経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究

文献情報

文献番号
200000796A
報告書区分
総括
研究課題名
経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 宏泰(明治薬科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 高橋則行(日本薬剤師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
同一の薬物を同一剤形に同一量含有し、同一の効能・効果、同一の用法・用量を有する多銘柄の医薬品が、先発医薬品と後発医薬品として医療に供給されている。これら医薬品の有効性、安全性が同等であることは、製造承認時において生物学的同等性試験によって確認されている。しかし、バイオバッチから実生産へのスケールアップ、日常の製造管理、製造機器の変更、添加剤の規格の変更、流通過程での保存などにおいて、医薬品のバイオアベイラビリティが変化する可能性のあることが指摘されている。現時点では、生物学的同等性の確認はヒト試験に拠ることが基本とされている。ヒト試験に替わる信頼性の高い試験法が確立していないことによる。しかし、バイオアベイラビリティの変化の可能性がある各過程においてヒト試験によって品質の確認を行うことは不可能である。一方、ヒト試験に替わる簡便で迅速な試験法が確立しないまま、バイオアベイラビリティの変化の有無を試験することは行われずに今日に至っている。また、特に、医薬分業が進展するなか、従来、検討の対象とされてこなかった保険薬局を対象とする流通過程における医薬品の品質の確保が新たな課題となってきている。
本研究では、経口固形製剤を対象に、医療に供給される医薬品の品質を確保するための試験法として溶出試験法を取り上げた。見かけの溶出速度の差異は、溶出のラグ時間と溶出が開始された後の溶出速度の二つの異なる相の総和となっている。平成10、11年度は溶出開始後の溶出速度の差異とバイオアベイラビリティの差異との関係を検討してきたが、今年度は、in vitro溶出試験において測定される溶出のラグ時間の、実際のヒトを対象としたバイオアベイラビリティへの影響を検討し、in vitro溶出試験において測定される溶出ラグ時間の許容範囲を明確にすることを目的に検討を行なった。
また、同時に、保険薬局における医薬品の管理や患者への交付の状況を想定し、患者が服用する直前の医薬品の品質の変化を溶出速度を指標に検討を行ない、品質を確保する上での課題を明らかにした。具体的に検討した内容は、1)半錠化した錠剤の溶出挙動の変化、2)交付後の患者の保管状態を想定して行なった苛酷条件によるカプセル剤からの溶出挙動の変化、の2点である。
研究方法
○溶出ラグ時間が異なるアセトアミノフェン製剤の溶出速度と生物学的同等性との関連性に関する研究
溶出ラグ時間の相違がバイオアベイラビリティに与える影響を高感度に検討するために、水溶性でかつ吸収が速やかな医薬品であるアセトアミノフェンをモデル薬物として選択した。アセトアミノフェン100 mgを含有し、殆ど溶出ラグ時間を示さない顆粒剤をカプセルに充填したカプセル剤、約10分の溶出ラグ時間を示す錠剤A、約20分の溶出ラグ時間を示す錠剤Bを調製した.また、全ての製剤において、溶出ラグ時間以降は速やかに溶出し、ほぼ、ラグ時間以降15分で80?85%の溶出率を示すものを企図してモデル製剤を調製した。溶出試験は、試験液としてpH 1.2、3、4、5、6.8、水、それぞれ900 mLを用い、パドル法25、50, 75および100 rpmで行った。溶出薬物量は経時的に吸光度法で測定した。バイオアベイラビリテイ試験は21名の健常被験者を対象にクロスオーバー法で行った。一夜絶食後、アセトアミノフェンとして100 mg相当量の試料を150 mLの水と共に投与、以後8時間まで経時的に採血し、血漿中のアセトアミノフェンを液体クロマトグラフィーで測定した。薬物の最高血漿中濃度(Cmax)、最高血漿中濃度到達時間(tmax)は実測値を求め、投与後8 時間までのAUC (AUC0-8)は台形法で算出した。
○ 流通段階、特に保険薬局における医療用医薬品の品質確保に関する研究
半錠化した錠剤の溶出挙動については、アロプリノール、グリベンクラミドを対象成分に検討を行なった。試験製剤を半錠分割器を用いて2分割したものを試験製剤とした。溶出試験条件は溶出試験公的試験法に拠った。投薬後の患者の保管状態を想定した苛酷試験については、セファクロル、インドメタシン、カプトプリルを対象成分として行った。室温保存、40℃(RH 75%)で30日間、70℃(湿度の規定なし)で3日間、それぞれ保存した製剤の溶出速度を測定した。溶出試験条件は、セファクロル、カプトプリルについては溶出試験公的試験法に、インドメタシンは日本薬局方試験法に、それぞれ拠った。
