日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究

文献情報

文献番号
200000799A
報告書区分
総括
研究課題名
日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岡田敏史(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 早川堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 石橋無味雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 佐竹元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 谷本  剛(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 宮田直樹(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における医薬品の承認審査や監視指導は、科学技術が急速な進展を見せ、ICHなどによる国際調和の動きが加速し、GMPが国内的に広く普及するという状況の中で、そのあり方が大きく変わろうとしており、日本薬局方にも検討すべき課題が次から次へと提起されてきている状況である。例えば、ICHの化学合成医薬品の規格及び試験方法のガイドライン(Q6A)については、平成11年10月のICH専門家会議において最終合意に達したが、日米欧三薬局方の一般試験法の調和については、Q6Aの最終合意後も、ICHの場で行政当局、企業側および薬局方が協力して試験法の調和の作業を進めることとされており、日本薬局方にもこれに対応して試験法の調和を積極的に進めることが求められている。平成12年2月のICH専門家会議では、日本側の積極的な提案に基づいて、これまで調和が困難とされてきた含量均一性試験法、重量偏差試験法、溶出試験法および崩壊試験法の4つの重要な試験法の判定基準について、日米欧3極の行政当局、製薬団体、薬局方の間で合意が成立したが、今後も日本側がこのような積極的提案を行い、調和に貢献することが求められている。
本研究は、日本薬局方がその改正作業や国際調和の作業の中で対応を求められている種々の課題について、各分野の専門家の協力の下で検討を行い、その解決の方向を指し示すことを通して、国民の福祉の向上に資することを目指すものである。
研究方法
各課題毎に研究協力者を選定し、それぞれの課題の内容に応じて専門家による研究班を組織し、必要な場合には、製薬企業側からの協力研究者の参加を求めて、研究を進めた。
結果と考察
平成12年度には、各分野において下記のような研究を行い、多くの成果を挙げた:
1.通則等関連: 「システム適合性試験」を日本薬局方に規定する上での基本的な考え方を整理するため、これと密接な関連をもつ「分析法バリデーション」と対比させる形で考察を行った: まず、分析法バリデーションに関する考察において、公定書の分析法を特定の試験室で使おうとする場合にも、その試験室の人がその試験室のシステムを用いて試験を行ったとき、その分析法により試験の目的に適合するデータが得られることを確かめておく必要があることを明確にした。このような検討作業は「分析法適用時のバリデーション」とでも呼ぶべきものと思われるが、システム適合性の試験のあり方を考えるときに、この事前の検討作業を活用することによって柔軟に対応できるようになると思われる。
次に、システム適合性試験に関する考察において、日本薬局方の各条品目にシステム適合性の項目を設定する場合に、グラディエント法を用いたものなど、1回の試験に長い時間を要する試験の場合には、試料の注入を始める前に繰り返し注入を行ってチェックするのでは、「システムの再現性」の試験を行うだけでかなりの時間を費やしてしまって、実際の試料の試験ができないという問題点を、試料の注入の間に散りばめてチェックする形を採り入れ、事前にその形でシステムが適切に稼働していることを確認できることをバリデートしておくようにすることで解決し得ることなどを明らかにした。
