解性高分子材料を50μg/mlの濃度で、ウイルスとともに、Phfb細胞に添加したとき、ウイルス感染力に及ぼすポリマーの影響について評価した。細胞を培養後、HSV-1を接種と合成ポリマーの添加を行った結果、これらのポリマー共存下では、非共存下に比べて、接種ウイルス感染力価は同程度か低下する傾向が認められたものの、ウイルス感染による増悪の可能性は無いことが示唆された。今後、物理的、化学的、立体的に異なる骨格材料について、これらのウイルス増殖能に及ぼす影響や、3次元構造を有する試料の調製方法に関する研究が必要であると考えられる。第3の結果と考察は、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカムへのヒト皮膚繊維芽(NHDF)細胞の増殖能を検討した結果、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカムにNHDF細胞を100000個吸着させ、6日間培養し、Alamar Blue法で増殖能を評価した結果、NHDF細胞は、コラーゲンスポンジおよびハニカム内で増殖することが明らかになった。リンパ球由来細胞のMT-4を用いて、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカムとNHDF細胞で作製した皮膚モデルへの接種実験を行ない、皮膚モデル内でのMT-4の増殖能について調べた。OM10.1を皮膚モデル(コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカムとNHDF)に接種し、皮膚モデル内でのOM10.1の増殖能についても検討した結果、経日的に激減した。NHDFとコラーゲンスポンジ、ハニカムのみでは、5日間、顕著な変化はみられなかった。OM10.1のみでは、培養日数の経過とともに増加した。皮膚モデルにOM10.1を接種した時、cut off index(COI)は、経日的に減少し、OM10.1のみでは、逆に経日的に増加した。皮膚モデルのみは、陰性であった。皮膚モデル材料としたコラーゲンスポンジは、コラーゲン密度が高く、NHDFが増殖できず、皮膚モデルとしては不適だった。これに対してコラーゲンスポンジ、ハニカムは、細胞が付着できるポアが一定方向に並んでおり、栄養補給、老廃物及び生産物質の放出が容易であるため、皮膚モデルとして使用可能であったと考えられる。MT-4を用いた接種実験では、MT-4は、皮膚モデル内では、安定した増殖能を示したが、コラーゲンスポンジ、ハニカム内では、増殖できなかった。コラーゲンスポンジには、リンパ球の増殖を抑制する作用があると考えられた。また、MT-4単独でも増殖能が低下したが、これは、MT-4の増殖能が低下したが、これはMT-4の増殖度が早くて栄養補給が間に合わなかったためであると思われた。これに対してOM10.1では、単独およびコラーゲンスポンジ、ハニカム内では、増殖度が遅いため5日目まで、吸光度が上昇したが、皮膚モデル内では、増殖せず、5日目に低下している。これは、MT-4とは反対の結果であり、MT-4がリンパ球由来なのに対してOM10.1がマクロファージ由来のHIV-1持続感染細胞であることによるかもしれない。P24抗原は、皮膚モデル内では、増殖能がかなり低下しても陽性であった。また、OM10.1のみ及びコラーゲンスポンジ、ハニカム内では、p24抗原は、1日目は陰性であるが、皮膚モデル内では、1日目から陽性であった。これは、2日目の増殖能の急激な低下と関係があるように思われた。接種後からOM10.1が死滅し始め、p24抗原を大量に放出したためであろうと思われた。第4の結果と考察は、ISO規格は5年毎に見直すことになっており、ISO/TC198/WG1(EOG滅菌)、WG2(照射滅菌)、WG3(高圧蒸気滅菌)の改定作業が始まり、これらについて対応した。また昨年度、「国内医療用具メーカーにおける滅菌の現状」と「国内製薬企業における高圧蒸気滅菌の現状」について調査を行った結果を解析し、それらを踏まえて、医薬審第877号通知(平成12年7月18日)や第十四改正日本薬局方の製剤通側の改正に反映してきた。また、新しい滅菌法として注目されている光パルス滅菌法を不活化ワクチンに適用できるかどうか検討した。米国FDAは、不活化ワクチンに防腐剤と
