新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000800A
報告書区分
総括
研究課題名
新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西條長宏(国立がんセンター中央病院)
  • 江口研二(国立病院四国がんセンター)
  • 大橋靖雄(東京大学医学系研究所)
  • 下山正徳(国立名古屋病院)
  • 鶴尾 隆(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 福岡正博(近畿大学医学部)
  • 吉田茂昭(国立がんセンター東病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新薬併用療法の組み合わせは基礎研究や動物実験による科学的根拠が必要である。その方法論の研究は国際的にも盛んに行われ提案がなされているが 、これらを調査研究し基礎の面から、有効性と安全性確保の2面性を持つ第I/II相試験のための基礎研究の方法論を第I相試験と同様に確立し、そのガイドラインを作成する。
抗がん剤の多剤併用療法の推奨投与量を決定するための増量試験は、数多く行われているものの、その方法論について考察したものは少なく、研究者の経験則によって行われていることが多い。これまで発表されてきた論文の中で抗がん剤の多剤併用療法に関するものをピックアップし、その方法論について調査・検討する。
第Ⅰ相試験では用量制限毒性(DLT)を規定し、最大耐用量(MTD)あるいは第II相で用いる臨床用量(RD)となる用量レベルを選択することを目的として伝統的に3例ずつのコホートを用いたデザインが採用されてきた。この第Ⅰ相試験またはしばしば同じデザインで行われる併用第I/II相試験の特徴は簡潔さであり、統計家が必要無いと思われているのかもしれない。試験はある用量レベルを3例に投与して、DLTの発現が観察されなければ増量する。1例のみ発現すればさらに3例追加して、計6例のうち1例までのDLT発現であれば増量するという規準でしばしば試験が行われている。試験はDLT発現が3例中2例以上、あるいは6例中2例以上であれば終了し、その用量レベルをMTD、その1レベル下の用量レベルをRDとすることが多い。増量の判断が分かれる2/6の95%信頼区間が[4.3%-77.7%]と広いことから選択されるMTDの信頼性があまり高くないことは知られているが、MTDの信頼性は投与開始の用量レベルや増量幅にも大きく影響されることも知られている。投与開始の用量レベルや増量幅がMTDの推定に与える影響を定量的に調べる。
既に外国では適応が承認され、その医薬品が標準的治療法に組み込まれているが、我が国では当該疾患にはまだ適応未承認で製薬企業も経済的な理由により適応拡大の治験をしないものが少なからずある。この場合、公費臨床試験で研究を行い、適応拡大の承認をとる道しか残されていないが、適応外医薬品の入手は制度上極めて困難である。この問題を解決するにはどうすればよいのかを検討し、改善するための提言をまとめる事を目的に調査研究を行う。
化学療法後の非小細胞肺癌再発例に対して、近年ドセタキセル(DTX)の有用性がランダム化比較試験で示された。また、ゲムシタビン(GEM)も有効性を示した報告があり、この2剤の併用療法は再発非小細胞肺癌に対するより有用なレジメンになりうる。DTX/GEM併用化学療法の第I/II相試験を行う。
非小細胞肺癌患者を対象にpaclitaxelとcisplatin (CDDP)の併用第I相試験を行い、 (1)最大耐量(maximum tolerated dose:MTD),(2)推奨用量,(3)用量規定毒性(dose limiting toxicity:DLT)及び安全性,(4)治療効果の観察を検討する。
研究方法
新薬を含んだ新併用療法では、新薬の投与量を適正に設定する必要がある。この新併用療法は非臨床試験を事前に行い、その有効性と安全性の基礎データに基づいて設定しなければならない。このため、1) 第I/II相試験に入るために必要な非臨床試験データの範囲の研究調査。2) 第I/II相試験の研究デザインの調査研究。特に国際的な研究の調査を行い、最終的には3) 新併用療法の第I/II相試験の基礎研究に関するガイドラインの作成を行った。
1997年1月から1999年12月までにJournal of Clinical Oncologyに掲載された多剤併用療法の増量試験の報告から、2剤併用療法で骨髄移植などを併用していないものを30編選別し、タイトル、初回投与量、増量方法を検討した。