2.製剤試験法関連: 含量均一性試験の代りに質量偏差試験を適用できる閾値については、25mg/25%が国際調和案として提示されている。しかしながら、質量偏差試験を実際に適用するには、その適用基準を明らかにする必要がある。本研究では、市販製剤を対象に含量均一性試験および質量偏差試験を行い、質量偏差試験適用の可否を判断するための基準について検討した。その結果、現在の進んだ製剤技術で製造される製剤は、質量がほとんどばらつかないこと、そのような状況下では、質量偏差試験適用の可否の判断は、含量と質量との相関性に基づいて行うよりも、主薬濃度のばらつきが許容水準以下であるかどうかに基づいて行う方が適切であることを明らかとした。また、糖衣錠では、最終製品に質量偏差試験を適用するのは難しいが、被覆前の素錠については、他の製剤と同様、主薬濃度のばらつきを基に、質量偏差試験の適用の可否を決定できることを示した。
3.理化学試験法関連: 従来の「電気滴定法」を全面的に見直し、指示薬を用いた滴定法(指示薬法)を包括する試験法として再構成するとともに、名称を「滴定終点検出法」に改めた。指示薬法は、容量分析用標準液の標定や医薬品各条の定量法に広く用いられているにも拘わらず、一般試験法として規定されていなかったことから、その不合理さを改めたものである。また、電気滴定法も、指示薬法も、容量分析における滴定の終点を検出する方法であり、それぞれ電位差(あるいは電流)の変化または指示薬の色調の変化を終点検出の手段として用いるものであることから、両者を包括し得る名称として「滴定終点検出法」を用いることとした。また、電位差滴定法が「容量分析用標準液」の標定法として使えるように改めた。医薬品各条における滴定法が、指示薬法から電位差滴定法に切り替わってきているにも拘わらず、これまで標準液の標定法には指示薬法しか規定されていなかったことから、電位差滴定法も併用できるように改め、各条との整合を図った。
4.生物医薬品関連: 日米欧3薬局方間における一般試験法の国際調和の活動の一環として、バイオ医薬品関連試験法の調和項目の一つである「総タンパク定量法」について、国際調和に向けた検討を進めた。USPにより作成された1995年の第1次ドラフトから検討が進められて、2000年には第5次ドラフトが Stage 5A/5B 相当の案として提示された。このドラフトは、国際調和に用いる文書としては不適切であった従来のUSPスタイルから国際調和文書のスタイルに改められており、その点では評価しうるものであった。しかしながら、我が国の既存の基準とは異なる方法が記載されているので、試験法の柔軟性を認める旨を記載する必要があるとの日本側の主張は受け入れられていなかった。このように、技術的不一致点が依然として残っていることから、合意に達するまでには至っていない。これまでの国際調和の検討経過、および国際調和を行う上での主な問題点についてまとめた。
5.化学合成医薬品関連: 化合物の日本語名称は、日本化学会が、国際純正応用化学連合(IUPAC)の化合物命名法を基にして定めており、小中高等学校での教育やJISではこの名称が用いられている。第12改正日本薬局方までは、試薬・試液の名称には従来からの名称が用いられていたが、教育の現場やJISで使われる名称との乖離を問題とする声が高まってきたため、第13改正(平成8年)に向けて、日本薬局方の試薬・試液の名称をIUPACの命名法に基づく名称(新名称)に改めるための検討を行い、変更のための提言を行った。その際には、1)一度に新名称に移行すると、従来からの名称(旧名称)と新名称との間で紛れが生じる可能性のあるものがかなりあること、また、2)変更を急いで、全面的に新名称に改めてしまい、旧名称を落としてしまうと、新名称への不慣れから少なからぬ混乱が予想されることなどから、第13改正と第14改正の2段階に分けて進められており、第13改正では、改正の準備段階として、新名称を一般試験法の試薬・試液の項に従来からの名称とともに記載したが、第14改正では、本格的実施の段階として、一般試験法や医薬品各条などの記載が全面的に新名称に改められることになるため、本年度の研究において必要な検討を行った。
6.生薬関連: 生薬の品質ならびに生薬資源の安定確保を図るためには、日中両国で用いている生薬の品質規格を共通に認識することが重要である。そこで、これらの材料の起源植物を解明し、品質規格に関する両国間の薬局方の調和を進めている。前年度の北京、東京での2回の会議の結果に沿って両国で研究を実施した。その結果、第4回シンポジウムを開催し、北京で両国の担当研究者、生薬関連企業、大学の研究者を交えて討議を行った。