結果と考察
○溶出ラグ時間が異なるアセトアミノフェン製剤の溶出速度と生物学的同等性との関連性に関する研究
今回検討した製剤の溶出ラグ時間には液性やイオン組成の影響は見られないことが認められた。また、溶出ラグ時間は、おおよそ、カプセル剤は0.5分程度、錠剤Aは10分程度、錠剤Bは20分程度であり、溶出が開始された後は、3製剤ともに速やかなアセトアミノフェンの溶出性を示し、ほぼ15分で80%以上の溶出率を示した。健常被験者21名に空腹時経口投与したとき、AUC0-8、Cmaxともに製剤間に殆ど差異が認められなかったが、tmaxには有意な差異が認められ、錠剤Bが他の製剤に対し有意に大きい値を示した。投与直後の0.25時間、0.5時間、1.0時間におけるアセトアミノフェンの血漿中濃度が測定検出限界以下であった被験者数は、0.25 時間においてカプセル剤では5 名のみであったの対し、錠剤A、Bともに20から21名であった。一方、0.5時間では錠剤Aも1人を除いて吸収が認められていたが、錠剤Bでは、なお18名には吸収が認められていなかった。しかし、1.0 時間には錠剤Bにおいてもほぼ吸収は開始されていた。パドル法50 rpmの試験条件で、溶出ラグ時間に0.5分、10分、20分の差異がある製剤を空腹時に経口投与した場合、消化管において吸収が開始される時間には、15分以内、15分から30分の間、30分から60分の間と差異が認められることが分かった。今回の検討結果からは、パドル法50 rpmの条件での溶出ラグ時間は10分以内にあれば、消化管における吸収の遅れは約15分以内であることが推定され、この遅れは一般的には臨床上は許容される範囲と考えられる。また、今回、カプセル剤(顆粒)と錠剤と異なる剤形を用いて検討したが、特に剤形の差異を考慮しなければならない結果は得られなかった。今回得られた溶出速度のラグ時間と消化管における吸収の開始時間との関係は、剤形間に関係なく成立するものと考えられた。
○ 流通段階、特に保険薬局における医療用医薬品の品質確保に関する研究
1)半錠化した錠剤の溶出挙動の変化について
一般的に、半錠化によって溶出速度が速まる傾向にあることが確認できたが、銘柄ごとに違い、このことを一般論として述べることは出来ない。半錠化によって、溶出速度が速まる製剤、早まらない製剤が個別に存在すると考えるべきである。従って、半錠化しても生物学的同等性が担保出来るかどうかはそれぞれの製剤ごとに試験を実施して確認すべき事項となるといえる。
2)セファクロルカプセルの苛酷試験について
30日間室温保存において、溶出率が高いのはルベラール(後発)、CCL(後発)、セファクロル(先発)の順であった。この順位は苛酷試験においても同様である。40℃、75%RHの条件で3製剤とも溶出率が低くなっている。これは、加湿のためにカプセル剤のゼラチンが変化したため、溶出率が低くなったと考えられる。
3)インドメタシンカプセルの苛酷試験について
40℃、75%RHの条件でインダシンカプセルの溶出率が高まっている。加湿によって成分変化を起こした可能性も有り、調査が必要と考えられた。過酷試験によって変化が大きかったのは後発品よりも先発品の方であった。
4)カプトプリル徐放性カプセルの苛酷試験について
カプトプリル徐放性カプセルを40℃、75%RH、30日間保存すると、カプセルから内容物が漏出する等の溶出試験を実施する以前の問題が発生した。過酷条件が溶出試験データに与える影響は、後発品よりも先発品の方が大きいと思われた。
結論
異なる剤形を含め、異なる製剤の溶出ラグ時間がパドル法50 rpmの条件で10分以内にある場合には、それら製剤を経口投与後の消化管からの吸収が開始される時間には おおよそ15分以内の差異にとどまり、臨床上の許容範囲にとどまることが示唆された。また、今回得られた溶出速度のラグ時間と消化管における吸収の開始時間との関係は、剤形間に関係なく成立するものと考えられ、剤形が異なる製剤間にまたがって適用できることが示唆された。
また、半錠化試験、苛酷試験におけるデータから後発品が先発品よりも溶出試験データが悪いとはいえないことが明らかとなった。また、これらの条件による変化が半錠化によって溶出速度が速まる等の一般論が成り立つことはなく、製剤ごとに異なることが分かった。従って、個々の製剤ごとに半錠化が可能かを検証する必要がある。苛酷試験においても同様である。今回確認をした製剤数が少なく、今後更に研究を続けることが必要である。

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