室内空気中の微生物汚染に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000781A
報告書区分
総括
研究課題名
室内空気中の微生物汚染に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小川 博(財団法人ビル管理教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 池田耕一(国立公衆衛生院)
  • 紀谷文樹(神奈川大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①ビルなどにおける空調用ダクトの中は、外部から導入される空気中の粉じん、ねずみ等の小動物の死骸、劣化又は風化した内装材など様々な物質により汚染されており、ダクト内は粉じんが堆積している他、各種の細菌や真菌の生息の場となっている。このため、ダクト内に堆積した粉じんによる火災発生の可能性や、ダクト内で繁殖した微生物が室内に流入することにより、アレルギー、シックビル症候群等を引き起こすことが指摘されている。そこで、室内環境中の浮遊微生物の実態調査とダクト内の汚染実態調査を行って実態を把握し、室内環境の微生物汚染の効果的な防止対策を検討することとした。②噴水、人工池等の水景施設は、街路、公園、住宅団地等の屋外だけでなく、ホテルのロビー、アトリウム、地下街等に設置されている。このような設備は、適切な維持管理を行わなければレジオネラ属菌による微生物汚染が起こる可能性があるが、これらの設備については未だ維持管理手法が確立されていない。そこで、主に屋内に設置されている水景施設の形態、利用状況、微生物(特にレジオネラ属菌)の生息状況等の実態調査を行い、有効な汚染防止対策について検討することとした。③給水・給湯設備、空調設備、循環式浴槽などの維持管理が不適切であると、そこでレジオネラ属菌が繁殖する可能性がある。レジオネラ属菌については免疫力の低下した人は特に感染のおそれが高いことから、循環式浴槽などを使用している社会福祉施設などにおいては特に適切な維持管理が求められる。そこで循環式浴槽を中心とした、具体的な維持管理方法を含めたレジオネラ汚染防止のためのマニュアルの作成を行った。
研究方法
①室内環境中及びダクト内の浮遊微生物について実態調査を実施した。なお、微生物については、定量の他に種の同定も行った。その結果を踏まえ室内環境中の微生物汚染の効果的な防止対策を検討した。②水景施設周辺における微生物について、水景施設の形態、利用状況、微生物(特にレジオネラ属菌)の生息状況等の実態調査を行い、その結果を踏まえ汚染防止対策について検討した。③これまでに行われた空調用冷却塔、循環式浴槽等の実態調査結果並びに「水景施設周辺における微生物の実態調査」の結果等を整理し、維持管理方法、設計施工対応等を含めた水利用施設全般のあり方について検討した後、循環式浴槽を中心としたレジオネラ汚染防止のためのマニュアルを作成した。
結果と考察
①室内環境中及びダクト内の浮遊微生物についての実態調査では、ダクト内の細菌・真菌濃度は空調機運転開始時及び、点検口開閉時に高くなった。一方、浮遊粉じんはほとんど変化が見られなかったが、粒子径別に見ると、2μm以上で菌類と同様の挙動を示し、特に5μm以上の粒子と相関が見られた。室内空気中の細菌濃度は空調機運転開始時、中止時、点検口開閉時に高くなった。真菌も細菌と同様の挙動を示したが、中止時には濃度の上昇がみられなかった。粉じんはダクト内と同様変化が認められなかった。粒径別に見ると5μm以上の粒子の挙動が菌類の挙動と類似していた。停止時の細菌数は増加が認められたが、真菌は増加が認められなかった。粉じんは、停止時に2μm以上の粒子が増加した。ダクト清掃後は細菌、真菌、粉じん濃度が低くなる傾向があった。また、開始時や点検口開閉時の細菌、真菌の増加もみられなかった。しかし、停止時の細菌の増加は清掃後も認められた。ダクト・室内にはFusarium、Cladosporium、Aspergillus、Penicillium、Yeastsなどの真菌がみられ、ダクト内と室内空気内の真菌種、真菌量はほぼ一致した。また、ダクトを含む空調機では芳香族
炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン、アルコール、エーテル、エステル、ケトン類等約76の有機化合物が検出された。空調機の冷却・加熱コイル前後では多くの化学物質濃度が高くなり、空調機からダクトを通る際に濃度が約20μg/m3ほど増加した。しかし、ダクト清掃後濃度が多少減少し、維持管理によっては空調機が室内化学物質の発生源となる可能性が示唆された。②水景施設周辺における微生物の実態調査では、レジオネラ属菌は、調査施設の約2割から検出された。屋内施設のレジオネラ属菌は、屋外施設と比べ、やや低い菌濃度分布を示した。また、他の冷却塔水、循環式浴槽水等より陽性率・菌数とも低い傾向が認められた。血清群分布は、L.pneumophila 1群が高く分布しており、冷却塔水の場合と類似していた。屋外水景施設のレジオネラ属菌陽性率は、水温が低下すると減少した。レジオネラ属菌は、清掃頻度が増すと陽性率・菌数ともに減少した。過マンガン酸カリウム消費量は、清掃・換水頻度が増すと濃度は減少した。これより、レジオネラ属菌陽性率の減少には、汚染物質除去のための清掃・換水頻度の増加が効果的であることが明らかとなった。今回分離されたアメーバの多くは、高温域に適応しづらい生物群の可能性が指摘された。宿主アメーバにおいて、高温域と低温域に生息する両群でのレジオネラ属菌に対する感受性の違いについての検討と、比較的低温域のレジオネラ属菌増殖に関与する新たな宿主微生物を、特定・追加する必要性を提言した。③レジオネラ汚染防止マニュアルは、レジオネラ症の紹介と発生機構について解説した後、循環式浴槽を中心とした設備概要と衛生上の問題点、管理上の安全対策について、公衆浴場法・旅館業法で示された衛生管理要領あるいは新版レジオネラ症防止指針等の最新の知見をもとに、現時点で望ましい対応方法について項目別に記述した。
結論
①室内環境中及びダクト内の浮遊微生物に関しては、空調機停止時における室内の細菌濃度の上昇はダクトからの供給に加え、室内での人由来の発生の影響が示唆された。ダクトの微生物学的汚染度・清浄度に関しては、起動時におけるダクト吹出し口の測定が適していた。真菌はダクト内と室内の菌種・量に関係がみられたこと、停止時に増加しないこと等より、室内中の真菌濃度とダクトの関与が明らかとなった。ダクト清掃後の室内細菌、真菌、粉じん量の低下並びにダクト内気流壊乱時に量的影響がないことなどから、清掃の有用性が認められた。また、ダクトを含む空気調和機と室内化学物質汚染の関係については、今後更なる検討が必要があると考えられた。②水景施設の維持管理に関しては、清掃、換水頻度を6回以上/年にして汚染物質を除去した上で、塩素系消毒剤の注入と適正濃度の保持が、レジオネラ属菌抑制に有効な対策になるものと考えられるが、アメーバの棲息には、残留塩素との関係が認められなかったこと等より、今後の根本対策としては、現行の消毒・洗浄方法の再検討が必要である。③レジオネラ防止対策マニュアルは、循環式浴槽の利用・使用者から設備維持管理者、設計者、製造・販売者並びに行政関係者等に広く利用されることが期待されるものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-