ある用量レベルのDLT発現確率を与えれば、二項確率に基づいて3例あるいは6例に投与された際にDLTが発現する症例数の確率を計算できる。そこで、その用量レベルにおける増量、終了する確率をそれぞれ誘導した。さらに、その用量の1レベル下の用量レベルで増量としたという条件付きの確率であることを考慮し、任意の開始用量レベルと増量幅の組合わせによる複数段階の用量レベルのセッティングにおけるMTDの確率関数および分布関数を導き、さらにMTDの信頼性を平均、標準偏差とあわせて評価した。
適応外使用及びそれに関係する厚生省通知、並びに学会や研究班の見解を調査する。適応外医薬品の研究的使用に関し、特に企業からの白箱提供の問題点を国家公務員倫理法と寄付行為の許可条件などの観点から検討した。
DTX + GEMのI/II相試験では対象を前治療としてプラチナ製剤を含む化学療法が行われた症例中、病巣の進展が明らかなもので、主要臓器機能が保たれたPS0-1症例とした。投与量はDTXを60mg/m2に固定し、day 8に投与。GEMを800mg/m2(レベル0)、1000mg/m2(レベル1)、600mg/m2(レベルー1)の3段階としday 1, 8に投与した。レベル0から開始した。用量規制毒性(DLT)はgrade 4の白血球減少・血小板減少、4日超のgrade 4の好中球減少、grade 3以上の好中球減少に伴う発熱、grade 3以上の非血液毒性および第8日の投与が出来なかった場合とした。
PaclitaxelとCDDPの併用試験では適格条件を満たし、かつ、除外条件に抵触しない非小細胞肺癌患者を対象とした。投与方法はday 1に前投薬後にpaclitaxelを3時間かけて、day 2にCDDPを1時間かけて静脈内投与した。投与レベルは3レベル設定し、paclitaxel/CDDPの各々の投与量はlevel-1:210/40(mg/m2),level-2:210/60(mg/m2),level-3:210/80(mg/m2)で、各投与レベルに6例ずつ登録した。同一用量レベル(6例)において3例以上にDLTの発現を認めた場合には、その用量をMTDとし、これ以上の増量は行わないものとした。DLT基準は、(1)2万以下の血小板数減少,(2)G-CSFの投与にも関わらず5日間以上持続するgrade4の好中球数減少,(3)38度以上の発熱を伴うgrade4の好中球数減少,(4)悪心・嘔吐,食欲不振,全身倦怠感,脱毛を除くgrade3以上の非血液毒性,とした。
結果と考察
科学的・倫理的に有効な併用療法の理論を確立するためには、分子レベル・細胞レベル・個体レベルで新規併用療法の臨床効果を予測しうるような一貫した非臨床試験が極めて重要と思われる。すなわち治験段階での併用rationaleとなるデータ選択のための基準が切望されている。しかし、抗悪性腫瘍薬併用の非臨床試験のデータは少なく、あっても細胞レベルの試験がほとんどで、動物を用いたin vivo 試験は極めてわずかという現状である。基礎データに基づき臨床試験が行われるべきと思えるが、現実的には臨床試験の裏付けを基礎実験でえている場合が多い。細胞レベルでの相乗効果の判定には、median effect法、アイソポログラムなどがよく使われている。最近では、3次元法を用いた検討も行われている。臨床での投与ケジュールの重要性を、細胞レベルでの2薬剤への連続あるいは同時暴露実験から示唆する例もみられる。有望な結果の出た場合動物実験による確認も行われる。実際の判断に際しては、併用することによって単剤の効果を上回ること、および投与制限毒性を増強しないことを示す必要がある。しかし現在併用効果を正確に予測しうる方法はなく、将来その方法論を確立する必要がある。また単剤のpharmacokinetics(PK)、pharmacodynamics(PD)データに基づき併用時の安全性の確保並びに発現しうる毒性について十分な考慮を行うことも重要である。
近年分子標的薬剤の開発動向が国際的にも明らかになりつつある。分子標的として耐性、DNA系、増殖シグナル系、転移系等々に含まれる多くの蛋白群が考えられている。細胞毒性をもつ抗悪性腫瘍薬と、これら新たに開発されつつある細胞毒性をもたない分子標的治療薬との併用の機会も今後は増加するものと思われる。細胞毒性をもたない分子標的治療薬は臨床での第I相試験後、何らかの抗腫瘍効果を示唆する成績がえられた場合、第II相試験が行われる場合もある。また臨床で併用の有効性を論理的に推論させるに十分な非臨床での抗腫瘍効果の増強、延命効果が証明されている場合、第I相試験後単独使用による第II相試験なしで標準的治療に当該薬剤を加えた併用第I/II相試験を行いその結果をもとに第III相試験に入る事もありうる。非臨床の段階では対象とする腫瘍に分子標的が存在すること、分子標的を治療により修飾しうることを証明する必要がある。また分子標的の修飾が抗腫瘍効果に結びつく事の証明が望まれる。分子標的治療の臨床試験において薬剤の分子標的に対する作用が抗腫瘍効果に結びつく推論あるいは証拠をうることが望まれる。治験として行う場合はプロトコールの内容、さらに評価法などにつき規制当局と十分相談する事が重要である。以上の内容をガイドラインの基礎的評価法の項に記載した。
