文献情報
文献番号
200000787A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の致死的催不整脈作用スクリーニング法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 純一(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 久留一郎(鳥取大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
抗生物質や抗アレルギー薬等、一般に突然死と無関係と思われていた薬剤の副作用で突然死が生じている。それらの突然死の原因は、薬剤に起因する致死的不整脈であり、更にその発生機序が心筋細胞カリウム電流阻害、なかでも遅延整流カリウム電流の早い活性化成分の阻害による事が指摘されている。本研究ではこれら一般の薬剤の催不整脈作用を検出する方法として、動物の心筋細胞の利用法を検討する。更に現在一般的に行われている複数の薬剤の併用に関し、相互作用により上述の作用を発現することもあることから、ある程度予測し得る範囲において、予め実験的に検討できるか否かについても調査研究を行うこととした。突然死の原因として現在判明している催不整脈機序を中心に、可能性が疑われる薬剤等の心筋細胞膜チャネル電流に対する影響を検討し、薬剤濃度や他剤併用、代謝の影響等も総合的に検討するスクリーニング体制の確立に向けた研究を行う。
研究方法
主任研究者が主に心筋細胞のカリウム電流によるものを中心に研究を行ったのに対し、分担研究者は主にナトリウム電流に原因を持つ致死的な不整脈の可能性について研究を深める研究を分担した。動物等の倫理的取り扱い方法を含め、実験動物の生命の尊厳、動物愛護の立場から配慮された鳥取大学医学部動物実験指針に基づき、異なった実験につきそれぞれ実験計画書を作成し、学内動物実験委員会の指導と承認を得て行った。具体的にはモルモットおよびラット心筋細胞をコラゲナーゼ処理により単離し、倒立型顕微鏡のステージ上の灌流槽に静置し、タイロード液で灌流した。細胞にパッチ電極を密着し、全細胞記録法により膜電位と膜電流を計測した。薬剤を臨床上の血中濃度および高濃度で作用させ、催不整脈作用に関与すると考えられる電流系への効果を検討した。またナトリウム電流に関する検討の一部は、分子生物学的手法を用いヒト心筋型およびヒト骨格筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させたCOS-7細胞に薬剤等を作用させた。動物個体を用いた実験は、ウレタン麻酔下モルモットの気道、静脈路を確保し、経静脈的に薬剤を投与し、経時的に12誘導心電図を記録した。薬剤の投与量と時間、心電図の変化、特に心電図QT時間、QTディスパージョンの変化について検討した。
結果と考察
消化管運動調整薬のモルモット心筋カリウム電流に対する作用の検討として、致死的催不整脈作用が問題となっている非潰瘍性消化器症状改善薬シサプリドと同効薬であるのみならず、化学構造式にも類似点をもつ新規開発薬のイトプリドの主要な体内代謝産物M2体のモルモット遅延整流カリウム電流に対する効果を検討した。その結果、1 mMの高濃度でも不整脈源性の本電流成分に対して殆ど影響が無いことが判明した。即ちこれまでの結果と合わせると同薬は未変化体も主要代謝物も、不整脈源性の電流成分に対して影響が無い事が解った。さらに利尿薬の一部に遅延整流カリウム電流抑制作用が認められたことから、類薬でこれまで心筋カルシウム電流に対する効果しか報告のなかった新規利尿薬トラセミドについて、0.1mMの濃度で検討を行った。この濃度でも遅延整流カリウム電流、内向き整流カリウム電流に対し有意の影響は認めなかった。これらのことから、主作用や、主作用部位での作用様式、構造式の類似性からは必ずしも副作用の類似性は判定できないことが示唆され、それぞれの薬剤毎にチェックする必要性が考えられた。
ナトリウム電流抑制作用に関与する種々の要因の内、酸化ストレスによるナトリウムチャネル抑制について、病態との関連を想定して検討した。すなわち各種薬剤にによる心電図QT延長に伴う致死的不整脈の機序として心筋細胞ナトリウム電流抑制が関与する可能性を検討した。心筋細胞の酸化ストレスによるナトリウム電流抑制作用に関し、ヒト骨格筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させた系を用いて検討した。水銀、カドミニウムイオン、チメロサール等の単独および相互作用を検討した結果、Pループ領域のシステイニル残基が細胞外からアクセス可能で、SH基酸化剤のそれらに対する結合のしやすさが酸化剤の力価に関係していることが判明した。
各種のナトリウム電流に対する抑制作用を増強するサリチル酸の効果についてこれまでの検討では、不活性化過程への速度定数を増大することにより抑制を増強することを認めていた。今回はキニジン6マイクロMの作用がサリチル酸1mM添加でどう変化するか検討した。その結果、サリチル酸はモルモット心室筋と同様に、ヒト心筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットのナトリウム電流に対し、頻度非依存性抑制、頻度依存性抑制ともに浅い保持電位でのみキニジンの抑制増強効果を認め、ナトリウムチャネルアルファサブユニットの不活性化状態に関与する部位に作用することが示唆された。このことは、遺伝的ナトリウムチャネルの障害によるQT延長患者に対し少量の抗不整脈薬とアスピリンによる治療の可能性を提示するものとも考えられるが、一方で虚血性心疾患や、脳血管障害等により、再発予防の目的でアスピリンを服用している患者に対し、不活性化状態でのナトリウムチャネルの抑制作用を僅かでも持つ薬剤を投与した場合、予想以上の副作用として現れる可能性を示しているとも考えられる。これらヒト型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させた系を用いた検討でも、これまでのモルモットあるいはラット心筋細胞を用いた検討と本質的に差異がなかったことは、薬剤の副作用の検討において、質的な面では動物が十分利用可能であることを示していると考えられるが、問題の有無に関する量的、力価的な検討の際にはヒト型チャネル発現系も考慮すべきであろう。