して添加している有機水銀化合物のチメロサールを除去するよう勧告した。そのため、防腐剤を除いた後の無菌性を高めるために抗原性に影響を及ぼさない滅菌法を模索中である。γ線滅菌を試みたが、照射量に比例して力価低下が認められ、使用できないことがわかった。第5の結果と考察は、1)ISO/TC194 逗子会議でWG3コンビーナーの提案に対し、わが国の動物愛護に関する法律が改正され、その現状等を考慮し修正したものを発表した。2)米国実験動物学会に参加し、実験動物微生物統御の国際標準化が必要であることを協調した。米国の生産場でさえ、国内標準が全く存在しないことも明らかになった。3)AAALAC Internationalの実験動物施設認定は、600以上になるが、わが国には、認定された機関はひとつもない。4)実験動物医学専門医の動向について:米国農務省所管の動物福祉法が2000年に見直され、マウス、ラット、トリが新たに対象動物となった。5)安楽死について:欧州では、実験動物の安楽死に関する勧告が欧州会議で公表され、これが実質的な欧州の標準となっている。米国では、改訂作業を行ない、2001年2月米国には、実験動物の飼養および管理に関する基準が策定されたが、実験動物の安楽死に関する基準等がなく、その制定が急がれる。
結論
組織工学に使用する牛胎児血清について、5種のウイルス検査を実施した。EBウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、および、ヒトパルボB19(B19)について、核酸プローブを用いたウイルスゲノム同定法で検査した結果、いずれも陰性であった。市販時の説明文書に、これらのウイルス陰性とは、表示されていないが、これらのヒト常在ウイルスによる汚染は、試験した牛胎児血清にはないことが今回の調査から明らかになった。また、ヒト皮膚繊維芽細胞であるPhfb細胞を培養後、生分解性ポリマーと添加し、HSV-1ウイルスを感染させたときのウイルス増殖能を調べた結果、P(LA-CL)50 18000ポリマーでは、接種ウイルスの感染力価が下がる傾向が認められたものの、非存在下と比べて、大きな差はなかった。今後、物理的、化学的、立体的に異なる骨格材料について、種々のウイルス増殖能に及ぼす影響や検出試料の調製方法に関する研究が必要である。コラ-ゲンスポンジ、ハニカムとNHDFによりヒト皮膚モデルを作成できた。ヒト皮膚モデル細胞の増殖能は、細胞毒性を示さないAlamer Blue染色液を用いて測定することができた。リンパ球由来細胞MT-4によるヒト皮膚モデル内接種実験では、増殖能があった。HIV-1感染持続細胞OM10.1によるヒト皮膚モデル接種実験では、増殖能は低下したが、HIV-1p24抗原は5日まで陽性であった。これらのことより、皮膚モデル接種実験によりHIV-1を検出できることが分かった。医療用具に対する滅菌の現状調査及び医薬品に対する高圧蒸気滅菌の現状調査結果については、関係者に広く知っていただくために論文として発表した。調査結果における問題点について、当局と相談し、解決を図ったり(医薬審第877号通知)や日本薬局方(製剤総則/通則6項の改訂)に反映した。不活化ワクチンへの光パルス滅菌の適用については、今後も検討が必要である。ISO/TC194 逗子会議でWG3コンビーナーの提案に対し、わが国の動物愛護に関する法律が改正され、その現状等を考慮し修正したものを発表した。米国実験動物学会に参加し、実験動物微生物統御の国際標準化が必要であることを協調した。AAALAC Internationalの実験動物施設認定は、600以上になる。米国農務省所管の動物福祉法が2000年に見直され、マウス、ラット、トリが新たに対象動物となった。欧州では、実験動物の安楽死に関する勧告が欧州会議で公表され、これが実質的な欧州の標準となっている。米国では、改訂作業を行ない、2001年2月米国獣医学会誌に公表した。

公開日・更新日

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