細胞毒性をもつ抗悪性腫瘍薬と細胞毒性をもたない分子標的治療薬との併用の機会も今後は増加するものと思われる。非臨床の段階では対象とする腫瘍に分子標的が存在すること、分子標的を治療により修飾しうることを証明する必要がある。また分子標的の修飾が抗腫瘍効果に結びつくことの証明が必須である。これらの研究の方法をいかに確立していくかが今後の課題である。
『第I/II相試験』という言葉がどれだけ一般的に用いられているかどうかを調べてみたところ、30編の内、第I/II相としていたのは、3編のみであり殆どの論文(23編)は第I相とされていた。今回調査した論文で用いられていた抗がん剤の種類・頻度と初回投与量を検討した。併用療法においてはプラチナ製剤の使用頻度が多いことが分かる。オキザロプラチンも含めると14編(47%)がプラチナ製剤との併用であった。初回投与量は、従来から経験的に言われているように単剤での推奨投与量の50%程度としているものが多い。また、論文間の差は想像していたよりも少なかった。ただし、薬物相互作用が予測されるような場合は、初回投与量を減量する必要がある。たとえば、パクリタキセルと多剤耐性克服剤であるbiricodarとの併用療法では、前臨床試験でパクリタキセルのAUCが併用時に10倍近くなったため、パクリタキセルの初回投与量を20mg/m2と設定している。併用療法の増量方法としては、①一方の薬剤量を固定して、もう一方のみを増量していく固定法、②両薬剤を交互に増量していく交互法、③固定法と交互法の混合法(例:一方の薬剤量を固定し、他方を増量し、その薬剤が目標投与量に達した場合、固定していた薬剤の増量を図る方法など)がある。30論文の増量方法はほぼ均等に3つの方法に割り振られている。ただし、薬剤別でみると、シスプラチンは8論文で使用されているが、その内5論文で投与量を固定もしくはほぼ固定して用いられている。併用療法の増量試験では、各投与レベルにおける毒性の出現頻度や抗腫瘍効果の信頼性をできだけ高めるため、continual reassessment method (CRM)などの統計学的手法を用いる方法が推奨されている。しかし、今回検討した報告ではCRMを用いたものはなく、ほとんどの報告では従来の3-3法(最初に3例治療し、用量制限毒性の出現頻度に応じてさらに3例追加する方法)が使用されていた。
今回の検討では『第I/II相試験』という言葉は、今回検討したがんの臨床の代表的な英文論文であるJournal of Clinical Oncologyでも使用頻度は少なかった。各抗がん剤の併用療法時の初回投与量については、今回検討したのは英文論文であり、主に海外でのデータに基づいてついている。そのため欧米と本邦で単剤での推奨投与量が異なる薬剤では注意が必要である。たとえば、ドセタキセルは55mg/m2が初回投与量の中央値となっているが、単剤での推奨投与量は欧米で100mg/m2、本邦で60mg/m2であるため、わが国での併用療法の増量試験でドセタキセルの初回投与量を55mg/m2とするのは困難である。併用療法の増量試験では、CRMなどの数学的・統計学的な手法を用いて、研究者の主観ではなくより客観的に増量方法・推奨投与量を決定しようとする試みがなされている。しかし、今回検討した論文ではCRMを用いたものはなく、一般的な手法を用いたものがほとんどであった。この理由としては、大規模試験で、一般的な手法を用いた増量試験で決定された推奨投与量が否定されたことが殆どないこと、CRMを用いようと考えても、それを駆使できる生物統計学者の絶対数が少ないことなどが考えられる。
第I相試験で低用量レベルから始めて慎重に増量(増量幅が狭い)すれば、目標と想定される毒性レベルに至るまでにMTDと判断して試験を終了してしまう危険性が高かった開始用量レベルが高くなることで目標を通過する危険性がある、開始用量レベルが低く、増量幅が大きいほど精度は悪化した、10%未満の毒性レベルの用量を投与してもMTDの推定に大きな影響はない(6例2例までなら15%未満)、理想的には開始用量レベルを目標近くに上げ、増量幅を狭くする必要があった。