動物個体を用いた実験では、実際の動物心電図を記録することにより薬剤のQT延長効果を判定できるか否かを、前年度QT延長効果の明らかな薬剤注入と被検薬追加により検討したが、今回は生理食塩水持続点滴により血中カリウム濃度が持続的に低下し、正常時と比較して薬剤のQT延長効果の出やすい状態でのトラセミド持続注入による影響を、心電図を経時的に記録して検討した。その結果心室筋細胞の遅延整流カリウム電流抑制効果の検討結果と同様モルモット個体12誘導心電図上QT時間延長ならびにQTディスパージョンの増大などの危険な不整脈発生予知に結びつく変化は認めず、安全性が高いことが判明した。このように、機序の検討ができないため最終的には細胞利用が必要ではあるものの、動物心電図を用いた方法は初期のスクリーニングには利用できる可能性が考えられた。
ナトリウム電流抑制作用に関与する種々の要因の内、酸化ストレスによるナトリウムチャネル抑制について、病態との関連を想定して検討した。すなわち各種薬剤にによる心電図QT延長に伴う致死的不整脈の機序として心筋細胞ナトリウム電流抑制が関与する可能性を検討した。心筋細胞の酸化ストレスによるナトリウム電流抑制作用に関し、ヒト骨格筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させた系を用いて検討した。水銀、カドミニウムイオン、チメロサール等の単独および相互作用を検討した結果、Pループ領域のシステイニル残基が細胞外からアクセス可能で、SH基酸化剤のそれらに対する結合のしやすさが酸化剤の力価に関係していることが判明した。
各種のナトリウム電流に対する抑制作用を増強するサリチル酸の効果についてこれまでの検討では、不活性化過程への速度定数を増大することにより抑制を増強することを認めていた。今回はキニジン6マイクロMの作用がサリチル酸1mM添加でどう変化するか検討した。その結果、サリチル酸はモルモット心室筋と同様に、ヒト心筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットのナトリウム電流に対し、頻度非依存性抑制、頻度依存性抑制ともに浅い保持電位でのみキニジンの抑制増強効果を認め、ナトリウムチャネルアルファサブユニットの不活性化状態に関与する部位に作用することが示唆された。このことは、遺伝的ナトリウムチャネルの障害によるQT延長患者に対し少量の抗不整脈薬とアスピリンによる治療の可能性を提示するものとも考えられるが、一方で虚血性心疾患や、脳血管障害等により、再発予防の目的でアスピリンを服用している患者に対し、不活性化状態でのナトリウムチャネルの抑制作用を僅かでも持つ薬剤を投与した場合、予想以上の副作用として現れる可能性を示しているとも考えられる。これらヒト型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させた系を用いた検討でも、これまでのモルモットあるいはラット心筋細胞を用いた検討と本質的に差異がなかったことは、薬剤の副作用の検討において、質的な面では動物が十分利用可能であることを示していると考えられるが、問題の有無に関する量的、力価的な検討の際にはヒト型チャネル発現系も考慮すべきであろう。
動物個体を用いた実験では、実際の動物心電図を記録することにより薬剤のQT延長効果を判定できるか否かを、前年度QT延長効果の明らかな薬剤注入と被検薬追加により検討したが、今回は生理食塩水持続点滴により血中カリウム濃度が持続的に低下し、正常時と比較して薬剤のQT延長効果の出やすい状態でのトラセミド持続注入による影響を、心電図を経時的に記録して検討した。その結果心室筋細胞の遅延整流カリウム電流抑制効果の検討結果と同様モルモット個体12誘導心電図上QT時間延長ならびにQTディスパージョンの増大などの危険な不整脈発生予知に結びつく変化は認めず、安全性が高いことが判明した。このように、機序の検討ができないため最終的には細胞利用が必要ではあるものの、動物心電図を用いた方法は初期のスクリーニングには利用できる可能性が考えられた。
結論
致死的不整脈源性の遅延整流カリウム電流抑制作用に関し、薬剤の主作用、主作用部位での作用様式、化学構造式の類似性などからは必ずしも副作用の類似性は判定できないことが示唆された。問題となる副作用発現に関与する作用力価と主作用の力価、臨床上の血中濃度の関係が重要である。ナトリウムチャネルの抑制作用を有する薬剤に関しても、それぞれ作用様態に差があり、種々の外的修飾要因に影響されることが判明した。心筋細胞に対する酸化ストレスで生じるナトリウムチャネルへの影響も非常に重要かつ危険で、致死的不整脈を引き起こす可能性も想定されるので逐次検討が必要である。虚血性心疾患や、脳血管障害等の再発予防目的でアスピリンを服用している場合、併用薬の弱いナトリウムチャネルの抑制作用が増強される場合もあるので、相互作用として注意が必要である。動物の個体を用い心電図を検討することは、初期のスクリーニングには利用できる可能性があると考えられる。このように高濃度薬物の動物個体の心電図への影響の有無、臨床濃度以上の濃度での心筋細胞電流系への作用の有無等の検討によるスクリーニングが必要と考えられる。
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