本年度は、生薬の安全性に重点を置き、第14日本薬局方に収載が予定されている「生薬の微生物限度試験法」と中国葯典2000年版における「生薬製剤の微生物限度値」及びアリストロキア酸をめぐる世界の動きを紹介し、日中両国の対応を討議した。また、両国間共通の収載品目である「オウゴン」の定量法について相違点を検討し、試験法の調和を目指して、さらに検討を重ねることに合意した。
7.日抗基関連: 日本抗生物質医薬品基準(日抗基)を日本薬局方(日局)に統合するとの方針が決定され、そのための具体的な作業が開始された。規格体系の異なるこの2つの基準書の統合作業を円滑に推進するには、両基準書間の相違点を明らかにして、統合のための方策を確立する必要があり、そのための調査研究が平成10年度から行われてきている。平成10年度には、日局と日抗基の医薬品各条の差異について検討し、原薬たる抗生物質医薬品の日局での規格設定のあり方を示した。また、平成11年度には、規格試験の根拠となる一般試験法に関する日局と日抗基の間での相違点を明らかにして、日局に収載される抗生物質医薬品の規格試験の実施に支障が生じないような方策を示した。
平成12年度は、昨年度の研究において今後の課題として指摘した一般試験法(力価試験法およびヒスタミン試験法)の取り扱いについて検討し、一定の方策を提示した。加えて、規格試験に必要な抗生物質標準品の日局における位置付けについて検討した。
8.名称関連: 医薬品の名称、構造式、化学名などに関する国際的な動向調査を行い、問題点を整理・総括した。また、その結果が日本薬局方などの我が国における医薬品公定書の改正や新薬の承認申請書の記載様式に反映されるように提言を行った。提案のうちのいくつかは平成13年4月に公布される第14改正日本薬局方に採り入れられた。
医薬品の名称や構造式などは、科学的に正確でなければならず、また、誤解や混乱を招くような表現であってはならない。さらに加えて、医薬品の世界で諸外国と整合(国際調和)するのみならず、科学の世界の最近の潮流にも合致する必要がある。現在は、インターネットを通じて世界中で簡単に情報をやりとりできる。国際調和の流れの中で、日本の医薬品の名称や構造式などが、世界の流れを先導できるよう、今後も地道な調査と改正作業が必要である。
結論
研究結果の概要の項に記載したように、8人の分担研究者は、それぞれが日本薬局方調査会の関連する委員会に所属し、その委員会が抱える日本薬局方の改正やその国際調和の課題に中心となって取り組んできている。本研究の成果は、日本薬局方の改正作業に生かされて、平成13年4月に公布される第14改正日本薬局方に反映されるとともに、ICHやPDGなどの国際的な場において、薬局方の一般試験法や医薬品各条などの調和に関する検討が行われる際の日本側の主張に基礎を与えるものとなっている。例えば、平成12年2月の東京でのICH専門家会議で、これまで調和が特に困難と考えられていた含量均一性試験法や溶出試験法などの4つの重要な製剤試験法の判定基準が合意に達するという非常に大きな成果が得られた背景には、日本側が、本研究の成果に基づいて、調和に向けての方向性を打ち出す役割を果たしたことが挙げることができる。生薬の分野でも、日本と中国との間で、薬局方生薬に関する日中国際共同研究シンポジウムを開催して中国の研究者との交流を深め、生薬の規格に関する調和を推進しつつあるが、本研究はそのベースを与えるものとなっている。
しかしながら、我が国における医薬品の承認審査や監視指導は、科学技術が急速な進展を見せ、ICHによる国際調和の動きが加速し、GMPが国内的に広く普及する中で、そのあり方が大きく変わろうとしており、日本薬局方にも検討すべき課題が次から次へと提起されてきている状況である。こうした要請に的確に対応していくためには、大きなエネルギーが必要であり、これまでのように専門家が多大の時間を割いて、手弁当的な状態で支えていくようなやり方は限界が来ていると言えよう。米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)などのように、専任のスタッフが研究部門の支援の下で作業を行えるような形にしていくことが望ましいが、先ずは、欧米に比べて格段に貧弱な事務局体制の強化を図ることが肝要と思われる。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)