従来の第Ⅰ相試験の増量幅がDLT発現確率の10%相当程度なら、MTDは DLT出現確率が10~40%の範囲の用量レベルが選択されていたことになる。したがって、従来の第Ⅰ相試験によるMTDの毒性レベルは、思っていたほど高くなかったのかもしれない。毒性レベルが許容できる最大用量をMTDとするために3例コホート・デザインを用いるのであれば、臨床薬理を含む専門家による十分な知識と経験と体制が必須と考えられる。したがって、第Ⅰ相や第Ⅰ/Ⅱ相試験が行える専門家がいない施設において、安易に研究を行うことは危険である。また、ブリッジング、併用第Ⅰ/Ⅱ相試験は結果の(2)の危険が伴うため、何らかのデザイン上の工夫が必要である。例えば、CRMなら目標の毒性発現レベルが設定できる上に、正しい結論が得られる有用な代案と思われる。
抗がん剤適応外使用の動向について、平成11年2月1日厚生省健康政策局研究開発振興課長通知(研4号)・医薬安全局審査管理課長通知(医薬審104号)「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」が出された。この通知を基に、抗がん剤の領域では、がん研究助成金による公費臨床試験として行われたJCOGの共同研究成果に基づき、1999年12月にCDDPは小細胞肺癌に適応拡大が承認された。次いで同様にdacarbazineはJCOG共同研究成果に基づき、ホジキン病の適応拡大が承認される方向で検討されつつある。この通知は適用外使用の医薬品の効能又は効果等をICH-GCPに準じた公費臨床試験の枠組みで臨床研究が行われ、その有効性について質の高い科学的根拠が報告され、それが適切に評価されているものについてのみ、適応拡大を認める条件を示したにすぎない。少し遅きに失した感はあるが、この通知が出されたことによって、適応拡大に関する一部の問題点が解決したことは評価されなければならない。しかし、基本的には、国際的に認められている標準的治療法に組み込まれている医薬品のうち、我が国では適応外になっているものが数多くあり、これらは保険で査定されるために、公費臨床試験で研究を行うことすら出来ない状況にある。応外医薬品の使用上の問題について保険で査定されない場合とされる場合とで若干の相違はあるが、施設に経済的、法的及び倫理的な損害を与えることになるので、施設側のみならず患者側の許可と承認を得て使わねばならない。当然公費臨床試験によるプロトコール研究とし、施設の倫理委員会の承認の下で、インフォームド・コンセントを得て使用することになるが、施設に対する経済的な損害は避けられないので、研究は成立しないことを十分考慮する必要がある。従って、適用外医薬品の適切な入手法とその取扱いが問題となる。適応外医薬品の入手法について最も問題になるのは経済的な側面である。その解決策として、`公的な研究費で適応外医薬品を購入して研究に用いるのが一般的なルールであるが、我が国の公的な臨床研究費は米国の1/100以下という状況では、これは不可能に近い。よく行われているのは、a企業からの白箱提供である。当然プロトコール研究として、施設の倫理委員会の承認を得る必要がある。しかし、倫理委員会として承認できるのは、研究医学倫理の問題であって、適応外医薬品の提供即ち寄附行為を受けることについては別の倫理問題が生ずる。適応外医薬品の研究的使用について、ある条件をクリアーすれば、企業からの白箱提供が許可される制度を導入すべきである。この場合のある条件とは、`「適応外使用に係わる医療用医薬品の取扱いについて」の通知の中で述べられている(2) `, aの条件、及び研究プロトコールが倫理委員会で承認され、データセンター、各種委員会、臨床の臓器がん共同グループからなる共同研究グループ機構により、ヘルシンキ宣言とICH-GCPに基づいた公費臨床試験が行えるという保証(承認書)。a厚生科学審議会の下部組織として、がん治療研究の専門部会を作り、そこで適応外使用の抗がん剤を含む公費臨床試験のプロトコールが妥当なものと認定されたことの証明。③企業は必要量の適応外医薬品の白箱提供に合意していることの文書での証明。④提供(寄附)された適応外医薬品(白箱)は新GCPと同じレベルで管理することについて各施設長の保証。⑤白箱提供(寄附)する関係業者と研究代表者及び参加施設の研究責任者との間の金銭上の関係を公開することに関する関係者の宣言書。以上の5条件を満たすことを明確にした上で最後の6番目の許可申請を行う。即ち、⑥白箱提供(寄附)をうけるに当たって、「官公庁における寄附金等の抑制について」(昭和23年1月23日閣議決定)や「寄附物品の取扱について」(昭和37年5月24日厚生省会計課長通知)に則って、研究代表者は、参加各施設の研究責任者が記入した厚生労働大臣への許可申請書をまとめて当局へ提出し、許可を受けること。この場合、上記5条件がクリアーしておれば白箱提供(寄附)を許可するという制度を厚生労働省内に作る必要がある。
