各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000786A
報告書区分
総括
研究課題名
各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
埜中 征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 菊池博達(東邦大学医学部麻酔科学第一講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋細胞は薬物、機械的、あるいは化学的刺激で壊死に陥る。そのメカニズムを分子生物学的レベルで解析するには、麻酔剤による悪性高熱の原因解明が最も近道である。なぜならば悪性高熱症では、リアノジン受容体遺伝子の変異が見出され、リアノジン受容体とCa代謝の関係を追求すればよいからである。しかし、薬物中毒による横紋筋融解症は全てリアノジン受容体の異常によるものではない。
悪性高熱による横紋筋融解と、特発性(薬物、感染など)横紋筋融解症との病態の相違を検討するため、まず、悪性高熱(CICR亢進例)の形態学的検討を行う必要があるので、それを行った。
研究方法
・悪性高熱症の生理学的、分子生物学的解析:麻酔中に悪性高熱症を来した例から筋生検を行い小胞体の機能をみるためにCICR(Calcium-induced calcium release)検査を行った。CICRで筋小胞体の機能亢進が認められた症例の筋組織学的検討を行い、さらにリアノジン受容体遺伝子(RYR1)の遺伝子解析を行った。
・悪性高熱症患者生検筋の形態学的研究:1996年から2000年末の4年間で、CICRの亢進をみた悪性高熱症患者の形態学的特徴を明らかにするため、生検筋に各種組織化学的染色を行い、系統的に検索した。
結果と考察
・悪性高熱症患者生検筋の生理学的、分子生物学的検討:過去に麻酔中に悪性高熱症を来した例の生検筋でCICRの亢進を認め、筋小胞体の機能に異常をみとめたのは平成12年度の1名を含め、計15例となった。これらの症例は典型的な悪性高熱症であると考えられた。この15例の中でリアノジン受容体遺伝子に変異を認めたのは2家系で、いずれもArg2434His変異であった。その他の例では変異は認められなかった。CICR系を用いた実験的研究ではクロールプロマジン、安息香酸メチルは小胞体の機能亢進を来さなかった。すなわち、両薬剤は悪性高熱症(横紋筋融解症)を引き起こす可能性が低いと考えられた。
・悪性高熱症患者生検筋の形態学的研究:悪性高熱症を来し、かつCICRが亢進していた48例(悪性高熱症確定例)につき、組織学的検討を行った。その中にセントラルコア病(2例)、マルチコア病(1例)が含まれていた。また、セントラルコア病の臨床症状はとらないが、明らかなコア(core)構造をみたのは8例で、計11例(23.4%)であった。すなわち、悪性高熱症患者の1/4は、コア構造をもつことが明らかにされた。ただ、セントラルコア病、マルチコア病の3例以外は、筋疾患としての症状をもっていなかった。コア構造はなくても、筋原線維間網の乱れ(虫食い像)など筋原性変化は、40例(83.3%)にあり、悪性高熱症患者は筋小胞体を中心とする形態学的変化があることが明らかになった。
薬物と横紋筋融解症の関係がもっとも明らかなのは麻酔中にみられる悪性高熱症である。海外での報告をまとめると悪性高熱症患者の約10%がリアノジン受容体遺伝子に変異をもっている。我々の結果もそれに類似していた。ただし、リアノジン受容体遺伝子は巨大で50近いエクソンがあり、すべてを簡単にシーケンスできない。今後より簡便な方法で検討すればリアノジン受容体遺伝子変異の意義がより明らかにされるであろう。
悪性高熱症患者、特にCICR検査で確定した悪性高熱症患者の筋病理所見をまとめた報告は、みられない。今日我々は、48例もの多くの患者について組織学的検討を行った。その結果約1/4の患者にコア(core)構造を認め、悪性高熱症とセントラルコア病との関連が示唆された。両患者とも遺伝子変異はリアノジンリセプター(RYR1)にあるといわれている。今後両疾患のRYR1遺伝子の解析を進める必要がある。
結論
麻酔剤によって起こる横紋筋融解症(悪性高熱症)のメカニズムを知るため筋小胞体機能亢進の有無をCICRで検討した。亢進例、15例でリアノジン受容体遺伝子の変異を検索したが、わずか2例に変異を認めたのみであった。悪性高熱症は多因性である可能性が考えられた。悪性高熱症患者では、筋生検で高率に筋小胞体の異常を示唆する所見が得られた。特にコア構造を約1/4の例にみたことは、RYR1遺伝子との関係を強く示唆するものであった。

公開日・更新日

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