DTXとGEM併用の第I相試験に13例が登録された。レベル0に登録された6例中DLTは2例(GOT grade3、day 8投与不可)で、レベル1に移行した。レベル1には7例登録され、評価可能6例中3例にDLTを認めた(day 8投与不可2例、好中球減少に伴う感染1例)。最大耐用量はレベル1、推奨用量はレベル0(DTX 60mg/m2, GEM 800mg/m2)と考えられた。現在このレベルで27例を目標に症例登録中である。DTX + GEM併用第I/II相試験においては、その治療が根治的なものであるか否か、および単剤、単独のモダリテイでの毒性等からDLTの規準を設定すべきである。本試験で対象とした化学療法後の再発例は、骨髄予備能の低下のため、day 8の白血球数3000以上の規準を満たせずにDLTとなった症例が多かった。Up/downのデザインでレベルを設定したため比較的短期間に推奨用量の決定が可能であった。Paclitaxel + CDDPは前回(1995?1997年実施)の併用第I相試験(推奨投与量はpaclitaxel 180mg/m2,CDDP 80mg/m2と決定)を再評価する目的で行われた。その背景は前回の併用第I相試験において、(1)HCV陽性の慢性肝炎症例における重篤な肝毒性,血液毒性,腎毒性,(2)2コース目以降に発現したgrade 3の末梢神経障害(その後、後遺症なく速やかに回復),など、他の症例とは特異的な毒性のprofileを有する症例が認められたことである。さらに、欧米の報告では、paclitaxelを一定以上の投与量(200mg/m2以上)に増量した場合に抗腫瘍効果増強が得られている傾向にあった。以上のような背景から、paclitaxelを一定量(210mg/m2)に固定し、併用するCDDPを増量していく併用第I相試験を実施した。Level-1?level-3までの18例(level-3での追加症例を除く)においては、血液毒性が主体で、grade 3以上の好中球減少発現頻度は83%と高頻度であった。そのうち、DLTに該当するfebrile neutropeniaをきたしたのは2例で、十分にmanagement可能であった。非血液毒性では、level-3において肝機能異常(GPT上昇)が2例に認められたが、この件に関しては、前述(C:研究結果参照)の理由により同levelに症例追加となり、再評価されるものと期待される。MTD決定に関しては、level-3における追加症例の最終毒性結果を待たなければならないが、現時点では追加5症例におけるDLT該当例は認められず、level-3(paclitaxel:210mg/m2,CDDP:80mg/m2)も耐用可能と予想される。有効性については、評価可能18例中27.8%のPRが得られていることより、従来より報告されているpaclitaxel+CDDP併用試験,および他の新規抗癌剤を組み合わせた併用化学療法の成績と比べ、遜色ない印象である。
結論
科学的・倫理的に有効な併用療法の理論を確立するためには、分子レベル・細胞レベル・個体レベルで新規併用療法の臨床効果を予測しうるような一貫した非臨床試験が極めて重要である。現在併用効果を予測しうる方法はなく、将来その方法論を確立することが必要である。実際の判断に際しては、併用することによって単剤の効果を上回ること、および投与制限毒性を増強しないことを示すことが必要である。第I/II相試験という言葉自体は併用療法の増量試験に用いられることは少ない。これまで報告された第I/II相試験の増量方法については通常の第I相試験で用いられている増量方法を用いられていることが多い。初回投与量については、単剤での推奨投与量の50%程度が主に用いられている。従来用いられている3例-6例の増量方法は、研究者の経験と知識に基づく判断が加味され無い限り統計的には問題があり、これを克服するため、統計家と臨床家の協力による方法論の開発が必要である。以上の検討に基づき「新規抗悪性腫瘍薬を含む多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究」班の報告を抗悪性腫瘍薬の第I/II相試験のガイドラインとしてまとめた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)